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術後肺合併症による医療・経済負担と予防策~まとめ [critical care]

Clinical and economic burden of postoperative pulmonary complications: Patient safety summit on definition, risk-reducing interventions, and preventive strategies

Critical Care Medicine 2011年9月号より

患者安全向上サミットの声明

術後肺合併症によるコスト増大は回避もしくは阻止可能である、というのが患者安全向上サミット参加者一同の結論である。術後肺合併症の発生頻度を低下させるため、あらゆる必要な対策を可能な限り実行すべきである。

術後肺合併症防止策の転帰改善効果に関する各手法の比較や施設間の比較を実施するには、術後肺合併症リスクを反映する計測可能な基準項目を設けることが重要であろう。そこで我々は、術後48時間以上の人工呼吸管理をその基準項目として提唱する。

長時間の人工呼吸を要する状況とは、ICU在室期間および入院期間延長、医療費増大につながるほどの術後肺合併症があることと同義である。術後に48時間以上も人工呼吸管理を行うことが予定されることは滅多になく(=特異度が高い)、人工呼吸管理を必要としない術後肺合併症は一般的にはそれほど重症であるとは言えない(感度が高いことに相当する)。術後患者の40%以上が人工呼吸を48時間以上要し、その場合は死亡率が高い。Linde-Zwirbleらは米国に所在する417ヶ所の病院手術を行った患者1,147,705名を対象として解析した。そのうち17,744名が死亡例であった。人工呼吸を48時間以上要したのは28,484名(2.5%)で、このうち7,405名(26.2%)が死亡し、死亡例全体の42.1%を占めた。このデータを米国全体に当てはめると、人工呼吸を48時間以上要する症例が182,541例発生し、その死亡率は26.1%ということになる。この研究では、人工呼吸48時間以上実施の予測因子を元にした簡単な指標を開発し、術後肺合併症高リスク患者の判別法として紹介している。

術後肺合併症リスクが最も高いことを示す最も実用的な指標が術後人工呼吸期間の総計が48時間以上におよぶことであるという点につき、患者安全向上サミット参加者のあいだで合意が形成された。術後肺合併症リスクに関するこの単純明快な指標が、リスク低減策の効果を評価したり、ある対策が臨床転帰におよぼす影響を状況や時代を超えて検討したりするのに役立つに違いない。人工呼吸期間はNSQIPの取り決めとも合致し、コード化が簡単で、大規模疫学研究における使用に堪えうる。また、リスク評価法や研究プロトコルにおいて用いるのにも適している。

また、医療に関係する様々な団体のうち要となるのが誰なのかをはっきりさせる必要性についても参加者の意見の一致がみられた。すなわち、病院、支払者、規制当局および医療の質/安全性向上組織などのなかでいずれが主導的立場をとるのかを明確にしなければならない。そして同時に、教育プログラムを開発したり、情報を広く知らしめたりして、周術期医療に従事するあらゆる職種の人々に術後肺合併症についての認識を高める必要がある。

まとめ

医療の質と安全性の一層の向上とより適切なケアの実施が、国をあげて求められている。この要求に応えるにあたっての最重要課題は、術後合併症リスクの低減である。術後肺合併症はありふれていて、死亡率やその他の合併症発生率の上昇につながり、臨床転帰の悪化や医療費増大を招く。

術後肺合併症の発生率を低下させるには、多職種が協同して行う多角的対策を実施する必要がある。この対策の中心となるのが、誤嚥の防止である。体位を正しく保持し、気管チューブの管理を適切に行い、微量誤嚥を起こしにくい気管チューブを開発し、非侵襲的陽圧換気の実施を考慮し、早期抜管を目指す、などの方法によって誤嚥を防止する。術後肺合併症という重大な公衆衛生上の問題を解決するには、色々なプロトコルや対策法を組み合わせた「パッケージ」の確立が求められる。術後肺合併症リスクが最高レベルであり、おそらく転帰も最悪であることを反映する指標として、術後人工呼吸期間総計>48時間を本サミットでは提示した。この指標を用いれば、術後肺合併症についての特定の予防策が発生頻度、死亡率および医療費におよぼす効果を比較検討することもできると考えられる。

教訓 術後人工呼吸期間が計48時間以上であると、術後肺合併症リスクが非常に高いと予測されます。術後死亡例の40%強が術後人工呼吸期間>48時間です。術後人工呼吸期間>48時間の患者における死亡率は26%です。
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術後肺合併症による医療・経済負担と予防策~VAP予防策 [critical care]

Clinical and economic burden of postoperative pulmonary complications: Patient safety summit on definition, risk-reducing interventions, and preventive strategies

Critical Care Medicine 2011年9月号より

VAP予防策

VAP予防策は手術室へ入室したときから実施を開始し、ICU入室中もずっと継続しなければならない。VAP予防策の具体的な内容は、こまめな手洗い、抗菌薬の適切な投与、口腔内衛生保全および正しい気道管理などである。口腔咽頭内の分泌物の排出を促すために行うべき術後対策は、体位変換、気道の加湿、気管挿管中であれば気管内吸引、定期的に咳をさせる、胸郭用手圧迫による痰喀出の促進などである。Bouadmaらは48時間以上の人工呼吸管理が行われたICU患者を対象とし、8種類の予防策を組み合わせた多角的プログラムのVAP発生率低下効果を検討した。この研究で取り上げられた予防策は、手指衛生、手袋およびガウンの装着、頭高位、気管チューブカフ圧の管理、経口胃管の使用、胃の拡張の防止、口腔内衛生および気管内吸引の必要時のみの実施である。各予防策の実施遵守率は高かったにも関わらず、VAP発生率は43%低下したものの依然として高いレベルに止まっていた。つまり、ICUにおけるVAPの根絶は困難を極めるということであろう。

新しい技術を応用した気管チューブを使用すればVAPのリスクが低減する可能性がある。銀イオンやスルファジアジン銀などの抗菌剤で被覆した気管チューブを用いると、バイオフィルムが形成されにくくなり、遠位気道の汚染が抑制される。抗菌剤被覆気管チューブに関する臨床試験が期待を持って行われてきたが、この手の気管チューブを臨床に導入しルーチーンで使用する気にさせるほどの有望な結果は得られていない。チューブ内腔の粘液塊形成を防ぐ気管チューブや粘液塊を「削ぎ落とす」器具などの有効性が主に動物を対象とした少数の研究で検討され、有効であるとの結果が示されている。カフの材質や形状に工夫を凝らし、皺によって通路ができるのを防ぐことができる気管チューブも登場している。カフのみがこのように新しいタイプの気管チューブや、カフが新しいだけでなく銀イオンで被覆されていたり吸引用ルーメンが組み込まれていたりする気管チューブについての二、三編の研究では、旧来の高容量低圧カフの気管チューブよりも優れていることが明らかにされている。声門下分泌物の持続的または間欠的吸引が可能な専用ポートが装備された気管チューブを用いれば、口腔咽頭内の汚い分泌物がカフを伝って気道遠位へとたれ込むのを防ぐことができるのではないかと期待されている。このような専用ポート付きの気管チューブによってVAP発生率、人工呼吸期間または死亡率が改善するかどうかはまだはっきりしていない。また、吸引孔が後方についているため気管後壁を損傷することがあり安全性に懸念が示されている(参考:声門下持続吸引による気管粘膜損傷)。

半坐位(30°~45°の頭高位)とすると誤嚥が防がれ細菌による気道汚染が起こりにくくなることが分かっている。さらにVAP発生率も減る可能性があるとされている。ベッド頭部を持ち上げるだけのこの簡単な方法の成否は、ICUスタッフの遵守率にかかっている。頭高位にしても口腔内分泌物や胃内容による気道汚染はなくならないことが細菌学的検査で明らかにされていて、頭高位を徹底してもやはりVAP発生率は無視できるほどに低下するわけではない。回転ベッドの使用や、側臥位や腹臥位もVAP予防に有効である可能性があることが報告されている。しかし、術後においてはこういった体位をとることは困難であることが多く、半坐位より優れていることが示された体位はない。

人工呼吸注の患者において、鎮静薬の持続投与量を極力減らし、安全が確保される限りにおいて可及的速やかに抜管すると、VAP発生率が低下し、ICU在室日数が短縮する。そしておそらく死亡率も減ると考えられている。ミダゾラム、プロポフォールやモルヒネなどの従来から広く用いられている薬剤が投与されている患者では、一日一回鎮静薬の投与を中断し、患者が覚醒し指示に従えるかどうかを確認し、苦痛の有無についての評価を行うと、鎮静薬の投与量を最小限に抑えることができる。自発呼吸試験を一日一回実施し、人工呼吸の補助なしに問題なく2時間にわたり自発呼吸が可能であれば抜管するという方法を実施すると、挿管期間を短縮することができる。

無気肺による術後低酸素血症には非侵襲的陽圧換気を早めに行うと、酸素を投与するだけの場合と比べ、再挿管率が低下し、おそらく術後肺炎の発生率も減ると考えられる。非侵襲的陽圧換気は、マウスピース、鼻マスク、顔マスクまたはヘルメット型マスクなどの様々な器具のうちいずれかを用いて行う。非侵襲的陽圧換気が有効であるとの報告は数多いが、内科系患者と比べ外科系患者で使用されることは非常に少ない。その主な理由は、腹部手術後には安全性に問題があると考えられていることや、術後は鎮静作用のある薬を使用することが多いためである。だが、熟練者が禁忌の有無を厳密に検討した上で正しく使えば、非侵襲的陽圧換気は安全かつ有効であることが最近の研究で示されている。

挿管患者を移動させると気管チューブのカフによる気管の密閉具合にゆるみが生ずるおそれがあるため、移動の機会を出来る限り避けるとICU管理の質が低下するのを防ぐことができる。ICU外への移動を必要最小限に留めれば、コスト削減につながり、ICU管理の予定を変更せずに済む。さらに、VAP発生率が低下する可能性がある。

