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硬麻・脊麻による感染性合併症の予防・診断・管理~予防① [anesthesiology]

Practice Advisory for the Prevention, Diagnosis, and Management of Infectious Complications Associated with Neuraxial Techniques: A Report by the American Society of Anesthesiologists Task Force on Infectious Complications Associated with Neuraxial Techniques

Anesthesiology 2010年3月号より

科学的エビデンス
カテゴリーA:有力な文献あり。RCTで特定の臨床転帰について有意差が認められている。レベル1~3に分類。
カテゴリーB:可能性を示唆する文献あり。観測研究で有効または有害であることが示されている。レベル1~3に分類。
カテゴリーC:有効か有害か決着がついていない。レベル1~3に分類。
カテゴリーD:十分なエビデンスがない。

見解に基づくエビデンス
カテゴリーA:研究作業部会に関わった顧問の見解が一致している。
カテゴリーB:ASA会員から無作為に選ばれた麻酔科医の見解。広く肯定されている、肯定されている、賛否両論、否定されている、強く否定されている、の5段階に分類。
カテゴリーC:非公式見解。学会、インターネット、学会誌のレターや論説など。

Ⅰ. 硬膜外麻酔・脊髄クモ膜下麻酔による感染性合併症の予防

硬膜外麻酔・脊髄クモ膜下麻酔による感染性合併症の予防についての論点を以下に挙げる:

(1) 病歴聴取、理学所見および術前検査の実施
(2) 硬膜外麻酔・脊髄クモ膜下麻酔の適応と選択
(3) 抗菌薬予防投与
(4) 無菌操作の実施
(5) 消毒液の選択
(6) カテーテル挿入部位の無菌密閉ドレッシング材貼付
(7) 持続的硬膜外注入時の細菌フィルタの使用
(8) 硬膜外麻酔・脊髄クモ膜下麻酔用薬剤投与ラインの接続外しおよび再接続回数の制限
(9) カテーテル接続部位が偶発的に外れてしまった場合の管理
(10) カテーテル留置期間の短縮

(1) 病歴聴取、理学所見および術前検査の実施
硬膜外麻酔・脊髄クモ膜下麻酔に関係する病歴採取(例;過去の臨床記録を閲覧する)、理学所見または術前検査の意義を明らかにすることを目的とした比較対照試験は行われていない。複数の観測研究では、患者特性または臨床経過の特性(例;癌、糖尿病、免疫能低下)によっては、硬膜外麻酔・脊髄クモ膜下麻酔による感染の危険性が上昇する可能性が示唆されている(カテゴリーB2)。さらに、症例報告でも、既に感染がある、膵炎、消化管出血、薬剤またはアルコール乱用などに該当する患者では硬膜外麻酔・脊髄クモ膜下麻酔による感染が合併しやすい可能性があることが示されている(カテゴリーB3)。

本研究作業部会顧問およびASA会員の両者とも、硬膜外麻酔・脊髄クモ膜下麻酔実施に先立ち、病歴および理学的所見をとり、術前検査の評価を行うことを強力に支持している。病歴、理学的所見および検査結果が、硬膜外麻酔・脊髄クモ膜下麻酔による感染性合併症のリスクの高い患者を見極めるのに有用であるという説については、作業部会顧問は肯定、ASA会員は強く肯定という見解が示された。

(2) 硬膜外麻酔・脊髄クモ膜下麻酔の適応と選択
硬膜外麻酔または脊髄クモ膜下麻酔それぞれの感染性合併症発生リスクを明らかにするため、以下に示す比較を行った:(1) 硬膜外vs脊髄クモ膜下麻酔、(2) 持続注入またはカテーテル使用vs 穿刺後一回のみ注入、(3) 腰部硬膜外麻酔 vs 胸部硬膜外麻酔、(4) 腰部硬膜外麻酔 vs 仙骨硬膜外麻酔。

硬膜外麻酔または脊髄クモ膜下麻酔の特定の方法について、感染性合併症の発生率を比較した無作為化比較対照試験は見当たらなかった(カテゴリーD)。無作為化割り当てが行われていない比較試験一編では、腰部硬膜外穿刺と脊髄クモ膜下穿刺に用いられた針先の細菌汚染の比較が行われ、有意差はないという結果が報告されている(カテゴリーC2)。この研究を基に、持続注入またはカテーテル挿入と、穿刺後一回のみ注入の感染性合併症の発生率の違いを検討することはできない(カテゴリーD)。一編の症例対照研究で、腰部硬膜外麻酔と胸部硬膜外麻酔を比較し、カテーテル感染に差はないという結果が得られている(カテゴリーC3)。無作為化が行われていない比較研究三編で、腰部硬膜外麻酔と仙骨硬膜外麻酔におけるカテーテル先端の細菌定着の比較が行われ、有意差は認められなかった(カテゴリーC3)。

本作業部会顧問およびASA会員の両者とも、感染リスクがあることが分かっている患者では、硬膜外麻酔または脊髄クモ膜下麻酔実施の可否の決定は症例ごとに判断することを強く支持している。感染リスクのある患者では硬膜外麻酔または脊髄クモ膜下麻酔に代わる麻酔方法を考慮すべきであるという説については、作業部会顧問は肯定、ASA会員は強く肯定という見解が示された。さらに、本作業部会顧問およびASA会員の両者とも、硬膜外麻酔または脊髄クモ膜下麻酔のいずれの方法を選択するかを決める際に、患者の臨床経過を念頭に置くことを強く支持している。本作業部会顧問およびASA会員の両者ともが、硬膜外膿瘍があることが分かっている患者では脊髄クモ膜下麻酔を回避することを強く支持している。

(3) 抗菌薬予防投与
関連する文献が少ないため、硬膜外麻酔または脊髄クモ膜下麻酔による感染性合併症のリスクが、抗菌薬の予防投与によって低下するかどうかを正確に判断することはできない(カテゴリーD)。症例報告では、抗菌薬を予防投与しても感染性合併症が起こりうることが示されている(カテゴリーB3)。

菌血症が確定または疑われる患者に硬膜外麻酔または脊髄クモ膜下麻酔を行う際に、穿刺に先立ち抗菌薬を投与することを、本作業部会顧問およびASA会員の両者ともが強く支持している。

(4) 無菌操作の実施
硬膜外麻酔または脊髄クモ膜下麻酔による感染性合併症が、無菌操作(例;装身具を外す、手洗い、帽子とマスクの装着、無菌手袋の使用)によって減るかどうかを判断する材料となる文献は不足している(カテゴリーD)。観測研究では、無菌操作を行っても感染が起こりうることが示されている(カテゴリーB2)。症例報告でも同様である(カテゴリーB3)。

特定の消毒液の使用によって硬膜外麻酔または脊髄クモ膜下麻酔に関連する感染性合併症が減らせるか否かを報告する文献は不足している(カテゴリーD)。しかし、二編の無作為化比較対照試験では、硬膜外カテーテル留置時の皮膚消毒にポピドンヨードを使用したときよりも、クロルヘキシジンを使用したときの方が培養陽性率低いことが明らかにされている(カテゴリーA2)。ポピドンヨードだけの消毒液よりも、アルコールとポピドンヨードの混合溶液(DuraPrep)の方が、皮膚and/orカテーテルおよび針の細菌増殖を防ぐ効果が高いことが二編の無作為化比較対照試験で示されている(カテゴリーA2)。

硬膜外麻酔または脊髄クモ膜下麻酔実施時には、無菌操作(手洗い、無菌手袋の着用、帽子の着用、マスクを装着し口と鼻の両方を覆う、皮膚消毒に使用する器材は単回使用のものにする、無菌ドレープを用いる)を必ず行うことを、本作業部会顧問およびASA会員の両者ともが強く支持している。また、無菌操作には指輪などの装身具を外すことを含むべきであることを、本作業部会顧問およびASA会員の両者ともが肯定している。手術用ガウンの着用については、本作業部会顧問およびASA会員の双方から賛否両論の見解が示された。症例ごとにマスクを新しいものに交換することについては、作業部会顧問は肯定、ASA会員はどちらともいえない、という見解を示した。

教訓 準汚染手術後のSSI予防効果についても、ポピドンヨードよりクロルヘキシジンアルコールの方が有効性が高いことが示されています(NEJM 2010年1月7日号 Chlorhexidine–Alcohol versus Povidone–Iodine for Surgical-Site Antisepsis)。米国では皮膚消毒に用いるクロルヘキシジンの濃度は2%ですが、日本では0.5%以下の濃度で使うことに定められています。0.5%クロルヘキシジンアルコールでも同様の結果が得られるかどうかは分かりません。


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麻酔文献レビュー2010年3月 [anesthesiology]

Anesthesia Literature Review Perioperative Medicine

Anesthesiology 2010年3月号より

Risks of Complications by Attending Physicians After Performing Nighttime Procedures
JAMA. 2009;302(14):1565-1572.

レジデントの疲労と医療過誤の関連については世間の注目が集まっているが、熟練医師の労働時間および睡眠と患者の安全との関連についての研究はほとんど行われていない。

ここに紹介した研究は指導医(外科医86名、産婦人科医134名)が実施した手術・手技についての後ろ向きコホート研究である。指導医は研究対象手術実施の前夜(夜12時から朝6時)に開始and/or終了した手術を実施するために在院していた。本研究では、睡眠時間が翌日に行われる手術の合併症発生リスクと関連するかどうかが検証された。同じ医師が前夜に手術を行わなかった場合に実施した、5種類までの類似の手術を対照手術としてマッチングした。

前夜にも手術を行った場合に行われた手術の件数は、外科919例、産科957例であった。対照手術は、それぞれ3552例、3945例であった。前夜実施群と対照群とで、全合併症発生率(5.4% vs 4.9%)および回避可能合併症の発生率(4.6% vs 4.7%)には有意差は認められなかった。合併症の種類についても二群間に違いはなかった。前夜実施群の手術では、実施者の睡眠時間が6時間未満であった場合には、6時間以上の睡眠が確保された場合よりも合併症発生率が高かった(6.2% vs 3.4%)。前夜実施群の手術が連続12時間以上の勤務時間の後に行われた場合は、12時間未満の場合よりも合併症発生率が有意ではないが高い傾向が見られた(6.5% vs 4.3%)。

解説
予定手術を行う指導医が前夜にも働いていた場合、睡眠時間が6時間未満であると6時間以上であったときよりも合併症発生率が高い(6.2% vs 3.4%)。レジデントや大半の麻酔科指導医に適用されているのと同じ勤務規則を、外科指導医にも適用すべきかどうかを明らかにするには同様の研究をさらに行う必要がある。

Collected world and single center experience with endovascular treatment of ruptured abdominal aortic aneurysms.
Ann Surg. 2009 Nov;250(5):818-24.

破裂腹部大動脈瘤(RAAAs)に対する動脈瘤血管内治療(EVAR;ステントグラフト内挿術)の実施可能性および有効性については、しっかりした報告例が蓄積されておらず、前向き研究のデータもないため、甲論乙駁が続いている。

本研究では、世界中の49施設からRAAAsに対するEVAR実施例についての情報収集を行った。解剖学的にEVARが可能であればRAAAsでも全症例にEVARを行っている13施設からは、重ねて最新の情報も得た。本研究の著者が所属する施設で行われた単一施設研究のデータも併せて検討した。

全体では、EVARが行われた1037名の30日後死亡率は21.2%であった。解剖学的にEVARが可能な症例ではRAAAsでも全例にEVARを実施している施設では、RAAAs症例の49.1% (28%-79%)に対しEVARが行われ、EVAR実施症例(680例)の30日後死亡率は19.1% (0%-32%)、開腹術実施例(763例)の30日後死亡率は36.3% (8%-53%)であった(P<0.0001)。EVAR症例のうち、腹腔動脈上バルーン閉塞により出血を制御したのは19.1%、腹部コンパートメント症候群に対し減圧術が行われたのは12.2%であった。

解説
破裂腹部大動脈瘤の患者は死亡率が高い。破裂腹部大動脈症例では開腹術と比べEVARの方が死亡率が低いことが本研究で明らかにされたことから、解剖学的にEVARが可能な症例ではEVARを選択する方が良好な結果が得られる可能性があると考えられる。

Effect of High Perioperative Oxygen Fraction on Surgical Site Infection and Pulmonary Complications After Abdominal Surgery:The PROXI Randomized Clinical Trial.
JAMA. 2009;302(14):1543-1550.

