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冬休み [misc]

我が麻酔科は小所帯です。今年も一年、四人で諸事万事つつがなく切り抜けることができました。これも天佑のたまもの、重畳重畳、と思っていた矢先、当直明けのボスと本日ICU当番の部下の合わせて二名が、悪心・嘔吐、全身倦怠感、節々の痛み、というまったく同じ諸症状を訴え、今朝からずっと倒れ込んでいます。日頃からの仲の良さが偲ばれるようなcoincidence&synchronicityです。今日は、残されたK先生と私とで「兵站無クシテ勝利ナシ」の精神で、優雅に過ごすつもりです。

今日から当ブログは、しばらく冬休みにします。皆さん、清々しい新年をお迎えください。

それでは、ごきげんよう。

happynewyear


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バルプロ酸ナトリウム中毒の治療 後編 [critical care]

Life-threatening sodium valproate overdose: A comparison of two approaches to treatment

Critical Care Medicine 2009年12月号より

考察

ここに紹介した同年代の若年女性患者2名は、等量のバルプロ酸ナトリウムを大量内服した結果、VPAとアンモニアの血中濃度が同程度に上昇し危機的状況に陥った。しかし、指導医の選好傾向の違いにより、一人には当初は対症療法が行われ、もう一人には血液透析を直ちに導入し、引き続いてHDFを行い後にさらに血液透析をもう一度実施した。報告した2名の患者の臨床経過および生化学的指標の変化は、驚くほど異なっていた。この2症例の経過は、治療方針の選択が致死的VPA中毒の経過に与える影響について、比類ない臨床上の示唆を与えてくれる。

VPA過量服用の発生頻度は、この2、3年のあいだに着実に増えている。その背景には、VPAの処方量の増加がある。重症VPA過量服用では、中枢神経抑制、高アンモニア血症、脳浮腫、昏睡、死亡などが起こりうる。高アンモニア血症は、カルバミルリン酸合成酵素Ⅰ(尿素回路の最初に作用する酵素)の阻害や、または、アンモニア産生量増加により腎臓におけるグルタミン取り込み量が増え脂肪酸の酸化が阻害されケトン体(アンモニア合成の主な阻害物質)の生成が減ることによって発生する。増えたアンモニアはαケトグルタル酸と結合するので、体内のαケトグルタル酸が減る。すると、ATP産生量が減り、グルタミン酸が増える。余分なグルタミン酸とアンモニアは星状細胞に取り込まれ、アミド化されてグルタミンができる。このようにして細胞内のグルタミン濃度が上昇する。また、高アンモニア血症では、グルタミナーゼが阻害される。グルタミナーゼは、グルタミンの分解に必要な酵素である。したがって、グルタミナーゼが阻害されることにより、星状細胞内のグルタミンは一層増えることになる。このように細胞内にグルタミンが蓄積すると、細胞内浸透圧が上昇し、星状細胞へ水分が移動し脳浮腫が起こる。以上を念頭に、循環血液中からVPAを除去するのに加え、有効浸透圧の低下を極力防ぎ、脳浮腫を軽減するため、我々は高張食塩水を投与し、患者を意図的に高ナトリウム血症にした(Fig. 3)。

カルニチンには、脂肪酸の酸化を促進することによってアンモニア濃度を下げる作用がある。VPA過量服用時に、カルニチンの内服が有効である可能性があると言われている。VPA中毒による肝毒性、傾眠、昏睡の治療法を検討した非対照研究で、カルニチン内服の有効性が指摘されている。我々が経験した2症例でも、カルニチンを経口投与した。

バルプロ酸は、経口投与後速やかに吸収されるので、VPA過量服用にあたり、消化管洗浄が可能な時間はごく短い。今回の2症例でも、血漿VPA濃度が急速かつ大幅に上昇した。つまり、代謝や排泄が追いつかないぐらいの早さで吸収されるということである。したがって、過量服用後間もなく測定したVPA濃度からは、最高血中濃度を推定するのは困難である。治療方針は、血中濃度に基づいて考えるのではなく、総服用量によって決めるのが適切で、服用後早期には頻繁にVPAおよびアンモニア濃度を測定するのが望ましい。

VPAは通常はタンパクに結合し、一次反応速度式に従って除去される。しかし、VPAを過量服用したときにはタンパク結合部位が飽和するので、薬物動態は通常とは異なる。約150mcg/mLでは、VPAの54%-70%がタンパクに結合している。300mcg/mL以上だと、タンパクに結合するのはわずか35%に止まる。3000mcg/mLを超えると、タンパク結合率は10%未満であると考えられる。こうなると、VPAの大半が血液透析で除去できるであろう。分布容積が小さく一次反応速度式に従う分子量500Da未満の水溶性毒素であれば、血液透析で除去することができる。つまりVPA過量服用の場合は、血液透析がよい選択であるということである。ここに紹介した2症例は、VPA過量服用に対する血液透析の有効性をはっきりと示している。症例1のVPA服用48時間後のVPA濃度は2524μmol/L、アンモニア濃度は390μmol/Lと高値に止まっていた。一方、症例2では血液透析を6時間実施した時点で、VPA濃度は1099μmol/Lまで低下し、38時間以内に治療域レベルに落ち着いた。同様に、アンモニア濃度は6時間透析終了時には66μmol/Lに低下し、38時間後には正常範囲内になっていた。

我々はVPAの排泄を最大化するために血液透析を行うことにした。タンパク結合率を30%とすると、VPAの予測クリアランスはおよそ140mL/minである。透析は6時間実施した。夜間は4L/hrのCVVHDFに切り替え、約60mL/minの小分子クリアランスを持続的に確保した。リチウムのような小分子毒素では、透析終了後の標的毒素血中濃度の再上昇が報告されている。同じようにVPAやアンモニアの血漿濃度が再上昇するのを避けるため、持続的血液浄化を行ったのである。朝になって、血液透析を再開し9時間後に終了した。その時点のVPAおよびアンモニア濃度はいずれも正常範囲内であった。血中アンモニア濃度が低下したのは、透析でVPAが除去されたため、VPAによる尿素回路阻害作用が軽減されたことが一役買っていると考えられる。しかし、血液透析によるアンモニアのクリアランスは高いという点も強調したい。血中アンモニア濃度の低下には透析による除去も貢献したであろう。VPA過量服用患者に対して透析を長時間行うと、このように血液浄化のメリットをより一層活かすことができることからも、早期に透析を開始することが妥当であることが窺われるし、血液吸着のような複雑な方法は必要ないと言えよう。

まとめ

等量のVPA過量服用後に、異なる臨床経過と生化学的変化を呈した2症例を報告した。一名には対症療法のみを行ったが、バルプロ酸およびアンモニアの血中濃度が高いまま推移し、重度の脳浮腫、痙攣および昏睡が続き、ICU入室72時間後に血液濾過を開始したところようやく改善しはじめた。もう一名にはICU入室後直ちに血液透析を行い、引き続き持続的血液濾過を行った。臨床的に明らかな合併症は認められなかった。この患者のICU在室日数は3日であったが、1例目の患者は11日在室した。この類を見ない二症例の経過から、重症バルプロ酸ナトリウム過量服用患者に対しては早期に強力な血液浄化を行うべきであると考えられる。

教訓 重症デパケン中毒には、すぐに血液浄化。治療方針は、血中濃度ではなく総服用量によって決めるのが適切で、服用後早期には頻繁にVPAおよびアンモニア濃度を測定しなければなりません。
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バルプロ酸ナトリウム中毒の治療 前編 [critical care]

Life-threatening sodium valproate overdose: A comparison of two approaches to treatment

Critical Care Medicine 2009年12月号より

バルプロ酸ナトリウム(VPA; デパケンⓇ)は分子量144Daの分岐鎖カルボン酸であり、てんかんや双極性障害の治療、偏頭痛の予防に用いられる。経口投与すると速やかに吸収され、1~4時間で最高血中濃度に達する。VPAは主に肝臓でグルクロン酸抱合、βおよびω酸化を経て代謝される。代謝産物は尿中に排泄される。血中濃度の治療域は50-100mcg/mLである。治療域では、一次反応速度式に従って排泄され、分布容積は小さく(0.1-0.5L/kg)、血漿半減期は6~16時間である。しかし、過量服用した場合には半減期は30時間以上に延長することがある。VPAの血中濃度が治療域を超えると、分布容積が増大し、単一コンパートメントの薬物動態モデルには従わなくなる。VPAは治療域では血漿タンパク結合率が高い。だが、タンパク結合率は濃度依存性であり、血中濃度が非常に高いとタンパク結合率は低下し、大半が遊離型となる。

VPA中毒の臨床像は昏迷や傾眠から重度の昏睡や死亡までと幅広い。中枢神経抑制に加え、VPAは脳浮腫、高アンモニア血症および肝障害を起こすことがある。致死的VPA中毒の治療法についての比較対照試験が今までに行われたことはない。先頃、我々の施設では、2例の致死的VPA過量服用症例を経験した。1名に対しては当初72時間は対症療法のみを行い、もう1名に対してはただちに長時間透析を行い、引き続いてCVVHDを実施した。この2症例の臨床経過と生化学的変化を眺めてみると、両名に対して行われた異なる二つの治療法の顛末がかけ離れていることが鮮やかに浮かび上がる。

症例報告

症例1
鬱病の既往のある26歳女性。VPAを16g内服しICUに入室。救急部到着時のGCSは10点であった。酸素6L/min吸入下における動脈血ガス分析は、pH 7.38、PaO2 157mmHg、PaCO2 39mmHg、HCO3 22mmol/L、BE -2mEq/Lであった。血中乳酸濃度は2.6mmol/Lであった。血圧111/43mmHg、心拍数109bpm、体温37.2℃、呼吸数20回/分であった。生化学検査では、血清カリウム濃度3.3mmol/L、アルブミン24g/L、ALT 53U/Lであった。その他の腎機能、肝機能の指標は正常であった。血算は概ね正常であったが、単球数がやや上昇していた。蛍光偏光免疫法(Abbott Laboratories)で測定したICU入室時のVPA濃度は585μmol/Lであった。当初は気管挿管、人工呼吸、NGチューブからの活性炭・ラクチュロース・L-カルニチン投与、炭酸水素ナトリウム静注などの対症療法を行った。透析は実施しなかった。ICUでの生化学検査は正常範囲内であった。ICU入室から24時間までに、血漿VPA濃度が4170μmol/Lに達し、アンモニア濃度は880μmol/Lまで上昇した(Figs. 1&2)。ICU入室後第3日に至っても昏睡が続き、VPA濃度およびアンモニア濃度はそれぞれ2524μmol/L、390μmol/Lであった。脳浮腫の軽減を期待し、血清ナトリウム濃度は意図的に高めに維持したが(Fig. 3)、頭部CTでは中等度の脳浮腫が認められた。第3日に全身性強直性間代性痙攣発作が出現し、フェニトインとクロナゼパムを静注した。この発作時の血行動態には問題はなく、血液検査はすべて正常であった。この時点からCVVH(浄化量2L/hr)を開始し、17時間継続した。VPA濃度およびアンモニア濃度は、それぞれ824μmol/L、89μmol/Lまで低下した(Figs. 1&2)。その後7日間で徐々に回復が認められ人工呼吸器を離脱し、ICU入室11日後に一般病棟へ退室した。退室時のVPA濃度は25μmol/Lであった。