教訓 VAP予防策については以下を参考になさってください。
VAPの新しい課題と論点~はじめに
VAPの新しい課題と論点~極薄カフ/SSD
VAPの新しい課題と論点~カフ圧自動制御、Lotrach
VAPの新しい課題と論点~バイオフィルム除去、生食注入
VAPの新しい課題と論点~早期気管切開
VAPの新しい課題と論点~抗菌コーティング気管チューブ
VAPの新しい課題と論点~人工鼻
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術後肺合併症による医療・経済負担と予防策~一般的予防策 [critical care]

Clinical and economic burden of postoperative pulmonary complications: Patient safety summit on definition, risk-reducing interventions, and preventive strategies

Critical Care Medicine 2011年9月号より

術後肺合併症の予防と起こったときの対処法

これまでに縷々述べたとおり、術後肺合併症は重大ではあるが予防の対象となる可能性を秘めた合併症であり、減らすことができれば周術期管理におけるコスト削減につながる。一例を挙げると、誤嚥の予防および微量誤嚥に対する有効な対処を行えば術後肺炎のリスクが低減し、転帰が改善することが分かっている。

術後肺合併症予防における一般的な周術期対策

術後肺合併症については、今までにいくつもの周術期予防策が提唱されている。例を挙げると、術前禁煙栄養補助療法、そして呼吸筋訓練、自発的呼吸訓練器具(トリフローなど)の使用もしくは呼吸理学療法による呼吸リハビリなどである。呼吸器外科の大手術を予定されている患者では、吸気および呼気訓練を行うと術後の無気肺を防ぐことができるとされている。術後に人工呼吸管理が行われている場合、術後肺合併症のリスクを低減するために取りうる術後対策は、呼吸理学療法、間欠的陽圧換気、間欠的吸痰、気管支拡張薬の投与、PEEPの付加、粘液溶解薬の吸入などである。以上のような個々の対策は併用されることが多い。しかし、こういった方法の一つ一つには術後肺合併症の予防効果はほとんどないという結果を示した研究も報告されている。例えば、開胸肺葉切除が行われた患者を対象とした最近の研究では、呼吸理学療法には術後肺合併症を減らす効果がないことが分かった。別の研究では、人工呼吸管理が行われている重症患者に呼吸理学療法を行うと、かえって人工呼吸期間が延長することが明らかにされている。だが、他の複数の研究では呼吸理学療法によって人工呼吸器離脱率、ICU滞在期間および死亡率の改善がもたらされることが示されている。

周術期予防策を包括的に行うことによってより大きな効果が得られる可能性がある。

術後肺合併症予防策についての2年間にわたるパイロット研究が実施され、医師およびスタッフの教育、自発的呼吸訓練器具の術後使用、口腔内クロルヘキシジン消毒、早期離床および臥床時頭高位といった取り組みを総合的に行ったところ、術後肺炎の発生頻度が0.76%から0.18%へと81%もの有意な低下が得られることが分かった。周術期に行われている慣習を止めることによっても術後肺合併症のリスクが低減する可能性がある。例えば、オピオイドを投与すると呼気終末肺容量および酸素飽和度が低下する。また、胃内容の排出のために胃管がルーチーンで挿入されるものだが、胃管は微量誤嚥を起こりやすくする。

教訓 一般的な予防策の中には効果がないものもあるようです。口腔内衛生、呼吸訓練、早期離床および頭部挙上のすべてを組み合わせて実施すると、術後肺炎の発生率が大幅に低下します。


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術後肺合併症による医療・経済負担と予防策~経済損失 [critical care]

Clinical and economic burden of postoperative pulmonary complications: Patient safety summit on definition, risk-reducing interventions, and preventive strategies

Critical Care Medicine 2011年9月号より

術後肺合併症による経済損失

術後肺合併症は大きな経済損失を招く。医療費を評価する際には、入院期間が標準的な評価基準として用いられる。Khanらの研究では、非心臓手術患者において術後肺炎が発生すると、入院期間が89%延長し入院医療費は55%増加することが明らかにされている。腹部手術の患者を対象としたThompsonらの研究では、術後肺炎が発生すると入院期間が11日延長し、入院医療費が31000米ドル(2000年)増加することが分かった。全体的に見ると、術後肺炎による入院期間の平均延長日数は約8日である。

Linde-Zwirbleらは米国に所在する414ヶ所の病院が参加する大規模データベースを用い2008年に行われた成人の予定手術に関するデータを解析した。ICD-9-CMのコードで術後肺合併症(術後の気管支攣縮、肺炎、気管気管支炎、胸水、無気肺、ARDS、気胸および呼吸不全)の患者を割り出した。次いで、術後肺合併症が退院時期および医療資源の利用状況を調査し医療費を算出した。医療資源の累積利用量の算出し、各術式について術後合併症の有無によって転帰を比較して、術後合併症の各細分類について結果をまとめた(Table 2)。こうして得られた結果を米国全体に当てはめると、術後肺合併症によって予定手術一件あたりの平均医療費が717米ドル押し上げられていて、全体ではICU入室件数92,200件、ICU在室日数584,300日、総医療費34億2千万米ドルの増大につながっている。

再入院率は、医療費に加え医療の質を評価するための基準項目である。Siglらの研究では、術後肺合併症を発症した16~64歳の患者は、発症しなかった場合と比べ30日以内の再入院率が1.7倍にのぼることが明らかにされている。一方、術後肺合併症を発症しても、65歳以上であれば発症しなかった群と比べ再入院率に差がないという一考に値する結果が得られている。Jencksらは2003年から2004年のデータを用い、メディケア受給者の再入院について調査した。2004年における予定外再入院全症例にかかった医療費は174億米ドルにのぼった。この研究では、術後退院した患者のうち22.4%が退院後1年以内に再入院したことが明らかにされている。また、術後30日以内に15.6%もの患者が再入院していた。退院後30日以内の予定外再入院の理由として二番目に多かったのが肺炎で(一番多いのは心不全)、全術後患者の4.5%を占めていた。この研究の著者は、再入院は医療費高騰につながり、再入院に至った症例では術後管理が適切に行われていないことを示している可能性があると述べている。

医療費は直接的に評価することも可能である。術後合併症が全くなかったか軽微なものしか発生しなかった患者と比較し、重大な術後合併症が発生した患者では医療費の中央値が格段に高い。この差は、患者特性によって調整した後も認められる。DimickらはNSQIPのデータを用い2001年から2002年の手術患者1008名について、患者自己負担および私的医療保険からの医療費支払いを調査した。その結果、肺合併症を含むいずれかの種類の重大な術後合併症が発生した場合には、入院医療費が一人あたり11,626米ドル増加することが分かった。この研究の著者は、合併症を減らせば経費削減につながり、NSQIP民間部門への参入に必要な費用を捻出することができるのではないか、としている。これに引き続き、同じデータベースを用いた解析が行われ、術後合併症が発生すると病院への医療費償還がコストをようやくわずかに上回るほどに利益率が低下することが明らかにされた。

教訓 米国では、術後肺合併症によって予定手術一件あたりの平均医療費が717ドル(ドル/円76円とすると54492円)押し上げられていて、全体ではICU入室件数92,200件、ICU在室日数584,300日、総医療費34億2千万米ドル(2600億円)の増加につながっています。
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術後肺合併症による医療・経済負担と予防策~術後肺炎とVAP [critical care]

Clinical and economic burden of postoperative pulmonary complications: Patient safety summit on definition, risk-reducing interventions, and preventive strategies

Critical Care Medicine 2011年9月号より

術後肺炎と人工呼吸器関連肺炎(VAP)

臨床的定義

術後肺炎とVAPは幅広い概念である術後肺合併症に含まれる二つの病態である。いずれも、院内肺炎または医療関連肺炎に分類される。術後肺炎は、入院前から肺炎になりかけていたことを示す徴候がなく、入院から48時間以上後かつ術後に発生する院内肺炎である。VAPはICUで遭遇する院内感染症として頻度が最も高く、人工呼吸患者の10%~20%に発生する。院内肺炎に関して今までに蓄積された情報の大半は、VAP患者から得られたものである。術後肺炎およびVAPは、臨床徴候、画像および検査所見を組み合わせて診断される。臨床呼吸器感染スコアは、こういったいくつかの所見によって肺炎の診断を行うもので、単純で簡単に実施できる方法である。残念ながら、各専門学会および規制当局がそれぞれ異なる診断基準を示しているため、術後肺炎およびVAPの正確な診断の足かせとなっている。そのため、違う臨床試験や施設間でデータを比較ができないのが現状であり、臨床転帰に関する報告の意義に瑕疵を生じせしめることになっている。

容易に想像がつくことだが、診断基準が一つに集約されていないため、術後肺炎およびVAPの発生頻度は報告によって大きなばらつきがある。さらに、肺生検もしくは病理解剖で得られた検体で院内肺炎と診断された症例では、臨床所見との相関がほとんど見られなかったことが明らかにされている。したがって、分類学に忠実な厳格な診断基準では、肺炎の有無を正確に判別することはできないというのは、驚くまでもないことである。術後肺炎およびVAPの統一された診断基準が確立されていない現時点では、予防、治療および報告の対象とすべき重症度の呼吸器感染症の患者を見極めるには困難がつきまとう。

疫学と危険因子

術後肺合併症は、心臓手術、心臓以外の胸部手術もしくは非心臓手術後の代表的な呼吸器合併症としてたくさんの研究が行われている。過去十年間のこういった研究を振り返ってみると、術後肺合併症の発生頻度は1.5%~6%とされている。カナダのKhanらがICD-9-CMを用い7457名の患者を対象として行った研究では、非心臓手術後の術後合併症として最も頻度が高いのが術後肺炎で、その発生率は3.0%であると報告されている。しかし、対象患者や診断基準が異なる研究では、術後肺炎の発生頻度は20%にものぼることが分かっている。また、48時間以上気管挿管されていた患者では術後肺炎の発生頻度が大幅に上昇することも明らかにされている。術後肺炎が発生すると、ICU在室期間、入院期間および死亡率が上昇することはいずれの研究でも一貫して示されている。術後肺炎の独立危険因子として今までに明らかにされているのは、年齢65歳以上、COPD、熱傷を含む外傷、緊急手術、長時間手術、術中輸血および術後再挿管である。

