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論文休み [misc]

いつもご愛読いただき、ありがとうございます。

私は毎日のびのびと元気よく麻酔&集中治療に専心しています。あまりにものびのびしているせいか、ボスに「たまには論文書け!日本語は不可!」と叱咤されてしまいました。

論文を書かないとのびのび環境がギスギス環境になってしまうかもしれません。そんなわけで、環境保全という不埒な動機で論文を書くことにします。しばらく更新はお休みします。復活したらまたお越し下さい。

それでは、ごきげんよう。
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集中治療文献レビュー2010年10月 [critical care]

Anesthesia Literature Review

Anesthesiology 2010年10月号より

Rates of Major Depressive Disorder and Clinical Outcomes Following Traumatic Brain Injury. JAMA2010; 303: 1938-45

外傷性脳傷害(traumatic brain injury; TBI)の後遺症として鬱病が発生することは珍しくない。しかし、TBI後の鬱病の頻度、発症予測因子および転帰は不明である。

TBI発生から1年後までの期間における鬱病の発症頻度、発症予測因子および転帰について前向き調査を行った。軽症~重症のTBIがありレベル1外傷センターに収容された見当識のある成人患者(559名)を連続的に調査対象として登録し、受傷1-6ヶ月後、8ヶ月後および12ヶ月後の各時点において電話による追跡調査を実施した。

TBI発生1年後までのあいだに、鬱病診断基準に合致した患者は全体の53%を占めた。鬱病の発症には、年齢、性別、コカイン中毒、アルコール依存および受傷前の精神障害既往(抑鬱状態、PTSDなど)が強く関与することが分かった。鬱病を発症した患者は、発症しなかった患者と比較し、不安障害を呈する頻度が高かったが(60% vs. 7%; リスク比8.77)、抗不安薬を投与されたりカウンセリングを受けたりした症例はそのうち44%を占めるに過ぎなかった。受傷1年後のQOLは、鬱病群の方が非鬱病群より低かった。

解説
このコホート研究によって、TBI後には予想以上に鬱病発症率が高いことが明らかにされた。鬱病を発症した症例では、受傷後のQOLが不良である。TBI患者における鬱病の診断と治療を改善する努力を払う必要がある。

The Effect of Multidisciplinary Care Teams on Intensive Care Unit Mortality. Arch Intern Med 2010; 170: 369-76.

医師、看護婦、呼吸療法士および薬剤師によって構成される多職種管理チームの導入によって、複雑な病態を呈する重症患者の転帰が改善する可能性がある。しかし、この方法の採用を広く一般に促すほどのデータを示した研究はほとんど存在しない。

この遡及的多施設研究は、病院ごとの組織的調査の結果と患者の転帰データを用いて行われ、多職種管理チームの導入による重症患者コホート(107324名)の死亡率の変化が検証された。

対象ICUの内訳は、医師が少なく多職種管理チームが導入されていない施設(48.2%)、医師は少ないが多職種管理チームが導入されている施設(32.1%)、医師が多く多職種管理チームが導入されている施設(19.6%)であった。対象コホート全体の30日後死亡率は18.3%であった。患者特性および病院特性による調整を行ったところ、多職種管理チームの導入によって死亡のオッズ比が有意に低下することが分かった(オッズ比0.84)。集中治療専門医在籍の有無による層別化を行っても同様の結果が得られた。多職種管理チームが導入されていないICUの死亡オッズ比は0.78、医師は少ないが多職種管理チームが導入されているICUの死亡オッズ比は0.88であった。敗血症患者、人工呼吸患者、各疾患において最重症と分類される症例の各サブグループについての解析でも、同様の結果が得られた。

解説
この遡及的研究では、ICUに多職種管理チームを導入すると重症患者の死亡率が低下する可能性があることが明らかになった。医師が十分に配置されていなくても多職種管理チームを利用すれば死亡率が低下するかもしれない。多職種管理チームによる転帰改善の根拠については、前向き研究で検討する必要がある。

Efficacy of Corticosteroids in Community-acquired Pneumonia. A randomized double-blinded clinical trial. Am J Resp Crit Care Med 2010; 181: 975-82.

敗血症および敗血症性ショック患者における副腎皮質ステロイドの効果についての研究は、有効であるという結果を示すものもあれば、無効であるという結果も得られている。市中肺炎(CAP)における副腎皮質ステロイドの効果も、敗血症と同じようにまだよく分かっていない。

市中肺炎に対する副腎皮質ステロイドの有効性を評価するため、市中肺炎で入院した患者に通常の治療に加えプレドニゾロンまたは偽薬を投与する無作為化比較対照試験が行われた。対象患者には抗菌薬と、偽薬またはプレドニゾロン40mgが7日間投与された。肺炎重症度指標およびCURB-65(Confusion, 血清尿素窒素、呼吸数、血圧および年齢>64歳)を用いて重症度を判定した。

213名の患者が対象となった。CURB-65スコアが2点を超える症例が25.4%、肺炎重症度指標のクラスⅣ-Ⅴの症例が43.7%を占めた。ステロイド群と偽薬群の第7日および第30日における臨床的転帰は同等であった。入院期間は両群とも約10日であった。ステロイド群の方が偽薬群よりも、発症後晩期に至っても症候の改善が認められなかったり不変であったりする症例および入院72時間後における症候再燃の発生頻度はプレドニゾロン群の方が偽薬群よりも高かった(19.2% vs. 6.4%; P=0.04)。有害事象は極めて少なく、両群同等であった。

解説
この研究ではプレドニゾロン(1日40mgを1週間)を投与しても市中肺炎で入院した症例の転帰は改善しないことが明らかにされた。むしろ、非重症市中肺炎の発症後晩期の非治癒例はプレドニゾロン投与によって増える可能性がある。したがって、市中肺炎に対し抗菌薬とともにルーチーンでプレドニゾロンを投与すべきではない。

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麻酔文献レビュー2010年10月③ [anesthesiology]

Anesthesia Literature Review

Anesthesiology 2010年10月号より

Target Ranges of Oxygen Saturation in Extremely Preterm Infants. N Engl J Med. 2010; 362: 959-69

早産児では、酸素毒性が死亡や網膜症などのリスク増大の原因となり得る。しかし、網膜症の危険性を最大限回避しつつも、その他の有害事象が発生するリスクが増大しないようにするには、どれぐらいの酸素飽和度を目標とすればいいのかは、今までの研究では結果にばらつきが大きく決定的な答えは未だ得られていない。

