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成人先天性心疾患患者の麻酔~術前管理 [anesthesiology]

Anesthesia for Noncardiac Surgery in Adults with Congenital Heart Disease

Anesthesiology 2009年8月号より

術前評価
心臓手術を受ける先天性心疾患患者の術前評価は、麻酔科医、循環器科医、集中治療医および外科医を中心とする各科協力の下に行わなければならない。成人先天性心疾患患者に対する医療資源の有効分配について専門家集団が策定したガイドラインでは、中等度以上または複雑な先天性心疾患のある患者は、地域に所在する成人先天性心疾患センターで管理することが推奨されている。成人先天性心疾患患者では、心機能不良、肺高血圧症、うっ血性心不全またはチアノーゼがあると、周術期リスクがとりわけ高くなる。大手術や、一側肺換気を要したり、腹臥位、頭低位などの体位をとったりする手術では、血行動態に大きな変化が生じリスクを伴う可能性がある。したがって、麻酔科医は患者の心エコーや心カテの結果を踏まえ、その解剖と生理を熟知していなければならない。患者の病態をちゃんと分かっていれば、心内シャントの量や方向に急激な変化を引き起こしたり、肺血流量を増やしたりする原因となりかねない術中イベントを予測することができる。心機能についての詳しい検査が近い過去に行われていない場合は、術前に心エコーを実施する。

前投薬
非心臓手術を受ける先天性心疾患患者の多くは、心臓手術を受けたことがあるので、麻酔のことをよく知っている。不安、身体機能障害、随伴する先天異常(もっとも頻度が高いのは21トリソミー)がある患者もいる。成人先天性心疾患患者は両親と居住していることが多く、様々な心理社会的問題を抱えている頻度が高い。したがって、手術を前にした心の支援が重要である。抗不安薬や鎮静薬の投与には細心の注意が必要である。低換気や高二酸化炭素血症は、肺血管抵抗の上昇を招くからである。特に、もともと肺高血圧症または体循環から肺循環へのシャントがある場合は肺血管抵抗が上昇しやすい。ただし、慢性低酸素血症の患者では、高二酸化炭素血症に対するのと同様にオピオイドに対しても正常な換気応答が維持されている。

心内膜炎予防
AHAは近頃、感染性心内膜炎予防のガイドラインを更新した。専門委員会が過去40年間の文献を渉猟した結果、抗菌薬の予防投与によって防ぐことができたと考えられる心内膜炎はほとんど見あたらないことを明らかにした。その結果、心内膜炎のリスクが特に高い以下の患者についてのみ、術前に予防的抗菌薬投与を行うべきであるという提言を示すに至った:心内膜炎の既往、未治療のチアノーゼ性先天性心疾患(姑息術後を含む)、人工材料または人工機材を使用した根治術後6ヶ月以内(手術、カテーテル治療の別を問わない)、治療後の先天性心疾患であるが人工パッチまたは人工機材のある場所または隣接部に欠損が遺残している(人工物がある場所およびその周辺は内皮化が阻害される)。以上のいずれにも当てはまらない先天性心疾患には、心内膜炎予防を目的とする抗菌薬の予防投与は最早推奨されない。

教訓 低換気や高二酸化炭素血症は、肺血管抵抗の上昇を招くので、抗不安薬や鎮静薬の投与には細心の注意が必要です。術前の予防的抗菌薬投与は、心内膜炎のリスクが特に高い患者に限って行います。
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成人先天性心疾患患者の麻酔~麻酔管理の問題点③ [anesthesiology]

Anesthesia for Noncardiac Surgery in Adults with Congenital Heart Disease

Anesthesiology 2009年8月号より

心不全
治療、治療後を問わず先天性心疾患には右心不全および左心不全が伴うことが多い。成人先天性心疾患患者では、心臓手術後無症状で長年経過してもなお、心房性ナトリウム利尿ペプチド、レニン、アルドステロン、ノルエピネフリンの上昇が認められる。自律神経による心臓調節の異常や、血行動態の変化が成人先天性心疾患患者の心不全の原因である。他のタイプの心不全と同じく、左室不全の治療には、利尿薬、ジゴキシン、ACE阻害薬およびβ遮断薬が用いられる。周術期には病態に合わせて投薬内容を調節する必要がある。左室不全と異なり、解剖学的右室がsystemic ventricleとして機能している患者(修正大血管転位、MustardまたはSenning手術後の大血管転位、単心室)における心不全の管理法については、エビデンスに基づくガイドラインは存在しない。今後の臨床試験が待たれる。

不整脈
成人先天性心疾患には心房性不整脈および心室性不整脈がつきものである。根治的または姑息的手術後に見られる不整脈には、元々ある心臓の欠陥による原発性のものと手術による続発性のものとがある。例えば、上室性不整脈は、心房の手術(心房中隔欠損閉鎖術、Mustard手術、Senning手術またはFontan手術)を受けた患者や、右房拡張のある患者では20-45%に認められる。頻脈性不整脈のうちもっとも頻度の高いタイプのものは、右房起源の心房内リエントリー性不整脈である。心房性の頻脈は抗不整脈薬抵抗性であることが多く、発生すれば急速に血行動態が悪化することがある。心室性不整脈は、右室または左室機能が相当低下した患者において認められることが多い。その他の危険因子は、心室切開術の既往、古い時代に行われた手術、初回手術時の年齢が高い、などである。長じてから手術を受けた患者は、長期にわたりチアノーゼ、容量負荷および圧負荷に曝されている。その結果、心筋の線維化が進行し伝導遅延が生じるため、不整脈のリスクが上昇する。肥大心筋の心内膜下心筋血流は低下しているため、これに加えて急性低酸素血症が起こると、心室性不整脈が発生する。術後に房室ブロックが生じ、徐脈の治療のため永久ペースメーカが必要になることがある。ペースメーカおよび植え込み型除細動器を装着している患者の管理については他の文献を参照のこと。

教訓 成人先天性心疾患患者には、心不全や不整脈がつきものです。

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成人先天性心疾患患者の麻酔~麻酔管理の問題点② [anesthesiology]

Anesthesia for Noncardiac Surgery in Adults with Congenital Heart Disease

Anesthesiology 2009年8月号より

出血のリスクと血栓症のリスク
Eisenmenger症候群の患者は、大半が高度のチアノーゼ(酸素飽和度<85%)を呈する。チアノーゼがあると、たとえ小手術であっても周術期出血および血栓症のリスクが高い。両者ともその原因は、血小板の数および機能の異常と、凝固系の複合的な異常である。血小板数が減少するのは、末梢で消費されることにより血小板の寿命が短縮するためであると考えられる。凝固系の異常についてはあまりよく分かっていない。高度のチアノーゼを呈する患者では、循環血液中のビタミンK依存性凝固因子、第Ⅴ因子およびフォン・ヴィルブラント因子が少ない。そのためPTおよびAPTTが延長する。だが出血時間は延長しない。その原因はおそらく、血液の粘稠度が上昇し、流速が低下するためである。出血のリスクを上昇させるその他の要因は、細動脈の拡張や、組織の血管新生が盛んなことである。このような血管の変化が生ずるのは、血液粘稠度の上昇により血管壁に作用する剪断応力が大きくなり、内皮由来の一酸化窒素やプロスタグランディンの放出が増えるためであると考えられる。

チアノーゼのある患者では出血リスクが高いが、だからといって血栓症になりがたいわけではない。チアノーゼがあると、二次性赤血球増多症が起こる。慢性的な低酸素症に対する代償反応が二次性赤血球増多症である。エリスロポエチンの産生量増加によって赤血球が増える。すると、血液中で赤血球の占める容積が増え血漿量が減り、血液全体の粘稠度が上昇する。その結果、細動脈や毛細血管における血液流量が減る。鉄欠乏や脱水があると状況はさらに悪化する。鉄欠乏下で産生される赤血球は変形しにくい。鉄欠乏は、Eisenmenger症候群における血栓症発生の強力な独立予測因子であることが明らかにされている。

周術期は、術前の絶飲食のため、血液粘稠度上昇による症状が増悪し、脳血栓症のリスクが増大する可能性がある。したがって、輸液を適切に行う必要がある。血管内容量を保ちながら瀉血を行う治療法は今では廃れているものの、ヘマトクリットが65%を超える場合には術前に瀉血を行うと手術時の止血能が改善する。

術前に凝固系の評価を綿密に行うことは不可欠である。中~大手術を受ける患者では、検査に異常が認められれば凝固因子や血小板の補充を考慮する必要がある。また、急ぐ手術でなければ、鉄欠乏があれば術前に補正すべきである。しかし、二次性赤血球増多症でヘモグロビンが増え血漿量が減っている場合には、標準的な検査法によるPT-INRやAPTTの測定値が正しくない可能性があることを念頭に置かなければならない。ヘモグロビンが増え血漿量が減っていると、採血管内のクエン酸濃度を調整する必要がある。ほとんどの施設では、採血管内の抗凝固剤の量は次の公式で調整すればよい:採血管内の抗凝固剤(3.8%クエン酸)の量(mL)={(100-ヘマトクリット)/100}+ 全血10mLあたり0.02

教訓 チアノーゼがあると、出血のリスクも血栓症のリスクも上昇します。
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成人先天性心疾患患者の麻酔~麻酔管理の問題点① [anesthesiology]

Anesthesia for Noncardiac Surgery in Adults with Congenital Heart Disease

Anesthesiology 2009年8月号より

先天性心疾患の長期合併症と麻酔管理における問題点

先天性心疾患のある成人患者の生存期間は昔より長くなっている。そして、単純な欠陥であっても長期合併症を招くことが明らかになってきた。循環器系の長期合併症としては以下のものが挙げられる:肺高血圧症、心室機能低下、不整脈および伝導障害、遺残シャント、弁疾患(逆流および狭窄)、高血圧および瘤。循環器系以外の合併症には、二次性赤血球増多症、胆石、腎結石、発達障害、中枢神経障害(血栓塞栓症または脳血管障害によるてんかんなど)、聴覚障害、視覚障害、拘束性または閉塞性肺障害などがある。先天性心疾患のある成人が非心臓手術を受ける場合、先天性心疾患にまったく手が加えられておらず欠陥がそのままになっていることもあれば、姑息的手術後であることもあれば(例;部分または完全右心バイパス術)、根治術後であることもある。先天性心疾患が軽症で、特に積極的な管理を必要としない患者がいる一方で、複雑な病態を呈していて、先天性心疾患の管理に長けた循環器専門医および麻酔科専門医による管理を要する患者もいる。成人の先天性心疾患はほぼ全例、他の複数臓器の異常を伴う全身疾患として扱わなければならない。