術後肺炎もVAPも気管内分泌物から分離される細菌の種類は類似している。術後早期の感染では黄色ブドウ球菌、連鎖球菌およびHaemophilus influenzaeが検出されることが多く、晩期の感染では緑膿菌、MRSAなどのグラム陰性菌や多剤耐性菌が検出される頻度が高い。

微量誤嚥の成因と影響

術後肺炎およびVAPの発生過程の第一段階は、口や消化管の微生物が下部気道へ侵入することである。誤嚥をしたからといって必ずしも術後肺炎が発生するわけではないが、細菌の種類、大量の誤嚥、免疫能低下などの条件がみたされると肺炎が発症する。誤嚥以外の経路による術後肺炎、例えば、血行性の細菌伝播、胸腔内からの直接的な細菌伝播または汚染された人工呼吸器物品からの感染は稀であり本稿では取り上げない。

口腔咽頭内または声門下に貯留した分泌物の誤嚥は、気管挿管を実施する際および気管挿管後のいずれの時点でも起こりうる。また、気管内壁が損傷したり機械的な力が加わったりすると気管粘膜の統合性や粘液線毛機能が低下するため、誤嚥が起こりやすくなる。気管挿管後の気道の細菌汚染は、気管チューブの内側または外側を伝って口側から気管の方へ細菌が移動することによって発生する。気管チューブ内を細菌が伝っていくうちに、粘着性のある細菌コロニーの集塊が形成される。これがいわゆる「バイオフィルム」である。バイオフィルムは気管挿管後、早ければ6時間後には気管チューブ内壁に形成される(Fig. 1A)。バイオフィルムが口側へはき出されることはなく、重力にしたがって下部気道へとたれ込む。気管チューブのカフを伝った細菌のたれ込みは、微量誤嚥(microaspiration)と呼ばれている(Fig. 1B)。気管チューブのカフの位置や圧が不適切であったり、カフを膨らませていなかったり、気管チューブの位置を変えたり、患者が動いたりすると、口腔咽頭内の分泌物は気管チューブのカフの周囲をつたって下部気道へたれ込む。また、大容量低圧カフを使用している場合は、カフの位置と圧が適切であってもカフにできた皺が通路になって分泌物がたれ込む。ごく微量の誤嚥であっても肺野機能にわずかとはいえ変化が起こることが知られている。

教訓 術後肺合併症の発生頻度は1.5%~6%です。術後肺炎の独立危険因子は、年齢65歳以上、COPD、熱傷を含む外傷、緊急手術、長時間手術、術中輸血および術後再挿管です。
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術後肺合併症による医療・経済負担と予防策~M&M [critical care]

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Critical Care Medicine 2011年9月号より

術後肺合併症がその他の術後合併症発生率および死亡率に及ぼす影響

術後肺合併症はその他の術後合併症発生率および死亡率を押し上げ、入院期間を延長させるとともに、医療資源の消費量を大幅に増加させる。Khuriらの研究では術後呼吸不全(=人工呼吸器離脱失敗)の患者の5年死亡率は50%以上で、10年死亡率は70%以上であることが明らかにされている。全体の術後30日死亡率が10%の集団において、術後肺合併症を発症しなかった患者の術後30日死亡率は2%であるが、発症した場合は21%であることが明らかにされている。Siglの研究では、術後肺合併症(術後肺炎、気管支攣縮、気管気管支炎、胸水、無気肺、気胸、ARDSおよび呼吸不全)のリスクは65歳未満の患者では上昇するとされているが、McAlisterの研究では、術後肺合併症(術後肺炎、人工呼吸を要する呼吸不全および気管支鏡による吸痰を要する無気肺)のリスクは65歳以上の患者で上昇すると報告されている。

GhaferiらはNSQIPデータベースを利用し院内死亡率と術後肺合併症(術後肺炎、48時間以上の人工呼吸管理および予定外の気管挿管)の関係について検討した。研究参加病院は死亡率によって5つのグループに分けた。術後肺炎の死亡率は16.5%~25.5%、48時間以上の人工呼吸管理を要した患者の死亡率は20.6%~31.0%、予定外の再挿管が行われた患者の死亡率は24.8%~38.4%であった。この研究の結論では、周術期死亡率を低下させるには、術後合併症が発症したときの患者管理の向上が不可欠であると述べられている。KhuriらはNSQIPデータベースを用い、患者の転帰について平均8年間の追跡調査を実施した。術後肺合併症(術後肺炎、予定外の再挿管および人工呼吸器離脱失敗)が起こった患者の生存期間中央値は、術後肺合併症が起こらなかった患者と比べ87%短かった(2.2年 vs 17.1年)。

Thompsonらは腹部手術を受けた618,495名の患者を対象に、術後肺炎が転帰に及ぼす影響を検討した。術後肺炎が発症しなかった患者と比べ、発症した患者は院内死亡率が10倍高く(1.2% vs 10.7%; オッズ比9.91)、入院期間が55%延長し、自宅ではなく療養施設へ退院する危険性が6倍に跳ね上がることが明らかになった。この結果を受け著者らは、術後肺合併症の予防および治療のよりよい方法を確立し普及することが必要であるとしている。

Siglらはクリーブランドクリニック周術期診療記録システムのデータベースを用い、術後肺合併症による院内死亡のリスクを評価した。この研究では、術後肺炎、気管支攣縮、気管気管支炎、胸水、無気肺、ARDS、気胸、人工呼吸または「呼吸不全」のうち少なくとも一つに当てはまる場合を術後肺合併症ありとされた。術後肺合併症のなかった群と比べ、術後肺合併症のあった群では院内死亡リスクが、16-64歳の場合は77倍、65歳以上の場合は19倍に上昇することが分かった。術後肺合併症発生群の死亡リスクは術後1年が経過しても高く、非発生群と比べ16-64歳では2.9倍、65歳以上では2.3倍であった。

教訓 術後肺合併症が発生すると、発生しなかった場合と比べ術後1年が経過しても死亡率は2~3倍高いことが分かっています。再挿管、術後肺炎、離脱失敗のいずれかに当てはまると、生存期間が10年以上短縮します。
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術後肺合併症による医療・経済負担と予防策~医療負担 [critical care]

Clinical and economic burden of postoperative pulmonary complications: Patient safety summit on definition, risk-reducing interventions, and preventive strategies

Critical Care Medicine 2011年9月号より

肺合併症による医療負担

術後肺合併症について原因をたくさん列挙することはできるが、その医療負担の全貌を把握したり程度を評価したりするのは困難である。特に、入退院管理データを用いる場合には難航する。診断群(DRG)および国際疾病分類第9回改訂版診療分類(ICD-9-CM)を用いた合併症のコード登録は、煩雑を極めている。このような分類においては、術後とか肺炎といった単純な言葉のカテゴリー割り当てが曖昧で混乱のもとになっている。例えば、類型不詳の肺炎、市中肺炎、非定型肺炎、または院内肺炎は単純性肺炎としてDRGコード193-195に分類されている。誤嚥性肺炎(これそのものが化学性肺炎と識別困難である)、グラム陰性菌肺炎またはブドウ球菌/MRSAによる肺炎は複雑性肺炎としてDRGコード177-179に分類されている。人工呼吸器関連肺炎(VAP)はDRGコード205-206に分類されている。

コード登録された合併症が入院時に本当に存在していたのかどうかを判断するのは困難である。さらに、術後肺合併症の診断法についての臨床的エビデンスはごく限られているか皆無である。以上のような事情のため、病名報告が不正確になってしまったり、診断名の妥当性に疑念が持たれたりする可能性がある。例えば、カリフォルニア州およびコネティカット州在住高齢メディケア受給者の1994件の入院症例から無作為に485例を抽出してカルテを閲覧したところ、術後肺炎が起こった症例のうちICD-9-CMにおいて術後肺炎とコード付けされた症例は50%に止まることが、明らかにされている。

術後肺合併症はこのように色々な問題をはらんだ、ありふれた事象である。予定腹部手術症例2291例を対象とした症例対照研究では、術後肺合併症の発生頻度は、術後心臓合併症のおよそ二倍であった(9.6% vs 5.7%、無気肺は除く)。また、術後肺合併症発生例の入院期間は術後心臓合併症の2倍であった(22.7日 vs 10.4日)。術後肺合併症には術後心臓合併症に対するのと同程度の注意が払われているに違いない、と思いたくなるが、実際には術後肺合併症が医療にもたらす負担は、未だに軽んじられ見過ごされているのである。カナダにおいて2001年から2003年のあいだに胸部以外の予定手術を受けた比較的健康な患者1055名を対象とした前向きコホート研究では、38名につき1名(2.7%)に術後肺合併症(具体的には、人工呼吸を要する呼吸不全、肺炎、気管支鏡による吸痰を要する無気肺、胸腔穿刺を要する気胸または胸水)が術後7日目までに発生したというデータが得られている。米国に所在する414か所の病院における外科退院患者全員についての2008年版データベースを用いた新しい研究では、カナダの研究よりも術後肺合併症発生率が高く、1,233,475名の患者コホートのうち160,984名(13.1%)に術後肺合併症(術後肺炎、呼吸不全、気管支攣縮、気管気管支炎、胸水、無気肺、気胸)が発生した。このデータを米国全体に当てはめると、理論的には年間1,062,000例の術後肺合併症が発生し、46,200の死亡数増につながり、入院期間は480万日も延長すると推定される。これに伴うコスト増は、数十億ドルにのぼるであろう。以上を踏まえ、術後患者8名あたり約1名に術後肺合併症が発生し、術後院内死亡3例あたり2例以上に術後肺合併症が関与していると我々は考えている。クリーブランドクリニック周術期診療記録システムやメディケアなどのデータベースでも、術後肺合併症による悪影響についての有用な情報が示されている。Siglらの研究では、術後患者の5%から10%に術後肺合併症が発生し、死亡率、30日後までの入院期間および30日後までの再入院などの転帰が悪化することが明らかにされている。Jencksらの研究では、再入院の原因として頻度が高い病態が術後肺炎であることが報告されている。