症例2
鬱病、てんかん、複数回にわたる自殺企図の既往のある28歳女性。VPAを16g内服し、ウォトカを服用(飲酒量不明)。1時間後に救急部受診。蛍光偏光免疫法(Abbott Laboratories)で測定したVPA濃度は3011μmol/Lであった。患者は平熱で血行動態は安定していた。血圧110/39mmHg、心拍数98bpm、呼吸数22回/分であった。動脈血ガス分析はpH 7.47、PaO2 62mmHg、PaCO2 28mmHg、HCO3 20mmol/L、BE -2mEq/Lであった。乳酸濃度は7.1mmol/Lであった。アニオンギャップは低下していたが(7mEq/L)、それ以外の腎機能、肝機能検査および電解質は正常であった。血算では、ヘモグロビンがやや低下し(112g/L)、白血球数上昇(13.9×10^9/L)、好中球増加(10.2×10^9/L)が認められた。肝機能、腎機能およびその他の血液検査はすべて正常であった。救急部受診時のGCSは15点であったが7時間後には3点まで低下していた。VPA濃度とアンモニア濃度を再測定したところ、それぞれ5555μmol/L、891μmol/Lであった。その他の血液検査はすべて正常範囲内であった。気管挿管し、ICUに入室させた。

ICU入室時、NGチューブからL-カルニチンと活性炭を投与し、GoLYTELY(PEG3350と電解質の配合剤;Schwartz Pharma, Monheim, Germany)を使用し消化管洗浄を行った。患者の状態は安定していたが、アシドーシスが認められた(pH 7.24、HCO3 15.5mmol/L、乳酸1056mmol/L)。炭酸水素ナトリウムを静注した(30分で100mmol)。血清ナトリウム濃度は145mmol/Lであった(Fig. 3)。

血液透析を開始した(透析器:Fresenius ArRt plus 4008s、フィルタ:AV 600S [PS膜])。大腿静脈に留置したダブルルーメンカテーテルを用いて透析を6時間実施した。血流量は200mL/min、ヘパリン投与量は10IU/kg/hrとした。

透析終了後、乳酸1.5mmol/L、VPA濃度1099μmol/L、アンモニア濃度66μmol/Lと低下が認められた(Figs. 1&2)。CVVHDFに切り替え、浄化量4L/hrで翌朝まで実施した。CVVHDFを中止し、上述したのと同じ設定で血液透析をさらに9時間行った。同日、人工呼吸器を離脱した。ICU入室後第3日にICUを退室した。退室時のVPA濃度は84μmol/L、アンモニア濃度は32μmol/Lであった。

教訓 VPA中毒により、脳浮腫、高アンモニア血症および肝障害が起こることがあります。致死的VPA過量服用の治療法はまだ確立されていません。
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術中低血圧と一年後死亡率~考察② [anesthesiology]

Intraoperative Hypotension and 1-Year Mortality after Noncardiac Surgery

Anesthesiology 2009年12月号より

第四の問題点は、健康な患者ほど非侵襲的に血圧が測定され、病んでいる患者ほど侵襲的血圧モニタリングが行われる傾向があることである。つまり、重症患者ほどIOHが検出されやすいというバイアスが生ずるのである。通常このような研究では低血圧の有無という二分法で論じられるのだが、重症例ほどIOHが検出されやすいというバイアスを最小限に食い止めるため、IOHの定義を閾値以下の血圧であった時間(分)とした。

不安を緩和する目的で術前に投与した鎮静薬が、基準時点の血圧に影響を及ぼしかねないため、術前評価外来で測定した血圧も基準血圧の算出に用いた。このため、鎮静薬による血圧低下作用の影響を小さくすることができた。さらに、IOHの定義として血圧の絶対値を用いた場合(絶対値を使用するときは基準時点の血圧や鎮静薬の影響を考慮する必要がない)の解析結果と、相対値を用いた場合の解析結果は同等であった。

問題点の最後に、死因が判明しなかった患者が存在したことが挙げられる(26名)。退院後に死亡した場合、住民登録システムを調べれば死亡日は分かる。しかし、死因はこのシステムでは分からない上に、かかりつけ医に問い合わせても死因が判明しない症例があった。理論的には、死因不明の患者26名は、IOHとは関係のない原因(例;交通事故)で死亡したものと考えてもよい。この26名を除外すれば、IOHが1年後死亡率に与える影響を、増やす方もしくは減らす方へと変化させる可能性があり、選択バイアスが生ずることになる。したがって、死因不明の26名は解析から除外しなかった。また、死因は死亡数を変えるわけではないので、IOHと全死因死亡率の相関には影響を与えることはない。

麻酔領域の文献で報告されているIOHの定義として一般的なのは、収縮期血圧80mmHg未満、平均血圧50-60mmHg未満または収縮期血圧か平均血圧の基準時点からの20-25%以上の低下である。確かに本研究でも、これぐらいの血圧低下があると、統計学的には有意ではなかったものの死亡ハザード比が上昇する傾向が認められた(fig. 2)。教科書では、収縮期血圧か平均血圧が基準値より20-25%以上低下することが低血圧の定義だが、基準時点の収縮期血圧または平均血圧から40%低下という、それよりはるかに大幅な低下があってはじめて死亡ハザード比が上昇する傾向が見られた。今のところ、IOHと1年後死亡率の相関について言及した研究は本論文の他にはMonkらによる一編しか発表されていない。それによると、収縮期血圧(5分間隔で測定)80mmHg未満の時間が1分延長するごとに非心臓大手術後1年以内死亡の相対危険度が3.6%ずつ増加すると報告されている(95%信頼区間0.6-6.6%)。驚くべきは、この研究では平均血圧55mmHg未満をIOHの定義とした場合についても検討されたのだが、この定義ではIOHと1年後死亡率のあいだに相関は認められていない。Monkらの得た結果と、本研究で示された結果が食い違うのは、対象患者が異なったからであろう(非心臓大手術 vs 一般外科および血管外科手術)。1年後死亡率については、Monkらと我々の結果は同等であったが(5.5% vs 5.2%)、30日後死亡率は本研究の方が高かった(1.3% vs 0.7%)。しかし、30日後死亡率のこの差は、分割表を用いた検定およびカイ二乗検定では有意ではないという結果が得られた(本研究:死亡23名、生存1682名、Monkらの研究:死亡7名、生存1057名;P=0.09)。とは言え、IOHによって術後1年以内の死亡率が上昇することを、統計学的に有意で臨床的にも意味のある差として示すのに必要な標本数が、本研究およびMonkらの研究における標本数より相当大きいことには変わりない。たとえば、低血圧持続時間が1分延長するごとに死亡の相対危険度が1%上昇することを明らかにすることに臨床的意義があると考えるとすると、必要な標本数はおよそ83000名である(死亡率5%、検出力0.80、危険率αを0.05とした場合)。低血圧持続時間が1分延長するごとに死亡の相対危険度が2%上昇することを明らかにするのであれば、必要な標本数は21000名に減る。多施設研究であってもこのように膨大な標本数を用意するのは、不可能ではないにしても容易ならざることであり、まずは症例対照研究を行うのが無難であろう。

まとめ

本研究では、IOHと1年後死亡率との因果関係を全体としては明らかにすることはできなかった。しかし、CART分析の結果から、高齢患者ではIOHと1年後死亡率の相関が、血圧閾値と低血圧持続時間によって決まることが明らかになった。つまり、血圧が低いほど、短い時間しか保たないということである。この結果は、IOHと有害転帰の相関を考える場合、閾値として設定する血圧が絶対血圧であろうが相対血圧であろうが、閾値そのものと同じように持続時間も重要であるという臨床知を裏付けるものである。さらに、患者および手術の特性、とりわけ年齢および術式も、IOHと有害転帰の関係に強い影響を与える。以上より、本研究では許容可能な最低術中血圧の単一値を特定することはできなかったし、IOHが周術期有害転帰に及ぼす影響についての議論に方向性を与えることはできなかった。しかし、この研究は、IOHと周術期有害転帰の相関を検討する際の新しい方法の紹介という役割を果たした。この方法は、日常臨床によく当てはまっていて、我々の臨床知をよりよく反映している。

教訓 この研究では、術中低血圧と1年後死亡率との因果関係は明らかにはなりませんでしたが、血圧閾値だけでなく低血圧持続時間も重要な要素であることが示されました。特に高齢者では、低血圧が長く続くと転帰が悪化するようです。
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術中低血圧と一年後死亡率~考察① [anesthesiology]

Intraoperative Hypotension and 1-Year Mortality after Noncardiac Surgery

Anesthesiology 2009年12月号より

考察

今回実施した観察研究では、術中低血圧持続時間と、一般外科または血管外科術後一年以内の死亡リスクの関連を検証した。解析には、広く用いられている複数のIOHの定義を用いた。術後一年以内に死亡した患者は、1705名中88名(5.2%)であった。

回帰分析を行ったところ、収縮期血圧80mmHg未満、平均血圧60mmHg未満、もしくは収縮期血圧か平均血圧が基準時点より40-45%低下の場合に、手術一年後の死亡リスクが高くなる傾向が認められた(fig. 2)。非常に高度の低血圧が認められた症例では、ハザード比が低下し1に近づいたり、さらには1を下回ったりするという予期せぬ結果が得られたが、これは非常に高度の低血圧に陥った患者の数が極めて少なかったことに起因するものと判断される。Figure 2に示したとおり信頼区間が広いことからも、これらの値が信頼性に欠けることが分かる。したがって、このような結果をもとに許容可能な低血圧閾値についての結論を得ることはできない。