ここに紹介したSUPPORT(Surfactant, Positive Pressure, and Oxygenation Randomized Trial)は、2×2要因配置無作為化試験である。在胎24週0日から27週6日の間に出生した早産時を対象とし、目標酸素飽和度85-89%(654名)と91-95%(662名)のいずれが有益であるかの比較が行われた。本研究では、重症未熟児網膜症(限界域網膜症、眼科手術の適応、ベバシズマブ投与のいずれかに該当する症例)、死亡退院もしくはその両者の複合転帰が主要転帰として設定された。さらに対象患者全員が、CPAP群または気管挿管+サーファクタント投与群のいずれかに無作為に割り当てられた。

重症網膜症または死亡の発生率は、低酸素飽和度群と高酸素飽和度群とで同等であった(それぞれ28.3%、32.1%)。目標酸素飽和度と換気法とのあいだの有意な相関は認められなかった。低酸素飽和度群の方が重症網膜症の発生率は有意に低いものの(8.6% vs. 17.9%; 相対危険度0.52; P<0.001)、死亡退院率は高酸素飽和度群より有意に高かった(19.9% vs. 16.2%; 相対危険度1.27; P=0.04)。その他の有害事象の発生頻度は両群同等であった。

解説
未熟児の新生児期管理において網膜症は長きにわたり問題とされている。麻酔科医および新生児専門医は、酸素分圧を低くすることによって網膜症の発生を防ごうと努力してきた。しかし、この研究では酸素飽和度が低いと死亡率が上昇することが示された。

Effect of Bar-Code Technology on the Safety of Medication Administration. N Engl J Med 2010; 362: 1698-707.

薬剤使用に伴う有害事象の25%以上は回避可能であると考えられている。コンピュータによる処方入力やバーコードを用いた薬剤識別などの情報技術を導入することによって、重大な薬剤誤投与の発生頻度が低下することが明らかにされている。

電子化された薬剤投与方式(eMAR)の導入が誤投与発生頻度の低下につながるかどうかを評価することを目的とした、前向き前後比較疑似実験研究が行われた。735床を擁する3次大学病院一施設においてバーコードを利用したeMAR導入前後9ヶ月間の誤投与発生率を算出した。この病院では同期間中に590万回分の薬剤が投与された。臨床医2名が、誤投与症例の一つ一つにつき患者に害を及ぼす可能性を評価・分類した。

薬剤投与14041回および処方内容転記3082回の内訳について調べてみたところ、内科、外科、集中治療部からのものがそれぞれ30%、52%、17%を占めていた。バーコードを利用したeMARの導入によって、投与時刻以外の誤投薬回数が41.4%減少した(P<0.001)。eMARを使用した場合と使用しなかった場合それぞれの典型的な過誤内容は、経口投与と経管投与の間違い(4.4% vs. 3.6%)、処方指示内容の間違い(2.9% vs. 0.6%)、投与量の間違い(2.0% vs. 1.1%)および指示された薬剤と異なる薬剤の投与(1.0% vs. 0.4%)であった。内科系病棟より外科系病棟および集中治療部の方が誤投薬発生頻度が高かった。有害事象が起こる可能性のある誤投薬(投与時刻間違い以外の誤投薬)の発生率は、バーコードeMAR導入によって50.8%減少した(P<0.001)。投与時刻間違いは27.3%減少した(P<0.001)。eMAR導入前の処方内容転記間違い発生率は6.1%であったが、導入後には根絶された。

解説
患者はもとより、医療従事者および社会全体が患者の安全に関心を抱いている。誤投薬は未だに困った問題であり、画期的な解決策が求められている。この研究では、処方された薬剤と、投与対象患者および実際に投与しようとする薬剤とを照合するバーコードシステムによって誤投薬が減ることが明らかになった。今後、全てではないにせよ多くの手術室で、このような投薬方式が活用されるようになるであろう。

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麻酔文献レビュー2010年10月② [anesthesiology]

Anesthesia Literature Review

Anesthesiology 2010年10月号より

Apixaban versus enoxaparin for thromboprophylaxis after knee replacement (ADVANCE-2): a randomised double-blind trial. Lancet 2010; 375: 807-15

整形外科患者では、出血のリスクを最小限に抑えつつ、凝固能が亢進するのを防ぐことが重要である。現時点で臨床使用可能な薬剤(ワーファリンやエノキサパリンなど)は有効だが、投与量の調節や投与経路の選定が厄介である。過去に行われた諸研究では、経口抗Ⅹa薬のアピキサバンが、整形外科手術を受ける患者には有用であることが報告されている。

ここに紹介した多施設無作為化二重盲検第Ⅲ相試験(ADVANCE-2)では、TKR術後症例を対象に、アピキサバン内服と広く使用されている抗凝固薬であるエノキサパリンについて有効性と安全性の比較検討が行われた。片側もしくは両側TKRを予定された患者(1529名)を、アピキサバン内服群(1回25mg、1日2回を閉創の12-24時間後から開始)もしくはエノキサパリン皮下注群(1回40mg、1日1回を手術12時間前から開始)に無作為に割り当てた。症状を伴う深部静脈血栓症/肺塞栓、出血および創部合併症の有無を毎日評価した。さらに、割り当てられた薬剤の最終投与から30日後および60日後に追跡調査を行った。

患者の大半(72%)は女性で、年齢は約67歳であった。割り当てられた薬剤の平均投与期間は、両群とも12日であった。主要エンドポイント(あらゆるタイプの静脈血栓塞栓症および全死因死亡)の発生率は、エノキサパリン群よりアピキサバン群の方が低かった(24% vs. 15%; 相対危険度0.62; P<0.0001)。アピキサバン群では、致死的肺塞栓が2例発生した。追跡調査が行われた患者における、症状を伴う深部静脈血栓症(アピキサバン群2/1458、エノキサパリン群1/1469)および肺塞栓(それぞれ3/1458、1/1469)の発生は両群とも極めて少なかった。多量の出血または多量ではないが臨床的に問題となった出血の発生率は両群同等であった(アピキサバン群4% vs. エノキサパリン群5%; P=0.09)。

解説
整形外科患者の術後管理において、血栓予防は重要な一翼を担っている。だが、凝血塊ができるのを防ぐという利益と、出血の危険とを比較考量する必要がある。アピキサバンは経口投与が可能な抗Ⅹa薬である。アピキサバンの方が低分子ヘパリンのエノキサパリンよりも、深部静脈血栓、肺塞栓および死亡を防ぐ効果が高いことが明らかになった。出血性合併症の発生率は、二剤とも同等であった。