腹部手術後には、重篤な術後合併症である手術部位感染が発生することが珍しくない。周術期に酸素化を良好に維持すると、組織酸素分圧が適切に保たれ順調な創傷治癒が得られるというメリットがあると考えられている。しかし、術中および術直後に吸入気酸素分圧を高くすることについては、賛否両論がある。

PROXI試験は、デンマークに所在する14か所の病院で行われた無作為化二重盲検臨床試験である。緊急または予定開腹手術を受ける1400名の患者を対象とし、80%酸素投与の有効性と危険性についての評価が行われた。対象患者は80%酸素または30%酸素の群に無作為に割り当てられ、術後2時間割り当てられた濃度の酸素を投与された。

手術部位感染および肺合併症の発生率には群間に有意差を認めなかった。

SSI    80%酸素群19.1% 30%酸素群20.1%
結腸直腸術後合併症 80%酸素群23.7% 30%酸素群25.1%
無気肺  80%酸素群7.9% 30%酸素群7.1%
肺炎    80%酸素群6.0% 30%酸素群6.3%
呼吸不全 80%酸素群5.5% 30%酸素群4.4%
30日後死亡率 80%酸素群4.4% 30%酸素群2.9%

解説
開腹術後2時間の吸入気酸素濃度が80%である場合と30%である場合を比べたところ手術部位感染発生率には有意差はなかった。無気肺、肺炎および呼吸不全などの肺合併症についても有意差は認められなかった。手術部位感染を予防する目的で高い吸入気酸素濃度の術後酸素投与を標準的治療とすることの当否は、大半の術式においてまだ明らかにはされていない。

On-Pump versus Off-Pump Coronary-Artery Bypass Surgery.
New Engl J Med 2009; 361: 1827-37

人工心肺使用冠動脈バイパス術(on-pump CABG)を行うと、虚血による症状が改善し生存率が延長する。しかし、血行動態が不安定になるなどの術後合併症は、人工心肺非使用冠動脈バイパス術(off-pump CABG)の方が少ない可能性がある。

本研究は無作為化単盲検比較対照前向き試験であり、準緊急または予定の人工心肺使用または非使用CABGを受けた患者(2203名)について死亡率および合併症発生率の比較が行われた。

人工心肺使用CABG群(1099名)と比べ人工心肺非使用CABG群(1104名)の方が一年後複合転帰(死亡、血管再開通術の再施行もしくは非致死的心筋梗塞)が不良であった(on-pump 7.4% vs off-pump 9.9%)。術前に予定していたグラフト数よりも実際に手術が成功したグラフト数の方が少なかった患者の割合は人工心肺非使用CABG群の方が高かった(on-pump 11.1% vs off-pump 17.8%)。全体のグラフト開存率も人工心肺非使用CABG群の方が低かった(on-pump 87.8% vs off-pump 82.6%, P<0.01)。一年後の追跡調査でも、心合併症による死亡率は人工心肺非使用CABG群の方が高かった(on-pump 1.3% vs off-pump 2.7%)。30日後複合転帰(死亡または合併症発生)には有意差は認められなかった(on-pump 5.6% vs off-pump 7.0%; P=0.19)。神経学的転帰および主要医療資源の短期使用についても差はなかった。

解説
人工心肺非使用冠動脈バイパス術(off-pump CABG)と人工心肺使用冠動脈バイパス術(on-pump CABG)を比較したところ、患者の複合転帰(死亡、心筋梗塞または血管再開通術の再施行)はoff-pump群の方が不良で、一年後グラフト開存率もoff-pump群の方が低かった。以上のデータからは、off-pump CABGをルーチーンで選択するのは避けるべきであると言える。

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集中治療文献レビュー2010年3月 [critical care]

Anesthesia Literature Review Critical Care Medicine

Anesthesiology 2010年3月号より

Prone Positioning in Patients With Moderate and Severe Acute Respiratory Distress Syndrome : A Randomized Controlled Trial.
JAMA. 2009;302(18):1977-1984.

ARDSは重篤な低酸素血症を呈する死亡率の高い疾患である。高度の低酸素血症が認められる場合に腹臥位にすると、救命的措置としての効果が得られることが示されていることから、ARDS患者では腹臥位が推奨されている。この研究は、前向き多施設無作為化非盲検比較対照試験(the Prone-SpineⅡstudy)である。対象は中等度から重度の低酸素血症を呈し人工呼吸を要するARDS患者342名で、腹臥位によって転帰が改善する可能性についての評価が行われた。対象患者は仰臥位(174名)または腹臥位(20時間/日;168名)に無作為に割り当てられ、人工呼吸管理が行われた。28日後全死因死亡率が記録された。

仰臥位群と腹臥位群の死亡率は同等であった(28日後死亡率:31.0% vs 32.8%; P=0.72、6ヶ月後死亡率:47.0% vs 52.3%; P=0.33)。低酸素血症が中等度の群と重度の群とに分けてみても、仰臥位群と腹臥位群の死亡率は同等であった。さらに、少なくとも一つの合併症(例;鎮静を深くしなければならない、筋弛緩を要する、血行動態が不安定になる、気管チューブの位置異常)が発生した患者の割合は、腹臥位群の方が有意に大きかった。

解説
よく練られた研究である。人工呼吸を要する中等度から高度のARDS患者にルーチーンで腹臥位を行っても、死亡率および合併症発生率の点から、何ら有益性は得られないことが明示された。だからといって、ARDSでICUに入室した患者に例外なく腹臥位を行ってはならないというわけではない。しかし、一時的な酸素化の改善を得るためにICU患者を腹臥位にするという決定を下す際には、利害得失を十分に比較考量すべきである。

Comparison of routine and on-demand prescription of chest radiographs in mechanically ventilated adults: a multicentre, cluster-randomised, two-period crossover study.
Lancet 2009; 374: 1687-93

アメリカ放射線医学会は、ICUで人工呼吸が行われている患者では胸部X線写真を毎日撮影することを推奨している。しかし、胸部写真を毎日撮る必要性の有無については賛否両論があり医師全体の合意は形成されていない。患者の状態をみて必要だと判断されるときにのみ胸部写真を撮影する、必要時撮影法(on-demand strategy)と比べ、ルーチーンで毎日撮影すると患者の被爆も医療費も増加する。

胸部X線写真のルーチーン毎日撮影と必要時撮影(オンデマンド撮影)について、その便益とリスクを比較する目的で、18病院に所属する21か所のICUにおいてクラスター無作為化クロスオーバー研究が行われた。各ICUにおいて連続20名の患者を登録し、ICU退室または人工呼吸開始後第30日のいずれか早い時点まで観測した。主要転帰は平均胸部X線写真撮影回数/患者数・人工呼吸日数とした。

必要時撮影が行われた患者(425名;胸部写真3148回)は、ルーチーン毎日撮影が行われた患者(424名;胸部写真4607回)と比べ撮影回数が32%少なかった(P<0.0001)。何らかの診断手技や治療手技に結びついた胸部写真の枚数については、二群間に有意差は認められなかった。人工呼吸日数、ICU日数および死亡率は両群同等であった。

解説
ICUで人工呼吸管理が行われている患者において、胸部写真は必要時に撮影する方が毎日ルーチーンで撮影する場合と比べ安全で費用対効果も良好であることが明らかにされた。つまり、教科書通りの方法でしっかりと読影するのであれば、胸部写真は必要時に撮影すればよいということである。

Extracorporeal Membrane Oxygenation for 2009 Influenza A(H1N1) Acute Respiratory Distress Syndrome.
JAMA. 2009;302(17):1888-1895

2009年に発生した新型インフルエンザA (H1N1)による、多くのICU入室症例があった。特に南半球の冬期にICU入室に至る患者が多く発生した。新型インフルエンザによるICU入室例ではARDSを発症する割合が高く、一部の症例では通常の方法では管理しきれず、ECMOを要した。

本研究はインフルエンザA (H1N1)にARDSを併発した患者(201名)を対象とした前向き観測研究で、オーストラリアおよびニュージーランドに所在するICU 15施設で行われた。従来法で管理された患者は133名、ECMOが実施された患者は68名であった。従来法で管理された患者と比べ、ECMOが行われた患者の方が若く(36歳 vs 44歳, P=0.02)、基礎疾患が少なく(P=0.02)、昇圧薬を要する患者の占める割合が高かった(57% vs 34%, P=0.02)。ECMO実施例では開始直前のARDSの程度が重篤であった:肺保護人工呼吸でP/F 55、67%の患者にリクルートメント手技、20%の患者に腹臥位、5%の患者にHFOV、32%にNO投与、22%にプロスタサイクリンが投与された。患者の93%において静脈脱血-静脈返血でECMOが行われた。ECMO実施期間中央値は10日で、開始24時間後回路血流の中央値は4.9L/minであった。ECMO中の出血性合併症および感染性合併症はそれぞれ患者の54%および62%に発生した。従来法で管理された患者と比べ、ECMOが行われた患者では、人工呼吸期間が長く(18日 vs 8日, P=0.001)、ICU滞在日数が長く(22日 vs 12日, P=0.001)、死亡率が高かった(23% vs 9%, P=0.01)。ECMO群では死亡例の74%において、出血性合併症が死因に関与していた。

解説
本研究には様々な問題点(無作為化、ECMO開始時期、患者転送など)があるが、従来法群もECMO群も死亡率が低かった。ARDS併発例では、他の臓器不全が発生するのを待たずに速やかにECMOを導入すると転帰が改善するのではないかと推察される。ただし、この推論の当否については今後の検証が必要である。

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重症患者の凝固能低下~凝固因子の異常⑨ [critical care]

Coagulopathy in Critically III Patients Part 2–Soluble Clotting Factors and Hemostatic Testing

CHEST 2010年1月号より

凝固能検査と手術・観血的手技

凝固能検査は一般的に、凝固能が適切に機能しているかどうかを評価したり、手術や侵襲的手技が安全に行えるかどうかを見極めたりするために行われる。特に、抗凝固薬を内服している患者や、肝不全のように凝固能に異常を来す疾患のある患者ではこのような目的で凝固能検査が実施される。特定の手技における「許容範囲内」の凝固能(または抗凝固状態)の程度は、手技の特性(予定手術 vsベッドサイドで行う緊急手技)と、凝固能異常の是正の難易度および安全性によって左右される。重症患者が予定手術を受けることはまずないので、以下では準緊急および緊急手技について述べる。血栓性疾患の治療が行われている患者において凝固能異常の是正が安全かどうかを判断する際には、抗凝固作用を保ったままで手技を行う場合の出血リスクと、抗凝固療法を中止する場合の血栓形成リスクの双方を評価しなければならない。出血リスクには数多くの要因が関与している。例えば、年齢、基礎疾患、抗凝固療法の強度、手術または手技の種類などである。長時間を要する複雑な手術や、緊急手術・手技は、短時間で終わる小手術やベッドサイド手技よりも重大な出血が発生する危険性が高い。内視鏡を行う場合、単なる観察や簡単な生検を行うのであれば出血リスクは低いと考えられる。反対に、経皮的チューブ挿入、拡張術、括約筋切除、穿刺吸引細胞診などを行うのであれば出血リスクは高い。内視鏡で観察してからでないとどんな手技を行うかが決定されない場合は、実施する可能性のある範囲内で最も侵襲の高い手技に合わせて凝固能を管理する。重篤な血栓性疾患または血栓形成傾向のある患者では、普段の抗凝固療法を中止し、手技の前後は短時間作用性の抗凝固薬を使用することがある。この場合、手技の前後には頻繁に凝固能検査を行いモニタリングする必要がある。

侵襲的手技を安全に行うことができるPT-INRやAPTTの値は、複雑な問題であるだけに、主に臨床経験に基づいた見解によって決められている。通常、手術および多くの侵襲的ベッドサイド手技を行う際にはPT-INRが1.5以下であることが望ましい。腹腔穿刺、胸腔穿刺および鎖骨下静脈以外の中心静脈カテーテル留置は、緊急性があればPT-INRが1.5を超えていても実施されることがある。しかし、PT-INRが2を超える場合には、緊急性があってもできれば避けるべきである。FFPやビタミンKなどを投与すればPT-INRは低下する。ビタミンK拮抗薬(ワーファリンなど)や低栄養のせいでPT-INRが上昇している場合には、ビタミンKの投与がとりわけ有効である。臨床ではビタミンKを10mg投与するやり方が広く行われているが、大半の症例ではもっと少ない量(1~2mg)でもPT-INRを十分回復させることができる。APTT延長のよくある原因はヘパリン投与であり、この場合は通常、ヘパリン投与を中止してAPTTの是正が図られる。未分画ヘパリンは手技の少なくとも1時間前には投与を中止する。低分子量ヘパリンは、12時間前に中止する。未分画ヘパリンも低分子量ヘパリンも、手技終了後に止血が確認されれば再開してよい。未分画ヘパリンの作用を急いで拮抗しなければならないときは、体内残存ヘパリン100単位につき硫酸プロタミン1mgを投与する。低分子量ヘパリンの場合はこのようなことはあまりないが、未分画ヘパリンと同様に硫酸プロタミンで拮抗可能である。だが、フォンダパリヌクスはプロタミンでは拮抗できない。