CART分析では、IOHの平均血圧閾値を50~75mmHgに定義し、IOH持続時間をツリーの中に組み込んだ。この平均血圧閾値の範囲内では、閾値が低い(50mmHgに近い値を閾値として設定する)とIOH持続時間が短くても1年後死亡率が上昇することが分かった。一方、閾値がこの範囲内でも高い方に設定されていると、より長い時間の低血圧に耐えられることが明らかになった。この種の解析では、明るみに出ていない何らかの交絡因子が関与している可能性を排除できないため、因果関係を明らかにすることはできない。しかし、以上の結果から、高齢患者では、低血圧が高度になるにつれ、より短い時間しか許容できない、という広く共有されている臨床知が裏付けられるだろう。

本研究にはいくつかの制約がある。第一に、観察研究であったため交絡因子の調整が必要であったことが挙げられる。観測変数の調整には多変量回帰分析が適している。回帰モデルには、IOHおよび死亡率に関連するすべての変数を組み込んだ。さらに、本研究ではCART分析も行った。残念ながら、CART分析のような手法では、解析担当者が交絡因子を自由にツリーに組み入れることはできないし、交絡因子が残りやすい。とはいうものの、この方法は(交絡が問題とならないのであれば)、1年後死亡の予測因子を単純に表すのに大きな威力を発揮する。

第二に、多重検定の問題を考慮しなければならない。いくつもの血圧閾値と持続時間についてハザード比を算出した。単回の検定では、帰無仮説が誤って棄却される確率は、たいていの場合5%とされる。したがって、本研究に当てはめると、検定を平均20回繰り返すと、そのうち一回はIOHと死亡率に統計学的に有意な相関があるという誤った結果が得られるということになる。しかし、48通りのIOH定義のうち1年後死亡率との相関が認められたものは皆無であり、多重検定のために補正を行っても意味があるとは言えない。交絡因子のハザード比も、定義によって値が変化する。つまり、ハザード比、信頼区間およびP値の解釈にあたっては慎重を期さねばならないということである。信頼区間が広すぎて統計学的に有意な結果を導くことはできないが、以上の問題点を踏まえると、それでもまだ得られた信頼区間は狭すぎるのかもしれない。

第三の問題点は、鎮静時間である。Monkらは深い鎮静状態にあった時間が長いと1年後死亡率が上昇することを明らかにした。Lindholmらもこの相関を確認し、先頃報告した。したがって、深い鎮静状態であった時間の長さも交絡因子であると考えなければならない。しかし、本研究の対象患者ではBISモニターやエントロピーモジュールに代表されるような、麻酔深度に関する情報をもたらす脳波モニターのルーチーン使用は行わなかった。したがってその代わりに、プロポフォールについては効果部位濃度曲線の曲線下面積、吸入麻酔薬については吸気吸入麻酔薬濃度曲線の曲線下面積を算出し、麻酔深度の指標とした。吸入麻酔薬については、正しくは呼気終末吸入麻酔薬濃度を用いるべきであったが、麻酔記録保存システム上では吸気吸入麻酔薬濃度しか記録されていなかった。このことが有意なバイアスを生じたとは考えられない。イソフルランやセボフルランのような現代の吸入麻酔薬は、吸気濃度と濃き濃度は速やかに平衡するからである。さらに、低血圧を呈した患者では、低血圧を来さなかった患者と比べ、吸入麻酔薬総使用量が有意に多かったが(table 1)、プロポフォールではこのような差は認められなかった。即ち、吸入麻酔薬投与量が偶発的に多すぎてしまい、低血圧を起こしたのではないかと考えられる。このように観察研究では、交絡因子が患者群によって異なることがあるが、たいていは偶発的に生ずる違いに過ぎない。この差については、多変量解析の際に調整した。

教訓 低血圧が高度であるほど、持続時間が短くても、一年後死亡率が上昇します。
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術中低血圧と一年後死亡率~結果 [anesthesiology]

Intraoperative Hypotension and 1-Year Mortality after Noncardiac Surgery

Anesthesiology 2009年12月号より

結果

条件に合致する一般外科もしくは血管外科患者1705名のコホートを得た。9名(0.5%)については追跡調査を行うことができなかった。人口統計学的データおよび手術に関する患者特性をtable 1にまとめた。術後一年以内の死亡率は5.2% (88名)であった。死因の大半(22%)は癌であった(table 2)。

IOHが認められた患者および認められなかった患者のKaplan-Meier曲線をFigure 1に示した。ここに示したのはIOHの閾値を収縮期血圧100、90、80および70mmHgとし、最短持続時間1分とした場合のそれぞれのKaplan-Meier曲線である。IOHの閾値が低下するほど、IOHがあった患者となかった患者の曲線の開きが大きい。ログランク検定では、四つの閾値のいずれであっても一年後死亡率に有意差が認められた(P値はそれぞれ、0.05、0.001、<0.001、<0.001)。

比例ハザード性および線型性の仮定には問題はなかった。したがってCox比例ハザード解析を行い、連続変数はすべて線型モデルとして扱った。IOH持続時間(収縮期血圧80mmHg未満が少なくとも1分間持続)についての未調整ハザード比は1.013 (95%CI, 1.007-1.019; table 3)であった。すべての交絡因子について調整すると、IOH持続時間は転帰に有意な影響を与えないことが明らかになった(ハザード比1.00; 95%CI, 0.989-1.011; table 3)。この条件(収縮期血圧80mmHg未満が少なくとも1分間持続)でIOHを定義すると、年齢(ハザード比1.042; 95%CI, 1.02.-1.061)、ASA PS (P<0.05)、高血圧の既往(ハザード比2.406; 95%CI, 1.407-4.112)および手術時間(ハザード比1.008; 95%CI, 1.004-1.012)が一年後死亡率と相関していた。セボフルラン総使用量のハザード比は0.998であった(95%CI, 0.995-1.000)。統計学的に有意な交互作用は認められなかった。以上の結果については、多重検定における有意水準の補正は行わなかった。

その他のIOH閾値および三通りの最短持続時間についての解析結果をTable 4に示した。48個の調整ハザード比のうち、統計学的に有意であったものは皆無であった。したがって、多重検定における有意水準の補正は不要と判断した。ハザード比を低血圧閾値の関数としてグラフ化するため、三通りの最短持続時間それぞれにつき、低血圧閾値をもっと広くとったときの一年後死亡率とIOHの相関を求めた。収縮期血圧80mmHg未満もしくは平均血圧60mmHg未満に低下、あるいは、収縮期血圧もしくは平均血圧が基準値から40-45%低下すると、一般外科および血管外科手術後一年以内の死亡リスクは、有意ではないものの上昇する傾向が認められた(fig. 2)。

CART(分類および回帰ツリー)分析では、46歳以上の患者で平均血圧が50-75mmHg未満に低下した場合の低血圧持続時間について患者が分類されている。二つのツリーをfigure 3に示す。この二つのツリーでは、平均血圧50mmHg未満もしくは60mmHg未満が1分間以上つづいた場合を低血圧と定義している。平均血圧60mmHg未満を血圧閾値とした場合、持続時間のカットオフ値は30分であるが、50mmHg未満を閾値としたときの持続時間カットオフ値はわずか5分であった。したがって、平均血圧閾値が低いほど、分類及び回帰ツリーにおけるIOH持続時間は短かった(table 5)。収縮期血圧からIOHを定義した場合のCART分析では、あまり明瞭な結果は得られなかった。IOHの閾値を収縮期血圧70mmHg未満と定義したツリーでは、持続時間3分以上と未満で患者が分類された。IOHの閾値を収縮期血圧95mmHg未満と定義したツリーでは、持続時間104分以上と未満で患者が分類された。収縮期血圧の閾値が70~95mmHgのいずれかの場合についてはCART分析の対象とはしなかった。

教訓 術中低血圧持続時間は転帰に有意な影響を与えないことが明らかになりました。
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術中低血圧と一年後死亡率~方法② [anesthesiology]

Intraoperative Hypotension and 1-Year Mortality after Noncardiac Surgery

Anesthesiology 2009年12月号より

術中低血圧
術中低血圧の定義は、血圧が前もって設定した閾値をある時間下回ることとした。過去に発表されたレビューで取り上げられた文献で広く用いられている閾値を採用した。収縮期血圧の閾値を四つ(100、90、80、70mmHg)、平均血圧の閾値を四つ(70、60、50、40mmHg)、基準時点の収縮期および平均血圧との比較による閾値を四つ(基準値より10、20、30、40%低下)、あわせて16通りの閾値を設定した。以上の閾値を下回る血圧が、一定時間(つまり最短時間)以上継続した場合をIOH発生とした。一定時間とは、1分間、5分間もしくは10分間のいずれかである。全部合わせると48通りのIOH定義について検討したというわけである。一人一人の患者について、以上48通りの定義に従い、IOH持続時間を算出した。つまり、本研究ではIOHを、決められた最短時間よりも長く閾値を下回る血圧が続いた時間(分)の連続変数としてあらわした。

転帰
術後一年以内の全死因死亡率を調べた。手術日から起算した死亡までの時間(日数)を求め、365日を打ち切り観測値とした。追跡調査から漏れた患者については、最終受診日までで追跡を打ち切った。死亡データについては、病院情報システムの利用およびかかりつけ医からの聞き取りによって収集した。

交絡因子の候補
交絡因子となる可能性のある因子について調整し、IOHと一年後死亡率との相関を求めた。年齢、性別、BMI、喫煙、基礎疾患、術式、手術時間および麻酔薬総使用量を、交絡因子となる可能性のある因子と考えた。喫煙については、過去からの総喫煙量や現在の一日喫煙量と無関係に、吸うか、吸わないかで分類した。基礎疾患については、ASA PSおよび心疾患・高血圧・糖尿病・脳血管障害の既往の有無を取り上げた。術式は、血管手術、一般外科大手術(開腹手術)、一般外科小手術(体表面または低侵襲手術)のいずれかに分類した。麻酔薬使用量は、吸入麻酔薬および静脈麻酔薬の投与量とした。吸入麻酔薬(セボフルランまたはイソフルラン)の使用量は、吸気吸入麻酔薬濃度曲線の曲線下面積から算出した。静脈麻酔薬(プロポフォール)の使用量は、予測効果部位濃度曲線の曲線下面積から算出した。効果部位濃度の予測には、Marshモデルを用い、効果部位時定数(ke0)は0.291とした。