Long-Term Outcome of Open or Endovascular Repair of Abdominal Aortic Aneurysm. N Engl J Med. 2010; 362: 1881-9

Endovascular versus Open Repair of Abdominal Aortic Aneurysm. N Engl J Med. 2010; 362: 1863-71

サイズの大きい腹部大動脈瘤では、開腹術と比べ血管内治療の方が周術期生存率の点で優れている可能性がある。しかし、長い目で見てどちらの方が良いのかを知るには、長期追跡調査を行う必要がある。

ここに紹介したのは、開腹術と血管内治療の術後長期追跡調査を行ったDutch Randomized Endovascular Aneurysm Repair(DREAM)とEndovascular Aneurysm Repair(EVAR1)という2編の臨床試験である。どちらも無作為化多施設試験であり、開腹術または血管内治療のいずれかを要する腹部大動脈瘤成人患者が対象となった(表参照)。

解説
この2編の多施設RCTは、開腹術よりも血管内治療の方が長期転帰の点で優れているという見解を検証することを目的として実施された。6年後の時点における生存率は、いずれの試験においても両群同等であるという結果が得られた。そして、再手術施行率は血管内治療群の方が高いことが明らかになった。

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麻酔文献レビュー2010年10月① [anesthesiology]

Anesthesia Literature Review

Anesthesiology 2010年10月号より

Elective Thoracic Aortic Aneurysm Surgery: Better Outcomes from High-Volume Centers. J Am Coll Surg; 210: 855-60.

複雑な難しい手術については、実施症例の多い施設の方が少ない施設と比べて合併症発生率および死亡率が低いことが明らかにされている。しかし、胸部大動脈瘤の手術に関しては、症例数と転帰との相関が今までに検証されたことがない。

この遡及的研究では、ヴァージニア心臓手術改善データベース(Virginia Cardiac Surgery Quality Initiative database)を基に3年間のデータを集計した。このデータベースは、13種の心臓外科手術について17病院から集められたデータから構築されており、ヴァージニア州で行われる開心術症例のうち99%以上についての情報が集積されている。調査担当者は、各施設の症例数については関知しない状態で、胸部大動脈瘤切除術の実施症例数が少ない施設(40例未満)と実施症例数が多い施設(80例を超える)の周術期死亡率を比較検討した(図参照)。

解説
州全域を対象としたデータベースを基に、胸部大動脈瘤の予定手術の転帰が検討された。その結果、症例数が少ない病院より多い病院の方が、死亡率、腎不全発生率、長期人工呼吸実施率および入院費用が少ないことが明らかになった。同様の研究の結果を裏付けるものではあるが、症例数の多寡は恣意的に決められたものである。

Everolimus-Eluting versus Paclitaxel-Eluting Stents in Coronary Artery Disease. N Engl J Med 2010; 362: 1633-74.

Second-Generation Drug-Eluting Coronary Stents. N Engl J Med 2010; 362: 172830.

ベアメタルステントと比較し、薬剤溶出ステントは再狭窄率が低く優れた有効性を誇る。しかし、数多くの研究が行われてきたにも関わらず、パクリタキセル溶出ステントとエベロリムス溶出ステントのどちらが安全性および有効性において勝っているかは未だ明らかにされていない。

この研究は、前向き多施設無作為化単盲検実薬対照試験(SPIRIT Ⅳ)であり、エベロリムス溶出ステントとパクリタキセル溶出ステントが比較された。本試験は米国に所在する66施設で実施され、このうちのいずれかの施設でPCIが行われた3687名の患者が対象となった。経過観察のための冠動脈造影はルーチーンには行われなかった。

薬物溶出ステント留置1年後に追跡評価を行ったところ(97.9%の症例で実施)、PCIの目標病変における異常所見発生率は、エベロリムス溶出ステント群の方がパクリタキセル溶出ステント群より低かった(図参照)。

解説
エベロリムスを用いた第二世代の薬物溶出ステントは、第一世代のパクリタキセル溶出ステントと比べ、薬物送達の機能が向上しステントの構造も進歩している。この多施設試験は米国で行われ、対象患者数は3687名にのぼった。再狭窄とPCIの再実施をまとめて目標病変における異常所見として評価したところ、エベロリムス溶出ステント群の方が優れているという結果が得られた。だが、心臓死発生率については同等であった。また、糖尿病患者の各種転帰については、いずれにおいてもエベロリムス群とパクリタキセル群とのあいだに臨床的有益性の差は認められなかった。本論文についての編者解説でも指摘されている通り、エベロリムスとパクリタキセルの違いについては、さらに研究を重ねる必要がある。

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無作為化比較対照試験との決別~観測研究の復権 [critical care]

We should abandon randomized controlled trials in the intensive care unit

Critical Care Medicine 2010年10月号増刊より

輸血を例に挙げると

これまでに指摘してきたRCTの諸問題を具体的にあらわす典型例が、ICU患者を対象とした輸血に関する研究である。輸血開始のヘモグロビン濃度閾値が高い場合と低い場合の転帰を比較する研究が、今までに何編も行われてきた。その中で最も質が高く人口に膾炙しているのが、カナダのHebertらが行ったTRICC研究という多施設試験である。この研究については前項でも触れたが、制限輸血(ヘモグロビン濃度が7g/dLを下回らないと輸血を行わない)は非制限輸血(ヘモグロビン濃度が10g/dLを下回ったら輸血する)と比べ、少なくとも同等の転帰をもたらすという結果が示された。この研究で得られたデータには大いに関心が寄せられ、実際に我々の輸血方針もこの結果を受けて変化した。だが、いくつかの点について、議論を深める必要があるのも事実である。第一に、既に述べたように、研究対象の候補となった患者のうち実際に無作為化割り当てされたのはわずか13%にすぎなかった(6451名中838名)。したがって、貧血が悪影響を及ぼす可能性が高い疾患の代表格である冠動脈疾患を、その重症度はともかく合併する患者の多くが対象から除外されたのではないかと考えられる。第二に、この研究の発表以降、輸血をめぐる事情が変化した可能性がある。重症患者における貧血と輸血についての研究(Anemia and Blood Transfusion in Critical Care study; ABC研究)では、TRICC研究と同様に輸血が転帰の悪化と相関しているという結果が示された。しかし、TRICC研究やABC研究の数年後に行われた急性疾患患者における敗血症についての研究(Sepsis Occurrence in Acutely Ill Patients study; SOAP研究)では、同じような手法で研究が行われたにもかかわらず、輸血を行っても転帰は悪化しないという結果が得られた。このように画然とした違いが生じた原因の一つとして、先行する二つの研究からSOAP研究までの間に輸血製剤の質が向上したことが挙げられる。とりわけ、白血球除去が広く行われるようになって輸血による有害事象が減り、輸血が以前より安全になったものと考えられる。