まとめ

重症患者では凝固能検査の異常値が認められることが多い。生憎、その大部分はアーチファクトである。もし検査結果の異常が真実の反映であれば、出血や血栓などの合併症が発生する可能性があり、患者の転帰が悪化することを意味する。重症患者では可溶性凝固因子の異常は、血小板減少よりも頻度は低いが起こらないというわけではない。血小板減少and/or凝固時間の延長は、出血の危険性があることを意味するため、診断や治療のための観血的手技が回避されることもある。凝固能検査の限界や、異常値が出る原因、および実際に得られた結果を深く理解すれば、重症患者の凝固能障害を正しく診断し治療することができるようになるだろう。

教訓 手術および観血的ベッドサイド手技を行う際のPT-INR目標値は1.5以下です。2を超えているときは、緊急性があってもなるべく避けるのが無難です。未分画ヘパリンは手技の少なくとも1時間前には投与を中止し、低分子量ヘパリンは、12時間前に中止します。
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重症患者の凝固能低下~凝固因子の異常⑧ [critical care]

Coagulopathy in Critically III Patients Part 2–Soluble Clotting Factors and Hemostatic Testing

CHEST 2010年1月号より

ヘパリン類のモニタリング

APTTは診断に利用されるだけでなく、ヘパリン、ヒルジン、レピルジン、ビバリルジンおよびアルガトロバンなどの抗凝固薬のモニタリングにもよく用いられている。未分画ヘパリンはアンチトロンビンと結合し第Ⅱ、Ⅸ、Ⅹ、XⅠ、XⅡ因子の活性を阻害する。したがって、未分画ヘパリン持続静注時の抗凝固作用の監視にはAPTTを用いる。ヘパリンは組織因子経路(外因系)に属する第Ⅹ因子および第Ⅱ因子の作用を阻害するのに、PTはヘパリンによっては延長しないと誤解している者がいる。この理由は簡単には説明できないが、PTの検査法の中にはヘパリン中和物質を用いる方法があることや、そうでない検査法の場合にはヘパリンが組織因子経路よりも接触活性化経路により強く作用することが誤解を生む原因となっている。APTTにはヘパリン以外にも様々な要因が影響を及ぼすので、ヘパリン類の効果をモニタリングする理想的な方法とは言えない。例えば、フィブリノゲンをはじめとする多くの急性相反応物質には、未分画ヘパリンと結合しその作用を打ち消す働きがある。さらに、第Ⅷ因子は急性相反応物質であるとともに、in vitroではAPTTを短縮する作用を持っているので、誤って未分画ヘパリンの効きが悪いと判断される原因となり得る。このような例では、抗Ⅹa活性検査またはヘパリン血中濃度測定を行えば抗凝固の程度を判断することができる。アンチトロンビンが欠乏している患者はヘパリン抵抗性を呈する。しかし、ヘパリン抵抗性が出現する原因は、アンチトロンビン欠乏症であることよりも、ヘパリン投与量の不足や、非特異的な急性相反応物質の存在であることの方が多い。検査室によってばらつきはあるが、ヘパリン類使用時のAPTT目標値は正常値の1.5~2.5倍である。このAPTTの値は抗Ⅹa活性検査だと概ね0.3-0.7単位/mLに相当する。抗凝固作用が迅速かつ良好に得られていることを確認するには、ヘパリンを投与しはじめてからおよそ6時間後にAPTTを測定しなければならない。ヘパリン投与量プロトコルを用いると、迅速かつ安全に適切な抗凝固療法を行うことができる。どんな種類のヘパリンも、少しは腎から排泄される。したがってGFRが30-50mL/minを下回る場合はヘパリン投与量を減らす必要がある。低分子量ヘパリンについては、添付文書に従って病態による投与量の調節を行い、モニタリングが必要な場合は抗Ⅹa活性検査を行わなければならない。低分子量ヘパリンは第Ⅹa因子を阻害するが、トロンビンにはほとんど影響を及ぼさないので、APTTをあまり延長させない。トロンビン以外の凝固因子の変化については、APTTの反応は敏感ではないのである。しかし、一定量の低分子量ヘパリンによる抗凝固作用は、患者の体重と非常に良く相関するので、通常は低分子量ヘパリンについてはモニタリング検査を行う必要はない。未分画ヘパリンの場合はAPTTを測定すればたいていは十分であるが、ヘパリン必要量が多いと感じられるときは、実際の抗凝固作用の強さをよりよく反映する抗Ⅹa活性検査またはヘパリン血中濃度測定を行うとよい。重症患者における低分子量ヘパリンの薬力学は詳しくは分かっていない。重症患者ではバイオアベイラビリティ(生物学的利用能)が低下しているとか、腎不全があっても低分子量ヘパリンは蓄積しないという報告がある。

ヒルジン、レピルジン、ビバリルジンおよびアルガトロバンは活性化第Ⅱ因子(トロンビン)を阻害するので、APTTで抗凝固作用をモニタリングすることができる。ビバリルジンは主に心臓およぶ血管インターベンション時に主に使用され、APTTで抗凝固のモニタリングが可能であるもののACTが用いられていることが多い。また、腎不全症例以外では、ビバリルジン使用時に抗凝固作用のモニタリングが必要になることはほとんどない。抗凝固薬の血中濃度とAPTTのあいだにはきれいな相関は認められないというデータが得られていて、血中濃度が高くてもAPTTはそれほど延びない。上述の抗凝固薬を使用する際は、各薬剤の特徴を熟知しなければならない。原則は未分画ヘパリンのときと同様で、APTTの目標値は基準値の1.5-3倍である。投与開始から約3-4時間後にモニタリングを開始し、APTTが目標値に達し安定したら測定頻度を減らせばよい。目標値で安定したら、腎機能に変化が認められない限り、一日一回の測定で十分である。ヘパリンと同様に、ヒルジンとレピルジンの投与量は腎不全症例では減らさなければならない。ビバリルジンは主に血漿中のペプチダーゼによって分解され、一部が腎排泄である。したがって、腎不全でも投与量を減らす必要はあまりない。一方、アルガトロバンは主に肝排泄なので、肝不全患者では投与量を減らさなければならない。

教訓 未分画ヘパリン持続静注時の抗凝固作用の監視にはAPTTを測定します。APTT目標値は正常値の1.5~2.5倍です。ヘパリンを投与しはじめてからおよそ6時間後にAPTTを測定します。GFRが30-50mL/minを下回る場合はヘパリン投与量を減らす必要があります。通常は低分子量ヘパリンについてはモニタリング検査を行う必要はありません。
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重症患者の凝固能低下~凝固因子の異常⑦ [critical care]

Coagulopathy in Critically III Patients Part 2–Soluble Clotting Factors and Hemostatic Testing

CHEST 2010年1月号より

抗凝固療法のモニタリング

ワーファリンのモニタリング
ワーファリンを投与すると24時間以内に第Ⅶ因子が減少しPTは延長するのだが、他のすべてのビタミンK依存性凝固因子も減少するまでは血栓形成のリスクは低下しない(半減期は第Ⅸ因子24時間、第Ⅹ因子48時間、第Ⅱ因子60時間)。そのため、ワーファリン投与開始後も、ヘパリンもしくは第Ⅹa因子阻害薬を少なくとも2、3日は投与しなければならない。PTは世界標準比としてあらわされるので、異なる検査機関で実施しても互いの値を同じ土俵の上で比較することができる。出血の危険性の大きさとPTの延長の度合いはよく相関するが、正比例の関係ではない。例えば、INRが3を超えるまでは出血のリスクは比較的低いが、INRが10を超えると出血の危険性は指数関数的に大きくなる。出血のリスクにはその他の数多くの要素も関与する。血小板の数や機能の低下、高齢、アルコール乱用、心不全および高血圧などはすべて、PT延長時に出血の危険性を有意に増大させることが明らかにされている。

教訓 PT-INR<3のときは出血のリスクは比較的低く、>10になると指数関数的に出血リスクが大きくなります。
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重症患者の凝固能低下~凝固因子の異常⑥ [critical care]

Coagulopathy in Critically III Patients Part 2–Soluble Clotting Factors and Hemostatic Testing

CHEST 2010年1月号より

PTとAPTT双方の異常

大半の凝固能障害では共通系に属する凝固因子の産生量が少なかったり、産生量を消費量が上回ったりしてPTもAPTTも延長する。最も単純な凝固能障害は、単に産生量が足りない場合である。第Ⅷ因子以外のすべての凝固因子は肝臓で作られる。つまり、肝不全はPTとAPTT両者に異常を来す一般的な原因である。同様に、低栄養またはワーファリン内服によっても肝臓におけるビタミンK依存性凝固因子(Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ)の産生量が低下する。ビタミンK依存性凝固因子のうち二つは共通系に属する。いずれの場合も、FFPを投与し足りない凝固因子を補充すれば、検査結果は正常化する。しかし、原因が肝不全のときは、FFPを投与して是正してもその効果は一時的である。補充した凝固因子が消費されても、新しい凝固因子は作られないので、一日も経てば元の木阿弥である。反対に、低栄養やワーファリンが原因のときは、ビタミンKを投与すれば凝固能障害は速やかに改善する。凝固能低下がワーファリンによるものなのか、肝機能低下によるものなのかは、病歴を聴取すれば簡単に判別できることが多い。検査で鑑別するのであれば、FDPやD-dimerなどのフィブリン分解産物やフィブリノゲン濃度を測定すればよい(Table 3)。ワーファリン内服による凝固能低下では、いずれも正常値を示す。重症肝疾患の場合には、凝血塊が分解されてできた分解産物が処理されないので、D-dimerが上昇する。合成能低下による凝固因子欠乏をFFP投与により是正しても、処理能の低下は改善しないのでin vitroの凝固時間は延長したままのことがある。凝固能障害の原因が肝疾患であると診断する際には、ビリルビンの上昇やアルブミンの低下などの所見も参考になる。

「APTTだけの異常」の項で既に述べたように、ヘパリンは少量であれば第XⅡ、XⅠおよびⅨ因子に対して強く作用する。したがって、ヘパリン少量投与時はPTよりもAPTTの方が延長の度合いが大きいのである。一方、ヘパリンを大量投与すると第Ⅹa因子が阻害されるだけでなく、トロンビンによるフィブリノゲンからフィブリンへの転換も妨げられる。この二つの阻害作用により共通系が破綻し、PTもAPTTも両方とも延長する。検査室によっては、PTを測定する際に、ヘパリンを中和するために検体血液に必ずヘパリナーゼを添加している。ワーファリン内服や肝疾患と、ヘパリン使用を区別するにはほぼ例外なく病歴聴取だけで事足りる。検査で確認する必要があるのであれば、ヘパリン使用時は(肝疾患と異なり)フィブリノゲンとFDPが正常、ワーファリン内服時は(ヘパリン使用時と異なり)TTが正常である。さらに、ヘパリンの影響はin vitroでヘパリナーゼを添加すれば消失するという点も鑑別に資する。

ICUでは、PTとAPTTの両者に異常をきたす単一の原因として最も頻度が高いのはDICであると思われる。DICに陥ると、凝固因子と血小板が消費され、凝血塊の分解物質が放出され、そのため最終的には抗凝固タンパクまでもが消費される。DICの原因が重症敗血症、外傷または腫瘍のいずれであれ、血液の凝固を起こす刺激が契機となり、すべての凝固因子が消費され、どんどん減少する。FDPsは血小板機能とフィブリン形成を妨げるので、事態をさらに悪化させる。血小板が破壊されると血小板第4因子(PF4)が放出され、場合によってはこのせいでDICとHITとの鑑別を見誤ることがある。DICでは出血が問題であると捉えられているが、本体は微小血管における血栓形成であり、このせいで赤血球がダメージを受け破砕赤血球が出現したり、組織の虚血が隠然と進行したりする。DICで形成される血栓は、病初期には抗凝固タンパク系によって処理される。組織因子系(外因系)に作用する阻害因子は活性化第Ⅸ因子と活性化第Ⅹ因子に拮抗し、プロテインCとプロテインSの複合体は活性化第Ⅴ因子および活性化第Ⅷ因子の活性を阻害する。そして、アンチトロンビンおよびその他のタンパクによって広範なプロテアーゼ阻害作用が発揮される。同時に、プラスミノーゲンをはじめとする内因性の血栓溶解機構が働き、微小血栓が溶解される。しかし、血栓形成を促進する刺激がなくならない限り、凝固因子の消費はおさまらず、最終的には凝固因子が著しく減少した状態に陥るのである。