統計
はじめにIOHの定義を、収縮期血圧80mmHg未満(閾値)が少なくとも1分間(持続時間)続いたとき、として、IOH有りの患者となしの患者について未調整Kaplan-Meier曲線を作成した。ログランク検定を行いKaplan-Meier曲線間の有意差の有無を確かめた。IOH持続時間についてのハザード比を、Coxの比例ハザード回帰分析で求めた。IOH持続時間と一年後死亡率の相関を、年齢、性別およびその他前述した交絡因子候補で調整して評価した。交絡因子候補とIOHの有無に相関があれば、その因子を交絡因子と決定した。患者が健康であるほど、重度の基礎疾患を有する患者よりも高度の低血圧に耐えうると考えた。患者の背景因子が影響を及ぼす可能性を考慮に入れ、IOHと患者の背景因子との相互作用について検討した。連続変数(IOH持続時間、年齢、手術時間および麻酔薬使用量)については、三次元制限スパイン図を用いて非線型性の検定を行った。Schoenfeld残差プロットにより比例ハザードの仮定の検定を行った。以上の解析過程を、他の15通りのIOH閾値について繰り返した。最終的に以上16通りの解析を、他の最短持続時間である5分間と10分間についても行い、合計48通り(16×3)の解析を実施した。

背景因子の不均一性については、分類および回帰ツリー(classification and regression tree; CART)分析による評価も行った。CART分析は、ノンパラメトリック検定の一手法であり、特定の予測変数について相反する二群を設定し、患者をその条件によってどちらかの群に割り当てていく方法である。CART分析では各変数につき、患者をもっともうまく分別できると考えられるカットオフ値(本研究の場合は、一年後に死亡する群としない群とをきれいに分けることができると考えられる値)を予め設定する。この方法によって、一年後死亡リスクが最も高くなるIOH持続時間がどれぐらいであるかを見積もることができる。さらに、CART分析には、回帰分析よりも融通がきき、根底にある数学的関連性について考慮する必要がないという利点がある。また、従来法では検出されないおそれのある交互作用を、CART分析では見つけることができる可能性もある。

Cox比例ハザードモデルで選択された変数は全てCART分析でも用いられた。各ノードにおけるハザード比を算出するため、各ノードの条件によってコホートをグループに分け、それぞれのグループについてCox比例ハザードモデルに基づき解析を行った。

教訓 血圧閾値と持続時間の組合せによって定義された48通りのIOHについて、転帰との関係を調べました。
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術中低血圧と一年後死亡率~方法① [anesthesiology]

Intraoperative Hypotension and 1-Year Mortality after Noncardiac Surgery

Anesthesiology 2009年12月号より

近年、術中低血圧(intraoperative hypotension; IOH)が発生すると、非心臓手術後の転帰が悪化するにではないか、と取り沙汰されている。転帰悪化としては、具体的には、心筋梗塞、脳血管障害、肝または腎移植後の移植片機能遅延の発生、そしてさらには一年後死亡率の上昇などが挙げられている。しかし、最近の麻酔関連文献において使用されているIOHの定義の数はおよそ50種にもおよび、実際の患者データに異なる色々な定義を当てはめると、IOHの発生率には大きなばらつきが生じてしまう。言うまでもなく、このように発生率にばらつきがあれば、IOHと転帰悪化の関連を評価する際に支障を来す。IOHによる転帰悪化が認められないという結論に至った研究が複数存在するが、このことを踏まえれば驚くには値しない。近時行われたメタ分析でも、整形外科手術においては「中等度」の低血圧によって、出血量や輸血量が減り転帰が改善するという結果が示されたぐらいである。

個別具体的な患者がどれぐらい低血圧に耐えうるのかは、手術適応、年齢および基礎疾患などの要素によって左右される。患者の耐えうるレベルを下回るほどの低血圧が相当時間続けば、臓器血流は不足する。そうすれば、終末臓器の障害や、ひいては死亡という結果に陥りかねない。だが、どれぐらいの程度が、「低すぎ」たり、「長すぎ」たりするのかは正確なところは分かっていない。

我々は、IOHと一年後全死因死亡率とのあいだの相関は、IOHを定義づける閾値および持続時間の選択によって変化するという仮説を立てた。この仮説を検証するに当たり、一般外科および血管外科手術を受けた患者コホートを対象に、広く用いられているIOHの定義(異なるいろいろな閾値および最短持続時間を設定)と一年後死亡率との関連を調べた。

方法

研究設計
本研究はコホート観察研究である。過去に行われた前向き研究(the Outpatient Preoperative Evaluation by Nurses study)のコホートから患者を選択した。手短に述べると、一般外科または血管外科手術を予定されユトレヒト大学医療センター(オランダ)の術前評価外来を2002年2月から2003年2月のあいだに受診した成人患者全員を本研究の対象とした。2002年2月から2003年8月までの期間に全身麻酔、脊髄クモ膜下麻酔、硬膜外麻酔もしくは硬膜外麻酔併用全身麻酔下に予定された手術が行われた。

データ収集
術前データは術前評価外来で収集された。データの内容は、人口統計学的データ、既往歴、理学的所見およびASA PSである。術中データは、電子麻酔記録保存システムから得た。電子麻酔記録保存システムは、麻酔器およびモニターから人工呼吸器設定、血圧、心拍数および酸素飽和度の毎分のデータを自動的に取得し、麻酔中の薬剤投与内容、挿管時刻および輸液などについては手動で入力するシステムである。非観血的血圧は通常5分ごとに測定した。観血的血圧測定も行った場合は、本研究の解析には観血的血圧のみのデータを用いた。血圧データは麻酔記録保存システムから、専用のプログラム(LabView8; National Instruments Corporation, Austin, TX)を用いて取得した。このプログラムは、各患者の背景データと、麻酔記録保存システムに記録された全血圧データの取込みに使用した。基準時点の血圧は、術前評価外来で測定した血圧と麻酔導入までに手術室で測定した全血圧の平均値とした。麻酔導入開始時刻は手動で電子麻酔記録に入力することになっていたので、麻酔導入後や挿管終了後が、導入開始時刻として記録されていることが珍しくなかった。そのため、電子麻酔記録上の麻酔導入開始時刻はあまり正確ではないと考えた。そこで、麻酔導入開始時刻の定義を、過去に行われた研究で採用された方法と同様に、麻酔導入薬を投与した時刻か、呼気二酸化炭素波形が連続的に出現する3分前か、どちらか早い方とした。脊髄クモ膜下麻酔もしくは硬膜外麻酔で手術が行われた症例では、穿刺時刻を導入開始時刻とした。

教訓 どの程度の低血圧がどれぐらいの時間続くと一年後死亡率が低下するかを調べてみました。
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2009年を振り返って⑤ [anesthesiology]

2009 in Review: Advancing Medicine in Anesthesiology

Anesthesiology 2009年12月号より

Cohen SP, Bogduk N, Dragovich A, Buckenmaier CC, Griffith S, Kurihara C, Raymond J, Richter PJ, Williams N, Yaksh TL: Randomized, double-blind, placebo-controlled, dose-response, and preclinical safety study of transforaminal epidural etanercept for the treatment of sciatica. Anesthesiology 2009; 110:1116-26
麻酔科医は、椎間板ヘルニアによる神経根症状のある患者の疼痛をどうにかしてほしいという依頼を受けることがよくある。坐骨神経痛に対し短期的な疼痛緩和を得る目的で、長年にわたり硬膜外ステロイド注入が行われてきた。最近の研究では、ヘルニアを起こした椎間板組織が産生するTNFが、神経根痛や椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛を引き起こすことが示唆されている。

関節リウマチや乾癬性関節炎などの様々な炎症性疾患の治療薬として、TNF阻害薬が開発されている。Cohenらは、椎間板ヘルニアによる神経根痛や坐骨神経痛の治療に、TNF阻害薬の硬膜外注入が有用であり、硬膜外ステロイド注入に取って代わる可能性を示した。本研究では、抗TNF薬エタネルセプト(エンブレルⓇ)の安全性を確認するため、神経毒性の有無が検討された。ビーグル犬の硬膜外腔にエタネルセプトを投与したが、神経毒性を示す臨床徴候は認められなかった。病理組織学的所見でも、エタネルセプトの硬膜外投与による神経毒性は見られなかった。

次にヒトにおける安全性を評価するため、神経根症状のある患者の硬膜外腔にエタネルセプトが投与された。そして臨床評価および画像評価を行い、神経毒性がないことが明らかになった。本研究で安全性が確認されたので、椎間板ヘルニアによる神経根症状に対する硬膜外エタネルセプト投与の有効性を評価する臨床試験を行うべきである。

Binshtok AM, Gerner P, Oh SB, Puopolo M, Suzuki S, Roberson DP, Herbert T, Wang C-F, Kim D, Chung G, Mitani AA, Wang GK, Bean BP, Woolf CJ: Coapplication of lidocaine and the permanently charged sodium channel blocker QX-314 produces a long-lasting nociceptive blockade in rodents. Anesthesiology 2009; 111:127-37; and Ries CR, Pillai R, Chung CCW, Wang JTC, MacLeod BA, Schwarz SK: QX-314 produces long-lasting local anesthesia modulated by transient receptor potential vanilloid receptors in mice. Anesthesiology 2009; 111:122-6
侵害刺激に関連する神経薬理学の近年の進歩を応用し、長時間作用かつ選択的な神経ブロックの開発が進められ、目覚ましい成果が得られている。細胞膜不透過性ナトリウムチャネル阻害薬を、カプサイシンによって開口したバニロイド受容体(TRPV1チャネル)を通じて作用させ、侵害受容器を阻害するという試みについての論文は、今年を含め三年間連続してこのレビューに登場している。今年は、二編の論文を取り上げた。両論文とも、単独では細胞膜を通過しない局所麻酔薬であるQX-314 (N-エチル-リドカイン)が、カプサイシンがなくても鎮痛作用を発揮することを示し、カプサイシンには神経毒性や疼痛を引き起こす可能性があるのではないか、という懸念を呈している。Binshtokらは、カプサイシンと同じくTRPV1チャネルを活性化する作用のあるリドカインをQX-314と同時に投与すればQX-314の作用が得られることを明らかにし、これまでの彼らの一連の研究を飛躍させた。神経周囲にリドカインとQX-314を混注すると、リドカイン単独のときよりも選択的侵害受容器阻害作用が延長し、TRPV1ノックアウトマウスではこの効果が消失はしないが減弱することが明らかになった。Riesらは、高濃度QX-314単独でも感覚遮断作用が長時間発揮されることを示した。カプサイシンあるいは別の外因性TRPV1刺激薬が非存在下でも、QX-314の効果が確認された。TRPV1アンタゴニストのカプサゼピンを投与するとQX-314単独投与による神経ブロック作用は減弱(カプサイシンでは増強)する。したがって、QX-314だけを投与したときに見られる神経ブロック作用には、内因性のTRPV1活性化が部分的に関与していると言える。一方、QX-314の細胞膜透過には、TRPV1だけが関与しているわけではないことも明らかになった。以上の研究によって、長時間作用性で侵害受容器に特異的に作用する局所麻酔薬の開発が一歩前進した。

