So-net無料ブログ作成
検索選択

左室流出路狭窄による低血圧~後編 [critical care]

Unexplained hypotension: The spectrum of dynamic left ventricular outflow tract obstruction in critical care settings .

Critican Care Medicine 2009年2月号より

考察
以上に挙げた症例は、重症患者に遭遇する部門(救急部、外科系ICUおよび内科系ICU)で我々が見つけた動的左室流出路狭窄発生例であり、適切に診断されていないLVOTO症例は他にもあると考えられる。今回提示した症例と同じような事態が発生した場合には、その原因が動的LVOTOであれば、早期に診断し治療を開始することによって速やかに低血圧を脱することができる。Figure2に動的LVOTOを引き起こす可能性のある背景条件や患者特性を示した。

動的左室流出路狭窄の素因と増悪因子

素因:50歳以上の女性、左室肥大を伴う高血圧、S字状心室中隔、乳頭筋や腱索の異常、COPD、ストレスや不安、薬剤(利尿薬、β刺激薬、ジゴキシン)

増悪因子:前壁梗塞、たこつぼ型心筋症(apical ballooning syndrome; ABS)、頻脈性心房細動、出血、敗血症、脱水、強心薬(ドブタミンやドパミンなど)

外傷、出血、利尿薬による血管内容量減少をはじめとして、左室容量を減少させるような病態はいかなるものであれ左室流出路を狭くする可能性がある。症例4と5では、元々血管内容量不足があり、それが気づかれずに放置され、左室腔が小さくなってしまった結果、流出路でベンチュリー効果が発生しSAMが起こり、LVOTOに至ったものと考えられる。強い情動ストレスによって血中カテコラミンが激増しABSになることがある。ABS症例の約20%ではLVOTOを伴う。ABSが発生した場合、原因となる精神的または身体的ストレスが判然としないことが多い。症例2と3では何らかのストレスでABSに陥り、左室基部の収縮が強くなりすぎてLVOTOが発生したものと推測される。左前下行枝に病変のある急性冠症候群では、ABSと同じように心尖部の収縮が大幅に低下する。すると代償性に心基部の収縮が強くなり、動的LVOTOが起こる。これが、前壁中隔梗塞の患者でLVOTOが発生する理由である。

低血圧の是正に用いられる血管作動薬のほぼすべてに強い陽性変力作用があり、心筋傷害を起こす可能性がある。血管内容量が適正に保たれていない状態で陽性変力作用のある薬剤を投与すると、左室腔が小さくなってしまっているのに収縮力が過強になる「弱り目に祟り目」状態に陥る可能性がある。

集中治療領域では、心不全と気管支攣縮を治療するのにループ利尿薬とβ作動薬を併用することがあるが、このような組合せもLVOTO発生の原因となる。今回のLVOTO症例では、ほぼすべての患者に高血圧と求心性肥大心が認められた。このような患者群では、容量低下、陽性変力作用のある薬剤、利尿薬、β作動薬のいずれか一つが作用するだけでも十分LVOTOが発生しうる。ただし、今回の症例では動的LVOTOの発生には複数の要因が関与していた。

診断
LVOTOがあると、息苦しさ、胸部不快感、めまいを訴えることが多い。通常は、内因性アドレナリンが増えて頻脈が認められる。低血圧とST-T変化があればACSを疑う。全例で認められるのは収縮期駆出性雑音である(Table1)。この雑音は収縮期後半で最も強くなり、第3肋間胸骨左縁でよく聞こえる。バルサルバ手技を行うと収縮期雑音が大きくなる(静脈還流が減り左室腔が狭くなるため)。手を強く握ったりしゃがみ込んだりすると雑音は小さくなる(静脈還流が増えるため)。Figure3に動的LVOTOの重症化を示唆する症状と徴候を挙げた。