肺高血圧症
先天性心疾患のある成人では、肺高血圧症が発症することがある。その原因は多彩である。心室拡張終期圧の上昇や肺静脈狭窄により、続発的に肺静脈圧が高くなることが肺高血圧症の原因として考えられる。肺高血圧症がある患者の多くにおいては、遺残シャント、肺機能低下および慢性的な肺血流量低下のため酸素飽和度が常に低い。しかし、成人先天性心疾患患者における肺高血圧症の主な原因は、大きいnonrestrictiveな欠損が長期にわたって存在してきたことである。大きい欠損があると、肺血管床の血流量が増え、体循環に近い圧が加わるため、血管に不可逆性の変化が生じ、肺血管抵抗が上昇する。こうした変化は小児期から現れ始め、進行する。肺血管抵抗が上昇しても、当初は可逆性であるのだが、時間が経つにつれ永続的な変化になってしまう。血管に生ずる変化には、細動脈や細筋性動脈の中膜肥厚、内膜の細胞増殖、内皮細胞下への平滑筋細胞の遊走、進行性の線維化、細動脈および小動脈の閉塞などがある。左右シャントが長期間継続することにより肺高血圧症に至った病態を、Eisenmenger症候群と言う。

Eisenmenger症候群患者の管理は、麻酔科医の腕の見せ所である。Eisenmenger症候群患者の周術期死亡率は高いため、絶対に必要でなければ非心臓手術を行ってはならない。死亡の予測因子は、失神、発症年齢、心機能低下、上室性不整脈、右房圧上昇、酸素飽和度低下(<85%)、腎機能障害、右室機能の重度低下および21トリソミー(ダウン症候群)である。

肺高血圧症のある患者の麻酔管理における基本方針は、肺血管抵抗の上昇を防ぎ、かつ体血管抵抗を保つことである(fig. 1)。肺血管抵抗が急に上昇すると、心内シャントのない患者では、急性右心不全により心拍出量が低下し、心内シャントのある患者では酸素飽和度が低下し、その後に心拍出量が低下する。どちらの場合でも、重度の徐脈が発生し、その果てに心停止に至ることがある。肺高血圧クライシスの予防と治療の方法は、100%酸素による過換気、アシドーシスの補正、交感神経刺激の回避、正常体温の維持、胸腔内圧をなるべく低くする、強心薬の使用である。肺血管抵抗の急激な上昇には一酸化窒素の吸入が有効であり、リスクの高い患者の麻酔管理にあたっては手術室内で一酸化窒素を使用できるよう手配すべきであろう。体表面の手術であれば、全身麻酔に代わる選択肢として区域麻酔も可能である。しかし、脊髄クモ膜下麻酔または硬膜外麻酔を行うと、心内シャント量が多い患者では体血管抵抗が過度に低下するおそれがあり、そうすると右左シャントが余計増えてしまうことになる。一方、全身麻酔では換気を適切に調節することができるため、高リスク手術を受ける患者の場合には、全身麻酔が好ましいと考えられる。

Fig. 1 体循環と肺循環の血流分布に影響を及ぼす諸要因

肺血流量を増やす要因
肺血管抵抗低下 低二酸化炭素血症、肺血管拡張(NO)
体血管抵抗上昇 交感神経緊張、血管収縮薬、低体温

体血流量を増やす要因
肺血管抵抗上昇 低酸素血症、高二酸化炭素血症、高ヘマトクリット、陽圧換気、寒冷、代謝性アシドーシス、α刺激薬
体血管抵抗低下 血管拡張薬、硬膜外麻酔・脊髄クモ膜下麻酔、深い全身麻酔、高体温

教訓 Eisenmenger症候群患者の周術期死亡率は高いので、絶対に必要でなければ非心臓手術を行ってはなりません。死亡の予測因子は、失神、発症年齢、心機能低下、上室性不整脈、右房圧上昇、酸素飽和度低下(<85%)、腎機能障害、右室機能の重度低下および21トリソミー(ダウン症候群)です。


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成人先天性心疾患患者の麻酔~疫学 [anesthesiology]

Anesthesia for Noncardiac Surgery in Adults with Congenital Heart Disease

Anesthesiology 2009年8月号より

先天性心疾患は先天異常の中で最も多く、出生児1000名あたり約8名に認められる。大動脈二尖弁を除くと、先天性心疾患の大部分は、未治療であると乳幼児期に死亡し、成人に達するまで生存できるのはわずか15-25%にすぎない。出生前診断、インターベンション治療、小児心臓手術、麻酔および集中治療が進歩し、現在では先天性心疾患患者のおよそ90%が生存し成人を迎えることができる。今や米国では史上初めて、先天性心疾患の患者数は成人が小児を上回っているものと推計されている。先天性心疾患を持つ成人の多くは、追加の姑息的心臓手術、根治的心臓手術もしくは非心臓手術を受けることになる。成人先天性心疾患患者の解剖と生理は、特異的かつ複雑な様相を呈する。根治術または姑息的手術後の先天性心疾患を有する成人の周術期合併症および死亡率は、先天性心疾患のない成人患者と比べ高い。しかし、この点についてのしっかりした研究が行われたことはない。成人先天性心疾患患者の管理法を指し示すガイドラインは、皆無に等しい。それにもかかわらず、ACCの特別委員会は、中等度から重度の先天性心疾患のある成人患者が非心臓手術を受ける場合は、成人先天性心疾患センターに照会し循環器専門医および麻酔科専門医に適切な助言を求めること、と推奨している。

本論文の目的は、非心臓手術を受ける成人先天性心疾患患者の管理を担当する麻酔科医に対し、先天性心疾患による長期的変化や、術前および術中管理の注意点についての全体像を示すことである。

先天性心疾患の疫学

成人先天性心疾患患者のうち約25%では、当該先天性心疾患は軽症であり、外科的またはカテーテルインターベンションを受けずに成人期まで生存できた症例である。このような患者においてよく見られる疾患は、軽度大動脈弁狭窄(通常、大動脈二尖弁による)、小さいVSD、ASD、軽度肺動脈弁狭窄、僧帽弁逸脱、他の異常を伴わない修正大血管転移などである(table 1)。しかし、外来を受診する成人先天性心疾患患者の大多数は、手術またはカテーテル治療後の症例である(table 1)。

先天性心疾患による障害を機能的に分類すると、左右シャント(非チアノーゼ性)を生ずる疾患と、チアノーゼを来す(右左シャント)疾患に分けられる。酸素化された血液が左房、左室または大動脈から右房、右室または肺動脈へ流れ込むのが左右シャントである。したがって、全身から戻ってきた静脈血すべて(有効肺血流量;脱酸素化された血液のうち肺へ運ばれて酸素化される血液の量)と、完全に酸素化されたシャント血が肺へ運ばれる。その結果、心房、心室、もしくはその他の部分のいずれか一つ以上に容量負荷が生ずる。欠陥が大きいと肺血流量が増え、肺血管床に体循環に近い圧がかかるようになる。この状態が続くと、肺血管床に不可逆性の変化が起こり、肺血管抵抗が上昇し、肺高血圧症に陥る。肺動脈圧が大動脈圧に近づくと、欠陥部位において逆向きのシャント(右左シャント)もしくは両方向性シャントが生ずる(Eisenmenger症候群)。

心房中隔欠損および心室中隔欠損は、先天性異常の中でも頻度が最も高い部類の疾患であり、成人先天性心疾患の25%を占める。外来でよく遭遇する成人非チアノーゼ性先天性心疾患には他に、大動脈縮窄症、先天性動脈弁疾患により狭窄and/or逆流を来したもの、大動脈弁下狭窄、先天性僧帽弁疾患により狭窄and/or逆流を来したもの、修正大血管転位、Ebstein奇形(通常、乳児期にチアノーゼを呈する)などが挙げられる。

チアノーゼ性心疾患では、心臓の解剖的欠陥のせいで肺血流量が低下したり、酸素化した血液に脱酸素化した血液が混ざったりする。そのため、動脈血酸素含有量が減りチアノーゼを来す。非チアノーゼ性先天性心疾患と異なり、チアノーゼ性先天性心疾患の患者の大半は、成人に達するまでに少なくとも一度、多くは複数回にわたる手術やカテーテル治療を受けている。外来でよく遭遇する成人チアノーゼ性先天性心疾患は、ファロー四徴症、完全大血管転位、いろいろなタイプの単心室である。その他、総肺静脈灌流異常、総動脈管症、両大血管右室起始症なども見られる。

教訓 医学の進歩により、先天性心疾患の患者数は成人が小児を上回っています。
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喘息最前線2008~まとめ [critical care]

Update in Asthma 2008

Am. J. Respir. Crit. Care Med. 2009年5月15日号より

まとめ

昨年は、我々の自家薬籠中の薬剤に関連する大きな動きがあった。喘息治療薬の副作用の可能性について複数の記事が(特に一般に向けて)発表され、新たな懸念が示された(懸念を打ち消すよう記事もあった)。この手の記事は、喘息治療薬の副作用を明らかにした臨床試験の本数を、数の上では凌駕しているように見受けられることもあった。LABAを巡る論争は今も続いているが、目下のところ、成人では、ICSを併用している場合のLABA投与は定着した治療法である。しかし、小児においてはICSとLABAの併用療法の妥当性は、まったく分かっていない。製薬会社、FDAのような規制当局、研究者そして医師にとっての真の課題は、喘息患者全般においての、ある治療薬の総合的リスクを捉えようとする従来の思考法を捨て、副作用発現リスクのある患者の同定へと発想を変えることである。少数の患者における安全性を懸念するあまり、大多数の患者に有効であることが明らかな喘息治療薬を使用禁止にするのはいかがなものか。大半の喘息患者では、有効性が証明されている薬については、利益が副作用のリスクを上回るものと考えられる。

喘息の薬物療法にまつわる議論で取り沙汰される問題の中心は、喘息患者を十把一絡げに扱うことはできないということである。臨床で実際に遭遇する喘息患者が不均一な集団であることは、Halderらの研究をはじめとする病型分類に関する新しい研究によって明らかにされつつある。Halderらの研究で取り上げられた病型の中では、少なくとも二つのタイプに、アトピーおよび好酸球増多という明確な特徴が認められた。この二つの病型では、ステロイドがよく効き、ステロイド至適量は痰の所見によって決定するのが最善の方法であると考えられる。だが、残念ながら、大半の喘息患者の評価においては、痰の検査は手軽に行えるものではなかったり、現実的ではなかったりする。Halderらの研究で示されている残りの2つの病型は厄介である。特に、気道の好酸球増多がない肥満女性の喘息というタイプは手強い。この病型は、ステロイドが効きにくく、評価も難しい。というのも、通常の診断手法(スパイロメトリーや症状スコア)では正確に評価ができない可能性があり、複数の基礎疾患が合併していることが多いからである。