全ての凝固因子が減少するので、DICではPTもAPTTも延長し、フィブリノゲン濃度が低下し、凝血塊分解産物が増える。APTTよりもPTの方が延長の程度が大きいことが経験的に知られている。これは、第Ⅶ因子の半減期が短いせいであると考えられている。しかし、DIC症例の相当数は十分な管理が行われ、PT、APTTのいずれも延長せず、フィブリノゲン濃度も正常域を保っていることがある。DICではFDPs and/or D-dimer濃度は必ず上昇する。凝固能亢進を示す指標には、プロトロンビンフラグメント1+2、フィブリノペプチドA、フィブリン単量体、トロンビン-アンチトロンビンⅢ複合体(TAT)など、他にもたくさんある。しかし、このような指標を用いることによって治療の質が改善するかどうかは不明である。プラスミノゲンやアンチプラスミン濃度のような線溶系の検査についても同様である。

DICの治療において最も大切なのは原因疾患の治療である、という古くからの格言は真実ではあるが、往々にして原因疾患の治療は難しい。とはいえ、DICの病因によってはDIC自体に対する特異的な治療法も存在する。重症敗血症では、遺伝子組み換えヒト活性化プロテインC(rhAPC)を使用すると炎症マーカの低下や凝固能亢進の抑制といった効果が得られ、臨床転帰も改善することが示されている。急性前骨髄球性白血病(APL)は悪性腫瘍の中で最もDICを発症しやすい疾患である。急性前骨髄球性白血病に伴うDICについても特異的な治療法がある。前骨髄球の表面には組織因子に似た分子が発現しており、そのため組織因子経路(外因系)が活性化する。また、前骨髄球にはプラスミノゲン受容体も発現しているので、一次線溶が活性化する。以上の機序により、急性前骨髄球性白血病では激しい線溶活性化を特徴とするDICが発生するのである。血小板や凝固因子(クリオプレシピテートやFFP)を投与する補充療法に加え、all-trans retinoic acid(ATRA;トレチノイン)が急性前骨髄球性白血病に伴うDICには有効である。ATRA(トレチノイン)はAPL細胞の分化を促進するので、ATRAを投与すると組織因子やその他の表面タンパクの発現が抑制されるのである。

希釈性凝固能障害でも、すべての凝固因子の血中濃度が低下するため、PTおよびAPTTの両者が延長する。希釈性凝固能障害は外傷患者における報告例が多いが、大量輸血を要する大量出血症例であれば、出血の原因が何であれ凝固因子の希釈は起こりうる。この場合、FFPまたは新鮮全血を投与し凝固因子を補充すればPTおよびAPTTを是正することができる。

教訓 ヘパリンは少量であれば第XⅡ、XⅠおよびⅨ因子に対して強く作用します。ヘパリン少量投与時はPTよりもAPTTの方がのびます。一方、ヘパリンを大量投与すると第Ⅹa因子が阻害されるだけでなく、トロンビンによるフィブリノゲンからフィブリンへの転換も妨げられます。ヘパリン大量投与時は、この二つの阻害作用によりPTもAPTTも両方とも延長します。
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重症患者の凝固能低下~凝固因子の異常⑤ [critical care]

Coagulopathy in Critically III Patients Part 2–Soluble Clotting Factors and Hemostatic Testing

CHEST 2010年1月号より

APTTだけの異常

目下のところ、APTTの検査方法はPT-INRのようには標準化されていない。したがって、検査機器の較正の仕方や試薬の種類によって結果にばらつきが生ずるので、各施設における正常値を知っておかなければならない。正しく検体が採取されている場合、APTT(接触活性化経路)のみが延長する原因として最も頻度が高いのは、未分画ヘパリン、ヒルジン、アルガトロバンまたは遺伝子組み換えヒト活性化プロテインC(rhAPC)の使用である。このうちヘパリンは典型例である。ヘパリンはアンチトロンビンと結合し、第XⅡ、XⅠ、Ⅸ、ⅩおよびⅡ因子を阻害する。このうち三つ(Ⅸ、XⅠ、XⅡ)は接触活性化経路に特異的な凝固因子であり、共通系に属する他の二つ(ⅩとⅡ)よりもヘパリンの影響を受けやすい。PTよりもAPTTの方がヘパリンによって大きく変化する。血液検体に誤ってヘパリン(または低分子量ヘパリン)が混入した場合、in vitroでヘパリンを拮抗するためにヘパリナーゼを添加してもよい。TTが正常であればAPTT延長の原因がヘパリンであることを否定することができる。なぜなら、TTはヘパリンに非常に鋭敏に反応するので、TTが正常値であればヘパリンの影響がないと言い切れるのである。未分画ヘパリンのボーラス投与後や誤って過量投与した後でヘパリンの血中濃度が非常に高ければ、第ⅡおよびⅩ因子も阻害され、PT、APTT共に延長する。内因性の凝固能障害ではAPTTが100秒を超えることはまずない。したがって、APTTが100秒以上に延長しているときには、ほぼ確実にヘパリンが影響していると言える。死亡の危険性が高い重症敗血症の治療薬としてrhAPCを用いている場合はAPTTの評価に注意が必要である。rhAPCは半減期が10~15分なので、採血後15~30分後にAPTTを測定する場合よりも、ただちに検査したときの方が結果が延長する。

APTTが延長しているほど出血の危険性が高いことが経験的に広く指摘されているが、この両者の相関を裏付けるデータは少ない。抗凝固薬は種類を問わず過量投与すれば出血を引き起こす可能性があり、その治療法は考えるまでもなく明らかである;大半の症例では抗凝固薬を中止すれば数分から数時間以内に抗凝固作用が消失する。未分画ヘパリンの作用を急いで拮抗しなければならない場合は、硫酸プロタミンを用いる。体内に残ったヘパリン100単位に対しプロタミン1mgを投与することが推奨されているが、実際はどれだけのヘパリンが活性を保って体内に残っているかを判断するのは難しい。プロタミンはフォンダパリヌクスを拮抗することはできない。

APTTは接触活性化経路を構成する凝固因子の阻害因子が存在する場合も延長する。たいていの場合、この阻害因子はリン脂質に対する抗体である(ループス抗凝固因子や抗カルジオリピン抗体)。稀には、特定の凝固因子に対する抗体であることもある。阻害因子を検出するには、患者血漿に等量の正常血漿を混合する検査を行う。しかし、抗凝固剤が混入すると阻害因子の作用と区別できなくなるため、混合試験を行う際は抗凝固剤が混入しないように注意しなければならない。患者検体中に阻害作用を持つ抗体が存在すれば、混合試験によるAPTTの結果は延長したままである。単なる凝固因子の欠損であれば、混合試験によるAPTTは正常化する(いずれかの凝固因子が欠損していても、混合試験を行えばすべての凝固因子が少なくとも正常値の50%レベルにはなる。凝固因子が正常の半分もあればAPTTの結果は正常値を示す。)。この原則の例外は、抗第Ⅷ因子抗体が存在する場合である。検体をすぐに混合して検査を行うとAPTTは正常値を示すので、正常血漿と患者血漿を長時間(2時間ぐらい)incubationしてから混合し検査を行うと、APTTが延長していることが分かる。臨床的に必要であれば、どの凝固因子が欠損しているかを同定する特異的な検査を行う。抗リン脂質抗体を保有する患者では、ヘパリンによる抗凝固作用を監視するのが困難なことがある。なぜなら、ヘパリン投与前からAPTTが延長していたり、ヘパリンを開始するとAPTTが著しく延長することがあったりするからである。いずれの場合も、未分画ヘパリンの抗凝固作用のモニタリングには抗Ⅹa活性検査が有用である。

Figure 2に示した通り、第Ⅷ因子(血友病A)、第Ⅸ因子(血友病B)、第XⅠ因子、第XⅡ因子の欠損または阻害因子があるとAPTTのみが延長することがある。ただし、各凝固因子の血中濃度がかなり低くならなければAPTTは延長しない。理論的には、凝固因子の欠損は新鮮凍結血漿(FFP)の投与によって是正することができる。しかし、FFPの投与は非効率的であり、患者を感染、容量負荷および輸血反応などの危険にさらすことになる。クリオプレシピテートは第Ⅷ因子とvWFの濃縮製剤である。第ⅧおよびⅨ因子については遺伝子組み換え製剤が市販されていて、この製剤にはヒト血漿が含まれていないので感染リスクは皆無で、投与水分量が少なくて済む。現在では、クリオプレシピテートよりも遺伝子組み換え製剤の方が好んで使用されている。後天的に第Ⅷ因子インヒビターを獲得した患者では、バイパス療法や遺伝子組み換え活性化第Ⅶ因子製剤投与によって、第Ⅷ因子の機能不全に対処することができる。さらに、プロトロンビン複合体濃縮製剤が世界中で15社以上から市販されているので、第Ⅸ因子欠損症の治療にはこの製剤を用いる。米国以外では、第XⅠ因子濃縮製剤および第XⅢ因子濃縮製剤も市販されている。単一凝固因子の欠損症が疑われるまたは確定している患者の治療にあたる際は、血液凝固の専門家に相談すべきである。こうした疾患の治療は複雑で費用がかかり、場合によっては危険が伴うからである。

教訓 PTよりもAPTTの方がヘパリンによって大きく変化します。TTが正常値であればヘパリンの影響がないと言えます。内因性の凝固能障害ではAPTTが100秒を超えることはまずありません。APTTが延長しているほど出血の危険性が高いことを示すデータは、実はあまりありません。
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重症患者の凝固能低下~凝固因子の異常④ [critical care]

Coagulopathy in Critically III Patients Part 2–Soluble Clotting Factors and Hemostatic Testing

CHEST 2010年1月号より

可溶性凝固因子の異常

はじめに
単一凝固因子の先天性欠損症の発生率は、100万人当たり0.5~2名である。先天性凝固因子欠損症の多くは小児期の大出血を契機に診断される。しかし、フォンウィルブランド病の場合は、成人期に至るまで出血素因が明るみに出ないことがある。また、プロテインCまたはプロテインS欠損症や第Ⅴ因子ライデン変異のように、血栓性素因をもたらす凝固因子欠損症も、成人になるまで診断されないことがある。

成人ICUで見られる可溶性凝固因子の異常の大半は、後天性で、複数の凝固因子の異常を呈する。したがって、抗凝固薬投与例を含む、このような後天性凝固能障害の大部分では、PTもAPTTも延長する。凝固能検査の結果が異常のときは、全体的な臨床像を踏まえて評価を行わなければならない。なぜなら、いずれの検査結果についても、唯一無二の解釈は存在しないからである。重症患者でよく見られる病態における凝固能検査の結果をTable 3にまとめた。In vitroの凝固能検査では凝固能低下が認められても、臨床的には出血のリスクはなかったり、むしろ血栓症のリスクが高かったりする場合も多い。例えば、稀な疾患であるHMWK(高分子量キニノゲン)欠損症では、APTTは著しく延長するが、出血のリスクは上昇しない。抗リン脂質抗体症候群でもAPTTは延長するが、この疾患では血栓症が起こりやすい。したがって、APTTやPTが延長しているからと言って、必ずしも出血性素因があるとは限らない。一方、プロテインCまたはプロテインSなどの可溶性凝固因子の欠損症では、異常な血栓形成が認められる。先天性血栓性素因の発生率は低くはないが、きちんと評価が行われている症例は少ない。先天性血栓性素因については他文献を参照のこと。

PTだけの異常
Figure 1を見れば分かるように、組織因子(外因性)経路だけの異常はPT検査で分かる。第Ⅶ因子の異常があるときにのみPTは異常値を示す。第Ⅶ因子欠損症は常染色体劣性遺伝の疾患で、報告例はあるものの非常に稀である。第Ⅶ因子は肝臓で合成され、半減期はわずか4-6時間である。肝不全の初期やワーファリンによる抗凝固療法開始後早期には、PTのみが延長することがある。しかし、肝不全発症後またはワーファリン投与開始後数日以内には、肝臓で合成される他の半減期の長い凝固因子(第Ⅸ、XおよびⅡ因子)も減少するため、PTだけでなくAPTTも延長する。第Ⅶ因子の合成にはビタミンKが深く関与しているため、低栄養や広域スペクトラムの抗菌薬使用などによる軽度のビタミンK欠乏症であっても、PTのみが延長し、APTTは正常値を呈することがある。しかし、より重度のビタミンK欠乏症では、第Ⅶ因子以外のビタミンK依存性凝固因子も減少し、PTと共にAPTTも延長する。