無作為化比較対照試験 vs. 観測研究

さて、RCTに見切りをつけるとすれば、それに取って代わる選択肢は何であろう? 観測研究には、仮説を立てるのにしか役に立たない、などといった難癖がつけられることが多い。しかし、利点もたくさんあり、患者集団を漏れなく対象として登録することができるという大きな長所がある。つまり、観測研究には除外基準はないので、臨床実態をよく反映する結果が得られることになる。一般的には患者の同意を得る必要がないため、RCTよりも多数の患者を対象にすることが可能であることも、観測研究の大きな魅力の一つである。また、同意取得を待つことなく、迅速に患者を登録することが可能である。そして、観測研究はRCTよりも安く、早く実施することができる。

RCTで得られた結果は、最高レベルのエビデンスとされている。一方、観測研究は、危険因子や予後予測要因の同定を目的とする場合や、RCTの実施が不可能または非倫理的である場合に行うものと考えられている。こうしたRCT偏重の風潮が蔓延している背景には、観測研究にはバイアスがつきものなのではないかという懸念や、治療の有益性を過大評価する危険性についての憂慮、交絡因子の影響を減らすには無作為化が必須であるという強固な観念などが横たわっている。しかし、2種類以上の治療法を比較した観測研究で得られた結果と、同じ治療法についての比較を行ったRCTで得られた結果とを比較検討した複数の研究において、治療効果に関する結論は両者一致することが明らかにされている。

まとめ

この10年ほどのあいだ、EBMが持て囃されてきた。無作為化比較対照試験が強力に推し進められ、他のあらゆる研究手法が蹴散らされてきたかのようである。だが、観測研究にはRCTにはないたくさんの利点があり、重症患者管理に役立つ興味深い知見を得るのにはうってつけである。質の高い大規模臨床データベースを構築することができるようになり、統計処理も進歩を遂げていることが、データ収集およびその解析の強い味方となっている。無作為化試験であれ観測研究であれ、どんな研究にも設計や解析に弱点がある可能性があることを忘れてはならない。成果を最大限引き出すには、計画の段階で熟考を重ね、実施に当たっては慎重の上にも慎重を期すことである。有効な治療を適切に実施し患者の利益が実現されるようにするには、ICUという場で行われるRCTには限界があることを認識し、RCTを金科玉条とするのを止め、他の手法やタイプの研究にも広く目を向けるべきである。

教訓 ICU領域のRCTにはいろいろ問題があるので、観測研究を見直すべき時が来ているようです。ただし、安易な観測研究はだめです。

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無作為化比較対照試験との決別~その他の問題 [critical care]

We should abandon randomized controlled trials in the intensive care unit

Critical Care Medicine 2010年10月号増刊より

RCTにまつわるその他の問題

非盲検RCTにおけるリスク認知を歪めるバイアス
新薬の開発過程において二重盲検RCTの実施は必須である。通常、偽薬対照比較試験として行われる。だが、既に確立された治療法があり、どちらが優れているか分からない場合は、二つの方法を比較する試験が行われることもある。非盲検RCTでは、患者がいずれの群に割り当てられているのかを治療に携わる医師が関知することになる。そのため、担当医の考えによっては、割り当てられたのとは異なる治療が行われてしまうかもしれないというリスクを孕んでいる。したがって、深い鎮静と浅い鎮静を比較した研究では、担当医が浅い鎮静の方が良いに決まっているという強い信念を持っていたとすれば、おそらく無意識的であるにせよ、深い鎮静群の患者の治療全体を浅い鎮静群とは異なる方法で行ったかもしれない。こういう事情がこの研究の結果に影響を及ぼした可能性がある。治療法によっては、研究に関係する全員が割り当て群を知り得ないようにすることが不可能なものもある。しかし、そのような治療法について本当にRCTを実施する必要があるのであろうか? 例として、ICU退室後の経過観察の有効性を評価するという架空の研究を考えてみよう。一方の群に割り当てられた患者は非常に質の高い回復期病棟に収容され、理学療法士、心理療法士等々によって経過観察が行われる。もう一方の群に割り当てられた患者はICU退室後自宅に戻され、経過観察は行われない。患者がどちらの群に割り当てられたいと思うか、その答えは尋ねなくても自明である。この例を参考に、「満足して楽しい気分の」スタッフが関与する事がもたらす効果を評価するRCTでもやってみてはいかがであろう。一方の群の患者に対しては、笑みをたたえて楽しげに働くICUスタッフがケアを行い、もう一方の群の患者は、景気が悪そうな雰囲気を漂わせた不機嫌なスタッフにケアを行われる、という研究である。研究に取りかかるまでもなく結果は明白である。RCTはこれまで金科玉条として行われてきたが、本当にそうする必要があったのであろうか?

除外症例が占める割合が高いと臨床現場に適用しづらい
多くのRCTでは、はじめに登録候補となる症例数のうち実際にいずれかの群に割り当てられる症例数が占める割合は極めて小さい。例えば、Hebertらが行った集中治療領域における輸血量についての研究(TRICC研究)では、研究対象の候補となった6451名のうち実際に無作為化割り当ての対象となったのは、わずか13%に過ぎない。同様に、敗血症性ショックにおけるバソプレシンとノルエピネフリンの比較を行った研究(VASST研究)でも、6229名の登録候補のうち無作為化割り当ての対象となったのは802名に止まった。ARDSnetが行った肺動脈カテーテルもしくは中心静脈カテーテルから得られるデータを用いた治療の比較研究では、11000名以上の患者が登録候補となったのに、無作為化割り当ての対象になったのはたったの1000名だけであった。また、厳格血糖管理の有効性を評価したNICE-SUGAR研究が先頃発表されたが、この研究でも対象基準を満たした41000名のうち無作為化割り当てまで進むことができたのは6000名強に過ぎなかった。以上のように厳しい除外基準が設けられていると、実際に登録される患者数は少なくなってしまう。だとすれば、実際に無作為化割り当ての対象となった患者群は、はじめに研究対象となり得ると想定された患者集団全体をちゃんと反映していると言えるのであろうか? それに、このような研究で得られた結果を、ICU患者一般に当てはめることができるのであろうか? どんな研究にもこの手の問題はつきまとうものだ、と反駁する意見もあるかもしれない。しかし、この問題は必ずしも全ての研究において懸念されるわけではない。例えば、ショック患者に対する昇圧薬の第一選択としてドパミンとノルエピネフリンのいずれを採用すべきかを検討したDe Beckerらの研究では、それほど厳しくない除外基準が設けられ、対象候補となった2011名のうち、無作為化割り当ての対象となったのは1679名(84%)にのぼった。

教訓 厳格な除外基準が設定された研究の結果は、実際の症例に適用するのが困難です。

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無作為化比較対照試験との決別~失敗の理由② [critical care]

We should abandon randomized controlled trials in the intensive care unit

Critical Care Medicine 2010年10月号増刊より

なぜこれほど多くのRCTが「失敗」に終わるのか?