ウイルス感染など、喘息以外の原因による喘鳴は、小児喘息の病型を同定する際の障壁となる。今年の研究では、風邪の原因であるライノウイルスが、かつて考えられていた以上に喘鳴を引き起こす強い要因であることが分かった。急性の喘鳴に対するステロイド使用についての臨床試験では、効果は僅かに過ぎないという結果が示された。しかし、ステロイド使用患者の追跡調査や、喘鳴の自然経過についての縦断的調査には興味がひかれるところである。喘息のリスク因子のない小児の喘鳴でも喘息発症につながることもあるかもしれないし、喘息リスクのある小児の喘鳴が必ずしも喘息発症につながるわけではないであろう。この二つの喘鳴小児患者群が二つの異なる病型を反映し、ステロイドの効果も異なるであろうことは想像に難くない。

2009年1月、ACRN、CARE、CAMPそしてSARP networkの成功に触発され、NHLBIは新たに多施設臨床研究ネットワークである Asthma Netを立ち上げた。この臨床試験は喘息の病型のうち特定のものに的を絞っている。そして、Asthma Net参加についてのガイドラインに重要な点が記されていて、参加者には小児と重症例を含む成人それぞれについて一つずつ(すなわち、「問題山積」の臨床領域について)のオリジナルな臨床試験を計画することが求められている。今年はさらに喘息の病型がさらに明確になるであろうし、その成果が患者の治療に役立つことが期待される。重症喘息の特定の病型に照準を合わせた「洗練された」臨床試験が行われ、免疫に作用する薬や新しい(または昔ながらの)治療法についての新たな知見が得られることが待ち望まれている。我々の慣れ親しんだ喘息治療薬についての懸念が未だ広がっているが、我々はこの状況が解決されることを期待している。とにもかくにも、我々の診ている患者は、その薬がなければ息ができないのだから。

教訓 ある治療薬の総合的リスクを捉えようとする従来の思考法を捨て、副作用発現リスクのある患者の同定へと発想を変えるなければなりません。少数の患者における安全性を懸念するあまり、大多数の患者に有効であることが明らかな喘息治療薬を使用禁止にするのは健全とは言えません。大半の喘息患者では、有効性が証明されている薬については、利益が副作用のリスクを上回るものと考えられます。
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喘息最前線2008~機序 [critical care]

Update in Asthma 2008

Am. J. Respir. Crit. Care Med. 2009年5月15日号より

喘息の病理生物学的機序

喘息における気道平滑筋細胞の役割、およびアレルゲンに暴露されたときの細胞やサイトカインの反応もしくはこれらの反応の阻害についてのヒトを対象とした研究が行われている。ヒトライノウイルスの慢性感染が肺機能の悪化に関与していることや、常態的に気道閉塞がある喘息患者では循環血液中に線維細胞が出現する頻度が高いことが報告されている。Severe Asthma Research Program (SARP)から今年は2編の研究の報告があった。1編は重症喘息患者の気道におけるリポキシンの変化に関するものである。リポキシンが変化すると、肝腎な抗炎症作用が失われるため、持続的な気道炎症が生ずる。もう1編は、重症喘息における血漿アルギニンの生物活性と気道閉塞の程度との関連についての報告である。今年発表された他の2編の研究を踏まえると、このアルギニン活性と気道閉塞についての報告は特に興味深い。関連する別の2編のうち1編は、Childhood Asthma Management Program (CAMP)コホートの小児において、アルギナーゼ1遺伝子の遺伝子変異と気管支拡張薬に対する反応の関連を示したものである。もう1編は喘息モルモットモデルにアルギナーゼ阻害薬またはL-アルギニンを投与し、アレルゲン誘導性の気道閉塞および気道過敏性が減弱することを示したものである。以上を総合的に勘案すると、アルギニン経路が気道閉塞の発生に重要な働きを及ぼしていることや、アルギナーゼ活性の調節が喘息治療に役立つ可能性があることが示唆される。

今年は動物モデルを使用した喘息研究が目立った年であった。そして、「完璧な治療計画」が時として有害事象を引き起こしかねないことが示された。たとえば、気道のリモデリングを防ぐ目的で抗TGF-βを投与すると、リモデリングに関してはなんら改善を得ることができず、炎症が悪化することが分かった。また、アレルゲン除去とステロイド中止を同時に行うと効果的であるという仮定の下に行われたマウスを用いた研究では、気道の炎症が軽減するどころかむしろ増悪するという結果が得られた。IL23/Th17欠損マウスでは好中球増多と好酸球増多の両者を伴う炎症が認められることが示されており、これが喘息におけるステロイド抵抗性の病理生物学的機序に関わっているのではないかと考えられる。また、TLR2機能の異常による慢性マイコプラズマ感染が、持続的な気道炎症の原因として指摘されている。

喘息における主要な病理生物学的機序は、動物実験であれ、ヒトを対象とした研究であれ、新しい知見が加わるごとに、その様相は複雑さを増している。異なる喘息病型それぞれについての機序が徐々に明らかになっている。正確な解釈とデータの正しい応用を可能とする、適切な喘息モデル(マウス、ヒト、それ以外の動物)の作成や生物学的機序の解明が現下の課題である。

教訓 アルギニン経路が気道閉塞の発生に重要な働きを及ぼしていることや、アルギナーゼ活性の調節が喘息治療に役立つ可能性があることが示唆されています。TLR2機能の異常による慢性マイコプラズマ感染が、持続的な気道炎症の原因として指摘されています。
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喘息最前線2008~小児② [critical care]

Update in Asthma 2008

Am. J. Respir. Crit. Care Med. 2009年5月15日号より

喘鳴を呈する小児における気道感染の治療

急性喘鳴を伴う疾患に対する短期間の経口もしくは大量ステロイド療法に関する2編の臨床試験が行われた。両研究とも、(複数誘因による喘鳴ではなく)単発性の喘鳴が評価対象とされている。2編のうち大規模な方(n=687)の試験では、単発性の重症喘鳴で入院した就学前児童に対してプレドニンを5日間投与し、その効果が評価された。短期間の経口ステロイド投与を行っても、入院期間は短縮せず、喘息高リスク群に限った解析でも同様の結果であった。これより小規模なもう一方の研究(n=129)では、アトピーや喘息発症リスクのない就学前児童が対象とされた。喘鳴発生時から短期間の大量吸入ステロイド投与により、経口ステロイドのレスキュー使用が減ることが示された。この治療方法はリスク(身長および体重の伸びが停滞する)がないわけではなく、対象患者を厳密に設定した研究であるため、喘鳴を呈する就学前児童に全般的に当てはめるのは困難である。

Childhood Asthma Research and Education (CARE) Networkは、気道感染に起因する喘鳴がある就学前児童(n=238)に対し吸入ステロイド(ICS)またはロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)を7日間投与した場合の効果を評価する目的で、無作為化二重盲検偽薬対照比較試験を行った。全対象患者について短期間ICSまたは LTRAと偽薬を比較したところ、喘鳴症状のない期間およびOCSレスキュー使用の回数については差が認められなかった。しかし、ICSまたはLTRA使用群の方が症状が軽く、特にLTRA群でその傾向が強かった。一方、喘息予測指標(API)陽性(n=144)もしくは経口ステロイド投与の既往がある患者から成るサブグループでは、短期間ICSまたはLTRAによって大きな効果が得られ、症状がより軽くなる。以上の結果はPrevention of Early Asthma in Kids (PEAK) 試験の結果と一致するものである。PEAK試験では、API陽性の小児にICSを使用したところ、2年の治療期間中における無症状日数の増加および増悪事象の減少が認められた。この二つの研究をあわせて考えると、喘息発症の有意な危険因子のある小児では、ICSまたはLTRAを投与することによって、喘鳴を軽減したり、喘鳴発作の頻度を減らしたりする効果が得られる可能性がある。ただし、ICSあるいはLTRAによって喘息の発症を抑えられるというわけではない。ICSの危険性と有益性についての短期投与と長期投与の比較研究が課題である。特に喘息発症リスクのある就学前児童における短期あるいは長期ICSの危険性と有益性についての研究を実施する必要がある。現時点では、就学前児童における喘鳴を伴う急性疾患の大多数では、ステロイド療法を支持するエビデンスは示されていない。

教訓 喘息発症の有意な危険因子のある小児では、ICSまたはLTRAを投与することによって、喘鳴を軽減したり、喘鳴発作の頻度を減らしたりする効果が得られる可能性がありますが、ICSあるいはLTRAによって喘息の発症を抑えられるというわけではありません。
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喘息最前線2008~小児① [critical care]

Update in Asthma 2008

Am. J. Respir. Crit. Care Med. 2009年5月15日号より

小児喘息:喘鳴、ウイルス、ステロイド

小児の喘鳴に関する論文が今年も何本か発表された。この手の論文は、主にウイルス感染に起因する単発性の喘鳴を扱ったものと、アレルゲン・冷気・煙への曝露やウイルス感染など複数の原因によって引き起こされる喘鳴を扱ったものに分けられる。後者の喘鳴を呈する場合は、喘鳴が頻繁に発生したり(感冒に関係しない喘鳴を含む)、家族歴があったり、他のアレルギー疾患(湿疹、吸入アレルゲン・乳製品またはナッツなどへの感作、血清中の好酸球増多など)があったりすると、6歳以降に持続型喘息に移行するリスクが高い。目の前の症例がどちらのタイプの喘鳴なのかの判断や、短期的にせよ長期的にせよステロイド投与を行うべきかそうでないのかの決定が、臨床の現場で迷うところである。

ウイルスと喘息の危険性

どのウイルスによる感染、どのタイミングでの感染が問題なのだろうか。喘鳴を呈する就学前児童におけるウイルス感染の影響と、(6歳以降)持続型喘息発症の将来的リスクについての研究が複数発表されている。テネシー州メディケイド受給世帯の出生コホートを対象とした5年間にわたる大規模疫学調査(n=95310)の結果、幼児期におけるウイルス暴露のタイミングが重要な意味を持つことが分かった。気管支炎(「ウイルス曝露」の代替指標)による入院が最も増える時期に生後122日(4ヶ月)を迎えた乳児では、3歳以上になったときに喘息を発症する可能性が29%高いことが分かった(喘息発症の有無は喘息治療薬の使用歴や医療費請求コードから判断)。Childhood Origins of ASThma (COAST) 研究では、喘息ハイリスクコホート(n=259)の患者が喘鳴を伴う病態を示した際(出生時から6歳時まで)に鼻腔内洗浄液を採取し、6歳時点での喘息リスク増大と関連するウイルスの種類についての調査が行われた。誕生から3歳になるまでの時期に喘鳴があった患者では、RSウイルスが喘息リスク上昇と関係していた(OR 2.6)。さらにリスクを上昇させるのは、ライノウイルスであった(OR 9.8)。3歳時点でライノウイルスによる喘鳴を訴えた患者では喘息のリスクが顕著に上昇し(OR 25.6)、吸入アレルゲンによる感作(OR 3.4)よりも喘息発症リスクが大きかった。以上から、ウイルス曝露のタイミングが重大な影響を及ぼし、すべてのウイルスが同じように喘息の誘因となるわけではないことが分かる。

