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気管切開のタイミング~方法と結果 [critical care]

Systematic review and meta-analysis of studies of the timing of tracheostomy in adult patients undergoing artificial ventilation

BMJ 2005年5月号より

重症患者に対して行われる手技のうち、気管切開は主要な位置を占めている。重症患者管理において、気管切開には気管挿管と比較し多くの利点がある。気管挿管には喉頭潰瘍の発生、呼吸抵抗の増大などが伴う。一方、気管切開は気管挿管と比べ、患者にとって快適であり、意思疎通も良好であり、看護も容易である。しかし、気管切開にはリスクもある。手技自体による合併症には、気切部の感染、気切部からの出血、縦隔気腫、気胸などがあり、まれには死亡に至ることもある。気管切開の術式(外科的または経皮的)によるリスクの差はなく、実施時期が転帰に与える影響は明らかにされていない。

気管切開実施時期の参考となるようなエビデンスは少ない。1989年にNational Association of Medical Directors of Respiratory Careは、人工呼吸を要する期間が10日以内と見込まれる患者にのみ気管挿管を行うべきであり、21日目以降も人工呼吸を要する場合は気管切開を行わなければならないという勧告を発した。この勧告は専門家の見解にのみ依拠するものであるが、現在でも臨床現場ではこのようなやり方が広く採用されている。1997年にはKaneらが関連文献を検討し、多発外傷患者では早期の気切が望ましいと報告した。しかし、1998年にMaziakらは、気管切開のタイミングについての無作為化比較対照試験についての体系的総説(メタ分析は実施していない)において、気管切開のタイミングによって重症患者の人工呼吸期間や肺傷害に影響が及ぶという見方を裏付けるエビデンスは不足しているという結論に至っている。Maziakらのレビュー以後、気管切開のタイミングについての臨床試験が二編行われ、これらは先行する研究よりも洗練された方法を採用している。今回我々は、集中治療部における成人患者を対象とした気管切開のタイミングについての無作為化臨床試験を詳細に評価し総括した。

方法
患者登録時に前向きかつ無作為に早期または晩期気管切開に割り当てた臨床研究を対象とした。早期気管切開は気管挿管後7日目までに実施されたものとした。それ以降は晩期とした。Medline, CINAHL, Embase, Cochrane Central Register of Clinical Trials, the National Research Register, the NHS Trusts Clinical Trials Register, the Medical Research and Development Health Technology Assessment Programme, the British Heart Foundation databaseを対象に該当論文を検索した。該当論文から、死亡率、院内肺炎、ICU滞在日数、人工呼吸日数のデータを抽出した。

結果
題名のみで15950編の文献が得られた。概要の検索により12編の無作為化臨床試験が見つかった。そのうち2編は、早期と晩期が24時間しか違わなかったので除外した。1編は早期気管切開が挿管後7日目以降に行われていたので除外した。2編は、今回対象とした転帰項目についてのデータが一切提示されていなかったため除外した。1編は患者選択にバイアスが存在しているのが明らかであったため除外した。さらに1編は、研究設計のみについてしか記述されていなかったため除外した。最終的に、人工呼吸患者に対する気管切開のタイミングについての適切な無作為化臨床試験として、1984年から2004年までに20年間にまたがる5編のみがメタ分析の対象となった。合計患者数は406名であった。そのうち1編は、気管切開と気管挿管の継続を比較したものであった。

Table1に各研究の特性をまとめた。古い方の2編は、患者登録前に割り当て群を決定することが許容されていたため、無作為化割り当ての際にバイアスが生じた可能性があった。SaffleらとRumbakらの研究では無作為化割り当てが適切に行われていた。最新の研究は、無作為化割り当てを行ったと記載されてはいるが、その詳細は不明であった。

各研究で、対象となった患者群が異なっていた。重症患者のうち、外科系患者に限ったもの、外傷患者に限ったもの、熱傷患者に限ったものがあり、3か所の内科系ICUで行われた多施設研究(1編)もあった。5編中4編が米国で行われたもので、1編はモロッコで行われた。

死亡率
院内死亡率が示されていたのは5編中4編(332名)であった。早期気切と晩期気切を比較したときの院内死亡率の相対危険度をFigure2に示した。気管切開のタイミングによる死亡率の差は認められなかった(相対危険度0.79, 95%CI 0.45-1.39, P=0.42)。

院内肺炎のリスク
ICU在室中に院内肺炎を発症した患者数は、5編すべてで示されていた。早期気切と晩期気切を比較したときの院内肺炎の相対危険度をFigure3に示した。気管切開のタイミングによる院内肺炎発生率の差は認められなかった(相対危険度0.90, 95%CI 0.66-1.21, P=0.48)。

人工呼吸期間
5編中4編(332名)で、人工呼吸期間が示されていた。早期気管切開のほうが有意に人工呼吸期間が短かった(Figure4, 加重平均の差 -8.5日, 95%CI -15.3日から-1.7日, P=0.03)。