術後合併症を減らす第一歩は、高リスク患者を術前に同定することである。次に、複雑化する診療内容、経営側面からの締め付け、その他の障害などによるがんじがらめの制約のなかでリスク因子を改善しなければならない。アメリカ外科学会が後援するNSQIP(National Surgical Quality Improvement Program)などの取り組みによって、術後肺合併症についての認識が高まり、改善のための体系的アプローチ法も普及してきた。NSQIPでは入院、日帰りを問わず大手術を受ける患者について、術前リスク因子、手術に関わる因子、術後30日死亡率および合併症発生率など135項目のデータを収集している。集められたデータは解析の上、年一回参加施設に報告されている。この報告書は、各施設における質の向上に関わる取り組みの基礎となるとともに、全てのアメリカ外科学会NSQIP協力施設に年一回周知される「ベストプラクティス」の内容の継続的刷新にも役立っている。NSQIPの総合的な目的は、手術による合併症や死亡を減らすことであり、その一つが術後肺合併症なのである。

教訓 術後肺合併症についてのいろいろな研究で得られた結果をまとめると、術後患者8名あたり約1名に術後肺合併症が発生し、術後院内死亡3例あたり2例以上に術後肺合併症が関与していると推測されます。
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術後肺合併症による医療・経済負担と予防策~概観 [critical care]

Clinical and economic burden of postoperative pulmonary complications: Patient safety summit on definition, risk-reducing interventions, and preventive strategies

Critical Care Medicine 2011年9月号より

臨床上の有害事象の中にはその危険性の低減が可能であるものがあり、術後肺合併症はその一つである。米国では、このような有害事象の発生を予測したり予防したりすることが医療の質や安全性を向上させる主要課題となっている。術後肺合併症は、非心臓手術、心臓胸部外科手術のいずれにおいても術後合併症リスク全体に影響する主要因である。術後肺合併症は術後心臓合併症よりも発生頻度が高く、死亡率の増加にもつながっている。それなのに、術後肺合併症の顛末や予防に対する認識は昔からそれほど高くない。

2009年12月7日、患者安全向上サミットがワシントンDCで開催された。その席上で、術後肺合併症が大きな医療負担および経済損失をもたらしていることが指摘された。このサミットで示された目標は以下の通りである。1) 術後肺合併症についての医師の認知を向上すること。2) 術後肺合併症は国をあげての取り組みを要する重大な公衆衛生上の問題であることを広く知らしめること。3)臨床転帰の悪化および医療費増大という術後肺合併症による悪影響を低減するための対策を提示すること。4) 術後肺合併症のリスクが高い患者、改善可能なリスク因子のある患者、予防策や通常より高度なモニタリングを行うことによって恩恵を受けられると考えられる患者を同定するためのアルゴリズムの構築。 5) 以上のような問題を周知するための教育の普及。

本論文では、1) 術後肺合併症が患者、医療機関および社会全体に与える医療負担および経済損失を浮き彫りにし、2) 術後肺合併症が臨床転帰および医療費におよぼす影響を緩和するための方策を提示し、3) 転帰や医療の質を検討するのに資する、術後肺合併症に関する簡潔明瞭な定量評価法の決定版を紹介する。

術後肺合併症の概観

大雑把に言うと、術後肺合併症とは術後患者の経過に望ましくない影響を及ぼす可能性のある呼吸器系の異常のことである。軽度の無気肺、気管支攣縮または気管気管支炎など、特に治療を行わなくても治る一時的な軽度の低酸素血症を来すような病態も術後合併症に含まれる。しかし、より重症化した無気肺、気管支攣縮または気管気管支炎だとか、術後肺炎、膿胸、気胸、ARDS、肺塞栓または呼吸不全(通常、術後48時間が経過しても抜管できない場合と定義される)などの術後肺合併症は、重症合併症発生率および死亡率の大幅な上昇につながる可能性がある。中でも無気肺は、急性肺傷害の根本的な機序の一つであると考えられていることもあり、術後の重症低酸素血症の主な原因であるとともに、ICU滞在期間および入院期間の長期化にもつながる。

術後肺合併症は複数の病因によって発生し、術前、術中および術後の無数の危険因子が関与する。病因として確立しているのは、機能的残気量や全肺気量の低下である。機能的残気量や全肺気量が低下していると、換気-血流不均衡が起こり低酸素血症に陥ってしまう。全身麻酔、胸部または上腹部の手術創による術後疼痛、横隔膜の機能的低下や頭側偏位、下側肺無気肺、肺および胸壁コンプライアンスの低下などの影響で、機能的残気量および全肺気量が低下することもある。ロジスティック回帰モデルを用いたCanetらの研究では、術後肺合併症の独立危険因子として7項目が同定された(Table 1)。これ以外に術後肺合併症の発生に関与する因子として考えられるのは、全身麻酔からの覚醒過程における気道反射の低下、喉頭に貯留した分泌物や胃内容物の誤嚥および術後の人工呼吸である。

教訓 術後肺合併症の独立危険因子は、術前酸素飽和度(90%以下だと96%以上の10.7倍)、術前一ヶ月以内の上気道または下気道感染、年齢、術前貧血、手術部位(体表面<上腹部<胸腔内)、手術時間(3時間以上だと2時間以下の9.7倍)、緊急手術(予定手術の2.2倍)です。
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重症敗血症にHESはよくない~考察② [critical care]

Renal effects of synthetic colloids and crystalloids in patients with severe sepsis: A prospective sequential comparison

Critical Care Medicine 2011年6月号より

本研究の問題点と今後の研究課題

本研究の主な問題点は、単一施設で行われた非盲検研究で、三群とも標本数が少なく、輸液製剤変更のための導入期間が長かった可能性があり、事後調整や多変量解析を行ったことである。したがって、よくよく注意して結論を導き出す必要がある。本研究では無作為化割り当てを行ったわけではないので、基準時点における背景因子に差がなかったからといって、収集対象とならなかった項目についても差がないとはいえない。平均動脈圧に群間差が認められたが、これが投与した輸液製剤の違いによるものなのかどうかは不明である。晶質液群には腹腔内感染に由来する敗血症の患者が、他の群より多く含まれていた。しかし、このことが交絡因子となったとは我々は考えてはいない。その理由は、多変量解析では敗血症の原因となった感染の部位と急性腎傷害(AKI)とのあいだには相関は見いだされず、欧州で行われた大規模調査では、呼吸器感染に由来する敗血症よりも腹腔内感染に由来する敗血症の方が腎代替療法実施率が高いことが明らかにされているからである。晶質液は量依存性にAKIを発症させることが分かったが、HES製剤やゼラチン製剤ではこのような作用は認められなかった。晶質液群の患者数に比べ、HES群もゼラチン群も患者数が少なかったことが、このような違いを生じせしめたのかもしれない。また、6%HES製剤や4%ゼラチン製剤の用量反応関係が、一次関数や二次関数で表されるような単純なものではないからなのかもしれない。

我々の考え(合成膠質液がAKIの原因となるという考え)は、本研究で得られた観測結果によって一層確からしいものとなった。基準時点だけでなく、その後の経過中においても、膠質液群と晶質液群とのあいだに重症度の差がなく、ICU死亡率および院内死亡率についても両群に差がなかった。このことは、AKIの発症度が晶質液群より膠質液群で高かった理由は合成膠質液の使用である可能性が最も高いという推測の裏付けになる。したがって、本研究で得られた結果から、6%HES 130/0.4製剤と4%ゼラチン製剤のいずれもが重症敗血症患者においてAKI発症の原因となり得るという仮説を示すことができる。本研究の成果は仮説を構築し、質の高い無作為化比較対照試験を実施してHES 130/0.4およびゼラチンの安全性についてのエビデンスを得る必要性を示したことである。折しも、HES 130/0.4の安全性を評価する試験が現在進行中である。一つはCHEST試験といって、計画ではICU患者7000名を対象としHESと生食を比較する研究で(NCT00935168)、もう一つはICU患者800名を対象予定としHES 130/0.4と酢酸リンゲル液を比較する6S試験(NCT00962156)である。これらの研究の詳細はそれぞれのウェブサイトに掲載されている。

結論

本研究で得られた結果を踏まえると、重症敗血症においては、合成膠質液の方が晶質液よりも血管内容量増大・維持効果が優れているという従来の意見に疑義が生ずる。合成膠質液を用いても水分出納は減少しなかった。重症敗血症患者では、血管内容量を維持しつつも水分出納に過剰になりにくい合成膠質液が適しているという考えが巷間流布しているが、本研究はこのような俗説に一石を投じた。そして、第三世代のHES製剤であるHES 130/0.4や低分子量ゼラチン製剤は腎機能に悪影響を与えないという説に対しても、本研究で得られた結果は大きな疑念をつきつけている。今のところ、集中治療領域における合成膠質液の汎用を肯定するエビデンスを示した良質な研究は存在しないが、幸い6%HES 130/0.4については恰好の研究が実施されている最中である。

教訓 敗血症患者におけるHESの有効性や安全性について、CHEST試験および6S試験という無作為化試験が現在進行中です。
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重症敗血症にHESはよくない~考察① [critical care]

Renal effects of synthetic colloids and crystalloids in patients with severe sepsis: A prospective sequential comparison

Critical Care Medicine 2011年6月号より

考察

主な知見

重症敗血症患者において、HES製剤やゼラチン製剤を血管内容量維持に主に用いる輸液療法から、晶質液のみを使用する輸液療法へと変更したところ、急性腎傷害(AKI)の発症率および腎代替療法実施率が有意に低下した。ICU死亡率および病院死亡率については差は認められなかった。晶質液群の輸液量および水分出納がHES群およびゼラチン群を上回ったのはICU入室当日および翌日のみであるという、意外な結果が得られた。ICU在室全期間中の累積輸液量は、HES群の方が晶質液群より有意に多かった。