教訓 生後4ヶ月の時点でウイルスに曝露された場合、3歳以上になってから喘息を発症するリスクが高くなります。ウイルスの種類では、ライノウイルスが最も喘息リスクを上昇させます。
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喘息最前線2008~肥満 [critical care]

Update in Asthma 2008

Am. J. Respir. Crit. Care Med. 2009年5月15日号より

肥満喘息

肥満と喘息に関連があるかもしれないということに興味が集まっている。その関連性については、たまたま合併しているという説から、因果関係があるとする説まで様々な仮説が示されている。一般的に、喘息患者、中でもとりわけ女性はBMIが高いほど、生理学的に予測されるよりも息切れに類する症状を訴えることが多い。前述のHaldarらの研究では、プライマリケアコホートに属する「肥満で好酸球増多のない」クラスターにはBMIの高い(平均>35)女性が多かった。そして、呼吸機能は他のクラスターと同等であったにも関わらず、症状スコアは最も高かった。このように症状と理学的所見が乖離する理由については、複数の研究者が調査している。Sutherlandらの研究では、軽度ないし中等度の喘息を有する肥満女性を対象にメサコリンテストが行われた。気管支収縮が発生する前および最も強い気管支収縮が起こっているときのそれぞれの肺容量においてメサコリンを投与したところ、ダイナミックな過膨張が認められ(FRCが増え)、これが呼吸困難感を増強する原因であると考えられた。別のもっと大規模な研究では、痰および血液中の炎症性マーカの計測が行われ、喘息患者では肥満群も標準体型群も同じような細胞およびサイトカイン特性を示すことが分かった。つまり、肥満と喘息のあいだに生物学的な関連性があるというエビデンスは得られなかったことを意味する。別のグループの研究は、肥満喘息患者におけるステロイド不応性を調査し、血中の単核球および肺胞洗浄液中の細胞のデキサメサゾンに対するin vitroでの反応が肥満患者では鈍麻していることを明らかにした。以上の研究で得られた知見を総合すると、常套的な検査手法(スパイロメトリーや症状スコア)は、肥満喘息患者では病態を性格に反映しない可能性があると考えられ、肥満患者が増えている現況を鑑みると、この患者群における新しい評価法を確立する必要があると考えられる。さらに、小規模コホート研究では、肥満患者が非肥満患者とは異なる痰や血液の病理生物学的所見を有することを明らかにはできなかったとはいえ、通常の喘息で認められるようなステロイドに対する細胞環境の変化が肥満喘息患者で発生すると、喫煙によるのと同じように病状を増悪させる可能性がある。

教訓 喘息と肥満の関係はまだはっきりしていませんが、肥満の喘息患者ではステロイドに対する反応が鈍麻しているというデータがあります。
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喘息最前線2008~病型分類 [critical care]

Update in Asthma 2008

Am. J. Respir. Crit. Care Med. 2009年5月15日号より

喘息の新しい病型

2008年には、統計的モデル化を用いた喘息の研究が行われ、発表された結果は、喘息の病理生物学に関連したこの年の論文の中で最も興味深いもの一つであると受け止められたと思われる。Haldarらは、高度な数学的モデルを用いた手法(クラスター分析)を用い、異なる3つの喘息患者コホートを対象に、7~8個の変量についてそれぞれの関連を分析し、臨床で遭遇する喘息の病型(「クラスター」)を同定した。このクラスター分析において選択された変量はいずれも客観的指標であった。具体的には、アトピーの合併(皮膚テスト陽性)、症状(修正Juniper問診表)、痰の好酸球増多、呼気流速、性別、喘息発症年齢、BMI、メサコリンに対するPC20(FEV1 を20%低下させるメサコリン濃度;これはプライマリケアコホートのみで記録)であった。

第1コホートはプライマリケア診療所を受診中の喘息患者(n=184)であり、発症年齢、アトピーの有無、痰の好酸球増多、BMIにより3つのクラスターに分類された。「良性喘息」と名付けられたクラスターでは、患者の58%に気道過敏性は認められず(PC20 ≤8 mg/ml)、本当に喘息なのかと疑念を呈さざるを得ない患者が多く含まれていた。クラスター1(早期発症のアトピー喘息)は早期発症で痰の好酸球増多をともなうアトピー喘息の患者が属した。クラスター2(肥満で好酸球増多がない)には肥満女性が多く、痰の好酸球増多が認められないタイプである。第2コホートは専門医の診察を受けている難治性喘息患者コホート(187人)から成る。このコホートでも第1コホートと同様のクラスター分類(クラスター1とクラスター2)を適用した。さらに、このコホートには重症喘息に特異的な特徴を条件とする2つのクラスターが加えられている。このコホートの32%は、ステロイド内服(OCS)を長期間継続している重症喘息の患者で、ほぼ全員にLABAが投与されていた。平均4回のOCSパルスの経験があり、1人あたり年間1.5回の入院治療を受けていた。クラスター3(小児期発症症状優位群)はクラスター1(早期発症アトピー性喘息)と殆ど同型であるが、クラスター1と異なり痰の好酸球増多が見られず、症状も軽い。クラスター4(炎症優位群)は他のクラスターとは大きく異なり男性に多く(53%)、成人発症であり、アトピーはなく、痰の好酸球増多が著しく、症状はごく少ない。

第3コホート(n=68)は、縦断臨床試験の対象患者であり、特性がはっきりしている。この縦断臨床試験は、著者らが過去に報告した、痰の性質によって治療法を決定する方法についての臨床試験に基づいている。驚くべきことに、この第3コホートには、早期発症アトピー型喘息クラスターに該当する患者は見受けられなかった。第2コホートの患者のうち40%は早期発症アトピー型喘息クラスターに分類されているし、早期発症アトピー型喘息はこの臨床試験の対象患者として基準を満たすはずなのに、そうではなかった。第3コホートにも他のクラスターに該当する患者は存在したが、第2コホートの同じ名称のクラスターと比較すると違いが認められた。最大の差異は、痰に含まれる好酸球の平均割合が、第3コホートでは第2コホートよりも、早期症状優位群において高く、炎症優位群において低かったことである。そのため第3コホートでは、クラスター間のオーバーラップが多かった。

統計的モデル化手法を用いて、新たなる喘息の病型を明らかにしようとする試みは、目新しく、興味を惹かれるものではあるが、この手の解析には統計学上の落とし穴がつきものである。クラスターの正確さは、標本数によって左右される(上記の研究では、第3コホートの標本数が小さい)。解析が繰り返されるたびに、クラスターが偏倚する可能性がある。実際(著者らも指摘している通り)、病型は連続的なものであり、はっきりした分類ができるわけではない。しかし、日常臨床では、患者をグループ分けして、その分類に基づいて治療方針を決定できれば願ったり適ったりである。痰の検査を必要としない分け方であれば、なおよい。とは言え、この研究の真骨頂は、重症喘息患者の多くでは症状とバイオマーカーが一致していないことを示したことである。痰の所見によってステロイド投与の是非を決定する方法についての前向き臨床を再分析したところ、炎症優位群においてこの方法が、もっとも効果的に症状の増悪を押さえ込めることが分かった。このクラスターは痰に好酸球が最も多い患者から成るため、予想される通りではある。以上を総合すると、痰の好酸球増多をバイオマーカーとして評価する方法は、やはり依然として、ステロイド投与量増減を決定する際の最適な方法であると言える。クラスター分析は喘息の新しい病型を同定するのに役立つ方法ではあるが、その結果をいかに利用するかということについては混沌としている。

教訓 重症喘息患者の多くでは症状とバイオマーカーが一致しません。
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喘息最前線2008~治療薬のリスク② [critical care]

Update in Asthma 2008

Am. J. Respir. Crit. Care Med. 2009年5月15日号より

ロイコトリエン修飾薬

2008年3月、モンテルカストが、行動や気分の変化、自殺指向性(自殺念慮や自殺企図)、あるいは自殺と関連している可能性があるという報告を受け、FDAで安全性に関する検討会が行われているが、その中途報告が公表された。この検討会では、モンテルカストとともに、ザフィルルカストやジロートンをはじめとした他のすべてのロイコトリエン修飾薬も対象にされている。2009年1月、偽薬を対照群として設定したおよそ100編の臨床試験(モンテルカスト41編、ザフィルルカスト45編、ジロートン11編)についての検討結果が追加報告された。検討の俎上に載せられた臨床試験の対象患者総数は19000名を超え(その中でもっとも年少の患者は5歳であった)、この患者たちはいずれもモンテルカストなど3剤のうち1剤を投与されていた。自殺念慮の発生頻度は0.01%以下(モンテルカストを投与された成人患者1名のみ。ザフィルルカストおよびジロートンに関してはゼロ)であった。しかし、対象となった臨床試験は、神経精神領域の有害事象を検討するように特異的に設計されていたわけではない。したがって、モンテルカスト、ザフィルルカスト、ジロートンによる気分/行動関連有害事象について、FDAは未だ決定的な結論には達していない。神経性新領域の有害事象としてFDAへ届けられた上市後の報告は、大半がモンテルカストに関連するものである。現時点においてFDAは、ロイコトリエン修飾薬を使用する際は神経精神領域の有害事象の可能性を念頭に置き観察を怠らないこと、と勧告している。