教訓 APTTやPTが延長しているからと言って、必ずしも出血性素因があるとは限りません。抗リン脂質抗体症候群やHMWK欠損症(稀)でもAPTTは延長しますが、むしろ血栓症が起こりやすいので周術期DVT予防などの注意が必要です。
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重症患者の凝固能低下~凝固因子の異常③ [critical care]

Coagulopathy in Critically III Patients Part 2–Soluble Clotting Factors and Hemostatic Testing

CHEST 2010年1月号より

特殊検査

心カテ室のように凝固能を逐次評価しなければならない場所では、活性化凝固時間(ACT)がよく用いられる。特に、未分画ヘパリンやビバリルジンの抗凝固作用の評価にはACTの測定が行われることが多い。ACTは、全血に活性化物質(例;セライト、カオリン、ガラス粒子)を加え凝血塊ができるまでの時間を計測する検査である。つまり、凝固因子と血小板機能をまとめて評価する非特異的な検査である。試薬も凝血塊検出法(例;凝血塊の外力による変形耐性を測定する方法、血液の電気的もしくは機械的性質の変化を測定する方法)も標準化されていないので、検査装置が異なれば同じ検体でも結果は異なる。また、ACTはAPTT、PTおよび抗Ⅹa活性検査の結果とはあまり相関しない。

Figure 2に示す如く、共通系経路に関わる第X、Ⅴ、Ⅱおよびフィブリノゲンに異常があればPTもAPTTも延長する。これらのいずれの凝固因子に異常があるのかを知ることが臨床的に必要であれば、以下に挙げる追加検査を行う:ラッセル蛇毒法、トロンビン時間(TT)またはレプチラーゼ時間。ラッセル蛇毒法は、第X因子を直接的に活性化し共通系の全過程を評価する方法である。TTとレプチラーゼ時間は、外から添加したトロンビンによってフィブリノゲンからフィブリンが形成される速度を測定するものである。つまり、フィブリノゲンの量と機能のみを評価する検査であり、低フィブリノゲン血症もしくはフィブリノゲン異常症の患者を同定するのに役立つ。レプチラーゼ時間とTTの主な違いは、レプチラーゼ時間はヘパリンの有無によって値が変化しない点である。フィブリノゲン量は直接測定することによって評価することもできる。大量輸血後に低フィブリノゲン血症が疑われる場合には、以上の検査が有用なことがある。

出血時間は比較的雑駁な検査である。標準化された皮切をランセットで加え、ガーゼを軽く押し当てながら血液が固まるまでの時間を計測する。出血時間は、組織の統合性、血小板機能および凝固因子を複合的に評価する方法であり、特に血小板機能をみるのに有用であるとされている。しかし、検査法によって結果が大きく左右され、他のin vitro検査とあまり相関しない。ただし例外として、血小板数が50×10^9/L未満になれば出血時間は必ず延長することが知られている。出血時間はICUではほとんど行われなくなった。実施が難しく、人手を煩わし、臨床的に出血を予測するには心許ないからである。

線溶の検査

「フィブリン分解産物」(FDP)という用語は、フィブリンおよびフィブリノゲンがプラスミンの酵素作用によって分解された産物の総称である。DダイマーはFDPの一つをあらわす特異的な用語である。できあがった凝血塊のフィブリンが分解されて出現する物質であり、それ以外の場合に検出されることはない。非特異的なFDPやfibrin split-productは、凝血塊がなくても検出されることがある。DダイマーにしてもFDPにしても、残念ながら特異度が低く、血栓性疾患(静脈血栓塞栓症、心筋梗塞、DICなど)の患者で検出されるにとどまらず、術後患者、癌患者および妊婦でも上昇が認められることがある。慢性肝疾患患者では肝臓によるFDPの処理が障害され、FDPが上昇することがある。以上から、ICUではFDP検査の有用性はあまり高くない。市販されている検査キットには様々な種類のものがあり(ラテックスまたは赤血球凝集、ELISAなど)、感度に大きなばらつきがある。血栓塞栓症を除外するためにDダイマー検査を行う場合は、偽陰性の結果が出ることを避けるため、特に感度の高い検査方法を採用する必要がある。ラテックス凝集法を用いた検査は感度が最も低く、ELISA法は感度が最も高い。ただし、ELISA法は時間もお金もかかる。

凝固能検査異常値の原因

凝固能検査で異常値が得られた場合、生理的な問題や検査手法の間違いが原因であることよりも、不適切な検体採取に起因することの方が多い。このいわゆる「検査前エラー」は、いくつかのありがちな原因によって引き起こされる(Table 2)。APTTとPTを正確に測定するには、専用の採血管を用い、血漿と採血管内の抗凝固剤(通常、クエン酸ナトリウム)が1:9の割合となるようにしなければならない。採血管内の血漿量が足りなければ、APTTもPTも真の値よりも延長した結果になる。反対に、採血管内の血漿量が多すぎれば、真の値よりも短縮した結果が出る。さらに、多血症の場合には、正常ヘマトクリットのときよりも血漿量が少ない。したがって、抗凝固剤の量が相対的に多すぎることになり、APTTとPTが真の値より延長する。採血中に別の抗凝固剤が混入してしまえば、それもエラーの原因となり得る。抗凝固剤の混入には二つのパターンがある:ヘパリンの入ったカテーテルを用いて採血した場合と、用いる採血管を間違えて凝固検査用の採血管に血液を移し替えた場合。例えば、紫キャップの採血管(EDTAが入っている)または緑キャップの採血管(ヘパリンが入っている)に血液検体を注入し、間違いに気づいてクエン酸入りの採血管に血液を移し替えて検査を行えば、PTおよびAPTTは本当の値よりも延長してしまう。血液が迅速かつ静かにクエン酸と混和されなければ、それもまた検査値に影響を与える。例えば、はじめに抗凝固剤の入っていない採血管内に血液を採取し、その後、凝固検査用の採血管内にその検体を移し替え、抗凝固剤と混和されるまでに時間が余計にかかったり、凝固検査用の採血管内に血液を採取しても混和するのを忘れたりすれば、いずれもPTとAPTTは真の値よりも延長する。一方、溶血が生じたり、血液と抗凝固剤を乱暴に混和したりすれば、PTとAPTTは真の値よりも短縮する。また、駆血時間が長すぎると、フォンウィルブランド因子(vWF)および第Ⅷ因子濃度が上昇し、PTとAPTTが実際より短縮した結果になる。第Ⅶ因子は温度に敏感で、検体を冷やすとPTは真の値より短縮するが、APTTは変化しない。ただし、患者にヘパリンが投与されていればAPTTは延長する。PTとAPTTは血小板を除去した血漿を用いて測定するので、血小板減少症があってもin vitro検査であるPTおよびAPTTの値には影響を及ぼさない。

教訓 PT/APTT用の採血をするときは、駆血帯をきつく締めすぎてはいけません。採血管内には、指定された量の血液を正確に注入し、静かに混和しなければなりません。冷やしてもいけません。
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重症患者の凝固能低下~凝固因子の異常② [critical care]

Coagulopathy in Critically III Patients Part 2–Soluble Clotting Factors and Hemostatic Testing

CHEST 2010年1月号より

一般的な検査

プロトロンビン時間(PT)は、組織因子経路と共通系経路を評価する指標である(Fig. 1)。PTの測定法を理解するのは比較的簡単である:抗凝固剤としてクエン酸を添加した血漿を遠心分離し血小板を除去する。そして組織因子(完全トロンボプラスチン=組織因子とリン脂質の複合体)とカルシウムを加え凝固を起こさせる。この手順により第7因子が優先的に活性化され、次いで第X、ⅤおよびⅡ(プロトロンビン)が活性化される。活性化されたプロトロンビンによってフィブリノゲン(第Ⅰ因子)からフィブリンが形成される。フィブリンは光学的または電子的方法によって検出される。フィブリンが検出されるまでの秒数がプロトロンビン時間である。PTが関わる凝固過程は数少ない段階から成るためか、もしくは第Ⅶ因子は凝固因子の中で最も循環血液中の濃度が高いためか、PTは比較的変動しにくい。通常は、PTが関与するいずれか一つの凝固因子が正常の10%未満にまで減少しなければ、PTは延長しない。Figure 1に示した通り、この経路にだけ関与する凝固因子は第Ⅶ因子のみである。したがって、第Ⅶ因子だけの欠乏がある場合にのみ、APTT正常でPT延長という結果が生ずる。PT測定に用いる検査試薬の感度には、施設間および場合によっては経時的なばらつきがあるため、PTの結果は国際標準比(INR)としてあらわされる。INRを用いれば、ワーファリンを使用し抗凝固療法が行われている患者の抗凝固の程度を標準化された方法で評価することができる。INRによる補正法は、ワーファリンで安定した抗凝固が達成されている患者のPTを基準にして開発されたものである。したがって、肝不全など他の原因によるPT延長症例に適応するのが妥当かどうかは、はっきりしていない。

接触活性化経路と共通系経路を評価する指標であるAPTTはPTより複雑であるが、名前から活性化部分トロンボプラスチン時間という名前そのものが、この検査を理解する助けになる。血小板を除去したクエン酸添加血漿に粒子状の接触活性化物質(例;エラグ酸、カオリン、セライト、シリカ)を加え、「活性化」を引き起こす。そして「部分トロンボプラスチン」(完全トロンボプラスチンから組織因子を除いたという意味)を加え、次にカルシウムによってクエン酸の作用を拮抗する。Figure 2に示した通り、粒子状の接触活性化物質は第XII因子を活性化させる。活性化した第XII因子によって第XI因子、第Ⅸ因子、第Ⅷ因子の順に活性化が進む。活性化第Ⅷ因子によって共通系経路が活性化され、第Ⅹ因子の活性化からはじまりフィブリンが形成される。PTと同様に、APTTも秒数であらわされる。APTTの関わる経路はたくさんの段階から成り、関与する各凝固因子の血中濃度が低いためか、そのうちの一つの凝固因子が正常の15~30%ぐらいに低下するだけでAPTTは延長する。複数の凝固因子がわずかに減少していてもAPTTは延長することがある。したがって、凝固因子量の変化を捉える鋭敏な方法として用いられる。特に第Ⅷ因子および第Ⅸ因子の変化を評価するのにAPTTは有用である。プレカリクレイン、高分子量キニノゲン(HMWK)、もしくは第XII因子のいずれかの欠乏症や抗リン脂質抗体のある症例でもAPTTは延長するが、前二者は稀であるとともに、四つのうちいずれであってもAPTTが延長するだけで出血の危険性は増大しない。事実、抗リン脂質抗体のある患者は、APTTが延長していても血栓症を起こしやすい。

低分子量ヘパリン(LMWH)が広く用いられるにつれ、行われる機会が増えてきた検査が抗Ⅹa活性検査である。抗Ⅹa活性検査はAPTTと比べ、第Ⅷ因子に代表される急性相反応物質の影響を受けにくいという利点もある。この検査の方法は単純であるが、大半の臨床医には馴染みが薄い:血小板を除去したクエン酸添加血漿に、十分量の第Ⅹa因子とアンチトロンビンを加える。検体中に何らかのヘパリン類似物質があれば、アンチトロンビンと結合し、第Ⅹa因子活性を阻害する。第Ⅹa因子の阻害の程度は発色基質を用いて測定する。第Ⅹa因子が強く阻害されるほど発色が弱くなるため、患者血漿を加えない対照検体の発色と比較し、阻害の程度を知る。LMWHやフォンダパリヌクスなどの第Ⅹa因子阻害薬はアンチトロンビンⅢのペンタサッカライド結合部位に結合し第Ⅹa因子を阻害するが、単糖鎖が短いためトロンビン(第Ⅱa因子)とはあまり結合せず、トロンビン阻害作用は弱い。したがって、LMWHやフォンダパリヌクスの効果を知るのに抗Ⅹa活性検査が必要とされるのである。APTTは未分画ヘパリンのモニタリングには有効であるが、低分子量ヘパリンについては感度が低い。一般にはあまり知られていないが、抗Ⅹa因子阻害薬はAPTTおよびPTをわずかに延長させる(平均1-4秒)。しかし、抗Ⅹa因子阻害薬はトロンビンとは十分に結合しないので、未分画ヘパリンほどには凝固時間を変化させることはない。LMWHの体重当たり投与では、抗凝固の程度を正確に予測することができるため、モニタリングが必要となることは稀である。抗Ⅹa活性検査が必要となる可能性があるのは、体重が著しく重いまたは軽い患者、GFR<30-50mL/minの患者および高心拍出量で普通より腎クリアランスが高い患者(例;妊婦、新生児)などである。

