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左室流出路狭窄による低血圧~前編 [critical care]

Unexplained hypotension: The spectrum of dynamic left ventricular outflow tract obstruction in critical care settings .

Critican Care Medicine 2009年2月号より

動的左室流出路狭窄(left ventricular outflow obstruction; LVOTO)の典型例は肥大型心筋症で認められる。LVOTOがあると心臓の収縮に伴い、僧帽弁前尖(AML)が肥大した心室中隔基部へ引っ張られる。その結果、収縮期全体を通じて大動脈下に狭窄が生じることになり、特徴的なドップラー所見を呈する。肥大型心筋症ではなくても、左室肥大に心収縮力増強が伴えば動的LVOTOが起こることがある。肥大型心筋症におけるLVOTOと同じ状況が左室肥大患者でも発生しうることには学問的興趣が湧くところである。動的LVOTOを示した実際の症例を以下に示し、重症患者管理における動的LVOTOの重要性に対する注意を喚起したい。

症例1
68歳白人女性。既往歴は高血圧、喘息および関節リウマチ。倦怠感とめまいを主訴に救急外来受診。低血圧(80/50mmHg)に対しドブタミン(5mcg/kg/min)の投与を開始した。心電図では前壁に対応する誘導にST-T変化が認められ、心筋虚血が疑われた。トロポニンIは上昇しており、最高値は5.1ng/mLであった。第3肋間胸骨左縁に3/6の収縮期駆出性雑音を聴取した。心原性ショックと診断し心エコー検査を行った。収縮機能は維持されていて、EFは55%であった。左室壁および心室中隔の肥大は認められず、僧帽弁前尖の収縮期前方運動(systolic anterior motion; SAM)が認められた。ドブタミンの投与を中止し、生食のボーラス投与を行い、メトプロロールを慎重に静脈内投与した。すると、収縮期雑音の強さは1/6に減弱し、左室流出路圧較差は150mmHgから40mmHgへと低下した。血圧は100/70mmHgに上昇した。1時間以内に心カテが行われ、冠動脈には狭窄部位がないことが分かった。3ヶ月後に実施した心エコー検査でもSAMが認められ、LVOT圧較差のピーク値は50mmHgであった。臨床的にはアテノロール100mg/dayの内服で調子は良く、関節リウマチによる運動制限が認められるのみであった。その1年後、長時間の脊椎固定術を受けたところ、またしても低血圧に陥った。LVOTの圧較差は最大120mmHgであった。左室機能が低下し、EF 30%で、心尖部では収縮が認められなかった。輸液とメトプロロール投与によって状態は改善した。この3ヶ月後に行った心エコーでは左室機能は正常であった(Fig. 1)。アテノロール100mg/dayの内服を続けた。安静時および負荷時(ドブタミン50mcg/kg/min)のLVOT圧較差はそれぞれ30mmHgと50mmHgであった。

症例2
79歳白人女性。既往歴は高血圧と関節炎。運動時に胸がしめつけられる感じがして息苦しい訴え受診。バイタルサインは正常で胸骨左縁で3/6の収縮期駆出性雑音を聴取した。心電図では左室肥大と陰性T波が認められた。トロポニンIピーク値は0.44ng/mLであった(正常値<0.05)。冠動脈造影では壁不整があり後下行枝に80%狭窄が認められた。カテーテル引き抜きおよび心エコー所見から、いわゆるたこつぼ型心筋症(apical ballooning syndrome; ABS)所見とLVOTOが明らかになり、最高圧較差は60mmHgであった。本症例では、ABSのため心尖部の収縮がなくなり、それを代償するために左室基部の収縮力が強くなりすぎて、SAMが起こりLVOTOに陥ったものと考えられた。メトプロロール50mg×2/day内服を開始した。3ヶ月後に心エコー検査を実施したところ、左室機能は正常化し、LVOTOも認められなかった。

症例3
52歳白人女性。既往歴は高血圧と鬱病。狭心症を疑わせるような症状があり来院。来院の18時間前から症状はあった。バイタルサインは正常。胸骨左縁に2/6の収縮期駆出性雑音を聴取した。心電図では陰性T波を認め、トロポニンIピーク値は0.95ng/mL(正常<0.05)であった。冠動脈造影では冠動脈の狭窄は認められず、左室機能が著しく低下しABSが疑われた。引き抜き検査ではLVOT圧較差は70mmHgであった。心エコーでは心基部の収縮が増強し、AMLのSAMと重度のLVOTOが認められた。メトプロロール内服を開始し、翌日には退院した。2週間後の心エコー検査では左室機能は正常化し、LVOTOは消失していた。

症例4
76歳女性。虚血性脳血管障害で気道確保を要し、気管挿管されICU入室。第3病日に、急に頻脈と低血圧が発生し循環器科コンサルト。心房細動で心室レートは約150bpm、血圧80/50mmHgであった。第3肋間胸骨左縁に3/6の収縮期駆出性雑音を聴取した。トロポニンIは0.1ng/mLで境界値であった。心エコーでは、AMLのSAMとLVOTOが認められ、圧較差ピーク値は145mmHgであった。ジゴキシンは陽性変力作用があり理論的にはLVOTOを悪化させる可能性があるため中止した。生食3-4L/dayを三日間投与し、メトプロロール5mgを4-6時間おきに静注した。治療開始から1時間で血圧は回復し、3時間で自然に洞調律に戻った。心雑音は2日後に消失した。2週間後の心エコーではLVOTOは認められなかった。

症例5
79歳白人女性。外科系ICU入室中に収縮期雑音と低血圧が発生した。大腸癌に対し再三開腹術が行われ気管挿管されていた。心エコーでは左室腔が小さく中等度の求心性左室肥大があり、左室収縮が増強しEFは85%であった。カラードップラーで左室流出路狭窄が認められ、パルスドップラーで圧較差は40mmHgであった。輸液療法が奏功した。3日後に低血圧の治療のためドパミン投与を開始した。すると心雑音が増強し、血圧は上昇しなかった。β遮断薬を慎重に投与し、十分量の輸液を投与したところ3日後までに心機能は回復した。(つづく)

教訓 肥大型心筋症でなくても、左室流出路狭窄(LVOTO)が起こって低血圧になる症例があります。肺を加圧すると増強する収縮期雑音がきこえたらLVOTOを疑って心エコーをします。さっさと診断をつけることが大事です。




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