抗コリン薬

2008年10月、FDAはCOPDに対するチオトロピウムの安全性に関する検討の速報を公表した。企業の資金援助を受けて行われた偽薬対照試験(29編)の統合解析が行われ、チオトロピウム使用群において脳血管障害のリスクが上昇する(0.002%)という結果が得られたため、安全性の検討がFDAで行われたのである。この速報が公のものとなった後に、UPLIFT (Understanding the Potential Long-Term Impacts on Function with Tiotropium)試験をはじめとするチオトロピウムの安全性に関する論文が数編発表された。UPLIFT試験は、COPD患者を対象とした大規模(n=6000)、前向き(4年)偽薬対象臨床試験で、チオトロピウムによる脳血管障害のリスク増大は認められなかった。翻って、最近発表された2編の論文では、吸入抗コリン剤を投与すると、心血管系有害事象のリスクが増大するとされている。この2編はいずれも対象患者数は多いが、研究設計に起因する交絡因子の影響が認められる。一編は、メタ分析を交えた体系的総説であり、短時間作用性抗コリン薬と長時間作用性抗コリン薬の区別がされていない。もう一編は、吸入薬を投与されているCOPD患者についての症例対照研究であり、数種類の吸入薬が使用されていて、その中の1つが抗コリン薬であったに過ぎない。FDA は2009年中にUPLIFT試験で得られたデータのさらに詳しい検討が行われ、FDAは2009年中に新しい報告を公表する模様である。今のところ、FDAは抗コリン薬を喘息治療薬として認可していないが、現実的には、短時間および長時間作用性β作働薬に変わる気管支拡張薬として抗コリン薬には強い関心が持たれている。複数の臨床試験で、イプラトロピウムは即効性の喘息発作治療薬として用いられている。また、2007年のNAEPガイドラインでは、救急外来における重症喘息増悪時の治療にあたっては、短時間作用性β作働薬に加え抗コリン薬を併用すると有効であると記されている。チオトロピウムについては、喘息に対する長時間作用性気管支拡張薬としての有効性が複数の臨床試験で検証されている。その一つが、NHLBI Asthma Clinical Research Network (ACRN)によるものであり、現在進行中である。喘息とCOPDは同一の疾患ではない。したがって、COPDにおける安全性の問題が、必ずしもそのまま喘息に当てはまるわけではないし、逆もまた然りである。製薬会社が抗コリン薬を喘息治療薬として売り出そうとする際には、この点に注意を払わなければならない。

教訓 ロイコトリエン修飾薬は自殺を招く可能性があるかもしれません。抗コリン薬の喘息における有効性や安全性はまだはっきりしていません。
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喘息最前線2008~治療薬のリスク① [critical care]

Update in Asthma 2008

Am. J. Respir. Crit. Care Med. 2009年5月15日号より

毎年恒例の本記事において、昨年はNational Asthma Education Program Panel (NAEPP)が 策定した最新の喘息診断・治療ガイドラインを解説し、ガイドラインに基づいた喘息治療薬の使用方法について多くを割いた。今年は、喘息治療薬の安全性に主眼を置いて解説する。喘息治療に関する臨床系論文のテーマは様変わりしている。以前は大規模臨床研究が花形であったが、今では臨床領域における「悩みの種」や「様々な病型」などが主に扱われるようになってきた。病型については、重症例や、COAST 、CARE およびCAMPなどのネットワークによる小児喘息に関する論文が発表されている。また、喘鳴のある小児におけるウイルスの関与、肥満と喘息の関係などの分野についても研究が展開されている。2008年に発表された論文がもたらした成果は、遺伝、若年期の生活様式あるいは環境が喘息の発症や重症度に与える影響についての理解が進んだことである。また、ヒトやマウスにおける病理生物学分野の基礎研究によって、喘息の各病型に特有の機序についての知見が得られた。新しいモノクローナル抗体および昔からある薬剤(マクロライド)の新しい使用法についての、最重症喘息患者に対する治療法の一選択肢としての可能性を検討する臨床試験も行われた。

喘息治療薬のリスク

2008年は喘息治療薬についての騒動(噴射力が弱い吸入剤への移行)とともに幕を閉じた。1987年に発表されたモントリオールプロトコールに基づき、クロロフルオロカーボンを噴射ガスとして用いた定量噴霧式吸入器が市場から姿を消し、別の噴射ガスであるヒドロフルオロアルカンが取って代わった。議論の余地はあるもののヒドロフルオロアルカンはクロロフルオロカーボンより好ましいとされているが、価格が高いのが難点である。長時間作用性β-刺激薬(LABA)の安全性についての大掛かりなFDA公聴会が開催され、2008年12月にFDA諮問委員会で結論が出された。同時に、現在出回っている喘息治療薬(ロイコトリエン修飾薬、主にモンテルカスト)および喘息治療薬として市販される可能性のある薬剤(抗コリン薬)についても精査された。以上に関する情報は公共メディアで取り上げられ、不幸にして必ずしも正しい情報が伝えられたとは言えず、非常に扇情的な形で報道された。その結果、臨床医家に問い合わせの電話が殺到することになった。

LABAの安全性

2006年1月、Salmeterol Multicenter Asthma Research Trial (SMART) 研究の結果が公のものとなり、LABAについての議論が噴出した。SMART studyは、26355名を対象とした大規模無作為化二重盲検比較試験であり、「通常の喘息薬物療法」にサルメテロールを併用した際の効果が評価された。サルメテロール群では、喘息関連死ならびに致死的事象の発生が偽薬群より有意に多いという結果が得られた。この研究には、結果の解釈を困難にするいくつかの交絡因子が関与している。そのなかで最も重大なものは、吸入ステロイド療法(ICS)の併用が必須ではなかったことである。LABA単剤療法はNAEPガイドラインのいずれのバージョンでも支持されていない。したがって、SMART 研究で得られた知見を臨床現場に適用することの妥当性は不明であり、サルメテロール併用療法が治療の選択肢とはなり得ないことを明らかにしたという意義しか見いだせない。実際のところは、2002年NAEPガイドラインで治療抵抗性の中等度喘息例に推奨されているICSとLABAの併用療法において、LABAが転帰を悪化させるかどうかということに関心が集まっているのである。Jaeschkeらは2008年に、ICS使用患者にLABAを併用した場合の喘息に関連する入院率および死亡率を解析した無作為試験62編を対象としたメタ分析を発表した。対象患者総数は29000人(>12歳)にのぼったにも関わらず、喘息関連死亡や気管挿管を要した症例が少なすぎて(一研究あたり一例以下)LABAが転帰に与える影響をはっきりさせることはできなかった。LABA使用例では喘息関連の入院が少ない傾向が認められたが(OR 0.74、CI 0.53-1.03)、統計学的に有意な差が認められるほどではなかった。この報告は、Batemanらが行ったICS併用時のLABAの安全性についての類似研究で得られた結果と一致する。Batemanらの研究では、ICSとLABAの併用が安全であることが示されている。2002年のガイドラインでは、治療抵抗性の中等度喘息にはICSの倍量投与よりも低容量ICSに加えLABAを併用するのが望ましいとされていたが、2007年のNAEPガイドラインではこの記載が撤回された。しかし、数多くの無作為化臨床試験によって低容量ICSにLABAを併用する治療法の有効性が示され、その安全性についても本年発表された2編のメタ分析で確認されている。

教訓 ICSとLABAを併用した場合の、LABAが転帰に与える影響はまだよく分かっていませんが、低容量ICSにLABAを併用する治療法の有効性と安全性は複数の研究で確認されています。
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OLV中の低酸素血症の予測・予防・治療~治療 [anesthesiology]

Hypoxemia during One-lung Ventilation: Prediction, Prevention, and Treatment

Anesthesiology 2009年6月号より

OLV中の低酸素血症の治療

OLV中に低酸素血症が発生したら、直ちに次の二つの策を同時進行で実行しなければならない:①低酸素血症を迅速かつ効果的に治療する。②低酸素血症の原因を究明し、可能であれば是正する(fig. 5)。

吸入気酸素濃度を上げる
OLV中の低酸素血症の治療法として即効性があるのは、吸入気酸素濃度を上げることである。シャント率が40%を上回る場合は、吸入気酸素濃度を上げても酸素化は改善しないことがある。ただし、OLV中にシャント率がこれほど高くなることは滅多にない。OLV中のシャント率は通常は20-30%なので、吸入気酸素濃度を上げれば酸素化を改善させることができる。吸入気酸素濃度を0.3から0.5、1.0と上昇させると、酸素化が良くなり低酸素血症発生率が低下することが示されている。OLV中は全例で吸入気酸素濃度を1.0としてもよいが、無気肺が発生するおそれが大きくなるし、笑気を使えないという難点が生ずる。さらに、我々が行った臨床研究では、吸入気酸素濃度をおよそ0.5にしてOLVを行い、パルスオキシメトリで酸素飽和度を測定していると、酸素化の低下を早期に検知することができ、かつ、吸入気酸素濃度を1.0に上げれば酸素化が改善し、酸素化悪化の原因を突き止める時間的余裕も得られることが分かった。この早期異常検知法を採ると、非換気側肺の換気を即座に行う必要性に迫られることが少なくなり、手術の進行を妨げる機会が減る。

非換気側肺の換気再開
低酸素血症に陥り、吸入気酸素濃度を上昇させても酸素化が改善しないときは、執刀医に断った上で手術側肺を純酸素で換気する。3-5分おきに手術側肺を用手換気すれば事足りることもあるが、3-10cnH2OのCPAPをかけて手術側肺を拡張させたままにしておく方が、酸素化改善の効果は大きい。外科医にとっては、パカパカ換気されるよりも、拡張したままで動かない肺の方が手術しやすいであろう。OLV中に5-10cnH2OのCPAPをかけると酸素化が改善することが、多くの研究で明らかにされている。5-10cnH2OのCPAPによる酸素化の改善は、CPAPをかけるために使用している新鮮ガス中の酸素によってもたらされる。実際の症例では、すでにすっかり虚脱した肺にCPAPをかけても、ただちに肺が拡張するとは限らないため、酸素化が改善しないこともある。したがって、一度高い圧をかけて虚脱肺を拡張させ、それからCPAPをかけないと安定的に肺を膨らましておくことができない。OLVを行う症例では全例で予防的にCPAPを利用するとよさそうにも思えるが、肺が膨らんだままではできない手術もあるし、肺を虚脱させないと手術ができないと言う外科医もいる。

胸部手術中の低酸素血症を治療する方法の一つに、非換気側肺に対するHFJVがある。HFJVは呼吸数が多く一回換気量が小さいので、手術側肺にジェット換気を行ってもほぼ不動を保つことができる。手術の進行の妨げにはならない。しかし、HFJVの装置は高価であり、使用には熟練を要し、さらに圧損傷の危険性もあるため、普及はしていない。

OLV中の低酸素血症の原因を解消する
OLV中に見られる低酸素血症の原因のうち是正可能なものとしてよく遭遇されるのは、DLTの位置異常、不適切な換気方法による換気側肺の無気肺および分泌物または血液による換気側肺主気管支の閉塞であることが、臨床経験を積むと分かる。低酸素血症を起こす原因の一部は、気管支鏡を使用すれば直ちに是正することができる。DLTがずれたり、主気管支が分泌物で閉塞したりした場合は、気管支鏡でチューブ位置をなおしたり、分泌物を吸引すればよい。しかし、ずれも閉塞もない場合は、換気方法が適切かどうかを再考する必要がある。我々の臨床経験によれば、このような状況に至ったときには、換気側肺に高い圧をかけて無気肺を解除し、PEEPレベルand/or一回換気量を上げて肺の開存を維持できるように人工呼吸器を設定すると、たいてい事態を打開することができる。最近の研究では、OLV中の酸素化にはリクルートメントが有効である可能性が指摘されている。CinnelaらはOLV中の換気設定を一回換気量6mL/kg、PEEPなしとし、1分間のリクルートメント手技を行った。リクルートメント後に5cmH2OのPEEPをかけた。PaO2/FIO2比は235から351へと上昇し、コンプライアンスも改善した。リクルートメント手技の最中には心拍出量および平均動脈圧が低下したが、終了後にはすぐに前値に復した。OLV中のリクルートメント手技が酸素化に与える影響は、いろいろな要素によって左右されるが、中でも、当初の換気方法が無気肺を防ぐように設定されていたか否かという点が大きい。リクルートメント手技によって酸素化が改善する症例では、PEEPを加えるまたは上げる、一回換気量を増やすといった人工呼吸器設定の変更を行い、肺が常に開存するようにしなければならない。