教訓 神経根症状の緩和には、硬膜外エタネルセプトが有効です。神経毒性はなさそうです。神経周囲にリドカインとQX-314を混注すると、リドカイン単独のときよりも神経遮断作用が延長し、TRPV1ノックアウトマウスではこの効果が消失はしないが減弱することが明らかになりました。
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2009年を振り返って④ [anesthesiology]

2009 in Review: Advancing Medicine in Anesthesiology

Anesthesiology 2009年12月号より

Payen J-F, Bosson J-L, Chanques G, Mantz J, Labarère J: Pain assessment is associated with decreased mechanical ventilation in the intensive care unit: A post hoc analysis of the DOLOREA study. Anesthesiology 2009; 111:1308-16
12月号(本号)に掲載されたこの研究では、フランスに所在する44ヶ所のICUに入室した 1381名の人工呼吸患者を対象として行われたDOLOREA研究で得られた大規模データベースを用い、事後分析が行われた。著者らは、ICU入室後第2日に疼痛の評価が行われた患者では、行われなかった患者より頻繁に鎮静レベルの評価が行われ、より多くの非オピオイド薬鎮痛薬が投与され、痛みを伴う手技を行う際に十分な鎮痛が確保され、鎮静薬の投与量が少ないことを明らかにした。さらに、疼痛評価が行われた患者の方が、人工呼吸器間が短かった(8日 vs 11日; P<0.01)。傾向スコアによる調整を行ったところ、疼痛評価が行われなかった患者と比べ、行われた患者の方が、早く人工呼吸器を離脱し、早くICUを退室していた。この研究は観測研究なので、因果関係を確定的に示しているわけではないし、鎮痛薬と鎮静薬の相互作用は複雑である。しかし、以下に示す理由から、この研究はICUにおける疼痛とその影響についての土台として位置づけられるべきである。第一に、本研究は、麻酔、集中治療そして疼痛という我々の三つの主要テーマすべてに関するものである。第二に、ICUにおける疼痛管理についての研究は今までにほとんど報告されておらず、重症患者の転帰の一要因として疼痛評価をあつかった研究はさらに希少である。第三に、重症患者の疼痛、快適性および行動は長期転帰に影響を及ぼすため関心が高まっている。本研究は、この新しいテーマにつきまとう研究手法の難しさを明らかにした。ICU入室後第2日に疼痛評価が行われていたのは、DOLOREA研究の対象となった重症患者のわずか42%に過ぎなかったことは特筆すべき点である。あなたのICUではどうであろう?

van Dorp ELA, Kest B, Kowlaczyk WJ, Morariu AM, Waxman AR, Arout CA, Dahan A, Sarton EY: Morphine-6β-glucuronide rapidly increases pain sensitivity independently of opioid receptor activity in mice and humans. Anesthesiology 2009; 110:1356-63
モルヒネは鎮痛基本薬である。しかし、呼吸抑制、吐き気、鎮痛耐性、身体依存、精神依存および痛覚過敏などの副作用もある。効能も副作用も大半はモルヒネそのものがもたらすのだが、モルヒネの代謝産物であるモルヒネ-6-グルクロニドやモルヒネ-3-グルクロニドにも生物学的活性があることがよく知られている。

モルヒネの代謝産物の一つであるモルヒネ-6β-グルクロニドは、鎮痛効果を発揮するだけでなく疼痛感受性を増幅する作用も持ち合わせていることが最近になって明らかにされた。Dorpらはマウスとヒトを対象とした探索型臨床研究(translational research)を実施し、モルヒネ-6-グルクロニドの鎮痛作用と抗鎮痛作用について検討した。モルヒネ-6-グルクロニドを投与すると、正常マウスでは鎮痛効果が得られるが、オピオイド受容体ノックアウトマウスだと痛覚過敏が出現することが分かった。オピオイド受容体アンタゴニストによってオピオイド受容体が阻害されている場合も、モルヒネ-6-グルクロニドを投与すると痛覚過敏があらわれた。

ヒトでも、オピオイド受容体を阻害してからモルヒネ-6-グルクロニドを投与すると、疼痛感受性が上昇した(fig. 3)。モルヒネを長期間投与したり、腎疾患患者に投与したりするとモルヒネ-6-グルクロニドが体内に蓄積する。したがって、モルヒネの副作用はモルヒネ-6-グルクロニドの作用によるものなのかもしれない。モルヒネの代謝産物であるモルヒネ-6-グルクロニドには、鎮痛作用がある一方で、オピオイド受容体とは無関係に痛覚過敏をもたらし鎮痛作用を拮抗する可能性がある。

教訓 ICU患者では、疼痛評価を行う方が早く人工呼吸器を離脱することができ、早くICUを退室できます。モルヒネ-6-グルクロニドは、オピオイド受容体とは無関係に痛覚過敏をもたらす可能性があります。
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2009年を振り返って③ [anesthesiology]

2009 in Review: Advancing Medicine in Anesthesiology

Anesthesiology 2009年12月号より

Thiele RH, Pouratian N, Zuo Z, Scalzo DC, Dobbs HA, Dumont AS, Kassell NF, Nemergut EC: Strict glucose control does not affect mortality after aneurysmal subarachnoid hemorrhage. Anesthesiology 2009; 110:603-10; and Bilotta F, Caramia R, Paoloni FP, Delfini R, Rosa G: Safety and efficacy of intensive insulin therapy in critical neurosurgical patients. Anesthesiology 2009; 110:611-9
1980年代初頭、高血糖によって中枢神経の急性傷害が大幅に増悪するという実験結果の報告が相次いだ。この現象は数多くの動物で確認されている。麻酔科領域ではこの知見が急速に広まり、術中輸液では原則的にブドウ糖を含む製剤を使用しないようになった。次いで、脳血管障害、心停止および外傷性脳損傷の転帰と高血糖の関連についての研究が、ヒトを対象として行われた。ほぼすべての研究において、高血糖があると転帰が悪化するという強い相関が認められた。現在に至っても、この相関の正確な機序はよく分かっていないが、酸素が欠乏し、そこにブドウ糖が存在するとブドウ糖の嫌気性代謝がはじまり、細胞内アシドーシスが増強する、という意見が優勢である。ラットを使ったその後の研究で、インスリンを用いて血糖管理を行うと、高血糖による有害作用を軽減できることが明らかにされた。中枢神経傷害に関する高血糖の問題とは別に、ICU患者では厳格な血糖管理により転帰が改善することが示されている。厳格な血糖管理による転帰改善という結果を再現するのは困難であることが報告されているとは言うものの、中枢神経傷害が高血糖により増悪する危険性が高い可能性のある、脳神経外科患者や重症神経疾患患者の治療を行う際にも、厳重な血糖管理を行うのが妥当であるように思われる。

Theileらの論文およびBilottaらの論文は、神経集中治療領域における血糖管理に重要な教訓を示すものである。Theileらは、1995年から2007年に発生した脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血症例834名のカルテを収集し検討した。2002年以降、入院時から退院に至るまで、血糖値の目標値を90-120mg/dLとする厳格な血糖値管理が行われていた。厳格血糖管理が行われる前後の転帰が比較された。高血糖の発生率を減らすには、厳格血糖管理は有効であった。しかし、院内死亡率には何の影響も及ぼしていなかった。その原因の少なくとも一つは、厳格血糖管理群で低血糖の発生率が上昇したことであった(table 1)。低血糖の発生は、死亡リスクの上昇と関連していた。

Bilottaらは脳神経外科手術後にICUに入室した483名を対象に前向き無作為化比較対照試験を行い、厳格血糖管理群(79-110mg/dL)と従来血糖管理群を比較した。重大な低血糖の発生率は、厳格管理群では従来管理群の三倍にのぼった。血糖値を管理するとICU滞在期間が短縮し感染発生率が低下するが、6ヶ月後のグラスゴー転帰尺度や死亡率については差は認められなかった。以上二編のいずれにも問題点はあるが、この二つの研究によって、神経集中治療における血糖管理の役割についての理解を大きく深化させることができた。厳格血糖管理のプロトコルを導入すると平均血糖値を低下させることはできるが、その低下幅はさほどでもない。それと同時に、低血糖の発生率が従来管理のときよりも高く、どうやらこのことが脳損傷を悪化させるようである。ICU滞在中に厳格な血糖管理を行うと、危険性が効能を凌駕することがすでに明らかにされている。脳に損傷のある患者を管理するにあたっては、この点に留意しなければならない。血糖目標値をもう少し高く設定すれば、また違った結果が得られるかもしれない。大半の実験では、虚血性/外傷性脳損傷の増悪を引き起こす血糖値の閾値はおよそ180mg/dLであることが示されている。

Santoni BG, Hindman BJ, Puttlitz CM, Weeks JB, Johnson N, Maktabi MA, Todd MM: Manual in-line stabilization increases pressures applied by the laryngoscope blade during direct laryngoscopy and orotracheal intubation. Anesthesiology 2009; 110:24-31
頸椎不安定症が判明しているもしくは疑われる患者の喉頭鏡操作およびその他の挿管手技に際し、頸椎傷害を防ぐため用手正中固定(manual in-line stabilization; MILS)を行うことが勧められている。しかし、用手正中固定を行うと、喉頭展開時の視野が悪くなり、気管挿管に要する時間が長引き、場合によっては低酸素血症を引き起こす可能性がある。そのため最近になって、用手正中固定の臨床的位置付けが見直されている。本論文の研究グループは、頸椎損傷死体モデルを用いて用手正中固定をしながら喉頭展開を行うと、不安定な頸椎の部分に有意な亜脱臼が発生することを過去に報告した。Santoniらは以前に行ったこの研究を発展させ、喉頭展開時の用手正中固定に難点があることを裏付ける新しいエビデンスを本研究で示した。先進技術を応用し、喉頭展開時に喉頭鏡ブレードの各点に加わる力の分布を測定したところ、用手正中固定しながら喉頭展開すると、用手正中固定を行わないときと比較し2倍の大きさの力が加わり、大きな力がかかるわりには、声門の視認性が低下し挿管失敗率が上昇するということが明らかになった。本論文の著者らは、頸椎不安定症のある患者において用手正中固定を行うと、喉頭鏡に加わる力が大きくなるとともに、声門の視認性が低下するため、頸椎運動制限がかえって増悪する可能性があると結論づけている。この研究グループだけでなく、他のグループの研究結果からも、喉頭展開時の用手正中固定の有効性に疑義が呈されている。