連続する三つの研究期間において対象となった各重症敗血症患者コホートの基準時点における年齢、血行動態および血清クレアチニン値は同等であった。ただし、合成膠質液を投与された群では、腹腔内感染に由来する敗血症の患者が晶質液群より少なかった。

研究期間中の大半の時点において膠質液を投与された患者の方が平均動脈圧が高かった。一方、晶質液群の方が中心静脈血酸素飽和度および中心静脈圧が膠質液群より高かったり、膠質液群の方が平均SOFAスコアが低かったりする時点もいくつか見受けられた。

腎毒性薬剤の使用状況については三群とも概ね同等であった。ただし、HES群では抗真菌薬(アンホテリシンBおよびフルコナゾール)が投与された患者が多く、ゼラチン群では他の二群より多くの患者にACE阻害薬が投与されていた。多変量解析ではHES製剤およびゼラチン製剤に加え、抗真菌薬、20%アルブミン製剤、心臓胸部手術およびヨード造影剤がAKIの独立危険因子であることが明らかになった。

先行研究との関わりと本研究の意義

敗血症やその他の重症疾患患者において、デンプン製剤が腎機能に有害であることはいくつもの研究で繰り返し示されてきた。最新の第三世代デンプン製剤は腎機能を低下させることはないという意見がある。しかし、使用したデンプン製剤の90%以上が6%HES 130/0.4であった本研究で我々が得た知見は、その意見を否定するものであった。実験データでも、6%HES 130/0.4と10%HES 200/0.5のどちらを用いても腎機能が低下し、単にその程度に若干の差があるだけであるという結果が示されている。また、別の新しい研究でも晶質液よりも6%HES 130/0.4およびゼラチン製剤の方が高度の腎機能低下と組織学的障害を招く可能性があることが報告されている。

デンプン製剤およびゼラチン製剤による有害作用は累積投与量と相関することが複数の研究グループによって明らかにされている。遡及的観測研究では、HESの累積投与量を推奨されている一日最大投与量の半分に当たる15-20mL/kgとしたところ、AKIや腎不全の発生頻度は上昇しないという結果が得られた。

今回の研究では、HES群、ゼラチン群ともに当該膠質液投与後の腎代替療法実施率は34%であった。これは、過去に行われた研究で晶質液やアルブミン製剤を用いた場合に観測されている腎代替療法実施率のいずれをもはるかに凌駕するものである。重症敗血症患者537名を対象として数年前に行われた多施設研究では、乳酸リンゲル液群の腎代替療法実施率は18.6%、HES群では31%であった。28日後死亡率はそれぞれ24.1%、26.7%であった。4%アルブミン製剤と0.9%食塩水の比較を目的として行われたSAFE研究で対象となった患者のうち重症敗血症サブグループ(1218名)の腎代替療法実施率は、アルブミン群が18.7%、生理的食塩水群では18.2%であった。28日後死亡率はそれぞれ30.7%、35.3%であった。

我々の研究で腎代替療法実施率が高かったことは、合成膠質液を使用した患者が多かったことと表裏一体の関係であるのかもしれない。ドイツでは血管内容量増大の目的で合成膠質液、特にHES溶液が好んで使用されている。2003年から2004年にかけてドイツに所在するICUで行われた大規模調査では、ICU患者における急性腎不全の発生頻度は42.4%であった。この調査では、重症敗血症もしくは敗血症性ショック患者の35.2%に合成膠質液が投与され、用いられた主な製剤は6%HES溶液、10%HES溶液またはゼラチン製剤であることが判明した。

八ヶ国で行われた敗血症に関する国際研究では、12000名以上の登録患者のうち腎代替量が行われたのは全体の21.3%であった。その研究に欧州から唯一参加したのが、HESが広く用いられているドイツである。ドイツで登録された患者における腎代替療法実施率は33.4%であったが、欧州以外からのその他の参加国における腎代替療法実施率は11.7%から25.9%であった。院内死亡率はドイツが43.4%、全体では49.6%であった。

晶質液群の患者のうち47%にAKIが発症した。4%ゼラチン群では68%、6%HES群では70%と晶質液群より有意にAKI発症頻度が高かった。腎代替療法実施率も、HES群およびゼラチン群の方が晶質液群より高い傾向が認められたが、多変量解析では有意差は認められなかった。有意差が得られなかった理由はいくつか考えられる。多変量解析の際にBonferroni-Holm法によるp値の調整を行ったが、この方法は厳格すぎる可能性がある。また、標本数が少なすぎた可能性も考えられる。特にゼラチン群の患者数は少なすぎたかもしれない。ゼラチン(30kDa)はHES(130kDa)よりも分子量が小さい。また、使用されたHES溶液が6%製剤であるのに対しゼラチンは4%製剤であった。膠質液による腎機能障害の機序は、ほとんど何も分かっていない。先行研究によれば、ゼラチンはHESよりも腎機能に及ぼす影響が小さい可能性があるとされている。重症敗血症患者を対象とした一編の無作為化比較対照試験で、HES群よりゼラチン群の方が急性腎不全の発生頻度が低いという結果が得られているが、これにはゼラチンが3%製剤であったのに対しHESが6%製剤であったことが関与していると考えられる。

ゼラチンとHESを比較した研究では、ゼラチンの副作用は見過ごされ注意が払われなかった可能性がある。しかし、敗血症ラットに4%ゼラチン製剤もしくは6%HES 130/0.4製剤を10mL/kg投与したところ、近位尿細管に同程度の空胞変性を認め、血清クレアチニン値およびBUN値の上昇も同等であったという初の報告がつい最近発表された。

重症患者を対象とした先行する複数の前向き研究では、同等の血行動態エンドポイントを達成・維持するのに必要な晶質液もしくは膠質液の投与量の比は2:1かそれ以下(もっと晶質液が少なくても膠質液と同等の血管内容量増大効果が得られる)であるという知見が得られているが、本研究ではそれを裏付けることができた。膠質液は晶質液よりも血管内残留率が高いと信じられているが、少し長い時間経過で考えるとそうでもないようである。本研究では輸液投与から数時間後までは、膠質液群の方が速やかにヘマトクリットが低下した。これは、デング熱によりショックに陥った小児患者を対象としたWillsらの研究(HES 200/0.5またはデキストラン70を使用)や、術前血液希釈症例や健康被験者を対象とした複数の小規模研究などで示されているのと同様の結果である。しかし、その後数時間が経過すると(2~6時間後)、膠質液群の方が晶質液群よりもヘマトクリット上昇度が大きく、24時間後には晶質液群と膠質液群のヘマトクリットには差がなくなることが分かっている。

教訓 今回の研究では、HES群、ゼラチン群ともにRRT実施率は34%でした。晶質液群では20%でした。SAFE研究の重症敗血症サブグループにおける生食群およびアルブミン群のRRT実施率はそれぞれ18.2%、18.7%でした。やはり敗血症患者ではHESやゼラチンは腎臓に悪いようです。また、膠質液には投与直後には晶質液を上回る血管内容量増大効果はありますが、2~6時間後には効果が薄れ、24時間後には晶質液と差が無くなります。
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重症敗血症にHESはよくない~結果 [critical care]

Renal effects of synthetic colloids and crystalloids in patients with severe sepsis: A prospective sequential comparison

Critical Care Medicine 2011年6月号より

結果

対象患者

三つの連続する各期間に計400名の重症敗血症患者が当ICUに入室した。除外基準に該当したのは54名であった(ICU入室以前から透析を要する慢性腎不全があった者45名、先行する別のHESを用いた無作為化比較対照試験に登録されていた者9名)。

6%HES製剤を投与された患者は118名、4%ゼラチン製剤を投与されたのは87名、晶質液を投与されたのは141名であった。基準時点における患者特性は概ね各群同等であった。ただし、HES群では癌患者が少なく、HES群およびゼラチン群では腹腔内感染に由来する敗血症患者が少なく、ゼラチン群では腹部手術患者が少なく心臓/胸部手術患者が多かった。HES群のSOFAスコアは他の二群より低かったが、クレアチニン値、クレアチニンクリアランスおよびSAPSⅡについては群間差は認められなかった(Table 1)。

血行動態および水分出納

ICU入室当日から14日後までの血行動態と水分出納を解析した。平均動脈圧は第2日以降、HES群が他の二群より有意に高かった(Fig. 1)。平均心拍数には差はなかったが、中心静脈血酸素飽和度は晶質液群が他の二群を上回る日が複数日あった(Fig. 1)。第3日まではノルアドレナリン投与量は同等であったが、第4~8日および第10~11日においては晶質液群が他の二群よりノルアドレナリン投与量が多かった(Fig. 1)。平均一日当該輸液投与量および平均一日水分出納量は基準日(第0日)および第1日の両日で晶質液群が他の二群より有意に多かった(Fig. 1)。合計水分投与量をTable 2にまとめた。ICU入室全期間中の累積水分投与量はHES群が有意に多かった(Table 2)。第0日から第1日の累積水分投与量の比は、HES群:晶質液群が1:1.47、ゼラチン群:晶質液群が1:1.44であった。当初4日間の累積水分投与量については、HES群:晶質液群が1:1.17、ゼラチン群:晶質液群が1:1.21であった。

合併症発生率および死亡率:急性腎傷害と腎代替療法

腎毒性薬剤の使用状況については大差なかったが、HES群において抗真菌薬の使用が多く、ゼラチン群でACE阻害薬の使用が多かった。腎代替療法開始時における血清クレアチニン値についても差は認められなかった。