我々の経験では、解決不能な原因による低酸素血症を来す患者は数少なく、その場合は、術式にもよるが持続的または間欠的な5-10cmH2OのCPAPが使用される。さらに、OLV中の酸素化を適正に保つため、手術の初めから終わりまでリクルートメント手技を行い10cmH2OまでのPEEPをかけ換気側肺を開存させるよう努めなければならないこともある。

OLV症例の5-10%で低酸素血症が発生する。術前の肺機能異常、手術側および血流分布が、低酸素血症発生の予測因子として重要である。OLV中の低酸素血症の予防および治療の方法は、気管支鏡による観察、適切な換気方法の選択、吸入気酸素濃度上昇、および非換気側肺に対するCPAP使用である。

教訓 OLV中に見られる低酸素血症の原因の中で、是正可能でありかつ頻度が高いのは、DLTの位置異常、不適切な換気方法による換気側肺の無気肺、分泌物または血液による換気側肺主気管支の閉塞です。
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OLV中の低酸素血症の予測・予防・治療~予防③ [anesthesiology]

Hypoxemia during One-lung Ventilation: Prediction, Prevention, and Treatment

Anesthesiology 2009年6月号より

非換気側肺への酸素投与
非換気側肺への酸素投与は、OLV中の低酸素血症の治療を企図して行われることが多いが、予防目的で実施されることもある。非換気側肺に酸素を投与する場合は、同時にCPAPをかけることもできる。OLV中に酸素化を改善するのにCPAPは大きな威力を発揮する。3cmH2O程度の低いCPAPでも十分な効果が得られることが分かっている。ルーチーンでCPAPをかけると、酸素化の改善が得られるだけでなく、非換気側肺の傷害を予防するという点でも有用である可能性があるという意見がある。OLV後に非換気側肺が再拡張すると、活性酸素が放出されることが最近の研究で明らかにされている。この知見はおそらく、再灌流との関連があると考えられる。OLV中にルーチーンでCPAPをかけると、拡張はしているとはいうものの換気は行われていない肺からの活性酸素の放出が抑制されるのか、また、このことが術後の転帰や、患者の総合的な全身状態の改善につながるのかどうか、という点についてはさらに研究を積み重ねて明らかにする必要がある。ただし、術式によっては、すなわち胸腔鏡手術のような手術では、CPAPは手術の妨げになることがあるし、外科医の多くは通常の開胸術であってもCPAPに難色を示すものである。ルーチーンCPAPのもう一つの問題点として、酸素化が良くなるという効果のせいで、気管支内チューブの位置がずれたり、換気側肺の無気肺が生じたりしても、明るみに出づらくなることが挙げられる。酸素化の改善を目的として、Tピース回路を用いてCPAPをかけずに酸素を投与する方法もあり、それなりの効果が得られることが分かっている。

血流の調節
換気側肺の血流を増やす薬剤、もしくは非換気側肺の血流を減らす薬剤を使った研究が数多く行われている。その一つが、OLV中に一酸化窒素(NO)を投与する方法である。NOは内皮依存性の血管拡張因子の一種である。NOは気体なので、麻酔中の投与は造作もない。NOを吸入させることによって、換気側肺の血管を選択的に拡張すると、OLV中に換気側の血流が増え酸素化が改善するかどうかを検証する研究が、複数のグループによって行われている。5から40ppmのNOを投与してもOLV中の酸素化は改善せず、低酸素血症の発生を防ぐ効果も認めらないことが明らかにされている。

血流を調節するには、薬剤を用いて非換気側肺の血流を減らすという方法もある。そんな薬剤の一つがアルミトリンである。アルミトリンはHPVを強化することによって、非換気側肺の血流を減らすと考えられている。HPVは生理的反射であり、低酸素または無気肺に陥っている部分の細動脈が収縮することによって、その部位への血流が減る現象である。HPVが起こると、非換気側肺の血流が減るので、シャント率が低下し酸素化が改善する。OLV中にHPVが強化されれば、非換気側肺の血流が一層低下し、酸素化が良くなると考えられる。ある研究では、OLV中にアルミトリンを16mcg/kg/min投与し(NOも併用)、PaO2が130%以上上昇するという結果が報告されている。最近の研究によれば、これより少ない量のアルミトリンとNOを併用し、同程度の効果が得られることが示されている。しかし、OLV中の酸素化にアルミトリンが及ぼす効果は、今のところは一考に値する知見という扱いに止まっており、概念の証左とは考え得るものの、ただちに臨床に応用できるようなものではない。このような方法を用いなくても、正しい管理を行っていればOLV中の低酸素血症発生率は5%未満に過ぎないのである。さらに、臨床医はアルミトリンをルーチーンで使用するのを忌避するかもしれない(というより、忌避すべきである)。その理由は、アルミトリンに毒性があるからというだけでなく、もしOLV中に低酸素血症に陥ったとしても、もっと簡便で効果的で安全な対処法があるからである。非換気側肺にCPAPをかけたり、非換気側を間欠的に換気したりすることが困難なVATS症例のうち、低酸素血症が発生する可能性が高い患者において、アルミトリンが低酸素血症を予防または治療するための最後の手段となることはあるかもしれない。

麻酔法
麻酔法の違いはOLV中の酸素化にはそれほど影響を及ぼさないようである。ただし、麻酔法によって酸素化に差が生ずるという結果を示す動物実験も報告されている。In vitroでは、吸入麻酔薬は例外なくHPVを抑制し、静脈麻酔薬は大半がHPVを抑制しない。麻酔薬によるHPV抑制作用は、in vitroでしか認められないというわけではなく、in vivoでもOLV中のHPV抑制が確認されている。Dominoらが行った動物実験では、右肺を純酸素、左肺を低酸素濃度の混合気体で換気が行われた。低酸素濃度混合気体で換気を行った左肺のみにイソフルランを投与したところ、量依存性に肺内シャントが増えPaO2が低下した。この研究の目的は、in vitroで認められるイソフルランによる量依存性HPV抑制作用が、in vivoでも発生するかどうかを検証することであった。換気側肺に吸入麻酔薬を投与し、その効果を調べた他の研究でも、OLV中に吸入麻酔薬を投与すると酸素化が悪化することを示唆する結果が得られている。だが、別の複数の実験では、OLV中に吸入麻酔薬濃度を上昇させても酸素化が悪化しないどころか、濃度を上昇させるとシャント率や換気側肺の血流が減るという結果が示されている。ある研究では、吸入麻酔薬濃度を上昇させると、非換気側肺の血流が減り、シャント率が低下するが、酸素化は変化しないという結果が報告されている。この研究では、吸入麻酔薬によって心拍出量、両肺の血流分布および静脈血酸素飽和度が変化し、これらの総合的作用の結果OLV中の酸素化が一定に保たれたと結論されている。大半の臨床研究では、吸入麻酔薬(0.5-1MAC)と静脈麻酔薬を比較すると、酸素化には差がないか、あったとしてもごくわずかであり、臨床的に問題となるような差はないという結果が示されている。以上の知見から、臨床的には、吸入麻酔薬がHPVに及ぼす直接的な影響によって酸素化が悪化するとは限らないと言える。その主たる理由は、吸入麻酔薬が血行動態全体に与える作用によって、HPVに対する影響が相殺されるからである。

胸部手術では、術中および術後鎮痛に硬膜外麻酔が行われることが多い。硬膜外麻酔はHPVを抑制しないことが実験で明らかにされている。しかし、プロポフォール-フェンタニルによる全身麻酔に局所麻酔薬による硬膜外麻酔を併用した麻酔をOLV中に行ったところ、全身麻酔単独の場合と比べPaO2が低下した(平均約180mmHg→平均約120mmHg)という結果が臨床研究で得られている。ただし、この研究における低酸素血症の発生頻度は両群で同等であった。全身麻酔(GOI)と硬膜外麻酔併用全身麻酔を比較した最新の研究では、酸素化についても低酸素血症発生頻度についても差はないという結果が得られている。この研究の著者らは、硬膜外麻酔を併用すると、OLV中の吸入麻酔薬濃度を低くすることができるので、HPVがあまり抑制されず酸素化が改善すると推測している。しかし、TIVAに硬膜外麻酔を併用しても酸素化は変化しないという研究結果が報告されており、この推測は当を失していることが分かった。Von Dossowらが行ったこの研究では、OLV中にプロポフォール-レミフェンタニルによるTIVAに硬膜外麻酔を併用したところ、TIVAのみの場合と比較し、肺循環および体循環には差は認められず、酸素化は硬膜外併用の方が良好であるという結果が得られた。以上から、麻酔法(吸入麻酔薬 vs. TIVA/硬膜外麻酔 vs. TIVAのみ)それ自体が、OLV中の酸素化に影響を与えることはないと言える。

ヘモグロビン濃度
Deemらが行った研究では、ヘモグロビン濃度が低いとシャント率が上昇し酸素化が悪化することが明らかにされている。Szegadiらは、COPD合併患者および非合併患者を対象に、急激な血液希釈がOLV中の酸素化に及ぼす影響を検討した。急速に500mL脱血を行っても、COPDのない患者では酸素化は変化しないが、COPD合併患者では酸素化が悪化するという結果が得られた。残念ながら、この研究ではシャント率および混合静脈血酸素飽和度が測定されていないので、なぜこういう結果が得られたのかを推測することは困難である。原因の一つとして考えられるのは、OLV中の酸素化はシャント率だけでなくシャント血の酸素化によっても左右されることである(fig. 4)。シャント血(静脈血)の酸素化が低下する要因は、酸素摂取率の上昇(低心拍出量または酸素消費量上昇のとき)と低ヘモグロビン濃度である。したがって、シャント率、心拍出量、酸素消費量、静脈血酸素飽和度およびヘモグロビン濃度のすべてが互いに作用しあって酸素化に影響を与えるものと考えられる。