教訓 高血糖による悪影響を排すとともに低血糖に足を掬われないためには、血糖値の目標値を180mg/dLぐらいにするのがよさそうです。喉頭展開時に頸椎を保護するために用手正中固定を行うと、かえって頸椎の障害を悪化させる可能性があります。

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2009年を振り返って② [anesthesiology]

2009 in Review: Advancing Medicine in Anesthesiology

Anesthesiology 2009年12月号より

Alkire MT, Asher CD, Franciscus AM, Hahn EL: Thalamic microinfusion of antibody to a voltage-gated potassium channel restores consciousness during anesthesia. Anesthesiology 2009; 110:766-73
麻酔による意識消失の神経学的機序の知見はこれまでに相当蓄積されてきた。最近では、大脳皮質における麻酔の主な作用部位も明らかにされつつある。視床は感覚を伝える上行性伝導路と大脳から下行する運動伝導路の主要な中継点である。本論文の著者らは以前、視床の正中中心核のコリン作働性ニューロンを刺激すると、セボフルランによる立ち直り反射の消失を、受容体特異的かつ部位特異的に拮抗することができることを明らかにした。そして著者らは、視床のアセチルコリン受容体にはスイッチを入れるようにして覚醒を調節する働きがあり、麻酔はこのスイッチを消すことによって意識を消失させるという結論に至った。

本研究を行ったAlkireらはさらに、視床の構造が麻酔状態を作り出すのに関与していることを示した。ニコチンはカリウムチャネルを阻害することが知られている。これを踏まえAlkireらは、麻酔による意識消失は視床正中中心核の特定のカリウムチャネル(Kv1.2チャネル)の阻害によってもたらされるという仮説を検証した。ラットをデスフルランまたはセボフルランに曝露し、視床正中中心核を目標にKv1.2抗体を投与した。対象ラットの30%では何の変化も認められず、13.4%は半覚醒状態、全覚醒に戻ったのは16.5%であった。この研究から、デスフルランまたはセボフルラン麻酔中に正中中心核の辺りへ正確にカリウムチャネル抗体を投与すると一時的に意識が回復することが分かった(fig. 2)。注入針の先端を視床中心正中核の内部へ留置したところ、対象ラットの75%において覚醒反応が認められた。以上の知見は、視床中心正中核が麻酔による意識消失and/or麻酔からの覚醒の調整を司る重要な中継点であり、電位依存性カリウムチャネルには吸入麻酔薬による意識消失効果を仲介する働きがあることを裏付けるものである。この特筆すべき研究で得られた結果により、麻酔を司る構造や機序の解明は一歩前進したと言える。意識消失作用に関する麻酔薬の主要作用部位の同定を目的とした今後の研究は、本研究を基にして行われるであろう。

Nouette-Gaulain K, Dadure C, Morau D, Pertuiset C, Galbes O, Hayot M, Mercier J, Sztark F, Rossignol R, Capdevila X: Age-dependent bupivacaine-induced muscle toxicity during continuous regional analgesia in rat. Anesthesiology 2009; 111:1120-7
局所麻酔が盛んに行われるようになってきた。それにつれて、よりよい術後疼痛管理を実現しようと、神経周囲にカテーテルを留置し局所麻酔薬を持続投与する方法が広まっている。当初はこの方法は成人にしか適用されていなかったが、次第に小児でも行われるようになり、現在では新生児でも実施されている。成人で発生した局所麻酔薬の投与による合併症が報告されているが、その一つに筋毒性がある。幼児や新生児における局所麻酔薬の筋毒性の強さや長期予後が、成人の場合と比較し同等なのか、軽いのか、それともより深刻なのかは分かっていない。このことを明らかにするためNouette-Gaulainらが実験を行った。若年(生後3週)ラットと成年(生後12週)ラットを、0.25%ブピバカインまたは等張食塩水の群に無作為に割り当て、該当薬を8時間のあいだに7回注入した。すると、ブピバカイン群では、筋ミトコンドリア内のATP合成が低下し、筋肉の超微細構造が破壊されていた。この結果自体は目新しいものではないが、若年ラットでは筋ミトコンドリアにおける生体エネルギー産生が経時的に低下し、筋原繊維の崩壊やZ帯の断裂が有意に増加するという観測結果は、憂慮すべき新しい発見である。眼科領域以外では、局所麻酔薬の筋毒性は臨床的には問題とはならないようだが、本研究で得られた知見を踏まえると、年少者では持続神経ブロックを行うのは問題があるのではないかという懸念が生ずる。この研究に勇を鼓され、年少者に対する持続神経ブロックの安全性を検証する臨床研究が実施されることを願うばかりである。

教訓 麻酔薬による意識消失作用の発現には、視床中心正中核のカリウムチャネルの阻害が重要な役割を果たしています。子供には末梢神経ブロックは不向きなようです。
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2009年を振り返って① [anesthesiology]

2009 in Review: Advancing Medicine in Anesthesiology

Anesthesiology 2009年12月号より

毎年恒例のレビューの時期が巡ってきた。本誌の使命は「将来性のある発見を促し、周術期、集中治療および疼痛医学の基礎と臨床の発展に貢献する」ことである。本レビューでは、本誌編集委員会がこの使命をまさに体現していると判断した論文を紹介する。今年は、周術期医学、集中治療医学および疼痛医学の三つの分野から同数ずつ、あわせて12編の原著論文を選んだ。この12編の大半には、すでに毎月の論説や、表紙絵、報道発表資料、本誌ウェブサイトでの公開などの形で脚光が当てられている。とはいえ、年の瀬に当たり簡略な内容をここに紹介すれば、今年発表された重要な知見を改めて思い出したり、まだ触れたことがない場合には一年の締めくくりに新たな発見を知ったりすることができるであろう。本記事が読者にとって有意義なものとなることを願っている。

Bateman BT, Schumacher C, Wang S, Shaefi S, Berman MF: Perioperative acute ischemic stroke in noncardiac and nonvascular surgery: Incidence, risk factors, and outcomes. Anesthesiology 2009; 110:231-8
本研究では、全国入院患者データベースの分析を通じ、周術期急性虚血性脳血管障害の発生率が明らかにされた。結腸切除、肺葉/部分切除、人工股関節置換術の周術期急性虚血性脳血管障害の発生率はそれぞれ0.7、0.6、0.2%であり、いずれの術式でも年齢が長ずるほど虚血性脳血管障害のリスクが上昇するという結果が得られた(fig. 1)。この研究は色々な点において重要であり一考に値する。第一に、高齢患者の予期せぬ死亡、後遺障害、日常生活自立度低下を招く重症合併症である急性虚血性脳血管障害に関心が集まった。そして、普段高齢者の周術期医療に携わっている麻酔科医たちが思っているよりも、急性虚血性脳血管障害の発生率は高いことがこの論文で明らかになった。第二に、この論文が強調しているのは、我々麻酔科医は、手術室の中だけでなく外へも視野を広げる必要があるということであり、これはちょうど2009年の本誌論説で年間を通じて取り上げられた話題である。第三に、非常に大きな入院管理データベースを用いて患者の安全性に関する問題の実態を明らかにするという好例が示された。最後に、人工股関節置換術周術期における急性虚血性脳血管障害の発生率が0.2%にものぼることが本研究で明らかになり、年齢だけが重要な要素であるわけではないのはもちろんだが、やはり高齢者は脆弱であるということが、ますます多くの高齢患者の管理に関わる我々に痛感された。

参照:周術期脳梗塞の発生率・危険因子・転帰

Waisel DB, Lamiani G, Sandrock NJ, Pascucci R, Truog RD, Meyer EC: Anesthesiology trainees face ethical, practical, and relational challenges in obtaining informed consent. Anesthesiology 2009; 110:480-6
麻酔科医は患者やその家族と、短いとはいえ濃い関わりを持つ。だからお互いに多くの情報を手早く効果的に伝え合い、お互いの主張や制約を理解しなければ、この関わりは成り立たない。本論文では、駆け出し麻酔科医に自由かつ主観的に語らせることにより(narrative research method)、患者と突っ込んだやりとりをしなければならない同意取得の際に彼らが直面する主な壁が明らかにされ、若い麻酔科医のための教育手法が検討された。得られた結果は、指導者にとっても被指導者にとっても、表向きは当たり前のものであった。つまり、不信感、誤解、情報過多、患者とその家族の意思と医学的判断との軋轢、などの問題が麻酔科医と患者およびその家族とのあいだに生ずることが明らかにされたのである。駆け出し麻酔科医たちが抱えている不安の大きさに著者らは衝撃を受けたが、我々麻酔科医の誰もが日常臨床の中で、若い麻酔科医たちが語ったのと同じような倫理、実務、人間関係上の困難に遭遇したことがあり、今もなおそのような経験を重ねているのだという考察を示している。高精度シミュレーションを行うと、手術室内での矢継ぎ早に変化する状況に、より迅速に、よりうまく対処できるようになり、手技の習得にも役立つ。本論文では、若い医師たちが一人前の医師として成長する過程において、患者との関わり方を改善させるための教育を行うことが重要であるという見解が示されている。

教訓 周術期急性虚血性脳血管障害の危険因子は、結腸切除または肺切除(人工股関節との比較において)、加齢、女性、糖尿病、心房細動、鬱血性心不全、脳血管障害の既往、腎疾患および弁疾患です。 ベテラン麻酔科医にとっても、麻酔の同意を取得するのは大変です。

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ALIにおける理学的所見とPACデータの関連~考察② [critical care]

Association of physical examination with pulmonary artery catheter parameters in acute lung injury