急性腎傷害(AKI)を発症したのは、晶質液群47%、HES群70%(調整p値0.002)、ゼラチン群68%(調整p値0.025;Table 3)。RIFLE分類の該当する最悪の分類に患者を振り分けた。RIFLEのriskおよびinjuryには少数の患者しか該当せず、群間の偏りはなかった。大半の患者はfailureに該当した。HES投与後の患者のうち47%(調整p値0.002)、ゼラチン投与後の患者のうち40%(調整p値0.162)および晶質液投与後の患者のうち25%がfailureに分類された。晶質液群よりHES群の方が腎代替療法を実施された患者が多い傾向が認められた(20% vs 34%;調整p値0.086)。腎傷害重症度および腎代替療法実施率ともに、未調整p値の段階ではゼラチン群の方が晶質液群を有意に上回っていたが、調整済みp値を算出したところ有意差は消失した(Table 3)。

重症度スコア、ICU死亡率、院内死亡率およびICU在室期間については有意差はなかったが、晶質液群ではICU在室期間が短い傾向が認められた(Table 3)。

AKIを二値従属変数とする多重ロジスティック回帰分析を行ったところ、基準時点におけるクレアチニン値、心臓胸部外科手術、抗真菌薬、20%アルブミン製剤、ヨード造影剤、6%HES製剤および4%ゼラチン製剤がAKIの独立危険因子であることが分かった。体重あたり投与量が増えることによる有害作用の発現の有無については、晶質液のみで量依存性に有害作用が増強する関係があり、一次関数または、むしろ二次関数に近い相関関係があると考えられた(Table 4)。腎代替療法を従属変数とする多重ロジスティック回帰分析でも、HESとゼラチンは独立危険因子であることが判明した。腎代替療法については、HES、ゼラチンおよび晶質液のいずれに関しても、投与量が多いほど腎代替療法実施率が高いというような関係は認められなかった。

教訓 急性腎傷害(AKI)を発症したのは、晶質液群47%、HES群70%、ゼラチン群68%でした。HESとゼラチンは晶質液より有意にAKIを起こしやすいという結果です。ICU入室全期間中の累積水分投与量が最も多かったのはHES群でした。AKIの独立危険因子は、基準時点のクレアチニン値、心臓胸部外科手術、抗真菌薬、20%アルブミン製剤、ヨード造影剤、6%HES製剤および4%ゼラチン製剤でした。
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重症敗血症にHESはよくない~方法 [critical care]

Renal effects of synthetic colloids and crystalloids in patients with severe sepsis: A prospective sequential comparison

Critical Care Medicine 2011年6月号より

方法

対象患者

大学病院内に設置された、50床を擁する外科系ICUに入室した重症敗血症または敗血症性ショック患者全例を対象とした。ICU入室前から血液透析を要する慢性腎不全のある患者およびHESを使用する別の無作為化試験に登録された患者は除外した。本研究は観測研究であるため、倫理委員会は患者の同意を得る必要はないと判断した。

手順

2006年7月以前の当院ICU、救急部および手術室では、血管内容量不足に際し晶質液と合成膠質液を投与する方法が標準的な輸液療法として実施されていた。2005年1月1日から2005年6月30日の第一期においては、主に6%HES製剤(130/0.4%; Voluven)が投与された(HES群)。その後、HESの腎毒性が懸念されたためHESに代わり4%ゼラチン製剤が投与されるようになった。2006年1月1日から2006年6月30日の第二期においては、重症敗血症または敗血症性ショックの全例に対し4%修飾ゼラチン製剤(Gelafusal)および晶質液が投与された(ゼラチン群)。輸液療法の変更が浸透するよう第一期と第二期のあいだに6ヶ月の空白期間を設け、連続する二つの6ヶ月にわたる治療群について前向き前後比較試験を実施し、有効性の検討を行ったところ、いずれもICU患者から成るHES群とゼラチン群のあいだに、腎代替療法実施率の差は認められなかった。この結果についてはすでに発表済みである。そこで、さらに研究を続けることにした。2006年7月以降、ゼラチンの投与を止め晶質液に変更した。その後現在まで、ICU、救急部および手術室では晶質液(Jonosteril)を使用している。ただし、高カリウム血症の患者には生理食塩水を投与した(0.9%食塩水)。2008年9月から2009年6月を本研究の第三期とした。第三期の患者は全員が晶質液のみを投与された(晶質液群)。

敗血症の治療は、Survival Sepsis Campaignおよびドイツ敗血症学会のガイドラインに準拠した当施設の標準手順に従って行った。HES相およびゼラチン相の各期間中、膠質液の適応決定については集中治療担当医に一任された。血行動態管理は標準化した方法で行った。具体的には、平均動脈圧>65mmHgとなるように昇圧薬としてノルアドレナリンを投与し、晶質液または合成膠質液(HESまたはゼラチン製剤)を用いた輸液負荷を繰り返してなるべく昇圧薬の投与量を少なくすることとした。必要であれば、ドブタミン(最大10mcg/kg/min)またはアドレナリン(最大0.15mcg/kg/min)を併用した。ノルアドレナリンを0.4mcg/kg/min以上要する場合には、肺動脈カテーテル(Swan-Ganz CCOmbo)またはPiCCO(Pulsiocath 5Fr Thermodilution Catheter)を用いた厳密な血行動態モニタリングを行うかどうかを検討した。一日に少なくとも二回、中心静脈カテーテルから採取した血液検体を用いて中心静脈血酸素飽和度を測定した。

血管内容量を補う目的ではヒトアルブミン製剤は使用しなかった。重篤な低アルブミン血症(<15mmol/mL)のときに限り、20%アルブミン製剤(Albunorm20%)を投与した。

研究の全期間を通じ、当ICUにおいては持続的静静脈血液透析のみが腎代替療法の方式であった。腎代替療法の適応は、血管内容量が適正に維持されているにも関わらず利尿薬が奏効しない乏尿(尿量<0.5mL/kg/hr)が6時間以上続くもしくは無尿が3時間以上続く場合、乏尿または無尿により血管内容量が過剰になり肺水腫が発生したり警戒されたりする場合、高カリウム血症または高度の代謝性アシドーシス(pH<7.1)が見られる場合とした。

主要転帰および二次転帰:定義およびデータ収集法

本研究の主要転帰項目は、急性腎傷害(AKI)の発生とした。腎代替療法の新規実施も主要転帰項目に含めた。AKIの定義はRIFLE分類に準じた。RIFLE分類ではクレアチニン値による分類と尿量による分類とが別々に示されているが、クレアチニン値の分類と尿量の分類のどちらかより重症度の高い方の分類を採用した。尿量は24時間尿量として計測し、6時間尿量または12時間尿量を算出した。したがって、血清クレアチニン値1.5倍上昇または尿量0.5mL/kg/hr未満6時間以上継続の場合をRIFLE基準の「risk」とし、血清クレアチニン値2倍上昇または尿量0.5mL/kg/hr未満12時間以上継続のいずれかまたは両者を満たす場合をRIFLE基準の「injury」とし、血清クレアチニン値3倍上昇、腎代替療法の新規実施、または血清クレアチニン値354μmol/L以上かつ急激に44μmol/L以上上昇、または尿量0.3mL/kg/hr未満24時間以上継続もしくは12時間以上の無尿のいずれかを満たす場合をRIFLE基準の「failure」とした。RIFLE基準の各項目のいずれか一つ以上を満たす場合または腎代替療法を新規実施した場合をAKIと定義した。患者の所見から、最も重症度の高い群に分類した。つまり、risk群に分類された患者の腎傷害は、RIFLE基準で定義されたrisk群に該当する腎傷害の重症度を上回ることはないということである。

二次転帰項目は積算輸液量、水分出納、人工呼吸管理の有無、SOFAで評価した臓器不全の程度、昇圧薬使用の有無、血液製剤使用の有無、ICU在室期間、ICU死亡率および院内死亡率である。維持輸液、ボーラス輸液、静脈内投与薬剤、血液製剤、アルブミン製剤、静脈内栄養剤、経腸栄養剤および経口摂取水分をすべて合算したものを積算輸液量とした。クレアチニンクリアランスはCockroft-Gaultの式を用いて算出した。ICU在室期間を研究対象期間とした。

ICU入室時に記録したデータは、年齢、性別、体重、紹介元、入室前に行われた手術の種類である。当ICUでは重症敗血症の有無を入室時に必ず上級医が評価することになっている。この結果は訓練を受けた看護師が記録した。敗血症の主因も記録した。入室24時間以内に患者を担当する指導医がSAPSⅡおよびSOFAスコアを算出した。

モニター、人工呼吸器、輸液ポンプのデータは前向きに収集され、電子カルテ上に自動記録された。電子カルテシステム(Copra System GmbH)は、各種電子記録、オーダ内容(処方、輸液の量や時間など)および検査結果を閲覧できるようになっている。この電子カルテを用いて、腎毒性のある薬剤(NSAIDs、利尿薬、ACE阻害薬、抗菌薬、抗真菌薬およびヨード造影剤)の使用状況を記録した。ICU在室期間および入院期間、ICU死亡および入院死亡については全患者のデータを収集した。

重症敗血症の定義は、感染病巣が特定され、SIRSの四徴候のうち二つ以上が認められ、感染に関連する臓器不全がある場合とした。血液または無菌部位、膿瘍、感染組織(肺炎、腹膜炎、皮膚または軟部組織感染)から得た検体の培養で細菌が検出される場合を感染病巣が特定されていることとした。以下の項目のうち一つ以上に該当する場合を感染に関連する臓器不全ありとした:呼吸器、凝固系または肝のSOFAスコアが2点以上、心血管系SOFAスコアが1、3または4点または腎SOFAスコアが3点以上の場合とした。臓器障害については過去に発表された別の文献に詳しく記した(Intensive Insulin Therapy and Pentastarch Resuscitation in Severe Sepsis)。

教訓 重症敗血症または敗血症性ショック患者の血管内容量増大の目的で、2005年1~6月はHES、2006年1~6月はゼラチン、2006年7月からは晶質液を用い、各期間のAKI発生率およびRRT実施率を比較しました。
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重症敗血症にHESはよくない~はじめに [critical care]

Renal effects of synthetic colloids and crystalloids in patients with severe sepsis: A prospective sequential comparison