ICU滞在期間
5編中2編(226名)でICU滞在期間が示されていた。早期気管切開のほうが有意にICU滞在期間が短かった(Figure5, 加重平均の差 -15.3日, 95%CI -24.6日から-6.1日, P=0.001)。(つづく)

教訓 気管切開のタイミングについての研究はあまり行われていません。このメタ分析ではタイミングによって死亡率やVAP発生率は変化しませんが、人工呼吸期間とICU滞在期間は早期に気管切開を行った方が短縮するという結果が得られました。
コメント(8) 

コメント 8

いんてんしびすと

奇遇にも、わたしは気管切開関連で先日のICU学会で発表してきました。
どういった基準で気管切開にしているのかとか、誰がどのように気管切開するのかとか、抜管基準とか聞かれると思っていましたが、意外や意外、気管切開すると、社会的適応から、なかなか後方病院で患者さんを引き受けてもらえなくなるとか、気管切開してすぐに人工呼吸器をweaningできるのは本当は抜管できたんではないかという意見もあり少しがっかりしました。気管切開すると、それまで呼吸筋疲労や排痰不良で再挿管となってしまう症例も、すぐに人工呼吸器がいらなくなります。これはICUやっている医師ならよくわかっています。それから、鎮静がいらなくなり、たとえ気管切開されていても、コミュニケーションがとれるようになると人間は元気になっていきますから。畢竟ICUからの退出が早まるばかりでなく当然退院も早まり、後方病院なんかに紹介する必要もなくなるかもしれません。
でも、気管切開はやはり怖い合併症があるからなかなか踏み切れませんがね。そこがこのような研究がでてくる所以でしょう。
by いんてんしびすと (2009-03-02 10:27) 

vril

海外では、気切は従来よりもっと早期に実施してもいいのではないか、という考えを持つ人が増えているようですね。

私のボスは人工呼吸に熟達していて、離脱&抜管の可能性を見切るのが正確で素早いため、気切時期についての風俗習慣(2週間は経口挿管で管理する、など)なんてまるで無視しています。気管切開すると後方病院が見つからない、なんてことを心配して、経口挿管で粘ってみる、ということもまったくありません。うちのボスは変わっているのかもしれませんが。ちなみに人工呼吸患者のうち1%ぐらいが気切されています。人工呼吸管理開始後、大体5~7日ぐらいで気切しています。

いんてんしびすと先生がおっしゃるように、気切するとあっという間に離脱できてしまう症例は多いですよね。コミュニケーションがとれると元気になる、というご意見、深く首肯しました。鎮静していると生命力がどんどん弱っていくような気がしますよね。心身統一と言いますが、心が機能しなければ体は実力を発揮できない、と私は信じています。
by vril (2009-03-02 11:37) 

勉強になります

とても勉強になります。(大切な家族の容態が気になり、自分でも必死で勉強するしか気が休まる方法が見付からないので)
by 勉強になります (2010-09-24 12:29) 

vril

ご家族が早くお元気になるよう、お祈りしています。周りで見守っている方々も、体調を崩したりふさぎ込んだりなさいませんようお気をつけ下さい。お大事に。
by vril (2010-09-24 16:48) 

RALLY

明日、母が気管切開術を受ける予定です。
心配でいろいろ調べました。誤嚥性肺炎で熱が高く肺気腫も見つかり胸水も溜まっている状態です。10.30(日)に器官挿管して2週間、何度か挿管もとれるかも…となるのですがその都度様態が悪化していきました。こちらでいろいろ勉強になり、希望がみえました。
合併症が怖いですが、乗り切って、母の笑顔をもう一度みたいです。


by RALLY (2011-11-09 00:13) 

vril

気管切開が無事に終わることをお祈りしております。お母さまが少しでも楽な状態になり、RALLYさんや近しいご縁のある方々と明るく朗らかに気持ちを通じ合える時間をたくさん持てますように。くれぐれも、お大事になさってください。
by vril (2011-11-09 07:49) 

Mer

8 歳の息子がオペ勧められています。脳性麻痺で上気道閉塞があります。殆ど元気で呼吸はネックカラーでspo2は97パーセント維持しています。が先日マイコと喘息様発作で85パーセント代まで落ち込み、酸素管理で入院しました。6日ほどで酸素外れましたが、今回の結果はラッキーで、万が一また何かに感染し呼吸状態悪くなった場合、下手すると延命できないから、気管切開しろと勧められています。今は元気に安定していますが、万が一を見越して、元気なうちにハイリスクなオペをするか、非常時にするかタイミングに悩んでいます。
by Mer (2011-11-22 10:38) 

vril

Merさん、こんにちは。コメントをいただきありがとうございます。大事な息子さんのことでお悩みのようですね。気管切開をするしないの決断を下すことは容易ではなく、迷いなく一つの道筋を選びきることはできないことだと思います。しかし、どんな方向にお進みになるにせよ、Merさんの息子さんを慈しむ気持ちが未来を明るく照らすに違いありません。Merさんご自身もくれぐれもご自愛ください。息子さんが元気で楽しく毎日を過ごすことができるよう、願っています。
by vril (2011-11-23 11:02) 

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