教訓 PTが関与するいずれか一つの凝固因子が正常の10%未満にまで減少しなければ、PTは延長しません。第Ⅶ因子だけの欠乏がある場合にのみ、APTT正常でPT延長という結果になります。
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重症患者の凝固能低下~凝固因子の異常① [critical care]

Coagulopathy in Critically III Patients Part 2–Soluble Clotting Factors and Hemostatic Testing

CHEST 2010年1月号より

重症患者を管理する医師は、出血の危険性に対する憂慮が生ずる機会によく遭遇する。その理由は、観血的処置や抗凝固療法開始後に出血性合併症が起これば自責の念を感じるからなのかもしれないし、あるいは、出血は一目瞭然であることが多いからなのかもしれない。その上、凝固能の異常についての懸念を医師に抱かせるような検査結果があれば、余計に出血に対する警戒は高まる。残念ながら集中治療専門医の多くは、凝固能検査や凝固能障害の評価を行うことには長けていないし、そのような訓練を受けているわけでもない。重症患者の凝固能低下についての2部にわたる論文の後半にあたる本稿では、可溶性凝固因子のことと、成人ICU患者において頻度の高い凝固能異常について概説する。本論文では血友病については詳解しないが、血友病についての知識を深めれば、止血機能検査について理解し、臨床でよく行われる凝固能検査の解釈を行う上での土台を築くことができる。

古典的凝固経路の評価

重症患者管理に携わる医師の多くは、凝固経路については皮相的な知識しか持ち合わせていない。覚えるのが難しく、専門用語がたくさんあってごちゃごちゃしているからである(Table 1)。その上、毎日の臨床では凝固経路についての詳しい知識は必ずしも必要ない場合がほとんどである。凝固因子の番号は発見順につけられているので、活性化が起こる順番とは関係のないばらばらな番号になっている。さらに、血液が固まる道筋には二つの異なる経路があるという概念が昔から連綿と教えられてきたが、これは不自然で誤った理解を招く考えである。体内では、組織因子経路(以前は外因系経路と呼ばれていた)が活性化されることによって生理的な血液凝固が起こる。この過程は、接触活性化経路(以前は内因系経路と呼ばれていた)によって増強される。二つの別々の経路が途中で合流するという捉え方は、検査室で観察される一連の現象としての凝固を理解することを主な目的として普及した。とは言え、この二つの経路を理解しなければ検査結果を正確に解釈することはできないし、偽陽性の結果を真の陽性と捉えて不必要な対処を講じたり検査を行ったりすることを避けることはできない。例えば、医師によっては活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)とプロトロンビン時間(PT)を習慣的に混同し、不必要な検査や間違った解釈を行っていることがある。

教訓 体内では、組織因子経路(以前は外因系経路と呼ばれていた)が活性化されることによって生理的な血液凝固が起こります。この過程は、接触活性化経路(以前は内因系経路と呼ばれていた)によって増強されます。


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ショックの治療:ドパミン vs ノルエピネフリン~考察 [critical care]

Comparison of Dopamine and Norepinephrine in the Treatment of Shock

NEJM 2010年3月4日号より

考察

ショックの治療において投与する昇圧薬の第一選択としてドパミンとノルエピネフリンを比較した今回の多施設無作為化二重盲検試験では、ドパミン群とノルエピネフリン群のあいだに28日後死亡率の差は認められなかった。ノルエピネフリン群よりドパミン群の方が不整脈の発生率が高く、割り当て試験薬の中止を余儀なくされるほどの重篤な不整脈の発生率もドパミン群の方が高かった。さらに、予め設定したサブグループについての解析では、心原性ショックのサブグループではドパミン群の方がエピネフリン群よりも死亡率が高いという結果が得られた。

本研究における28日後死亡率は50%近くに上った。除外基準として定めた条件が非常に少ないことから当初よりこれぐらいの死亡率になることは予測されていたし、先行する観測研究でもショック患者の死亡率は50%内外である。本研究は、ショックに対する治療を行われた患者を全員対象とした、実状をよく反映する研究であり、だからこそ外的妥当性は高い。無作為化に先立ちopen-labelの昇圧薬が投与されていてもよい期間は最長4時間とし、また、28日間の研究期間中に昇圧薬の投与量を減量・中止する際は割り当て試験薬の中止は最後、再開を要する場合は割り当て試験薬からとしたため、試験対象薬が可能な限りたくさん使用されるような研究設計になっていた。

本研究よりも対象患者数の少ない観測研究では、敗血症性ショック患者にはドパミンは好ましくないという結果が得られている。しかし、Povoaらはドパミン群の方がノルエピネフリン群よりも死亡率が低いことを報告している。今回の研究では、1000名以上の敗血症性ショック患者が登録されたが、ドパミン群とノルエピネフリン群とのあいだに転帰についての有意差は認められなかった。

心原性ショックの患者については、ドパミン群の方がノルエピネフリン群より有意に死亡率が高かった。だが、心拍出量はノルエピネフリンを投与するよりもドパミンを投与する方が良好に維持できるのではなかろうか、という意見もあろう。心原性ショックにおけるドパミンによる死亡率上昇のはっきりした原因は分からないが、死亡率の差が早期に生ずることから、ドパミンによって心拍数が増加することにより虚血性変化が起こったのかもしれない。現行のACC-AHAガイドラインでは、急性心筋梗塞により低血圧を呈している患者の動脈圧を上昇させる際の第一選択薬をドパミンと定められている。本研究のデータがもたらされた機序が何であれ、以上の結果はこのガイドラインの見直しを強く迫るものである。

本研究には二、三の問題点がある。第一に、ドパミンの昇圧作用はノルエピネフリンよりも弱い。しかし、時間投与量を調整することにより収縮期血圧に与える作用を概ね同等としたし、open-labelノルエピネフリンの使用率には群間にわずかな差しか生じなかった上、その大半は不整脈の治療に難渋し割り当て試験薬を早々に離脱しopen-labelノルエピネフリンに変更した例であった。また、open-labelノルエピネフリンの使用量と、open-labelエピネフリンおよびopen-labelバソプレシンの使用頻度は、両群同等であった。第二に、逐次解析を行ったことが問題点として挙げられる。この手法では、観測研究から予測されるよりも大きな効果が認められた場合には、研究を早期中止することになる。しかし、本研究では当初予測した標本数よりも多数の患者を登録した後にようやく中止要件を満たした。したがって、予め目標とした検出力で主要転帰に関するあらゆる結果を得ることができた。

まとめ

本研究では、ドパミン群とノルエピネフリン群とのあいだに死亡率の有意差は認められなかったが、ドパミンを第一選択とする治療法には安全性に重大な問題がある可能性が浮かび上がった。なぜなら、ノルエピネフリンと比較しドパミンは不整脈を起こす頻度が高く、心原性ショックのサブグループにおいては死亡率を上昇させることが明らかになったからである。

教訓 この研究における28日後死亡率は約50%でした。心原性ショックの患者で、ドパミン群の方がノルエピネフリン群より死亡率が有意に高かった理由はよく分かりませんが、心拍数増加→心筋虚血が関与している可能性があります。
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ショックの治療:ドパミン vs ノルエピネフリン~結果 [critical care]

Comparison of Dopamine and Norepinephrine in the Treatment of Shock

NEJM 2010年3月4日号より

結果

患者
1679名の患者が対象となった。内訳は、ドパミン群858名、ノルエピネフリン群821名であった(Fig. 1)。全患者が研究第28日まで把握された。入院中の転帰についてデータが得られたのが1656名(98.6%)、6ヶ月後の転帰データが得られたのは1443名(85.9%)、12ヶ月後の転帰が判明したのは1036名(61.7%)であった。基準時点の背景因子については概ね有意差は認められなかった(Table 1)。心拍数、動脈血二酸化炭素分圧、動脈血酸素飽和度およびP/Fについて、臨床的意義はないと判断してよいと考えられるほどのわずかな差が認められた。ショックの種類のうちもっとも多かったのは敗血症性ショック(1044名[62.2%])であった。次に心原性ショック(280名[16.7%])、循環血液量減少性ショック(263名[15.7%])が続いた。敗血症性ショック症例における感染源はSupplementary AppendixのTable 2に示した。ドパミン群のうち344名(40.1%)、ノルエピネフリン群のつい326名(39.7%)にハイドロコルチゾンが投与された。敗血症性ショック患者のうち遺伝子組み換えヒト活性化プロテインCが投与されたのは、ドパミン群102名(18.8%)、ノルエピネフリン群96名(19.1%)であった。

血行動態の変数および血管作働薬の投与量についてのデータはSupplementary AppendixのFigure 3およびFigure 4に示した。基準時点における平均動脈圧は両群で同等であった。経時的変化も類似していたが、12時間後から24時間後にかけてはノルエピネフリン群の方がわずかに高かった。研究対象薬の投与量は、いずれの時点においても両群で同等であった。いずれかの時点においてopen-labelのノルエピネフリンを要した患者の割合は、ドパミン群の方が高かった(26% vs 20%, p<0.001)。しかし、open-labelノルエピネフリンの投与量は両群で同等であった。いずれかの時点においてopen-labelのエピネフリンを要した患者の割合は両群で同等であった(ドパミン群3.5%、ノルエピネフリン群2.3%, P=0.10)。バソプレシンについても同様であった(両群0.2%, P=0.67)。ドブタミンが投与された患者の割合はノルエピネフリン群の方が多かったが、無作為化割り当て後12時間語におけるドブタミン投与量は、ドパミン群の方が有意に多かった。平均動脈圧が65mmHgに上昇するまでに要した平均時間は両群同等であった(ドパミン群6.3±5.6時間、ノルエピネフリン群6.0±4.9時間, P=0.35)。輸液の総投与量については目立った群間差は認められなかったが、ドパミン群の方が第1日の輸液量がノルエピネフリン群より多かった。無作為化24時間後までの尿量は、ドパミン群の方がノルエピネフリン群より有意に多かったが、この差は最終的には消失し、水分出納については両群ほぼ同じであった。

心拍数の増加幅は無作為化36時間後までは、ドパミン群の方がノルエピネフリン群より大きかった。心係数、中心静脈圧、静脈血酸素飽和度および乳酸値は、両群同等であった。

転帰
ドパミンとノルエピネフリンとのあいだに差がないことをP値0.05のレベルで示す試験中止要件が満たされた(Supplementary Appendix Fig. 5)。28日後死亡率、ICU死亡率、院内死亡率、6ヶ月後死亡率および12ヶ月後死亡率のいずれについても群間に有意差は認められなかった(Table 2)。Kaplan-Meier曲線による予測生存率の解析では、有意差は得られなかった(Fig. 2)。APACHEⅡスコア、性別およびその他の重要な変数についてのCox比例ハザード解析でも結果は同様であった(Supplementary Appendix Fig. 6)。割り当て試験薬が不要であった日数およびopen-labelの昇圧薬が不要であった日数は、ドパミン群よりノルエピネフリン群の方が少なかった。一方、ICUでの治療が不要であった日数および臓器補助が不要であった日数については群間に有意差は認められなかった(Table 3)。死因について有意差はなかったが、ショックが治療抵抗性であった症例はドパミン群の方がノルエピネフリン群より多かった(P=0.05)。

有害事象
全体で309名(18.4%)に不整脈が発生した。最も多かった不整脈は、心房細動で266名(86.1%)に認められた。ノルエピネフリン群よりドパミン群の方が不整脈、中でも心房細動の発生頻度が高かった(Table 3)。重篤な不整脈のため、割り当て試験薬の投与中止を要した患者は65名であった。内訳は、ドパミン群52名(6.1%)、ノルエピネフリン群13名(1.6%)であった(P<0.001)。この投与中止を要したこの患者についてもITT解析の対象とした。その他の有害事象の発生率については群間差は認められなかった。

追加解析
ショックの類型について予め設定したサブグループについての解析を行った。各サブグループの内訳は、敗血症性ショック1044名(ドパミン群542名、ノルエピネフリン群502名)、心原性ショック280名(ドパミン群135名、ノルエピネフリン群145名)、循環血液量減少性ショック263名(ドパミン群138名、ノルエピネフリン群125名)であった。治療の総合的効果について、サブグループ間に有意差は認められなかった(交互作用のP=0.87)。ただし、心原性ショックのドパミン群の方が、心原性ショックのノルエピネフリン群と比べ、28日後死亡率が高かった(P=0.03)(Fig. 3)。ショック種類別サブグループのKaplan-Meier曲線をSupplementary Appendix のFigure 7に掲載した。