5) エンドポイントの設定が間違っているのではないか?
ICU患者の死亡率は比較的高いので、一般的に死亡が妥当なエンドポイントであると思われている。さらに、生死の別というのは、おそらく最高に客観的なエビデンスである。しかし、昨今のICUにおいては、患者の死に際には終末期の自己決定がものを言うようになってきている。明示的であるにせよそうでないにせよ、患者の選好によって、死ぬか生きるかもしくは少なくとも死に至るまでの時間が左右され得るのである。非盲検化試験では、特にこのようなことが起こりやすい。Cruzらの研究がその一例である。この研究では、治療群において積極的な救命治療の決定あるいは実行に至るまでに、遅れが生じた可能性がある。エンドポイントとして死亡率以外の指標を用いることも提案されているが、これとて実際に使用するには一筋縄ではいかないであろう。例えば、合併症であれば定義が難しく、何をもって改善とするのかを示すのは容易ではないし、ICU滞在期間にも外的要因によって左右されるという問題がある(ICUが満床であれば早めに退室させられ、一般病棟に空床がなければICU滞在が長引く)。複合エンドポイント(例, 第14日における死亡または人工呼吸器使用または血液浄化の実施)がよいという意見もあるが、これはこれで問題を孕んでいる。

6) 対象患者を正しく設定していないのではないか?
ICU患者を対象としたRCTの多くが失敗に終わるのは、対象患者が適切でないということが最も重大な理由であると広く受け止められている。ICUで遭遇する病態は、多くがきっちりと定義されていない。明快な疾患分類(急性心筋梗塞、脳血管障害、尿路感染症など)に基づいて定義されるものよりも、症候群(敗血症、ARDS、SIRSなど)として扱われる病態が少なくない。その上、こうした病態を呈するICU患者の年齢、もともとの健康状態、登録時点における疾患の段階および重症度などの特性は、ばらつきが非常に大きい。無作為化割り当てを行っても、試験対象の治療法に反応して改善を示す患者もいれば、何ら効果が見られなかったり、むしろ有害事象が発生したりする患者もいるという事態が発生するかもしれないのである。つまり、このような研究を全体として見れば、良くて有効でも有害でもないという結果、悪くすれば有害であるという結果が得られることになる(Fig. 1)。輸血開始の閾値についての研究がその代表例である。ある輸血開始ヘモグロビン閾値によって患者を二群に無作為に割り当てる場合、患者の年齢が若いほど、そして軽症であるほど輸血開始ヘモグロビン閾値が低い群に割り当てられる方が有益(輸血量が少ない)であると考えられる。一方、高齢患者では、特に冠動脈疾患を合併している場合には、輸血開始ヘモグロビン閾値が高い方が有益であろう。だが、患者は無作為にどちらかの群に割り当てられるのだから、閾値が高い群の中には、適切な治療が行われ効果が期待できる患者(冠動脈疾患のある高齢者など)と、不適切な治療が行われ有益性が期待できなかったり、むしろ有害であることが懸念されたりする患者(軽症の若年者など)とが混在することになる。同様に、閾値が低い群の中には、ヘモグロビン濃度がかなり低くなってから輸血を開始するのが適切な患者(軽症の若年者など)と、不適切な患者(冠動脈疾患のある重症高齢者など)とが混在することになる。このような研究で観察される全体としての結果が、どっちつかず(どちらか一方が他方と比べて有益であるとか有害であるというはっきりした結果が出ない)のは、当然のことであろう。敗血症の治療法についての諸研究の中にもこれと類似する例が散見される。抗TNF抗体は、最重症の敗血症に有効であるかもしれないが、中等症の敗血症では有害となる可能性がある。同様に、ARDS患者において低PEEPと高PEEPを比較した研究でも、PEEPを高くすると有効である患者と、高くすべきではない患者とが混在していたと考えられる。

教訓 死亡は必ずしも妥当なエンドポイントとは言えません。
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無作為化比較対照試験との決別~失敗の理由① [critical care]

We should abandon randomized controlled trials in the intensive care unit

Critical Care Medicine 2010年10月号増刊より

なぜこれほど多くのRCTが「失敗」に終わるのか?

ICU領域におけるRCTのなかには有効性を示すことができなかったものが数多く存在する。有効性を示すに至らなかった理由として考え得るもののうち一部を以下に挙げる。

1) 当該治療法がそもそも無効であったのでは?
試験対象の治療法が単に本当に効かないだけ、というのももちろんあり得ることではある。だが、大半のRCTは有効性を裏付ける理論的背景および前臨床試験のデータによって有効である可能性が高いと考えられる治療法について行われている。だが、動物モデルがどんなに精巧なものであっても、臨床で遭遇する病態をなぞらえることは到底できない。それに、確実に効く治療法であっても、実際には有益性がないこともある。その典型的な実例が、頻繁に不整脈を呈する患者に対する抗不整脈薬の系統的使用である。抗不整脈薬を系統的分類に基づいて使用すれば突然死を防ぐことができると期待されたが、実際には死亡率が増加するという結果が得られた。

2) 検出力が足りなかったのでは?
ARDS患者に対する高PEEP、同じく重症ARDS患者に対する腹臥位などの研究では検出力が不足していたと考えられる。しかし、検出力不足が即ち有益性が証明されなかったことの理由とは考え難い。特に、有意差はないものの、有害であるという傾向が認められた研究では、有益性が証明されない理由を検出力不足に帰することはできない。敗血症性ショックに対する副腎皮質ステロイド療法(CORTICUS)研究がその好例である。この研究に対しては、標本数が十分でないという批判が向けられた。だが、CORTICUS研究ではステロイド投与群の方が対照群よりも死亡率がやや高いという結果が得られた。すなわち、標本数を増やしたとすれば、ステロイドが有益であるというよりむしろ有害であるという結果をより顕著に示すことになったかもしれない。現在、ほとんどのRCTでは目標とする結果を得るのに必要な患者数をはじき出すため、先行する臨床試験のデータを基に設計時点において予め検出力の計算が行われる。