Critical Care Medicine 2011年6月号より

近年、メタ分析および臨床試験で輸液蘇生時に用いる製剤が膠質液であっても晶質液であっても生存率には差がないことが明らかになってきた。輸液製剤の選択はそれほど重要な問題ではないと目され、敗血症管理のガイドラインでは使用する製剤の決定は各人の自由に任されている。ハイドロキシエチルデンプン(HES)は現在最も頻用されている膠質液である。次にゼラチン製剤、ヒトアルブミン製剤、デキストラン製剤と続く。

デンプン製剤は腎不全を引き起こし死亡率を上昇させる可能性があることを示すエビデンスが続々と発表されているが、「第三世代の新しい」デンプン製剤は低分子量なので(HES 130/0.4)、集中治療領域でも安全に使用することができると唱道されている。FDAは血管内容量不足の治療および予防を目的とする6%HES 130/0.4の使用を2007年に認可した。

しかし、最近発表された複数の体系的総説では、低分子量デンプン製剤が過去のデンプン製剤よりも副作用が少ないという主張を裏付ける根拠は不足しており、ICUまたは敗血症患者におけるHES 130/0.4の安全性については探索的試験が一編発表されているだけにとどまっている。

我々はこのような状況を踏まえ、ICU、救急部および手術室における6%HES 130/0.4の使用を中止し4%ゼラチン製剤に変更した。意外にも、腎代替療法実施率は変更前と変わらず36%であった。さらに、合成膠質液は量依存性に腎不全発生率を上昇させることが分かった。

ゼラチン製剤は腎毒性が少ないと考えられているが、これとて重症敗血症患者や腎移植患者において旧世代のHES製剤の対照としてゼラチン製剤を使用し比較した試験の結果を引いて言い伝えられているに過ぎない。ゼラチン製剤の有効性や安全性を裏付ける無作為化比較対照試験はない。

今回我々は、三つの異なる治療法をそれぞれの期間を決めて連続的に行い重症敗血症患者の臨床転帰を検討した。最初に、合成膠質液+晶質液の期間、次にゼラチン製剤+晶質液の期間と続き、最後に晶質液のみの期間というように設定した。輸液以外については、重症敗血症の治療方針は全期間を通じて同一であった。

教訓 デンプン製剤は腎不全を引き起こし死亡率を上昇させる可能性が示されていますが、「第三世代の新しい」デンプン製剤は低分子量なので(HES 130/0.4)、集中治療領域でも安全に使用することができると言われています。

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重症患者における経静脈栄養の開始時期:早期vs 晩期~考察 [critical care]

Early versus Late Parenteral Nutrition in Critically Ill Adults

NEJM Online First 2011年6月29日

考察

栄養に陥るリスクのあるICU患者に対し、高血糖を回避する方針に経腸栄養の早期開始と微量元素補充を組み合わせ、経静脈栄養の開始時期が早めか遅めかによって差が生ずるかどうか調べたところ、死亡率に有意差はなかった。しかし、ICU入室後第8日まで経静脈栄養の開始を待つと、もっと早い段階で経静脈栄養を開始した場合より、ICUにおける新規の感染が少なく、急性期炎症反応の程度は激しいことが分かった。経静脈栄養の開始を遅らせると、低血糖発生件数はやや増えるものの、身体機能の悪化は見られず、人工呼吸期間および腎代替療法実施期間が短く、ICU在室日数も短縮し、さらに医療費も削減できることが分かった。

先行する複数の観測研究では、投与カロリーの目標値達成が早いほど重症患者の転帰が改善するという結果が得られているが、本研究ではこれとは異なる結論に至った。この手の観測研究では、最重症の患者群では経腸栄養を行うことができないことが多いため、因果関係をはっきりさせることはできない。目標カロリーに早く到達するほど転帰が良いという結果が観測研究で示されたことに依拠し、重症患者に対しては経腸栄養を早期に開始し、それだけでは投与カロリーが不足する場合は早めに経静脈栄養を開始し不足分を補うべきであると推奨されてきた。本研究では、死亡率には差は生じなかったとはいえ、主要評価項目と副次評価項目のすべての項目において経静脈栄養の早期開始には利点がないことが示された。入室時のBMI、栄養リスク、敗血症の有無は、結果に影響を及ぼしていなかった。つまり、本研究で得られた知見は広く一般にも当てはまることを意味している。さらに、心臓外科手術を受けた患者の大規模コホートにおいて経静脈栄養を遅めに開始することによって得られた効果は、他の診断コホートで観察された経静脈栄養晩期開始による効果と同等であった。

術後のため経腸栄養の早期開始が禁忌であったサブグループでは、それ以外の患者群と比べ、経静脈栄養の晩期開始によって得られた利益がより大きかった。経腸栄養を早期に開始することができなかった患者で経静脈栄養早期開始群に割り当てられた患者では、経静脈栄養による投与カロリーが他のサブグループと比べて最も多かったことが、その理由であろう。一方、重症疾患の初期段階において主要栄養素(炭水化物、脂肪、タンパク質)の投与開始時期を遅らせると、投与経路の如何を問わず回復を促進することができる可能性がある。経静脈栄養の早期開始によって感染発生率が上昇したり、臓器不全からの回復が滞ったりするのは、オートファジー(自食作用)が抑制されて細胞障害の修復や微生物の排除などが適切に行われなくなるからであると推測される。本研究のプロトコルでは、血糖値の目標値は正常範囲内とした。血糖値の目標値をもっと高くしたとすれば、本研究で得られた転帰に変化があったかどうかはよく分からない。しかし、血糖値が今回よりも高ければ、経静脈栄養早期開始による悪影響はさらに際立ってあらわれたかもしれない。

本研究にはいくつかの問題点がある。第一に、経静脈栄養に用いた製剤にはグルタミンやその他の免疫増強物質は含有されていなかった。しかし、我々が行った方法は、一般に普及している経静脈栄養のやり方と同じである。また、グルタミンの有効性については、未だ賛否両論がある。第二に、標準化された組成で予め調剤された経静脈栄養製剤を用いたため、タンパク質エネルギー比が比較的低かった(Supplementary Appendix のFig. 1)。だが、現在のところ、タンパク質を増やすと転帰が改善することを裏付ける良質なエビデンスは得られていない。第三に、カロリー投与量の算出に当たり、間接熱量計を用いたエネルギー消費量の計測は行っていない。とはいえ、間接熱量計の使用は、ガイドラインでは推奨されていない。そして最後に、本研究の性質上、患者またはその代理人およびICUスタッフがどちらの治療群に割り当てられたかを知り得た。

まとめ

低栄養に陥る危険性のある重症患者に対し当初からビタミン、微量元素およびミネラルを投与している場合、ICU入室一週間後までの早い段階で、経腸栄養だけでは不足するカロリー量を補うために経静脈栄養を開始する方法は、ICU入室8日後まで経静脈栄養を開始しない方法より劣っていることが分かった。経静脈栄養の開始を遅らせると、感染が減り、回復が促進され、医療費の削減につながる。

参考記事:重症患者の栄養ガイドライン①

教訓 経静脈栄養の開始を遅らせると、低血糖発生件数はやや増えるものの、身体機能の悪化は見られず、人工呼吸期間および腎代替療法実施期間が短く、ICU在室日数も短縮し、さらに医療費も削減できることが分かりました。
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重症患者における経静脈栄養の開始時期:早期vs 晩期~結果 [critical care]

Early versus Late Parenteral Nutrition in Critically Ill Adults

NEJM Online First 2011年6月29日

結果

実施状況

計4640名が無作為化割り当ての対象になり、解析が行われた(Fig. 1)。プロトコルに従って実際に行われた栄養療法の詳細についてはFigure 2に示した(Supplementary Appendix のFig. 1も参照のこと)。経静脈栄養晩期開始群では、目標血糖値を達成するのに要したインスリン投与量の中央値は31単位/day(四分位範囲19~48単位/day)であった。平均血糖値は102±14mg/dLであった。一方、早期開始群のインスリン投与量中央値は58単位/day(四分位範囲40~85単位/day)で、平均血糖値は107±18mg/dLであった(インスリン投与量、平均血糖値ともP<0.001)。血清中カリウム、リンおよびマグネシウム濃度は、両群同等であった。

安全性評価項目

ICU死亡率、院内死亡率および90日後死亡率は両群同等であった(Table 2およびSupplementary Appendix のFig. 2)。しかし、晩期開始群の方が低血糖を呈した患者が多かったにも関わらず、8日以内にICUを生存退室した患者の占める割合は晩期開始群の方が大きかった。栄養療法に関連する合併症の発生率は両群同等で、割り当てた栄養法に起因する重篤な有害事象は見られなかった。

主要評価項目

経静脈栄養早期開始群と比べ晩期開始群の方がICU在室日数中央値が一日短く、ICU生存退室の相対的可能性が6.3%高かった(ハザード比1.06; 95%信頼区間, 1.00―1.13; P=0.04)(Table 2およびFig. 3)。低血糖についての調整を行った後の効果量も同様であった(ICU生存退室の可能性6.9%上昇)。

副次評価項目

経静脈栄養早期開始群と比べ晩期開始群の方がICU在室中の新規感染症(肺、血流または創部)の発生が少なかったが、急性炎症反応の程度は早期開始群より顕著であった(Table 2)。人工呼吸期間および腎代替療法実施期間は、晩期開始群の方が短かった。早期開始群と比べ晩期開始群の方が、高ビリルビン血症(>3mg/dL)を呈した患者が多く、γGTPおよびALPについては臨床的に注意を要するレベルの上昇を呈した患者が少なかった。AST/ALTが大幅に上昇した患者の数は両群同等であった(Supplementary Appendix のTable 5)。

経静脈栄養早期開始群と比べ晩期開始群の方が入院期間中央値が2日短く、早期退院の相対的可能性が6.4%高かった(ハザード比1.06; 95%信頼区間, 1.00-1.13; P=0.04)(Table 2)。身体機能(退院直前における6分間歩行距離および日常生活自立度)は両群同等であった。経静脈栄養晩期開始群は早期開始群よりも、患者一人当たりの総医療費が平均1110ユーロ(約1600米ドル)少なかった。