教訓 28日後死亡率(主要エンドポイント)、ICU死亡率、院内死亡率、6ヶ月後死亡率および12ヶ月後死亡率のいずれについてもドパミン群とノルエピネフリン群のあいだに差はありませんでした。有害事象(不整脈、特に心房細動)はドパミン群の方が多く認められました。
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ショックの治療:ドパミン vs ノルエピネフリン~方法② [critical care]

Comparison of Dopamine and Norepinephrine in the Treatment of Shock

NEJM 2010年3月4日号より

エンドポイント
28日後死亡率を本研究の主要エンドポイントとした。二次エンドポイントは、ICU死亡率、院内死亡率、6ヶ月後死亡率および12ヶ月後死亡率;ICU入室期間;臓器補助(昇圧薬、人工呼吸または腎代替療法)を不要とする日数;血行動態が安定するまでの時間(平均動脈圧が65mmHg以上に維持できるまでの時間);血行動態関連変数の変化;ドブタミンなどの強心薬の使用、とした。不整脈(心室性頻脈、心室細動または心房細動)、心筋壊死、皮膚壊死、四肢の虚血または二次感染を有害事象とした。

測定項目
研究開始から48時間後までは6時間おき、その後、第3、4および5日は8時間おき、第6、7、14、21および28日は一日一回の頻度で以下のデータを収集した:バイタルサイン、血行動態の変数(収縮期血圧、拡張期血圧、心拍数、中心静脈圧、可能な場合は肺動脈圧)、心拍出量、動脈血ガス、混合静脈血(中心静脈血)ガスおよび呼吸状態。第7日までは毎日、その後は第14、21および28日に、生物学的変数、水分出納、微生物学的データおよび使用抗菌薬を記録した。

ICU入室時および研究登録時にAPACHEⅡスコアを算出し、連日第7日まで、および第14、21、28日にSOFAスコアを算出した。

統計解析
SOAP研究ではドパミン投与群の死亡率が43%であったのに対し、ノルエピネフリン投与群の死亡率は36%であった。この結果を踏まえ、各群に患者765名を配すれば28日後死亡率の相対差15%を検出力80% (両側α0.05)で証明することができると見積もった。

観測研究で得られた結果から必要患者数につき誤った見積りをしている可能性があるため、対立仮説に関する逐次解析を行った。研究登録患者が50人に達した時点および100人に達した時点、その後はさらに100人登録するごとに解析を行い、以下の予め設定した条件に当てはまる結果が得られた場合は本研究を中止することにした:ドパミンよりノルエピネフリンの方がよい、ノルエピネフリンよりドパミンの方がよい、両者に差はない。研究とは直接の関わりを持たない独立した統計担当者(医師)が有効性解析と有害事象の監視を行った。1600人目までの登録患者に関する転帰の解析を終えた2007年10月6日、前述の三つの研究中止条件のうち一つが満たされたため、統計担当者により研究中止が言い渡された。

ITT解析によって全データの解析が行われた。主要エンドポイントの差の解析には、非調整カイ二乗検定を適用した。結果は絶対リスクおよび相対リスクとして表し、95%信頼区間を示した。Kaplan-Meier曲線で予測生存曲線を描き、ログランク検定を行い比較した。Cox比例ハザード回帰モデルを用い、転帰に影響を与える可能性のある交絡因子の評価を行った(単変量解析でP値<0.20の因子を対象とした)。

ショックの類型について予め設定したサブグループ(敗血症性、心原性もしくは循環血液量減少性)について、主要転帰の解析を行った。交互作用についての検定を行い、結果は串刺し図(forest plot)で表した。

その他の二値(バイナリ)変数の解析にはカイ二乗検定、連続変数の比較には対応のないStudentのt検定またはWilcoxon順位和検定を適用した。

教訓 SOAP研究ではドパミン投与群の死亡率が43%であったのに対し、ノルエピネフリン投与群の死亡率は36%であった。本研究の主要エンドポイントは28日後死亡率です。

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ショックの治療:ドパミン vs ノルエピネフリン~方法① [critical care]

Comparison of Dopamine and Norepinephrine in the Treatment of Shock

NEJM 2010年3月4日号より

方法

対象患者
2003年12月19日から2007年10月6日にかけ、ベルギー、オーストリアおよびスペインに所在する8施設において多施設試験を行った。研究登録時にショックの治療の一環として昇圧薬が投与されていた18歳以上の患者全員を対象とした。十分量(晶質液なら1000mL以上、膠質液なら500mL以上)の輸液を投与しても平均動脈圧70mmHg未満もしくは収縮期血圧100mmHgであり末梢循環不全の徴候(例;意識レベルの低下、皮膚の網目模様、尿量0.5mL/kg/hr未満、血清乳酸値2mmol/L以上)が認められる場合をショックとした(ただしCVP>12mmHgまたはPAOP>14mmHgの場合を除く)。除外基準は、18歳未満、すでにショックのため昇圧薬(ドパミン、ノルエピネフリン、エピネフリンまたはフェニレフリン)を4時間以上投与されている、重篤な不整脈(160bpm以上の頻脈性心房細動、心室性頻脈など)または脳死の診断がついている場合とした。

プロトコル
コンピュータによる無作為割り当てを行った。ノルエピネフリンまたはドパミン溶液を準備する者のみが患者にいずれの薬剤が割り当てられたかを知り得た。薬剤の調整法は各施設の慣習に従った。薬剤の投与に関わる医師および看護師とデータ収集を担当する各施設の研究関係者は、割り当て薬剤がいずれであるかを関知しなかった。

ノルエピネフリンまたはドパミンの投与量は患者体重によって決定した。ドパミンは2mcg/kg/minずつ、ノルエピネフリンは0.02mcg/kg/minずつ増減した(ただし緊急時はこの限りではない)。投与量増減の一例をSupplementary AppendixのTable 1に掲載した。各患者の治療を担当する医師が目標血圧を決めた。割り当て薬剤を最大量投与しても低血圧が続く場合は(ドパミン最大量20mcg/kg/min、ノルエピネフリン最大量0.19mcg/kg/min、この二剤の投与量は平均動脈圧に同等の作用を及ぼすとされている。)、割り当て薬剤の他にopen-labelのノルエピネフリンを追加した。ドパミンの最大投与量を20mcg/kg/minとしたのは、研究に参加した各ICUでこの量が投与量上限とされ、また、専門家による推奨や国際ガイドラインでも同様だからである。

基準時点においてすでに昇圧薬が投与されていた症例では、可及的速やかに割り当て薬剤に切り替えた。すでにドパミンが投与されていて、割り当て薬剤投与開始後にドパミンを中止することができない場合は、はじめから投与されていたドパミンをopen-labelのノルエピネフリンに切り替えた。いずれの時点においてもopen-labelのドパミンを使うことは禁じられた。エピネフリンおよびバソプレシンは緊急時にのみ使用した。心拍出量を増やすのに必要であれば、強心薬を使用してもよいこととした。

昇圧薬を減量、離脱する際は、まずopen-labelのノルエピネフリンの投与を中止し、その後、割り当て薬剤の離脱を行った。離脱後再び低血圧が認められた場合は、まず割り当て薬の投与を再開し、最大量投与しても低血圧が続けば、open-labelのノルエピネフリンを追加した。

研究期間は最長28日間とした。ICUを一旦退室し、無作為化割り当て後28日以内再入室した患者には、必要であれば(ショックに陥った場合は)割り当て薬を再度投与した。研究第28日目以降は、昇圧薬の選択は担当医に一任された。

割り当て薬投与中に有害事象が発生した場合は、患者を研究対象から除外し、open-labelの昇圧薬を投与することにした。昇圧薬以外の治療法については、すべて担当医が決定した。

教訓 18歳以上のショック患者を対象としました。ドパミンまたはノルエピネフリン群に無作為に患者を割り当て、ドパミンは2mcg/kg/minずつ、ノルエピネフリンは0.02mcg/kg/minずつ増減しました。最大投与量はそれぞれ、20mcg/kg/min、0.19mcg/kg/minでした。
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ショックの治療:ドパミン vs ノルエピネフリン~はじめに [critical care]

Comparison of Dopamine and Norepinephrine in the Treatment of Shock

NEJM 2010年3月4日号より

循環ショックは致死的状況であり、死亡率が高い。最優先される治療法は輸液であるが、輸液だけでは患者の状態は安定せず、低血圧の是正にはアドレナリン作働薬を要することが多い。アドレナリン作働薬の中でも、ドパミンとノルエピネフリンが最も頻用されている。この二剤はαアドレナリン受容体とβアドレナリン受容体の両者に作用するが、その作用強度は異なる。αアドレナリン受容体を刺激すると血管トーンが上昇するが、心拍出量および局所血流(特に皮膚、内臓および腎血管床)は低下することがある。βアドレナリン受容体を刺激すると、陽性変力作用および陽性変時作用によって血流が維持され、内臓血流は増える。しかし、一方でβ作用は望ましくない影響ももたらし、細胞代謝を亢進させたり、免疫を抑制したりする。ドパミンはアドレナリン受容体の他にドパミン受容体も刺激するため、ノルアドレナリンと比べると内臓および腎血流を増やす作用が強く、肺水腫の改善を促進する可能性も指摘されている。しかし、ドパミン受容体を刺激すると視床下部-下垂体の機能が変化しプロラクチンおよび成長ホルモンの血中濃度が大幅に低下し、免疫系に有害な影響が出現することがある。

つまり、ドパミンとノルエピネフリンが腎、内臓および視床下部-下垂体-副腎系に与える影響は異なる可能性があるが、この差異が臨床的にどのような意味を持つのかは未だ不明である。ガイドラインや専門家による推奨を繙くと、いずれの薬剤もショック患者の昇圧薬の第一選択薬となりうるとされている。しかし、観測研究ではドパミン群の方がノルエピネフリン群よりも死亡率が高いという結果が得られている。SOAP研究(Sepsis Occurrence in Acutely Ill Patients study)の対象となった1058名のショック患者では、ドパミン投与はICU死亡の独立危険因子であった。メタ分析では、敗血症性ショック患者においてドパミンとノルエピネフリンを比較した無作為化研究は3編が得られたにとどまり、対象患者総数はわずか62名であった。観測研究ではノルエピネフリンを使用する方がドパミンを使用するよりも転帰が良いという結果が続々と報告されている中で、臨床試験のデータは不足しており、無作為化比較対照試験の実施が待ち望まれている。本研究では、ショック患者においてドパミンではなくノルエピネフリンを昇圧薬の第一選択とすると死亡率が低下するかどうかを検討した。

検討 観測研究ではドパミンよりノルアドに軍配を上げる結果が示されています。この研究では両者を比較する前向き試験を行いました。

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重症患者の凝固能低下~血小板の異常⑥ [critical care]

Coagulopathy in Critically Ill Patients Part 1: Platelet Disorders

CHEST 2009年12月号より

血小板機能の異常

血小板数が正常でも、抗血小板薬の投与、腎不全または先天性の血小板異常によって血小板活性が低下することがある。血算で血小板数を計測しても、血小板機能の異常を突き止めることはできない。臨床的には、血小板機能が低下していると、粘膜もしくは皮下異常出血が認められる。具体的には、鼻出血、歯肉出血、皮膚点状出血・出血斑、過多月経などである。血小板機能異常が疑われるときには、血小板が凝集し凝血塊を形成する機能を調べる検査を行う。このうち、もっとも簡単な検査は出血時間である。残念ながら、出血時間は再現性が乏しく、感度が低く、時間を食う検査である。出血時間に代わり、薬剤を添加し血小板凝集能を測定する新しい検査法が開発されている。その多くは、特定の検査施設のみで行われるものであり、臨床的に広く実施可能な検査ではない。血小板凝集能検査の詳細については、他文献に譲る。

血小板機能の低下を招く薬剤の代表は、不可逆性に血小板凝集を阻害するアスピリンや、可逆性に血小板機能を阻害する各種シクロオキシゲナーゼ阻害薬である。グリコプロテインⅡb/Ⅲa阻害薬(アブキシマブ、チロフィバン、エプチフィバチドなど)は単独もしくはアスピリンとの併用で、PCI後の血栓閉塞を予防する目的で使用される。グリコプロテインⅡb/Ⅲa阻害薬は血小板機能を大幅に低下させる。中でもアブキシマブの作用は、新しい血小板が産生されるまで残る。クロピドグレルは、グリコプロテインⅡb/Ⅲa阻害薬と似たような作用を発揮する薬剤で、ADPによる血小板凝集を阻害する。以上のような薬剤を投与されている患者が出血した場合には、休薬するだけでは血小板機能が正常には戻らないため、血小板輸血を要することがある。