3) 重症度の問題なのか?
重症度と治療の効き具合は、必ずしも比例しない。だから、疾患の重症度を臨床試験の対象症例の登録基準にするのは適切ではないのかもしれない。重症度と治療の効き具合の関係は、正比例ではなく逆U字形の曲線を示すが、新しい治療法が生存率におよぼす影響は重症度が最も低いか最も高い一群でしか検出することができない。これは、治療の成否に関わらず、最軽症の場合は患者が生存する可能性が極めて高く、最重症の場合は患者が死亡する可能性が極めて高いからである。重症敗血症に対する活性化プロテインCの有効性を評価したPROWESS研究においては死亡率の低下が認められたものの、ADDRESS研究Annaneらの研究およびCORTICUS研究では死亡率の低下が確認されなかったのは、部分的にせよ以上のような事情が関与しているせいであると考えられる。

4) 治療実施時期は的確であったのか?
臨床試験では、すでにICU期間が長期化している患者と、ICUに入室したばかりの患者が一緒くたに対象症例として扱われることが多い。入室後間もなく発症する患者と、入室後しばらくしてから発症する患者とでは転帰が異なるかもしれないといった事情は勘案されない。例えば、Sakrらは、ICU入室後間もなくショックに陥った患者と比べ、入室後しばらくしてから(ICU入室後2日以上経ってから)ショックに陥った患者の方が死亡率が高いことを明らかにしている。しかし、こういった違いが必ずしもすべての疾患や病態に当てはまるわけではない。ARDSについて言えば、ICU入室後のいつの時点で発症しようが死亡率は変わらない。

教訓 ARDS患者に対する高PEEPや腹臥位についての研究では検出力が不足していた可能性がありますが、最近の研究では予め検出力を算出して必要症例数を弾き出すので、検出力不足が有効性を示すことができない理由にはなりにくいと考えられます。
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無作為化比較対照試験との決別~振り子効果 [critical care]

We should abandon randomized controlled trials in the intensive care unit

Critical Care Medicine 2010年10月号増刊より

「マイナス」の無作為化比較対照試験(RCT)、つまり対象となった治療法によって転帰が改善するという結果を示すことができなかった試験によってある程度の反響が起こるのは当然である。しかし、それ相応の反響を凌駕する過大な反応が、集中治療医学に対する包囲網を形成してきたかのように思われる今日この頃である。Ospina-Tasconらが著した体系的総説によれば、ICU患者を対象として何らかの治療法が死亡率におよぼす影響を検討したRCT 72編のうち、当該治療法が「プラス」であるという結果(転帰が改善するという結果)を示したものはわずか10編に過ぎなかった。そして、当該治療法によってかえって転帰が悪くなるという結果が7編で報告され、転帰を良くも悪くもしないという結果を示したのは55編にものぼるという惨憺たる有様である。さらに、転帰が改善するという結果が得られた10種類の治療法の多くは、その後行われた試験では同様の結果が確認されなかったため、確立した治療法として広く臨床に取り入れられるには至っていない(Table 1)。我々が日々行っていること(RCTで有用性が示されているものも示されていないものも含む)の大半は、病態生理を理解した上で、ある治療法によって病態生理にどのような影響がおよび転帰が改善するかということを踏まえて実行に移されている。だが、病態にせよ治療法にせよその多くは、まだ限られた知見しか得られていない(例えば、ステロイド、活性化プロテインC、PEEPの値などについては様々なRCTが行われてきたが、未だに確固とした結論を得られずに右往左往しているのが現状である)。我々が行う治療法が作用を発揮する機序がほとんど分かっていないのに、RCTを正確に設計し実行できようか?機序も分かっていない治療法によって患者の転帰が改善することをRCTで示そうとするなんて虫が良すぎるのではなかろうか?重症患者管理における多くの場面においては、人口に膾炙している所謂RCTを(少なくとも今のところは)見限るべきであり、精緻な観測研究によって知見を積み重ねることにこそ奮励努力すべきであるということをこの記事では論ずることにする。

振り子効果

ある治療法が有効であるということを示す研究が、後に別の研究で有効ではないとか、むしろ有害であるとして覆されることを振り子効果と呼ぶ。これは、集中治療医を悩ませる頭痛の種である。そして、有望な新しい治療法が登場してもすぐには日々の臨床に取り入れず、追跡調査で一転、否定的な結果が出るであろうとニヒルに待つという気風を蔓延させる元凶にもなっているのではなかろうか。振り子効果の実例は枚挙にいとまがない。人工呼吸器関連肺炎に対し、気管支鏡を用いるPSB(protected specimen brush)やBALによる検体採取を行うと死亡率が低下することが示されたものの、後に死亡率を低下させる効果はないという結果が報告された。敗血症性ショック患者に副腎皮質ステロイドを中等量投与すると生存率が上昇することを示した研究が一編報告されたが、その後の研究では、ステロイドによって転帰は変わらないという結果が示された。重症敗血症患者において活性化ドロトレコギンアルファが有効であることを示したRecombinant Human Activated Protein C Worldwide Evaluation in Severe Sepsis(PROWESS)研究 も、現在進行中のPROWESS-shock試験によって覆されることになるかもしれない。

単一施設研究の結果を受けて、同様の試験を多施設研究として拡大実施する場合に、振り子効果が特に発生しやすいように見受けられる。例えば、Van den Bergheらは自施設のICUで行った厳格血糖管理の研究で転帰が改善することを示したが、後に実施された複数の多施設研究では同様の結果は得られなかった。Riversらの単一施設研究ではEGDTによる転帰改善が示されたが、これもまた現在進行中の多施設研究で否定されるのかもしれない。

こうした振り子効果が出現する重大な背景要因の一つとして、後続の多施設研究における対照群の患者管理が、端緒となった研究を受けて、既に改善してしまっていることが挙げられる。こうなってしまうと、対照群と治療群のあいだに転帰の差を見出すのは至難の業となる。実際、Van den Bergheらの論文が発表されてからというもの、大部分のICUでは血糖値が以前より厳重に管理されるようになったし、救急部における敗血症患者の急性期治療はRiversらの研究が世に出たことにより向上した。