Critical Care Medicine 2009年10月号より

我々はさらに、低ScvO2の閾値を70%未満に設定した場合に、SvO2が60%未満であると予測できるかどうかを検討した。重症敗血症および敗血症性ショック患者を対象として、early goal-directed therapy(目標早期達成治療)を従来法と比較した前向き無作為化試験で、必要に応じて強心薬を使用し、ScvO2を70%以上に維持したところ(さらに、CVP>8mmHg、平均動脈圧>65mmHg、尿量>0.5mL/kg/hrを保つ)、生存率が改善するという結果が示されている。そのため、本研究ではScvO2の閾値を70%未満とした。Surviving Sepsis Campaignでも、ScvO2の閾値を70%に設定することが推奨されている。本研究で、ScvO2が70%未満であることからSvO2が60%未満であることを予測する精度を検討したところ、感度は84%と高かったが、擬陽性率が高かったため(ScvO2が70%未満でもSvO2は60%以上であった患者が多かったため)、陽性的中率は低く31%に止まった。敗血症を合併したALI患者(111名)のみについての評価でも、ScvO2とSvO2の相関については同様の結果が得られた(感度90%、特異度70%、陽性的中率41%、陰性的中率97%)。そして、ScvO2が70%以上であったときの96%で、SvO2が60%以上であり、両者には有意な相関が認められた。つまり、臨床的な有用性としては、ScvO2が70%以上であれば、SvO2が60%を下回っていることを否定できるということである。しかし、ScvO2を測定する本来の意義は、この値が70%を切っていると乳酸値が上昇していると判断されることにある。今回の研究の問題点は、乳酸値を測定しなかったことと、ScvO2およびSvO2が高い症例が多く、低い症例が比較的少なかったことである。ScvO2 70%未満かつSvO2 60%未満であった患者はわずか26名に過ぎなかった。したがって、本研究で得たデータからScvO2とSvO2の関係についていろいろ述べても、十分な検出力を背景にしているわけではないので、観測結果として位置づけなければならない。

基準時点におけるScvO2 70%未満と、SvO2 65%未満のあいだにも、SvO2 60%未満のときと同様の相関が認められた。Surviving Sepsis Campaignでは、SvO2の閾値を65%未満とすることが推奨されている。基準時点ScvO2 70%未満からSvO2 65%未満を予測する精度を検討したところ、感度78%、特異度78%、陽性的中率59%、陰性的中率90%であった。

だが、本研究ではScvO2とSvO2の同時測定を一時点でしか実施しなかったことが問題である。過去に行われた研究では、重症患者では持続測定ScvO2のトレンドはSvO2のトレンドをよく反映することが明らかにされている。ただし、そのためにはScvO2持続測定専用の中心静脈カテーテルを留置しなければならないという欠点がある。

この研究の特性として注意しなければならないのは、ALI発症からおよそ24時間後かつICU入室からおよそ48時間後における循環動態関連パラメータを評価したこと、ショックand/or昇圧薬投与に該当する患者は三分の一を占めるに止まったこと、そして重症敗血症患者はおよそ四分の一しか含まれていないことである。本研究の結果は、ショック患者の急性期治療を反映しているわけではない。この点は、ICU入室に先立つ救急部での重症敗血症および敗血症性ショック患者に対するearly goal-directed therapyについて評価したRiversらの研究と大きく異なる点である。さらに、本研究は遡及的研究であるため、理学的所見データおよびPAC測定値の収集が盲目的には行われなかったという、回避不能の弱点をはらんでいる。患者の心係数が分かっていれば、それによって徴候の解釈が左右される可能性がある。本研究のもう一つの問題点は、色素沈着があったり皮膚色が濃かったりする患者では膝のまだら模様の観察が難しいことである。対象患者のうちおよそ36%が「非白人」に分類された。また、この手の研究では、評価者間信頼性がバイアスとして強く作用することがあるが、今回は評価者間信頼性については評価しなかった。さらに、理学的所見の評価者は、血行動態データを知りうる状態で評価を行ったので、さらにバイアスが大きくなった可能性がある。

結論

本研究で得られた結果からは、毛細血管再充満時間の延長、皮膚冷感および膝のまだら模様は、低CIもしくは低SvO2の代替指標として有用であるとは言えない。なぜなら、CIおよびSvO2が正常値である頻度が高いので、理学的所見が陽性であることから低CI/SvO2を予測する際の的中率が低くなってしまうからである。

ALI患者においてScvO2はSvO2と有意に相関することが明らかになったが、信頼区間が広いので、この相関の臨床的有用性は不明である。しかしながら、本研究の結果は、ALI患者ではScvO2が70%以上であれば、SvO2が60%未満であることを否定できることを示している。ScvO2が70%未満であれば、他の臨床的パラメータを評価し、循環動態が適正であることを確認すべきである。今回の研究で得られた以上の結果は、前向き研究で詳しく検証する必要がある。

教訓 ALI患者ではScvO2が70%以上であれば、SvO2が60%未満であることを否定できます。ScvO2が70%未満であれば、他の臨床的パラメータを評価し、循環動態が適正であることを確認する必要があります。
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ALIにおける理学的所見とPACデータの関連~考察① [critical care]

Association of physical examination with pulmonary artery catheter parameters in acute lung injury

Critical Care Medicine 2009年10月号より

考察

ALI患者(ショックで昇圧薬を投与されている患者を含む)では、循環動態が不良であることを示す理学的所見(毛細血管再充満時間>2秒、膝のまだら模様および四肢冷感)は低CIまたは低SvO2の予測には役立たないことが明らかになった。CI<2.5の患者のうち、三つの所見のうち少なくとも一つが認められたのは、わずか52%に過ぎなかった(感度が低い)。また、三つの理学的所見のうち少なくとも一つが認められた患者のうち、CI<2.5であったのはたった17%であった(陽性的中率が低い)。SvO2 <60%の患者のうち、三つの所見のうち少なくとも一つが認められたのは、わずか40%に過ぎなかった(感度が低い)。また、三つの理学的所見のうち少なくとも一つが認められた患者のうち、SvO2 <60%であったのはたった24%であった(陽性的中率が低い)。

理学的所見が一つも認められないことでさえ、臨床的には何の有用性もないことが分かった。特異度と陰性的中率は高いものの、ALI患者におけるCI<2.5 (基準時点で8.1%の患者に認められた)およびSvO2<60% (基準時点で15.5%の患者に認められた)の発生頻度は低かった。理学的所見が一つも認められないことがCI>2.5およびSvO2>60%であることの予測に用いられるのであれば、ALIであることも同じ程度に正確にCI>2.5およびSvO2>60%であることを予測できることになってしまう。CIおよびSvO2が正常値であることの事前確率が高いため、循環動態不良を示す理学的所見が認められない場合の有用性を示すには、本研究の検出力は不足している。

本研究の対象となったALI患者において心機能低下例が少なかったのは、左房圧が上昇している症例や、30日以内に急性心筋梗塞を発症した症例を除外したことが一因である。この除外基準に沿って患者を選択しても、PAC群に割り当てられた患者の29%において、PAOP初回測定値は18mmHgを超えていた。ただし、大部分は19または20mmHgであった。PAOPが18mmHgを超えていた患者のうち、CI<2.5であったのはわずか3%に過ぎなかった。しかし、本研究の対象にPAOP>18mmHgの症例を含むのは、対象患者の均質性の点で懸念が生ずる。なぜなら、FACTTの対象患者のうち29%は、PACを挿入した時点でARDSの診断を行っていたとすれば、PAOPが高いということでARDSと診断されなかったはずだからである。対象患者にばらつきがあったことが影響して、理学的所見とPACデータに相関が認められないという結果に至った可能性がある。

臨床的判断に用いられる理学的所見および客観的パラメータは、PACで得られるパラメータとは相関しないことが先行研究でも示されている。本研究でも、それと一致する知見が得られた。ベッドサイドでの心拍出量予測は、せいぜい50%ぐらいしか的中しない。理学的所見による循環動態予測の精度を評価した先行研究では、色々な結果が得られている。外科系ICUに入室した患者264名を対象とした研究では、皮膚冷感は、心拍出量、心係数、SvO2、pHの低下および乳酸値の上昇と有意に相関しているという結果が得られている。本研究でも、回帰分析では四肢冷感と低CIには有意な相関があるという結果が得られたが、ROCでは臨床的有用性は認められなかった。外科系ICUの患者と、FACTTの対象となったALI患者とでは特性が異なるため、理学的所見による予測精度に差が生じたのかもしれない。四肢冷感は、敗血症性ショックよりも低容量性ショックにおいて、より有用な所見である。外科系ICUでは内科系ICUよりも低用量性ショックの発生頻度が高い。

本研究では、低SvO2と膝のまだら模様に有意な相関があることが分かったが、この所見が観測された症例数は少なかったので、さらに研究を重ねて検証する必要がある。前述の外科系患者を対象とした先行研究では、皮膚温低下のみが検討され、膝のまだら模様については評価が行われていない。その他の先行研究で、末梢循環不良を示す臨床徴候として膝のまだら模様を評価した研究は見当たらなかった。

毛細血管再充満時間の延長は、低CIや低SvO2を予測には役立たないという結果が得られた。先行諸研究についてのレビューでも、血管内容量が低下している成人では毛細血管再充満時間には診断価値がないと結論づけられている。一方、小児を対象とした同様のレビューでは、毛細血管再充満時間は、血管内容量低下による循環不全の診断に役立つ理学的所見であるとされている。

本研究では、ALI患者ではScvO2とSvO2が相関することが分かったが、信頼区間が広いため臨床的有用性についてははっきりしたことは言えない。SvO2は酸素運搬と酸素需要のバランスをあらわす指標である(ヘモグロビン減少、酸素摂取率上昇、酸素摂取率正常下での動脈血酸素飽和度低下といった状況ではSvO2は低下する)。今回の研究では、SvO2が低いと死亡率が上昇するという結果が得られた。同様の知見は先行研究でも得られていて、SvO2が低いほど炎症反応が強く、死亡率も高いことが分かっている。そして、SvO2を正常レベルに上昇させることを目標に治療を行うと、生存率が改善することが報告されている。SvO2の代替指標としてScvO2を用いる方法は、PACを留置しなくても可能なので、なかなか良さそうに思われる。先行研究でも、ScvO2とSvO2が相関することが示されているが、それが臨床使用にも耐えうるのかどうかという点については賛否両論がある。本研究では、今までに行われたどの研究よりも多くの数の、ScvO2とSvO2の同時測定を行い、ScvO2とSvO2に相関が認められることが分かった。しかし、ばらつきが大きかったので臨床的な有用性を示すには至らなかった。