教訓 麻酔法自体が、OLV中の酸素化に影響を与えることはないようです。吸入麻酔薬と静脈麻酔薬とを比べると、OLV中の酸素化には差はありません。

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OLV中の低酸素血症の予測・予防・治療~予防② [anesthesiology]

Hypoxemia during One-lung Ventilation: Prediction, Prevention, and Treatment

Anesthesiology 2009年6月号より

OLV中の低酸素血症の予防

下側肺の正しい人工呼吸法
OLV中の低酸素血症の発生頻度を減らすには、よく考えて人工呼吸を行う必要がある。筋弛緩の効いている側臥位の患者に対し、下側肺の換気を行う際には三つの問題点に留意しなければならない。

第一に、下側肺は拡張しづらくなっている。その原因は、縦隔の重み、腹部臓器および横隔膜の頭側偏位による圧、および下側胸壁の圧およびコンプライアンス低下である。そのため、換気を行っている下側肺には容易に無気肺が生ずる。下側肺において無気肺や肺胞虚脱が起こると、低酸素性肺血管収縮(HPV) が発生し、下側肺の肺動脈抵抗が上昇する。すると、換気が行われていない上側肺への血流が増え、シャント率が上昇してしまう。したがって、下側肺に無気肺が発生しないような換気方法を実施することが、不可欠である。

第二に、OLV中は下側肺に無気肺が生ずるのを避けるため、換気量(および気道内圧)をやや上昇させなければならないのだが、下側肺の肺容量が増えすぎると、下側肺への血流が阻害され非換気側肺への血流が増えて、シャントが増加することがある。

第三に、お粗末な人工呼吸管理を行っていると、少なくともOLVを要する患者の特性によっては、肺傷害が発生することがある。

各患者の肺のメカニクスや血流の状態に応じ、肺胞の開存を維持しながら血流を保つことを適える、ある程度の幅を持った人工呼吸の方法が、理論的には存在する。しかし、各症例において最適な人工呼吸法を見出す、実際的な方法はないのが実状である。したがって、患者の状態、生理学的な論拠、およびその時点で最善と思われる臨床的根拠に基づいて個別具体的な患者に応じた最適な人工呼吸法を誂える必要がある。人工呼吸法についての研究は、大半が、呼吸生理に着目していて、様々な病態を有する限られた数の患者を対象に行われている。呼吸生理に着目した研究を行うのであれば、肺血流に異常がほとんどない患者を対象とするのが理想である。つまり、肺葉切除や片肺全摘の患者は除外するのが望ましいということである。だが、実際には大多数の研究では、肺血流に異常のある患者は除外されてはいない。というわけで、肺葉切除や片肺全摘の患者に当てはめることのできるエビデンスは少ない。

OLV中の低酸素血症、そしておそらく無気肺の発生を抑えることを目的とした人工呼吸法には二つの流れがある:PEEPをかけない高一回換気量(10-12mL/kg)で換気する方法と、PEEPをかけて中等度一回換気量(6-8mL/kg)で換気する方法の二つである。高一回換気量で換気をすると、吸気相に肺胞が開く。一回換気量が大きいほど、呼出に時間がかかるため、大半の肺胞は呼気相のほぼ終わりまで開存していると考えられる。しかし、この換気方法が最適とは言い難い状況に至る二つのシナリオがあり得る。

第一に、一回換気量が大きいと肺胞が過度に拡張し、肺が過膨張する。その結果、患者によっては急性肺傷害が発生する可能性がある。ARDSネットワークの研究および多数の動物実験では、すでに傷害されている肺であれ、健康な肺であれ、高一回換気量および周期的な無気肺が悪影響を及ぼすことが明らかにされている。そして、酸素化だけを人工呼吸法を評価する際のエンドポイントするのは当を失しているという見解が示されている。OLV中の人工呼吸法によって招来される炎症反応や肺傷害についてのデータは、非常に数少ない。Wriggeらは、PEEPなし高一回換気量(12mL/kg)またはPEEP10cmH2O低一回換気量(6mL/kg)による人工呼吸を行い、手術3時間後に全身および肺の炎症性メディエイタを測定した。その結果、血漿または気管内採痰中のTNFα、IL-1、IL-6、IL-8、IL-10およびIL-12の量に有意差は認められないことが分かった。したがって、肺傷害が発生していない正常肺では、手術による炎症反応が、人工呼吸によって引き起こされる炎症反応を凌駕するものと考えられる。だが、すでに肺傷害があったり、長時間にわたりOLVを行ったりする場合は、高一回換気量で人工呼吸を行うと、臨床的にもはっきりと分かる肺傷害が引き起こされてもおかしくない。我々が行ったラットを用いた実験では、中等度の傷害を引き起こすような人工呼吸を行ったところ、正常群では明かな肺傷害は発生しなかったが、少量のエンドトキシンを投与した群では相当な肺傷害が生ずるという結果が得られた。最近行われた臨床研究では、食道亜全摘術に対するOLVを、PEEPなし高一回換気量(9mL/kg)またはPEEPあり低一回換気量(5mL/kg)で行ったところ、高一回換気量群の方がサイトカイン発現量と肺水分量が多かった。だが、開胸手術において肺に悪影響を及ぼす原因は、OLVだけではないことに留意すべきである。この研究の対象患者のうち半数は、手術に先立ち化学療法および放射線療法を受けており、手術時間は5時間におよび、食道亜全摘によってリンパ流が妨げられる、といった他の要素も勘案しなければならない。したがって、肺傷害があったり、手術が長時間に及んだりする場合には、PEEPなし高一回換気量で人工呼吸を行うと下側肺が傷害される可能性があるため、そのような状況ではPEEPをかけて低一回換気量で人工呼吸管理を行うのが望ましいと考えられる。

第二に、気道閉塞のある患者では、一回換気量が大きいと、設定された呼気時間では呼気終末に至っても吸気が最後まで呼出されず、内因性PEEPが発生することがある。内因性PEEPのレベルは、一回換気量、呼気時間、抵抗およびコンプライアンスで決定される。肺の手術を受ける患者の多くに、程度はともかく気道閉塞があり、OLV中に内因性PEEPが発生していることが分かっている。小さい内因性PEEPであれば、特に問題はなく、むしろ肺胞を開き無気肺を防ぐのに役立つ。内因性PEEPが大きいと、肺が過膨張するおそれがあり、換気側肺の血流が低下し酸素化が悪くなる可能性がある。

WriggeらはPEEPなし高一回換気量とPEEPあり低一回換気量を比較し、術中の酸素化に有意差はないことを明らかにした。OLV中に一回換気量を8mL/kgから15mL/kgまで増やして酸素化について調べた先行研究でも、有意差は認められていない。つまり、OLV中に高一回換気量にすると、PEEPをかけて中~低一回換気量で換気をする場合と比べ、酸素化は良くならないのに、肺傷害が発生する可能性が生ずると結論づけられる。

低一回換気量では肺の過膨脹は起こりがたいが、一回換気量が少ないと、特に吸入気酸素分圧が高いときは、無気肺が生じやすく、そのため酸素化が悪化する可能性がある。したがって、低一回換気量にするときは、無気肺を防ぐためPEEPをかける必要がある。しかし、様々な状況において、どれぐらいのPEEPをかければOLV中の酸素化が改善するのかという問題については、いろいろな意見のあるところである。最近の研究では、OLV中に低~中程度のPEEP(約4-5cmH2O)をかけると酸素化が改善する一方で、8-10cmH2OまでPEEPを挙げるとそれ以上の改善は得られず、むしろ患者によっては酸素化が悪化する場合もある、と報告されている。PEEPは酸素化改善の万能策ではなく、患者によっては無効であることを示した研究も発表されている。OLV中にPEEPを、0、5、8または10cmH2Oに設定したところ、酸素化に差は生じなかったという結果も報告されている。別の研究では、OLV中に酸素化不良に陥ったり、OLV前の両肺換気時に酸素化がすでに不良であったりする場合には、PEEPが有効であるとされている。人工呼吸器で設定したPEEPとauto-PEEPの相互作用の様態によって、設定したPEEPが肺のメカニクス、ひいては酸素化を改善するか否かが決まる。このことを裏付けるような研究がValenzaらによって行われ、一秒量が大きい患者、つまりauto-PEEPが生じがたい患者では、一秒量が少ない患者よりもPEEPの効果を得やすいという結果が得られている。Slingerらが行った最近の研究では、呼気終末圧(=設定したPEEP+auto-PEEP)が圧容量曲線上のLIP(lower inflection point)の圧に近似するようにPEEPをかけた場合には、酸素化が改善することが示されている。以上の知見から、ひどい無気肺がある場合にはPEEPをかけると酸素化が改善するが、PEEPをかけなくても呼気終末圧で十分肺胞が開存しているのであれば、PEEPをかける必要はないということが分かる。また、内因性PEEPは肺自体が持つメカニクス特性だけで生ずるわけではなく、換気方式にも影響されるということを銘記しなければならない。つまり、PEEPをかけている時には、人工呼吸器設定が内因性PEEPを惹起していないかどうかを考える必要がある、ということである。内因性PEEPを臨床的に評価するには、流量時間曲線または圧容量曲線を見ればよい。どちらか一つは最近の麻酔器に搭載されている人工呼吸器のモニタ上に表示されるので、麻酔中でも簡単に確認できる。呼気が次の吸気によって中断されず、呼気流量が次の吸気が開始される前にゼロになっていれば、完全に呼出が行われていることを意味し、内因性PEEPが生じている可能性は非常に低い。呼気流量がゼロになる前に次の吸気が始まる場合は、たいていauto-PEEPが発生している。

OLV症例は呼吸生理が複雑で、背景疾患は患者によって大きく異なり、関連する研究が示す知見にもばらつきがある。そのため、換気側肺の無気肺を防ぎ、かつ血流を妨げないような、OLVに適した人工呼吸器設定(一回換気量、換気回数およびPEEP)の決定版を見いだすのは困難であり、未だにこの点については議論が繰り広げられ、研究も重ねられている最中である。この問題には多くの解決策があるのかもしれないが、それぞれ異なる方法で行われている諸研究の結果すべてを比較分析し総合した上で、エビデンスに依拠した臨床的に応用可能な対応策を導き出すのは容易ではない。ともかく、我々が現在採っている管理方法をここに紹介する:OLVは、PIP 20-25cmH2O、PEEP 5cmH2OのPCVで開始する(この設定だと、肺コンプライアンスや肺容量にもよるが、一回換気量は450-650mL[6-8mL/kg]になる)。左肺の場合は一回換気量が6-7mL/kg、右肺は7-8mL/kgになるようにPIPを調節する。PEEPは変えない。換気回数およびI:E比は呼気流量が概ねゼロになり、呼気終末に酸化炭素分圧が30-35mmHgとなるように設定する。この方法(PIP 30cmH2O、PEEP 5cmH2O)で人工呼吸を行い、動脈血酸素飽和度90%未満を低酸素血症と定義し臨床試験を行ったところ、FIO2>0.5における低酸素血症発生頻度はわずか4%であった。特筆すべきは、SpO2が91%を下回った患者は皆無であったことである。ただし、この研究では対象患者に偏りがあったので、本法を実際の個別具体的な症例に適用するときは、患者にあわせて調整する必要がある。