臨床試験は有益であるという結果よりも有害という結果がでやすい

ICUで行われるRCTでは、有益であるという結果よりも有害という結果がでやすいのが事実である。このことを示す絶好の例が、ARDS患者における低一回換気量と高一回換気量の影響を比較検討したARDSNetの研究である。この研究では、当時における高一回換気量を適用した群の方が低一回換気量群よりも死亡率が高いという結果が得られた。同様に、KressらはICU患者の鎮静を毎日中断することによって死亡率が低下することを示した。しかし、この研究で示された転帰の差は、鎮静を中断するというプロトコルそのものに有益性があって生じたと言うよりは、対照群(鎮静を中断しない群)における合併症発生率の増加によって差ができたと考えられる。

教訓 単一施設研究の結果を受けて、同様の試験を多施設研究として行うと振り子効果が発生しやすいようです。intensive insulin therapyがその例です。EGDTも同じかもしれません。
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臨床麻酔学会(徳島) [misc]

今日から臨床麻酔学会ですね。私は参加しませんが、これに乗じて今日と明日は更新をお休みすることにします。

徳島には訪れてみたい場所があります。大塚国際美術館です。ルーヴル、オルセー、エルミタージュ、MoMA、プラド、ウフィツィなどなどの世界中の美術館に収蔵されている目玉作品(の模倣品)ばかりを一同に集めたスーパー美術館です。絵の具のタッチとか厚塗りっぷりを堪能したい見巧者には物足りないかもしれませんが、私のようなライト感覚の絵画好きにはうってつけです。

それでは、ごきげんよう。
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VAPの新しい課題と論点~人工鼻 [critical care]

New Issues and Controversies in the Prevention of Ventilator-associated Pneumonia

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2010年10月1日号より

一部のガイドラインでしか推奨されていない方法

熱湿度交換器(HME; 人工鼻)または加温加湿器(HHs)

Kolaらは計1378名を対象とした9編の試験についてのメタ分析を行い、人工鼻の使用によってVAP発生率が低下することを明らかにした(相対危険度0.7; 95%CI, 0.50-0.94)。しかし、人工鼻と比べ加温加湿器の方がVAP発生率が有意に低いことを示したCohenらおよびBlinらが行った計2編の非無作為化研究は、このメタ分析には含まれていない。

人工呼吸を5日以上要する患者に加温加湿器を使用した場合、VAP発生率の有意な低下は認められないという結果を報告した無作為化試験2編、VAP発生率の有意な低下が認められるとした無作為化試験1編(15.7 vs 39.6%; P=0.006)の計3編の研究が、Kolaらのメタ分析に引き続き発表された。

その後Siemposらが行ったメタ分析では、計2580名を対象とした13編の無作為化比較対照試験について解析が行われた。その結果、人工鼻と加温加湿器のあいだにVAPおよび気道閉塞の発生率、ICU死亡率、ICU滞在期間および人工呼吸期間の有意差は認められなかった。しかし、いずれの試験においても人工鼻は加温加湿器より安価であった。人工鼻には費用削減という利点があるため、低体温、無気肺、粘稠痰または血痰などの禁忌がない限り、人工鼻の使用は「一考に値する」とする。

まとめ

極薄紡錘形カフ付き気管チューブおよび抗菌物質被覆気管チューブを用いるとVAPのリスクが低減すると我々は確信している。以上のような工夫を講じた気管チューブにSSD機能を搭載すれば、より高いVAP予防効果が得られ役に立つであろう。

さらに、人工呼吸期間が7日以上におよぶと予想される患者においては早期気管切開を考慮すべきである。早期気管切開によって、人工呼吸期間とICU滞在期間の短縮、死亡率低下、患者の快適性の向上といった効果が得られる。しかし、今のところ早期気管切開によってVAP発生率が低下するという報告はまだない。人工鼻には費用削減という利点がある。禁忌がなければ、人工呼吸患者の吸気加湿法として人工鼻の使用を考慮すべきである。

カフ圧持続制御装置、バイオフィルム除去装置、および気管内吸引前の生食注入については、さらに研究を行い有効性を明らかにする必要がある。

VAP発生リスクは人工呼吸期間が延長するほど増大するため、長期にわたり人工呼吸が行われる患者では、以上のような予防策が特に有効性を発揮するものと考えられる。臨床上の意思決定過程では、人工呼吸期間が長期化しそうな患者を見分ける必要があることが指摘されているが、多くの場合、人工呼吸管理を長期に必要とする患者を予め同定することは困難である。したがって、重症患者に人工呼吸を行う場合、全症例において以上のVAP予防策をもれなく適用すればよかろう、とも考えられる。

本レビューで紹介したVAP予防策の多くについて、論じていない問題点がある。費用対効果のデータは不足しているし、各予防策が死亡率、人工呼吸期間および入院期間に及ぼす影響についてのデータは皆無もしくは極わずかである。さらに、一部の文献では特定の限定的な症例が対象とされていたため、その結果を広く一般に敷衍するには差し障りがある。また、標本数が不足している研究もあった。以上を踏まえると、ここに紹介した様々なVAP予防策についての推奨度を確実に決定するには、さらに研究を重ねる必要がある。本レビューに挙げたVAP予防策が、現行のガイドラインでどのように取り扱われているかをTable 1にまとめた。あわせて、新しいエビデンスと我々が今回決定した推奨度もTable 1に掲載した。カナダ集中治療医学会のガイドラインでは、留保なく有効であるとされる場合は推奨、エビデンスが十分に蓄積されていないか、有効性、有害性または費用について重大な疑問が残る場合は推奨しない、というように推奨度が決定されていた。

教訓 低体温、無気肺、粘稠痰または血痰などの禁忌がない限り、人工鼻の使用は一考に値します。
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VAPの新しい課題と論点~抗菌コーティング気管チューブ [critical care]

New Issues and Controversies in the Prevention of Ventilator-associated Pneumonia

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2010年10月1日号より

一部のガイドラインでしか推奨されていない方法

抗菌物質被覆気管チューブ

人工呼吸が行われている患者の気管チューブ内壁表面にはバイオフィルムが形成されることが明らかにされている。バイオフィルムは、病原菌が気管チューブに定着するのに絶好の環境である。時間が経つと、バイオフィルムは自然に剥脱したり吸引や気管支鏡の際に削ぎ落とされたりして下気道へ脱落し、VAPの危険性を招くことになる。バイオフィルム形成と細菌定着を抑制し、ひいてはVAPを防ぐため、抗菌物質で被覆した気管チューブが開発された。動物実験およびin vitro研究において、銀被覆気管チューブを使用すると気管チューブおよび肺の細菌定着が減少することが明らかにされている。また、重症患者に銀被覆気管チューブを用いると、気管内の細菌定着が減少し、VAP発生率が低下することが示されている。

