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VAP=気管チューブ関連肺炎④ [critical care]

Ventilator-associated Pneumonia or Endotracheal Tube-associated Pneumonia?: An Approach to the Pathogenesis and Preventive Strategies Emphasizing the Importance of Endotracheal Tube

Anesthesiology 2009年3月号より

気管チューブの欠点の克服

早期気管切開
長期間の気管挿管と人工呼吸を要する患者には、気管切開を行うメリットが大きい。患者の快適性が増し、口腔内衛生が改善し、分泌物の除去が容易になり、気道抵抗および解剖学的死腔の最小化につながり、喉頭損傷の危険性が低下する。

早期気管切開(通常の定義は、気管挿管後7日以内の気管切開)のVAP予防効果については賛否両論がある。晩期気管切開と比較し、早期に気管切開を行うとVAP発生率が低いという報告がある。しかし、早期気管切開を実施してもVAP発生率は低下しないという結果を示す報告もある。

Griffithsらによるメタ分析では5編の研究(患者総数406名)が対象にされている。早期気管切開を行っても肺炎のリスク(RR0.90; 95%CI, 0.66-1.21)や死亡率(RR0.79; 95%CI 0.45-1.39)について有意な改善は認められなかった。しかし、早期気管切開を行うと、人工呼吸期間(差の平均 -8.5日; 95%CI -15.3~-1.7日)およびICU滞在期間(差の平均 -15.3日; 95%CI -24.6~-6.1日)が有意に短縮した。このメタ分析の最大の問題点は対象となった無作為化研究の数が少ないことである。また、論文によって対象患者の種類が異なり、早期または晩期気管切開の定義も違っているという問題もある。早期気管切開における「早期」の正確な定義や、VAP発生率低下効果についてはさらに詳しく研究を行う必要がある。現在のところ、気管切開実施時期とVAPの関係についてはエビデンスが十分に蓄積されていないため、提示すべき推奨事項はない。

非侵襲的換気
気管挿管と人工呼吸の回避が、理屈の上では最高のVAP予防策である。非侵襲的換気では気管チューブがなくても補助換気が可能であり、急性呼吸不全の管理に変革をもたらした。非侵襲的換気を実施すると、気管挿管率のみならず死亡率も低下するという報告もある。さらに、非侵襲的換気は適応を誤らなければ肺炎のリスクが低下するという利点がある。これは人工呼吸器が使用されなかったからではなく、気管挿管が回避されたことによって得られた利点である。したがって、「人工呼吸器関連肺炎」という用語は、「気管チューブ関連肺炎」と言い換えられるべきかもしれない。

急性呼吸不全患者のうち非侵襲的換気が行われるのは少数である。しかし、非侵襲的換気は急性呼吸不全症例における重要な治療手技の一つである。技術進歩と正しい適応についてのエビデンスの蓄積により、今後はさらにその重要性が高まる可能性がある。非侵襲的換気が禁忌でなく、適切に実施することができる場合は、気管挿管が回避されることによってVAP発生リスクが低下するかもしれない。

まとめ
この数十年の間に、VAP発生過程における気管チューブの関与についての研究が数多く行われてきた。気道内に異物(たとえば気管チューブ)があると、たとえそれが人工呼吸を行うのに必須であるとは言っても、VAPの発生源になり得る。気管チューブが挿入されていると、咳反射や粘液線毛機能が障害され、カフ周囲の汚染分泌物がたれこみ、内腔にバイオフィルムが形成される。このような問題を踏まえ、粘膜血流を障害せずに完全な密閉状態を実現するような気管チューブが開発されたが、そのVAP予防効果についてはまだ十分に解明されていない。しかし、気管チューブのカフ圧は常に20-30cmH2Oに維持し誤嚥を防ぐことが推奨される。

声門下分泌物吸引機能の付いた気管チューブまたは気管切開チューブを使用するとVAP発症率が低下するため、人工呼吸を72時間以上要すると見込まれる患者では声門下吸引機能付き気管チューブを使用すべきと考えられる。声門下腔の除菌は考え方としては効果があるように思われるが、さらに研究を重ね有効性を確認する必要がある。

抗菌仕様気管チューブには期待が寄せられているが、推奨されるに足るほどのエビデンスはまだ蓄積されていない。気管チューブ内のバイオフィルムを除去またはその形成を予防する機能の付いた気管チューブは、まだ臨床使用される段階にも至っていない。早期気管切開によるVAP発生リスク低減効果の有無についてはまだ結論が出ていない。

VAPは人工呼吸器というよりも気管チューブが気道にあることによって発生する院内肺炎である。「人工呼吸器関連肺炎」という用語よりも、「気管チューブ関連肺炎(endotracheal tube-associated pneumonia; ETAP)」の方がその発生機序をよく言い表していると言えよう。

教訓 VAPの主原因は気管チューブの存在です。72時間以上人工呼吸を実施することが予想される症例ではHi-Lo Evacを使う方がよさそうです。早期気管切開のVAP予防効果はまだ白黒はっきりついていません。抗菌仕様気管チューブも、有効かどうかまだ分かっていません。

コメント(4) 

コメント 4

キコさま

背景が高級食器チックな模様に変わりましたね!

以前シクロペンタン中毒による間質性肺炎で生死をさ迷い入院したうちのダンナ君。
実は人工呼吸器に繋がれる予定でした。
この記事を見て「繋がれてたらホントに死んでたかも…」と改めてゾッとしました。
vrilさんの「不注意は死に至る最大の病なり」という言葉、本人は未だ理解できていないようですよ。
機会があればお説教よろしく!

by キコさま (2009-04-02 22:20) 

vril

春らしく模様替えしました。高級食器といえば、ロイヤルコペンハーゲンのフローラ・ダニカシリーズが私のお気に入りです。

ご主人様は強靱な生命力が横溢していらっしゃるので、我々のような虚弱児童のごとく野生動物的な注意力を煥発していなくても、「るるる~」と楽々と生き延びることができるのかもしれません。

ボスは新しい背景の植物を指し「これ大麻?」と宣っていました。
by vril (2009-04-03 07:47) 

学生

はじめまして。
とても勉強になるブログで拝見させていただきました。
一つ質問なのですが、VAPとETAPの違いと言うか、使い分けがよくわかりません。
もしお手数でなければ、教えていただけませんでしょうか。
よろしくお願いいたします。
by 学生 (2012-12-21 10:33) 

vril

コメントをいただきありがとうございます。

VAPは気管挿管下の人工呼吸を開始してから48時間後以降に発生する肺炎と定義されています。VILIとは異なり、VAPの主原因は人工呼吸そのものではなく気管チューブが留置されていることです。気管チューブが存在することにより、口腔や咽頭に定着した細菌が気管チューブをつたって少しずつ気管内に垂れこんだり(microaspirtaion)、気管チューブ内に形成されたバイオフィルムが剥脱して気管内に撒布されたりしてVAPが発生すると考えられています。こうした発生機序を踏まえると、あたかも人工呼吸が肺炎を引き起こすかのような印象を与えるVAPよりも、ETAPという表現の方がより正確です。VAPとETAPは同じ現象を指していますが、現時点ではVAPの方が人口に膾炙しています。
by vril (2012-12-24 13:51) 

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