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OLV中の低酸素血症の予測・予防・治療~予防① [anesthesiology]

Hypoxemia during One-lung Ventilation: Prediction, Prevention, and Treatment

Anesthesiology 2009年6月号より

OLV中の低酸素血症の予防

術前肺機能の改善
術前に肺機能を改善すると、公表されているデータで明白にその効果が示されているわけではないとはいうものの、術後肺合併症の発生が減るだけでなく、OLV中の酸素化も改善されると考えて良い。術前に行う肺機能改善法には、理学療法および気管支拡張薬や気道粘液溶解薬などの薬物療法がある。

分離肺換気の監視
胸部手術の際に肺を分離しOLVを行うには、DLTを用いる。DLTを用いると、左右どちらの肺へも容易に気管支ファイバーを挿入することができる。出血や気道分泌物によるトラブルが生じた場合に、ファイバーを簡単に挿入することができることは大きな強みである。しかし、左用DLTも右用DLTも、正しい位置に留置できなかったり、はじめは正しく留置しても後でずれたりすることが少なくない。すると、酸素化が悪化したり、手術側の肺がちゃんと虚脱しなかったりすることがある(fig. 3)。はじめにDLTを留置するときだけでなく、体位変換や手術操作によりチューブがずれてしまう危険性があるため、術中も気管支ファイバーを用いてチューブの位置を確認する必要がある。DLT使用症例の12%ほどで、正しい位置にDLTが留置されなかったり、術中にずれたりすると言われている。右開胸の手術中に左用DLTが深くなってしまうと、低酸素血症に陥るおそれがある。この場合、左下葉または左上葉だけが気管支ルーメンで換気されるので、酸素化が可能な肺容量が少なすぎることになる(fig. 3BL)。反対に、気管ルーメンから換気をしている最中に左用DLTが適切な位置より浅くなってしまうと、換気がしっかりできなくなる。気管支ルーメンのカフが気管を一部閉塞するからである(fig. 3CL)。右用DLTの気管支ルーメンから換気をしているときにチューブの位置がずれると、右上葉が十分に換気されず、換気が行われる肺容量の減少とシャント率の上昇により低酸素血症に陥る可能性がある(fig. 3BR)。OLVを要した患者1170名を対象とした最近の遡及的研究では、35名(3%)に低酸素血症が認められた。その大半において、低酸素血症に対処するためチューブ位置を是正しなければならなかった。DLTの扱いはそもそも難しいのだが、適切に監視し、正しく固定をすれば低酸素血症の発生を防ぐことができるだろう。気管支ファイバーによるDLTの位置確認は、挿管後だけでなく体位変換後にも行うべきである。最適位置から1cm以上浅くなったり深くなったりすると、臨床的に問題が生じ、位置を補正しなければならなくなるとされている。気管支ファイバーで確認した時点における所見を踏まえると、わずか1cmのずれで気管支が閉塞したり、手術側肺の虚脱がうまくいかなくなったりするとは考えがたいかもしれないが、手術操作によって完全にずれて低酸素血症が引き起こされることがあるので注意が必要である。したがって、気管支ファイバーでDLTの位置を観察するときは毎回、Kleinらが提唱した方法にしたがってDLTを最適位置に調整しなければならないのである。

教訓 DLT使用症例の12%で、正しい位置にDLTが留置されなかったり、術中にずれたりすると言われています。
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OLV中の低酸素血症の予測・予防・治療~予測 [anesthesiology]

Hypoxemia during One-lung Ventilation: Prediction, Prevention, and Treatment

Anesthesiology 2009年6月号より

肺、食道、大動脈や縦隔などの様々な胸部手術に、片肺換気(OLV)は欠かせない。OLVは必ずしも全ての胸部手術に必須というわけではないが、OLVを行えばほぼ確実に、手術部位への到達が容易になり、手術を円滑に進行させることができる。このような利点があるとともに、麻酔科医がダブルルーメンチューブ(DLTs)の留置および使用に熟達してきたこともあり、現在では、肺の手術および肺を虚脱することによって術野への到達しやすくなる手術など、大半の胸部手術でOLVが行われている。

OLV中には、片方の肺だけしか換気されず、血流は両肺ともにある状態になる。虚脱し換気されない方の肺にも血流があるため、肺内シャントが生ずる。その結果、酸素化が障害され、時には低酸素血症が起こる。最近の研究では、FIO2>0.5でOLVを行った患者の4%に低酸素血症(SaO2<90%)が認められたという結果が報告されている。他の研究でも、OLV実施例の5-10%に低酸素血症が認められるとされている。OLV中の低酸素血症は、患者の安全を脅かす可能性があるとともに、麻酔科医と外科医にとっては克服すべき問題である。したがって、OLV中の低酸素血症を予測し、もし可能であれば予防し、迅速に対処することは重要な課題である。

OLV中の低酸素血症の予測

OLV中の酸素化にはたくさんの条件が関与しているので、酸素化低下の予測には、こういった条件の検討が役立つ。しかし、それだけでは個別の患者がOLV中に低酸素血症になるかどうかを正確に予測することはできないことを、念頭に置かなければならない。

手術側
右肺は左肺より大きいので、左開胸手術の方が右開胸よりもOLV中の酸素化が良い。FIO2 1.0で換気を行う場合、左開胸手術のOLV中の平均PaO2は約280mmHg、右開胸手術のOLV中の平均PaO2は約170mmHgであることが示されている。Slingerらは、回帰分析を行い、手術側がOLV中の低酸素血症の重要な予測因子の一つであることを明らかにした。

呼吸機能の異常
呼吸機能の異常は、OLV中の低酸素血症の原因となり得るが、呼吸機能の指標の全てが信頼に足るOLV中低酸素血症の予測因子であるというわけではない。むしろ、明らかに矛盾した相関があることを示した研究があるぐらいである。たとえば、肺機能検査における気道閉塞の指標の中には、OLV中の酸素化と逆相関するものがある。つまり、閉塞がひどいほどOLV中に低酸素血症に陥り難い、という研究結果が得られているのである。Slingerらは、遡及的研究および前向き研究を行い、一秒率が小さいほどOLV中の酸素化が良好であることを示した。このような腑に落ちない相関が生ずるのは、OLV中の換気側肺にair trappingが起こり内因性PEEP (auto PEEP)が生じて、換気側肺に無気肺が発生しにくくなり酸素化が保たれることが一因であると考えられる。また、非換気側肺にair trappingが起こることによっても、OLV開始から酸素飽和度が低下し始めるまでの時間が延長する。しかし、別の研究では、OLV中におけるauto PEEPの程度と酸素化の間には何ら相関は認められておらず、また、最近行われた研究でも、術前に測定した気管支閉塞の程度(一秒率)とOLV中の酸素化の間に有意な相関があるという結果は得られなかった。

術前に行われる肺機能の指標となる汎用検査に、動脈血ガス分析がある。術前検査またはOLV開始前の両肺換気中に行った動脈血ガス分析で動脈血酸素分圧が低下している場合、呼吸機能が異常であることが疑われ、OLV中に低酸素血症に陥る可能性が高いことを予測することができる。Slingerらは、自発呼吸中のPaO2がOLV中のPaO2と強い正の相関を示すことを明らかにし、さらに、両肺換気中のPaO2は、自発呼吸中のPaO2よりも一層精度の高い指標であることも報告している。

血流分布
両肺の血流分布も重要な要素の一つである。肺の血流分布は術前に評価することができるので、これを参考にOLV中の低酸素血症を予測することが可能である(fig. 1A)。肺内シャントは心拍出量のうち酸素化されない血液量の割合を示し、非換気側肺の血流が少ないほど、そして換気側肺の血流が多いほど、OLV中のPaO2が高い。胸部大手術の症例では、術前に肺血流シンチが行われていることが少なくない。麻酔科医はシンチの結果を考慮に入れて麻酔管理を行うべきである。

肺血流シンチを行っていない場合には、臨床像から非換気側肺の血流の程度をある程度推測することができる。例えば、中枢部に大きな腫瘍がある症例では末梢側の小さい腫瘍と比べ、手術側(非換気側)肺への血流が少ないと考えられる。腫瘍が大きい場合は、部位が中枢に近ければ特に、肺葉切除や片肺全摘が行われるのが普通である。末梢にできた小さい腫瘍(転移性肺腫瘍など)の場合は楔状切除が行われることが多い。開胸または内視鏡下での転移性肺腫瘍手術におけるOLVと比べ、肺葉切除や片肺全摘手術におけるOLV中の方が酸素化が良いことが明らかにされている(fig. 1B)。肺血流シンチを行うと、肺葉切除や片肺全摘を受ける患者の方が、転移性肺腫瘍の患者よりも、非換気側肺の血流が悪いことが分かっている。

OLV中の換気側および非換気側肺の血流には、重力も影響する。仰臥位では、両肺に同じように重力が作用する。だが、側臥位では下位にあたる換気側肺に血流が多く分布し、上位の非換気側肺の方が血流が少なくなる。非換気側肺の血流が増えるほど酸素化は悪化するので、OLV中は仰臥位よりも側臥位の方が酸素化には有利であると考えられる(fig. 2)。COPD患者を対象とした研究では、FIO2 1.0でOLVを15分間行ったときのPaO2は、仰臥位では301 (215-422)mmHg、側臥位では486 (288-563)mmHgであった。この研究でPaO2が比較的高い値に保たれているのは、対象がCOPD症例であったため非換気側肺が十分に虚脱しなかったからであると考えられる。

OLV中の低酸素血症を予測するのは、麻酔科医のみならず外科医にとっても大切なことである。低酸素血症に対して講ずる対処法は、手術の進行を妨げるおそれがあるからである。術前から酸素化が不良で、両肺の血流分布が均等な患者が仰臥位で開胸手術を受ける場合は、術中に低酸素血症に陥る可能性が非常に高く、この点につき事前に外科医と打ち合わせをしておくとよい。患者および術式についての情報をすべて総合して検討することによって、一人一人の患者に適した手術および麻酔を実現することができる。

教訓 一秒率が小さいほどOLV中の酸素化が良好であるという報告があります。OLV中の換気側肺にair trappingが起こりauto PEEPが生じて、換気側肺に無気肺が発生しにくくなり酸素化が保たれることが一因であると考えられます。ただし、一秒率とOLV中の酸素化の間に有意な相関は認められないという報告もあります。

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