Hartmannらは、口咽頭-喉頭-肺を模したin vitroモデルに銀被覆気管チューブまたは従来型気管チューブを挿入した上で、緑膿菌を口咽頭-喉頭内へ持続的に注入し、両チューブの比較を行った。従来型気管チューブ群より銀被覆気管チューブ群の方が、肺内の細菌数が少なかった。

Jonesらはin vitro研究において、異なる色々な濃度のヘキセチジン(0-20%)を含浸した気管チューブを用い、物理化学的特性と細菌(黄色ブドウ球菌および緑膿菌)の付着性を検討した。全体的な傾向として、ヘキセチジン濃度が高いほど、気管チューブの引っ張り強度および疎水性が低下し、微細な皺が増えることが分かった。ヘキセチジン含浸気管チューブ(濃度1または5%)は、ヘキセチジン処理されていない普通のチューブと比べ、細菌が付着しにくかった。また、観測期間中(21日)ずっとヘキセチジンがチューブから染み出し、一定の抗付着性が発揮された。著者らは、物理化学的特性と抗細菌付着性の両者がともに適切であるのは、1%ヘキセチジン含有気管チューブであると結論づけている。

Olsonらは、イヌ11頭を銀被覆気管チューブまたは従来型気管チューブのいずれかに無作為に割り当て人工呼吸を行い、緑膿菌を頬粘膜に塗布した。銀被覆気管チューブ群では、チューブ内壁表面に緑膿菌が検出されるまでの時間が、従来型気管チューブ群よりも長かった(1.8±0.4日 vs 3.2±0.8日; P=0.02)。また、肺実質の全好気性細菌数(対数)の平均値も、銀被覆気管チューブ群の方が少なかった(44.8±0.8 vs 5.4±9 log cfu/g[肺組織重量]; P=0.01)。

Berraらは16頭のヒツジをスルファジアジン銀-クロルヘキシジン被覆気管チューブまたは従来型気管チューブのいずれかに無作為に割り当て人工呼吸を1時間行った。従来型気管チューブが使用された8頭全頭において、気管チューブ内にバイオフィルム形成を伴う大量の細菌定着が認められ(105-108 cfu/g)、さらに人工呼吸回路内にも細菌定着が見つかった。スルファジアジン銀-クロルヘキシジン被覆気管チューブが使用された8頭のうち5頭で(62.5%)、気管内および肺内に病原菌の定着が認められた。同じく8頭のうち7頭(87.5%)の気管チューブおよび人工呼吸回路には細菌定着は認められず、バイオフィルムも見つからなかった。スルファジアジン銀-クロルヘキシジン被覆気管チューブ群の8頭のうち3頭(37.5%)では気管内に細菌定着が認められたが、肺内の細菌増殖はなかった。

Berraらが行った別の研究では、動物実験およびin vitro実験でスルファジアジン銀被覆気管チューブの評価が行われた。実験モデルには24時間おきに緑膿菌(104-106個/mL)が注入された。スルファジアジン銀被覆気管チューブを用いると最長72時間にわたり、チューブ内に細菌が皆無の状態が維持されることがin vitro実験で示された。一方、従来型気管チューブの場合は、緑膿菌が大量に増殖し、バイオフィルム形成も認められた(P<0.01)。8頭のヒツジに人工呼吸を24時間実施して行った無作為化試験では、スルファジアジン銀被覆気管チューブ群では、気管チューブ、人工呼吸回路および下気道のいずれにも細菌は認められなかった。一方、従来型気管チューブ群では、大量の細菌定着が気管チューブ(P<0.001)、人工呼吸回路(P=0.003)および下気道(P<0.001)に見つかった。

動物モデルおよびin vitroモデルを用いたRelloらの研究では、銀被覆気管チューブを使用すると従来型気管チューブを使用した場合と比べ、細菌定着率が低いことが示されている。Relloらは別の研究で、人工呼吸を24時間以上要する患者121名を銀被覆気管チューブ群または従来型気管チューブ群に無作為に割り当てた。従来型気管チューブ群と比べ銀被覆気管チューブ群では、チューブ内および気管内採痰中に細菌定着が発生するまでの時間が長く、気管内採痰中の最大細菌量が少なかった。この研究ではVAP発生率や抗菌薬使用量については両群間に有意差は認められなかった。標本数が少なかったことが、有意差が生じなかった原因であると思われる。

Kollefらが行った北米銀被覆気管チューブ試験(North America Silver-Coated Endotracheal Tube study; NASCENT)は、人工呼吸を24時間以上要すると予測される患者2003名を対象とし、銀被覆気管チューブと従来型気管チューブの比較を行った無作為化試験である。銀被覆気管チューブ群の方が、細菌培養で確定診断されたVAPの発生率が低く(37/766[4.6%] vs. 56/743[7.5%]; P=0.003)、VAP発生までの時間が長かった(一般化Wilcoxon検定P=0.005)。NASCENT試験で得られたデータの遡及的コホート解析を行ったところ、VAP発症例における死亡率は、銀被覆気管チューブ群の方が従来型気管キューブ群よりも低いことが明らかになった。しかし、VAP非発症例では、銀被覆気管チューブ群の方が死亡率が高かった。Shorrらが行った費用対効果解析では、銀被覆気管チューブの使用はVAPを予防し入院医療費低減につながる可能性があるとされている。この解析によれば、人工呼吸が24時間行われた場合、VAPの相対危険度は35.9%から24%に低下する。VAPによる限界費用を16620米ドル、銀被覆気管チューブの費用を90米ドル、従来型気管チューブの費用を2米ドルとすると、VAPを一例防ぐごとに12840米ドルが浮くことになる。多変量解析の感度分析でも、銀被覆気管チューブを使用するとVAPを一例防ぐごとに大幅な費用削減効果が得られることが明らかにされている(95% CI, 9630-16356米ドル)。基本症例に対する気管チューブ関連以外の投入量が一定である場合、銀被覆気管チューブの損益分岐点は388米ドルである。以上の推計は、異なる状況にはそのまま当てはまるわけではないかもしれないが、銀被覆気管チューブの使用は推奨される。

教訓 銀被覆気管チューブの使用は推奨されています。しかし、NASCENT試験では、VAP発症例における死亡率は、銀被覆気管チューブ群の方が従来型気管キューブ群よりも低く、一方、VAP非発症例では銀被覆気管チューブ群の方が死亡率が高いという結果が得られました。


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