左室流出路狭窄の程度による臨床所見

軽度LVOTO(≦60mmHg)
無症状、正常な血行動態と心電図、心エコーでは、軽度SAM・正常左室機能・壁運動異常やMRなし
 さらに進むと、
なんとなく胸部不快感がある、動悸、倦怠感、洞性頻脈、非特異的ST-T変化、心筋酵素正常

重度LVOTO(>60mmHg)
壁運動異常はあるがEFは正常、MR、心筋酵素上昇
 さらに進むと、
ST上昇、深い陰性T波、心房細動、上室性頻拍
 さらに進むと、
狭心痛、呼吸困難感、低血圧

危機的LVOTO(>100mmHg)
心原性ショック、肺水腫、EF<35%、たこつぼ型心筋症(ABS)
 さらに進むと、
左室破裂、VT/VF、電導収縮解離

心エコーは僧帽弁前尖のSAMの程度を判断するのに適している。ドップラー法ではLVOTOの定量化が可能である(Figure4)。LVOTOのドップラー信号を僧帽弁逆流によるジェット血流と混同しないように注意する必要がある。ゲインを調節すると、LVOTOのドップラー信号(低速でピークが遅くくる)と僧帽弁逆流ジェット(対称性がある)を区別することができる。とにかく、心雑音が聴取されたら心エコー検査を行うことである。収縮期血圧とLVOT圧較差の和から、左室心内膜下に作用する応力の大きさを間接的に知ることができる。心室壁に作用する応力があまりにも大きいと、正常冠動脈であっても心筋酸素需給バランスが崩れる可能性がある。高血圧(左室肥大の有無を問わない)、糖尿病、高脂血症、喫煙などで微小血管の内皮障害がすでにある患者では、心内膜下に作用する応力が急に大きくなると、我々が提示した症例と同様に軽度から中等度のトロポニン上昇が起こりうる。

ACSを否定するために心カテを実施しなければならないこともある。左室からカテーテルを大動脈へ引き抜くと、LVOTOの部位と程度が分かる。ACSで収縮低下がmidからapexにかけて生じ、代償性に心基部の収縮能が増強しLVOTOが起こっている場合、ACSの責任病変は左前下行枝の近位から中部に存在する。有意な冠動脈狭窄があれば、積極的に治療し心筋虚血とLVOTOを改善すべきである。

治療の選択肢
ACSやABSでEFが30%台まで低下している患者では、LVOTOは珍しくない。このような状況では、強心薬やIABPで血行動態の管理が開始されるのが通例である。しかし、強心薬やIABPはLVOTOを惹起または増悪する要因である。多くの場合、心尖部の収縮低下によるLVOTOと、強心薬の作用によって起こったLVOTOを区別することは不可能と言ってよい。LVOTOの診断と治療を適切に進めるには、心雑音を頻繁に聴取することが肝要である。また、それとともに心エコーでLVOTOによる圧較差を評価し、最優先で考慮しなければならない問題が何かを所見を基に見極め、治療の進め方を逐次見直さなければならない。僧帽弁逆流、左室全体または局所の機能低下、肺水腫、低血圧はLVOTOを増悪する。最善の転帰を実現するには、これらの増悪因子の一つ一つを解決しなければならない。Table2にLVOTOを改善する方法とその機序を示した。長期的管理については、脱水を避けるよう患者を指導し、強心薬をアレルギー薬剤としてカルテに登録し、強心薬が闇雲に投与されないようにする。

LVOTOの急性期治療法 
β遮断薬静注、ベラパミルまたはジルチアゼム静注、輸液、強心薬・利尿薬・亜硝酸薬の中止、血栓溶解療法・PCI・CABG、ジソピラミドまたはアミオダロン、フェニレフリン持続投与