ESRD患者では軽度の血小板減少症が認められることがあるが、数が正常で血小板機能が低下している患者の方が多い。この「尿毒症性凝固能障害」の病態生理の解明は、未だ完全ではないが、複数の機序の関与が指摘されている。エリスロポエチン産生の低下による赤血球量の減少のため、血小板が血管内で血流の中心により近い部分を流れるようになり、血管内皮の障害部分と反応しにくくなるという説がある。また、尿毒症毒素がvWFおよびvWF-第Ⅷ因子複合体の作用を低下させ、血小板凝集を阻害することも分かっている。維持透析患者の出血には多角的な対処を講ずる必要がある。例えば、緊急透析を行い尿毒症毒素を除去したり、デスモプレシンを静注し血管内皮内に蓄えられている第Ⅷ因子の放出を促しvWF機能低下の影響を抑止したり、抱合エストロゲンを(男女問わず)静注し凝固能を高めたり、場合によってはクリオプレシピテートを投与し正常な機能を有する第Ⅷ因子、vWF、およびフィブリノゲンを増やしたりする。もちろん、血小板数が極度に低下している場合は、血小板輸血の適応がある。

非常に稀な以下の三つの先天性疾患でも血小板異常が認められる:vWFの受容体である GPⅠb-Ⅸ-Ⅴ複合体が欠損するBernard-Soulier症候群、GP Ⅱb/Ⅲa受容体が欠損するGlanzmann血小板無力症、血小板顆粒内貯蔵物(ADP)が不足するHermansky-Pudlak症候群。以上のような稀な疾患とは異なり、フォンヴィルブランド病(vWD)は比較的よく見られる疾患である。その病態生理は、血小板と可溶性凝固因子の両者にまたがっている。幸い、いずれの型のvWDであっても臨床的に重大な出血はごく稀であり、通常は粘膜表面の出血にとどまる。vWDはいくつかの型に大別され、vWFの量や機能、または血小板のGP Ⅰb受容体とvWFとの結合能によって複数の亜型に分類される。詳しくは別の文献に譲る。あざができやすかったり、出血しやすかったり、粘膜表面からの出血がなかなか止まらなかったりする患者を前にvWDの可能性が浮かんできた場合は、出血性疾患の専門家への紹介が必要である。

まとめ

重症患者では血小板減少症は珍しいものではない。さらに、尿毒症やvWDなどの基礎疾患がある患者では、数は正常でも血小板機能が低下していることがある。軽度の血小板減少症では出血の危険性はそれほど上昇しないが、高度の血小板減少症があれば出血の危険性も死亡率も上昇する。ICUにおいて最も頻度の高い凝固能障害が血小板減少症であるが、その病因にはいくつもの要素が関わっている。例えば、疾患の重症度、使用薬剤、血栓形成による消費などである。血小板減少症があらわれても、原疾患の治療によって血小板数は増えることが多いが、血小板減少症の原因と対処法を深く知れば、重症患者の血小板数の回復を促し、侵襲的手技や血小板輸血の機会を減らすことにつながる可能性がある。

教訓 血小板機能が低下していると、粘膜もしくは皮下異常出血が認められます。鼻出血、歯肉出血、皮膚点状出血・出血斑、過多月経などが典型的な徴候です。ESRD患者では軽度の血小板減少症が認められることもありますが、多くの場合は数が正常で血小板機能が低下しています。
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重症患者の凝固能低下~血小板の異常⑤ [critical care]

Coagulopathy in Critically Ill Patients Part 1: Platelet Disorders

CHEST 2009年12月号より

希釈性血小板減少症

大量輸血を行うと、希釈性血小板減少症と可溶性凝固因子欠乏が起こる。その機序は、単なる喪失と、消費されるのに適切に補充されないことの二つである。希釈性血小板減少症を発生させしめる輸血量については、はっきりしたことは言えないが、一日で循環血液量分の輸血を行うか、3-4時間で循環血液量の半分の輸血を行えば、希釈性凝固障害が起こる可能性が高い。希釈性凝固障害の発生はいろいろな条件に大きく左右されるため、各血液製剤の投与時期および投与量を一定の方法に決める輸血方法は実状にそぐわない。軽度の血小板減少症の原因が希釈であることもあろう、と思ってもおかしくはないが、実際は20単位以上の血液製剤を輸血しても、それだけで血小板数が100×10^9/Lを下回ることは稀である。希釈性凝固障害には、冷たい輸液製剤の大量投与による低体温、末梢循環不全や酸の投与によるアシドーシス、そして場合によってはDICを伴うことが多い。低体温は、血小板の活性化、接着および凝集を阻害し、可溶性凝固因子の酵素活性を低下させる。したがって低体温は凝固能障害の増悪因子として作用する。

分布異常による血小板減少症

門脈圧亢進症などによる高度の脾腫がある患者では、血小板が捕捉され分布異常による血小板減少症が起こることがある。その機序には、「脾臓内貯溜」、血小板産生能の低下そして免疫が関与する血小板破壊(特にITP症例)など複数の要因が関わっていると考えられている。肝硬変による門脈圧亢進症がある患者では、肝臓で生成されるトロンボポエチンの減少や、エタノールの骨髄毒性により血小板産生が低下することがある。

血小板産生の低下

骨髄抑制があれば造血3系統のすべての産生が低下するが、血小板減少症が一番目立つ所見であることが多い。血小板は寿命が比較的短いからである。特に、血小板の消費が亢進すれば寿命はより短くなる。骨髄抑制の主犯格は薬剤である(Table 3)。骨髄抑制を呈する症例では、患者が服用している薬剤を、市販薬を含め全て完全に明らかにし、原因と考えられる薬剤を可能であれば中止すべきである。抗腫瘍薬や免疫抑制剤が量依存的に骨髄抑制作用を発揮することは、広く認識されている。しかし、それ以外の薬剤、例えばリネゾリド(抗菌薬)も血小板産生を低下させることがある。血小板減少症を引き起こす可能性についてしばしば言及される薬剤(例;プロトンポンプ阻害薬)の中には、実際にはそれを裏付けるエビデンスに乏しいものもある。ウイルス感染(例;HIV、パルボウイルス、EBウイルス、水痘ウイルス)、毒物(例;アルコール、放射線治療)、転移性悪性腫瘍および栄養不良(例;ビタミンB12、葉酸、鉄)も骨髄抑制を引き起こすことがある。

Table 3に掲載されている薬剤

抗菌薬
ペニシリン、バンコマイシン、リネゾリド、ダプトマイシン、メロペネム、ST合剤、ニトロフラントイン、ガンシクロビル、バルガンシクロビル、フルコナゾール、リファンピシン

ヘパリンおよび低分子量ヘパリン

H2受容体阻害薬
シメチジン、ラニチジン

NSAIDs
アスピリン、ジクロフェナク、イブプロフェン

GP Ⅱb/Ⅲa阻害薬
アブキシマブ、チロフィバン、エプチフィバチド、チクロピジン、クロピドグレル

抗不整脈薬
プロカインアミド、アミオダロン

抗てんかん薬
バルプロ酸、カルバマゼピン、フェニトイン

その他
ジゴキシン、フロセミド、サイアザイド、ハロペリドール、モルヒネ


教訓 一日で循環血液量分の輸血を行うか、3-4時間で循環血液量の半分の輸血を行ったときは、希釈性凝固障害の発生について注意しなければなりません。
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重症患者の凝固能低下~血小板の異常④ [critical care]

Coagulopathy in Critically Ill Patients Part 1: Platelet Disorders

CHEST 2009年12月号より

免疫を介した血小板減少症

薬剤性血小板減少症と免疫性血小板減少症

免疫が関与する血小板減少症は、抗血小板抗体の産生とそれに引き続く血小板破壊によって生ずる。抗血小板抗体は、特発性に生ずることもあるし、薬剤、感染(例;サイトメガロウイルス、HIV、EBウイルス、パルボウイルス)、輸血後もしくは移植後の拒絶反応によって生ずることもある。血小板減少症の原因となる薬剤は多数存在する。抗腫瘍薬以外の代表的な原因薬剤をTable 3にまとめた(さらに詳しいリストはhttp://moon.ouhsc.edu/jgeorge/DITP.htmlで入手可能)。ICUでは、薬剤性血小板減少症は見逃されてしまうことがある。原因薬剤の投与開始から一週間以上経過してから発症することが多く、特徴的な臨床徴候もなく、薬剤以外にも血小板減少症を来す可能性のある原因がいくつもあるからである。とは言え、薬剤性血小板減少症は、原因薬剤の投与を中止するだけで軽快することもあるので、こういう疾患の存在を頭の片隅に止めておくことは重要である。薬剤に起因する血小板破壊は、通常は抗血小板抗体が産生されるために起こる。抗血小板抗体は、原因薬剤存在下で正常血小板と結合する。プロカインアミドなどの少数の薬剤のみが、原因薬剤が存在しなくても血小板と反応する自己抗体の産生を誘発する。薬剤によって生成される血小板関連抗体が形成するいろいろな複合体が明らかにされているが、in vitro検査を行っても感度と特異度が低いので、たいていは役に立たない。薬剤性血小板減少症の三つ目の機序は、薬剤と血小板の直接反応による血小板破壊である。例えば、tirofiban(血小板凝集抑制薬)は血小板表面のGP IIb/IIIa受容体に作用し、血小板の形状を変化させることにより、抗体の認識を容易にする。

HIT

血小板減少症を来す細胞毒性を持たない原因薬剤のなかで、最もよく遭遇するのがヘパリンである。ヘパリン投与を開始するとはじめの2-3日に多くの症例で中等度かつ可逆性の血小板数低下が認められ、時としてこれは1型HITと呼ばれる。しかし、本来HITとは、抗体が形成され、血小板数が低下し、血栓症が発生する症候群を特異的に指す用語である。これを2型HITと呼ぶことがある。発生頻度は調査対象患者によって大きなばらつきがあるが、複数回にわたり大量の未分画ヘパリンが投与される患者で発生率が最も高い。この疾患は、血栓症による致命的な合併症が生ずるため広く知られている。未分画ヘパリンが最長7日間使用された患者における2型HITの発生頻度は5%未満である。静脈路や動脈圧ラインのフラッシュ、透析時の使用、DVT予防の皮下注など、投与量に関わらずいずれの製剤のヘパリンを使用してもHITの発生や増悪の原因となり得る。低分子量ヘパリンでもHITが起こることがあるが、頻度はかなり低い。また、第Ⅹa因子阻害薬であるフォンダパリヌクスに起因するHITが発生したという症例報告もある。

ヘパリン使用歴がなかったり、最終投与からかなり時間が経っていたりする患者にヘパリンを開始した場合、HITによって血小板数が低下しはじめるのは5-10日後からである。しかし、ヘパリンの最終投与から時間が経っていない患者にHITが発生すれば、数時間以内に血小板数が低下し始める。HIT症例では、血小板数が10×10^9/Lを下回り出血を呈することは稀である。HIT患者における最大の危険は血栓であり、そのリスクはHITでない患者の30倍にものぼる。HIT症例で認められる血栓は特異なものではなく、HITの症候のうちもっとも多いのはDVTである。

HITの病態生理は複雑であり、詳しくは別の文献に譲るが、以下に手短にまとめる。ヘパリンは血小板第4因子(PF4)に結合しヘパリン-血小板第4因子複合体を形成する。この免疫複合体に抗体が結合すると、血小板が破壊される。ヘパリン-血小板第4因子複合体抗体はELISAで検出が可能である。ただし、感度は高いが特異度は低い。ヘパリン-血小板第4因子複合体抗体があっても、大半はHITを発症しない。ヘパリン-血小板第4因子複合体に反応して血小板が脱顆粒するのを検出する検査法は特異度が高いが、どこでもできる検査ではない。無作為化大規模試験が行われていないため、推奨される治療法は概ね専門家の意見に基づくものである。具体的には、あらゆる種類のヘパリンを中止し、少なくとも血小板数が上がってくるまでは直接トロンビン薬を投与する。血小板数がほどほどのレベル(例;100×10^9/L以上)まで上昇してきたら、ワーファリンの投与を開始し少なくとも3ヶ月は継続する。直接トロンビン薬の投与は、ワーファリンがしっかり効き始めるまで続ける。HIT患者に対するヘパリン再投与の安全性については賛否両論があるが、半年以上はどんな場合も再投与を避け、その後ヘパリン-血小板第4因子複合体抗体が検出されなくなったらヘパリン投与は可能と考えるのが妥当である。

教訓 抗血小板抗体は、特発性のものだけでなく、薬剤、感染(例;サイトメガロウイルス、HIV、EBウイルス、パルボウイルス)、輸血後もしくは移植後の拒絶反応によって生ずることもあります。
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