教訓 ALI患者(ショックで昇圧薬を投与されている患者を含む)では、循環動態が不良であることを示す理学的所見(毛細血管再充満時間>2秒、膝のまだら模様および四肢冷感)は低CIまたは低SvO2の予測には役立たないことが明らかになりました。さらに、三つの所見が一つもないからといって、循環動態が適正であるとは言えず、臨床的には意味がないことが明らかになりました。


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ALIにおける理学的所見とPACデータの関連~結果 [critical care]

Association of physical examination with pulmonary artery catheter parameters in acute lung injury

Critical Care Medicine 2009年10月号より

結果

プロトコルに準じた初回の介入が行われるまでの平均時間は、ICU入室から43時間後およびALI診断基準を満たしてから24時間後であった。PAC群に割り当てられた513名においては、CIおよびSvO2が低い症例は少なかった。データが全て揃った患者の中では、基準時点のCIが2.5を下回ったのはわずか8.1%(408名中33名)、基準時点のSvO2が60%を下回ったのは15.5%(394名中61名)であった。CI<2.5かつSvO2<60%であったのは3.7%(350名中13名)であった。

目的1(基準時点において循環動態不良を示す理学的所見がある場合に、CI<2.5またはSvO2<60%であることを予測できるかどうかを明らかにする)の結果

405名において理学的所見と低CIの相関の検討が行われた。三つすべての理学的所見が揃った患者は10名であった(CI 2.5未満4名、CI 2.5以上6名)。理学的所見のうち一つまたは二つに該当した患者は90名であった(CI 2.5未満13名、CI 2.5以上77名)。一つも所見が認められなかった患者は305名であった(CI 2.5未満16名、CI 2.5以上289名)。392名について、基準時点における理学的所見と低SvO2の相関の検討が行われた。三つすべての理学的所見が揃った患者は9名であった(SvO2 60%未満5名、SvO2 60%以上4名)。理学的所見のうち一つまたは二つに該当した患者は91名であった(SvO2 60%未満19名、SvO2 60%以上72名)。一つも所見が認められなかった患者は292名であった(SvO2 60%未満36名、SvO2 60%以上256名)。Table 1~4に、理学的所見が全て揃ったときと、三つのうちいずれか一つが認められたときの、CI 2.5未満およびSvO2 60%未満との相関を示した。

さらに、以上の症例のうち、昇圧薬を投与された患者(138名)の基準時点における理学的所見とCI 2.5未満およびSvO2 60%未満との相関を検討した。この患者群では、三つ全ての理学的所見が揃うこととCI 2.5未満であることの相関については、感度19%、特異度97%、陽性的中率43%、陰性的中率90%であった。三つ全ての理学的所見が揃うこととSvO2 60%未満であることの相関については、感度17%、特異度98%、陽性的中率71%、陰性的中率81%であった。

目的2(理学的所見と客観的パラメータ[24時間水分喪失量および中心静脈圧]からCI<2.5またはSvO2<60%を予測できるかどうか)の結果

研究開始日から第7日まで連日測定したCIの8%が2.5未満であった。データが完全にそろった患者478名について、研究開始日から第7日の各日に収集したデータを検討した。一般化推定方程式モデルを用いた解析では、四肢冷感があることとCI 2.5未満との相関については、オッズ比1.9、95%信頼区間1.0-3.5 (p=0.10)という結果が得られた。中心静脈圧が高いこととCI 2.5未満との相関については、中心静脈圧1cmH2O上昇につきオッズ比1.06、95%信頼区間1.03-1.09 (p=0.002)であった。24時間総水分喪失量とCI 2.5未満との相関については、1000mLごとオッズ比0.8 (p=0.01)であった。研究開始日から第7日まで測定したSvO2の14%が60%未満であった。開始日から第7日のSvO2データが全て記録された217名について検討を行った。一般化推定方程式モデルを用いた解析では、膝のまだら模様とSvO2 60%未満のあいだには有意な相関が認められた(オッズ比5.0、95%信頼区間1.8-14.4, p=0.009)。中心静脈圧が高いこととSvO2 60%未満のあいだにも有意な相関が認められた(中心静脈圧1cmH2O上昇につきオッズ比 1.09、95%信頼区間1.04-1.14, p=0.0004)。ただし、この解析は、13名の患者におけるわずか16回の膝まだら模様所見について行われたものである。三つの理学的所見につきROCを描いたが、いずれについても、臨床的に有用性があると結論づけるに足る統計学的に有意な結果は得られなかったため掲載は見送った。

目的3(ScvO2とSvO2の相関の有無を明らかにする)の結果

ScvO2とSvO2が同時に測定されたすべてのALI患者(218名)および、ScvO2とSvO2が同時に測定されたすべての重症敗血症合併ALI患者(107名)で、両者は有意な相関を示した(Fig. 1および2)。CIとSvO2の相関をFig. 3に示した。

基準時点における、平均ScvO2は71.5±11.2%、平均SvO2は69.3±9.9%であった。ScvO2 70%未満からSvO2 60%未満を予測する精度を、基準時点のScvO2とSvO2を基に解析した結果をTable 5に示した(n=218)。基準時点で重症敗血症を呈した患者(107名)についても、ScvO2 70%未満によるSvO2 60%未満の予測精度は同様であった(感度95%、特異度71%、陽性的中率43%、陰性的中率98%)

SvO2が60%未満であると、死亡率が有意に高く、人工呼吸器非使用日数が有意に少なかった。基準時点におけるSvO2が60%未満であった患者(62名)では、研究開始60日後生存率が62% (95%信頼区間 62%-74%)であったが、60%以上であった患者(326名)では、60日後生存率は76%(95%信頼区間 71%-81%)であった。60日後生存率の絶対差は14%であった(95%信頼区間 2%-26%)(p=0.03)。基準時点のSvO2が60%未満であった患者(62名)における人工呼吸器非使用日数の中央値は6日であり、SvO2 60%以上の患者(326名)における人工呼吸器非使用日数の中央値は17日であった(p=0.004, Wilcoxon検定)。

教訓 理学的所見が三つすべて揃うことからCI<2.5を予測する場合の精度は、感度12%、特異度98%、陽性的中率40%、陰性的中率93%です。三つ揃うことからSvO2<60%を予測する場合の精度は、感度8%、特異度99%、陽性的中率56%、陰性的中率86%です。
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ALIにおける理学的所見とPACデータの関連~方法 [critical care]

Association of physical examination with pulmonary artery catheter parameters in acute lung injury

Critical Care Medicine 2009年10月号より

方法

FACCT多施設研究のプロトコルの詳細についてはすでに別途報告した。したがって、ここでは本研究に関連する事項についてのみ掲載する。患者選択基準は、気管挿管され陽圧換気が行われており、PaO2/FIO2<300(海抜1000メートル以上の場合は補正する)であり左房圧上昇によるものではない両側浸潤影が胸部写真で認められること、とした。主な除外基準は、ALI発症後のPAC留置;ALI発症から48時間以上経過;同意取得不能;生命予後に独立して影響を与えるか、人工呼吸器離脱を阻むか、プロトコルに従った手順を踏むのが困難であるか、のいずれかの可能性のある慢性疾患;6ヶ月以内に死亡する可能性が50%を超えると予測される不可逆的な状態とした。

FACTT対象患者のうちPAC群に無作為割り当てされた513名が、今回の遡及的研究の対象標本となった。PACは無作為割り当て後4時間以内に挿入された。挿入後2時間以内に、FACTT試験で定められた血行動態管理を開始し、7日間もしくは補助なしで呼吸が可能になった時点から12時間後まで継続した。循環動態の評価に用いられた理学的所見は、毛細血管再充満時間>2秒、膝の皮膚のまだら模様および四肢冷感である。FACTT研究のCVC群では、以上の三つの理学的所見が認められる場合には、「循環動態不良」と判断し、プロトコルに従い治療の方向性を変更した。PAC群では、心係数>2.5であれば循環動態不良と判断し、治療の方向性を変更した。PAC群の理学的所見データは、4時間おきのCI測定と同時点に収集した。ただし、PAC群では理学的所見による治療方向性の変更は行わなかった。以上のデータを用い、CIおよびSvO2と理学的所見を比較した。FACTT研究のプロトコルと同様に、CIの閾値は2.5未満とした。FACTT研究における基準時点の平均CIは4.2±1.4L/min/m2(n=408)であった。多数の重症患者を対象とした研究2編で報告されているSvO2平均値をおよそ1SD下回るのが60%であるため、本研究では低SvO2の閾値を60%未満とした。FACTT研究における基準時点の平均SvO2は69±12%(n=323)。

目的1(基準時点において循環動態不良を示す理学的所見がある場合に、CI<2.5またはSvO2<60%であることを予測できるかどうかを明らかにする)の方法

PAC挿入後、FACTT輸液プロトコル開始までに収集した基準時点の理学的所見データを解析した。収集したデータは、毛細血管充満時間が2秒を超えるかどうか、膝のまだら模様の有無そして四肢冷感の有無である。CI>2.5かつSvO2 <60%の予測に関し、2×2分割表を用いて感度、特異度、陽性的中率および陰性的中率を算出した。三つの理学的所見がすべて揃った場合(毛細血管充満時間が2秒を超え、膝にまだら模様が認められられ、四肢に冷感がある)の予測精度を求めるとともに、いずれか一つだけが認められる場合の予測精度も三つそれぞれについて算出した。

目的2(理学的所見と客観的パラメータ[24時間水分喪失量および中心静脈圧]からCI<2.5またはSvO2<60%を予測できるかどうか)の方法

基準時点およびFACTT研究開始日から第7日までの各日にデータを収集した。理学的所見については、所見の有無を毎日記録した。24時間の総水分喪失量(尿量、胃管排液量、排便量、ドレーンまたはチューブ排液量の合計)と、午前8時に最も近い時点で測定された中心静脈圧を連日記録した。

目的3(ScvO2とSvO2の相関の有無を明らかにする)の方法

ScvO2とSvO2の相関を解析するため、基準時点におけるScvO2データを収集し、同時期のSvO2と比較した。2×2分割表を用い、ScvO2が70%を下回るときに、SvO2が60%を切るかどうかを評価した。

教訓 NHI/NHLBI ARDSネットワークが実施したFluid and Catheter Treatment Trial(FACTT)のデータを利用しました。FACTTは、制限輸液vs 大量輸液、CVC vs PACの比較を目的とした2×2デザインの無作為化臨床試験で、1001名の患者が対象となりましたが、この研究ではそのうちPAC群に割り当てられた513名が対象となりました。
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