長期予後
ドブタミン負荷心エコーの文献によれば、冠動脈疾患がない患者にLVOTOが「偶発的」に発生しても、心血管系イベントが起こるリスクは高くはならない。ABSも予後はよい。ドブタミン負荷心エコー検査中に、前壁から心尖部の収縮が認められずSAMとLVOTOが起きた症例では、SAMが消失した後に壁運動も正常化した。この症例では冠動脈は正常で、ドブタミン負荷によって血圧は上昇しなかった。したがって、一過性の心筋「気絶」が発生するのは、LVOTOによって心室壁応力が急激に上昇することが関与している可能性がある。通常行われる心臓スクリーニング検査は言うに及ばず、心カテや果ては剖検でさえも、LVOTOの存在を見逃す可能性がある。動的LVOTOが潜んでいて、不安定狭心症とかACSと診断されている症例が存在するのではないかと我々は睨んでいる。また、正常冠動脈所見の女性の突然死の原因がLVOTOである場合もあるのではなかろうか。β遮断薬またはカルシウム拮抗薬の長期投与によってLVOTOの再発を抑えることができる。定期的に運動を行うと迷走神経のトーンを整えることができるため有効であろう。また、左室肥大を防ぐ作用のある薬剤による血圧管理によってもLVOTOの再発予防が可能であると考えられる。

結論
救急部やICUでは、一般に考えられているよりも動的LVOTO症例は多い。LVOTOが発生しても特に対処を必要としない症例もあるが、重症大動脈狭窄症と同じような生理学的変化が左室に起こる可能性がある。臨床的転帰の改善には、早期診断と適切な治療が肝要である。

教訓 LVOTOを改善する方法は、左室容量を増やす、心拍数を下げる、心収縮力を落とす、です。血圧が低いからといって無闇にカテコラミンを投与するとひどい目にあうことがあります。




コメント(4) 

コメント 4

さくらんぼ

はじめまして。メディカル翻訳者のさくらんぼと申します。調べ物をしていてここにたどりつきましたが、とても読みやすい訳に感動しています。vril様はお医者様なのでしょうか。私は文系で、専門知識に関してはvril様の足元にも及ばないと思いますが、少しでもこのような訳ができるようにがんばりたいと思います。またこのブログで勉強させていただけるとありがたいです。
by さくらんぼ (2009-04-10 11:53) 

vril

お誉めいただきありがとうございます。私は麻酔と集中治療を専門とする医者です。プロの方に、「読みやすい」というとてもうれしいご評価をいただき、なんだか照れてしまいます。
by vril (2009-04-10 13:01) 

ぶりぶり

オバマ犬の名前はVOOかBO(ボー)だそうだ。
「ボー」は胸が白く、胴体の他の部分や頭が黒いため、同紙は「タキシードを着ているみたい」と例えている。同種の犬を3匹飼うケネディ議員のトレーナーから、家具を傷付けたり、排せつの粗相をしたりしないよう厳しい「しつけ」を受けているという。
うちの犬は排泄の粗相は毎度のことで、それどころか、ウンコを喰いまくります。
by ぶりぶり (2009-04-12 20:32) 

vril

最新情報ご提供ありがとうございます。以前書いた記事「うちのオバマ犬」を覚えていてくださったんですね。
http://vril.blog.so-net.ne.jp/2009-03-13-1

オバマ犬の名前は「ボー(Bo)」だそうです。6ヶ月のオスです。お嬢さん方が候補に挙げていた「フランク」とか「ムース」という名前のことをミシェル夫人は悪趣味と評していらしたようですが、「ボー」はいい趣味ということでしょうか。Boの後ろにもう一つoをつけると、政治家にとってはかなり最悪な感じになると思うのですが。これがアメリカンテイストなのか、と一つ学びました。

ぶりぶり先生のお犬様はなかなかアバンギャルドな食の嗜好をお持ちのようですね。うちの「ボー」ならぬ「クー」の好みは通俗的です。柑橘類を食べるとうんちに虫が無数にたかっているように見えてyuckyです。



by vril (2009-04-12 22:36) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

関連リンク

メッセージを送る

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。