サブグループ解析

予め設定したサブグループについての解析では、主要評価項目、安全性評価項目ともに特異的な傾向は見られなかった(Supplementary Appendix のTable 6)。早期の経腸栄養が外科的に禁忌であった患者について事後サブグループ解析を行い、経静脈栄養晩期開始群と早期開始群とを比較した(肺、食道、腹腔内または骨盤内の複雑手術を受けた患者517名、APACHEⅡスコア27±11点)。予想に違わず、この高リスクサブグループにおける第7日までの経腸栄養投与カロリー中央値は0kcal/day(四分位範囲0-163kcal/day)であった。この患者群では、経静脈栄養晩期開始群の方が早期開始群よりも感染発生率が低かった(29.9% vs 40.2%, P=0.01)。晩期開始群ではICU早期生存退室の相対的可能性が20%高かった(ハザード比1.20; 95%信頼区間, 1.00-1.44; P=0.05; 交互作用のP値=0.11)(Supplementary Appendix のTable 6)。

参考記事:重症患者の栄養ガイドライン①

教訓 ICU死亡率、院内死亡率および90日後死亡率は同等でした。晩期開始群では、低血糖発生数が多かったにも関わらず、8日以内にICUを生存退室した患者の割合は早期開始群を上回っていました。ICU在室日数も晩期群の方が短いという結果が得られました。新規の感染は晩期群の方が少なかった一方で、炎症反応は早期群の方が軽度でした。
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重症患者における経静脈栄養の開始時期:早期vs 晩期~方法② [critical care]

Early versus Late Parenteral Nutrition in Critically Ill Adults

NEJM Online First 2011年6月29日

データ収集

基準時点における人口統計学的特性および臨床特性について、両群間に差はなかった(Table 1およびSupplementary Appendix のTable1)。APACHEⅡスコアを用いて重症度を数値化して評価した(0点~71点、得点が高いほど重症であることを示す。)敗血症の診断には、American College of Chest Physicians-Society of Critical Care Medicineの基準を適用した。臓器不全および敗血症のスコア算出は、熟練した専門医が担当した。

ICUにおける治療内容、実施した手技、新規の細菌または真菌感染、血液および尿生化学検査・血算・炎症マーカの結果は、すべて毎日記録した。経腸栄養および経静脈栄養それぞれによって投与された一日の熱量、経腸栄養中止の有無および栄養投与に伴う合併症についても毎日記録した。また、退院前における身体機能の定量評価を可能な限り行った。患者に対する請求書から直接医療費を求め、保健医療費支払い者の観点からその分析を行った。政府負担分と患者負担分は合計した。全ベルギー国民を対象としたベルギー全国登録簿を利用し、無作為化割り当て90日後における対象患者の生死を確認した。

転帰項目

安全性評価項目

安全性に関する評価項目は、生死(8日以内にICUを退室した患者のうち生存者の占める割合、ICU死亡率、院内死亡率、90日後生存率[入院中、退院済み、ICU在室中、ICU退室済みなどを問わない])、合併症発生率および低血糖発生率とした。ブドウ糖の経静脈投与を行っていても繰り返す低血糖が割り当てた栄養療法の実施期間中に発生した場合を重篤な有害事象とした。

主要有効性評価項目

有効性に関する主要評価項目は集中治療を要した期間とした。ICU在室日数(生存、死亡を問わない)およびICU生存退室までの期間を指標とした。一般病棟の空床の有無によってICU退室までの期間に影響が及ぶ可能性があるため、ICU退室が可能な状態になるまでの期間をICU退室までの期間とした。予め設定した客観的基準に照らして、退室可能かどうかを判断した(Table 2)。

副次有効性評価項目

副次評価項目は以下の通りである;新規の感染を発症した患者数、感染部位(気道または肺、血流、尿路、創部のいずれか)、抗菌薬投与期間、炎症(CRP最高値を指標とした)、人工呼吸器離脱完了までの期間、気管切開の有無、予期せぬAKIの発生率(RIFLE基準で判断、入室時と比べ血中クレアチニン濃度が2倍以上に上昇した症例の占める割合)、腎代替療法が実施された患者の割合およびICUにおける実施期間、血行動態の薬理学的または機械的補助の有無および期間。割り当てた栄養投与法の実施期間中および全ICU在室期間中に肝機能障害を呈した患者の割合について、経静脈栄養早期開始群と晩期開始群とのあいだで比較した。肝機能障害の定義は、総ビリルビン>3.0mg/dL、γGTP>79.5U/L、ALP>405U/L、ALT>123U/LまたはAST>114U/Lのいずれかの所見が見られた場合とした。入院期間についても両群間で比較した。退院に先立ち、身体機能の定量評価を行った。内訳は、6分間歩行距離の計測と何ら介助を要することなく日常生活を送ることができる患者の割合である。無作為化割り当てから退院時までにかかった総医療費についても比較した。

統計解析

検出力80%以上で両群間のICU滞在日数に一日の差があることを検出し、検出力70%以上でICU死亡率に3%の差があることを検出するのに必要な標本数を算出した。すべての解析をITT解析で行った。データの比較にあたっては、χ二乗検定、t検定またはノンパラメトリック検定(中央値検定、Wilcoxon順位和検定またはMann-Whitney U検定)のいずれかを適用した。事象発生までの時間の解析にはKaplan-Meier法を用いた。(略)

高リスク患者については予め設定したサブグループ解析を行った。サブグループ解析の対象は、BMI25未満または40以上、NRS 5点以上、心臓手術の既往、入室時敗血症発症のいずれかに該当する患者である。(略)

参考記事:重症患者の栄養ガイドライン①

教訓 ICU死亡率、院内死亡率、90日後生存率、合併症発生率および低血糖発生率が安全性についての評価項目として用いられました。有効性についての評価項目は、集中治療を要した日数です。
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重症患者における経静脈栄養の開始時期:早期vs 晩期~方法① [critical care]

Early versus Late Parenteral Nutrition in Critically Ill Adults

NEJM Online First 2011年6月29日

方法

研究設計

本研究は多施設前向き無作為化並行群間比較試験である。プロトコルと統計解析の詳細はNEJM. Orgに掲載した。方法については別の論文ですでに報告済みである。

Baxter Healthcareから使途限定なしの研究助成金を受領した。この助成金によって本研究に要した費用の三分の一未満がまかなわれた。Baxter Healthcareは本研究の設計、データ収集、解析、データ解釈、原稿執筆および投稿是非の判断のいずれにも関与していない。

対象患者

本研究に参加したICUに2007年8月1日から2010年11月8日までのあいだに入室した成人患者のうち、栄養危険度スクリーニング(NRS; nutritional risk screening)が3点以上で(1点~7点、3点以上で栄養状態に問題が生ずる危険性あり)、除外基準に当てはまらない患者全員を対象とした(Fig. 1)。

対象患者は連続的に登録し16種類の診断群に基づき層別化した上(Supplementary Appendix Table 1, NEJM.org)、1:1の配分で経静脈栄養早期開始群または経静脈栄養晩期開始群のいずれかに無作為に割り当てた。転帰判定の担当者は、割り当て群を関知しなかった。

研究開始から数えて1500名の患者がICUから退室した時点で中間安全性解析を実施した。その結果、当初の予定通り研究を最後まで行うようにとの助言をデータ・安全性監視独立委員会から得た。中間解析では有効性の主要評価項目については解析されなかったので、最終解析における有意水準の変更は求められなかった。

研究手順

経静脈栄養早期開始群には20%ブドウ糖液を経静脈投与した。ICU入室第1日目の目標エネルギー摂取量は400kcal/dayで、第2日は800kcal/dayとした(Fig.2およびSupplementary Appendix のTable2)。経腸栄養(OliclinomelまたはClinimix, Baxter社)は第3日に開始した。経腸栄養と経静脈栄養を足して目標カロリーに到達するように、経腸栄養の投与量を調節した(第3日に経腸栄養または経口摂取のみで目標カロリー全てをまかなえると担当医が判断した場合を除く)。算出した目標カロリーから経腸栄養で投与され吸収されるに至ったと思われるカロリーを引いて経静脈栄養で投与するカロリー量を計算した。目標カロリー量にはタンパク熱量も含み、算出にあたっては理想体重、年齢および性別による補正を行った(Supplementary Appendix のTable3)。目標カロリーの最高値は、全例で2880kcal/dayとした。算出した目標カロリーの80%を経腸栄養で投与されているか、経口摂取を再開できると判断された場合には、経静脈栄養を減量または完全に中止した。その後経腸栄養または経口摂取で、算出した目標カロリーの50%未満しか栄養を摂取できなくなってしまったら、経静脈栄養を再開した。

晩期開始群では適切な補液を行う目的で早期開始群と等量の5%ブドウ糖液を投与した。経腸栄養による水分投与量を考慮して投与量を設定した。ICU入室後7日目の時点で経腸栄養によるカロリー投与量が不十分な場合は、第8日目から経静脈栄養を開始し目標カロリーを達成した。

第2日目までに摂食が不能であった患者には全員に経腸栄養を実施した(製剤は主にOsmolite, Abbott社)。経腸栄養投与時には禁忌でない限り半坐位とした(Supplementary Appendix のTable4)。経腸栄養の指示内容には、投与速度を一日二回増大させ、腸管運動促進薬を使用し、十二指腸に留置したチューブから栄養を投与することを全例でもれなく明記することとした。早期開始群、晩期開始群ともICU入室直後から微量元素、ミネラル(カリウム、リンおよびマグネシウム)およびビタミンを経静脈的に投与し、再栄養に伴い微量栄養素欠乏による問題が生ずるのを予防した(Supplementary Appendix のTable2)。

各患者における経腸栄養および経静脈栄養の一日投与量をプロトコルに基づいて算出する際、患者データ管理システム(Meta Vision, iMDsoft)を用いた。ICU退室後の栄養管理は、患者が収容された病棟の担当医にまかされた。血糖値が80~110mg/dLとなるようにインスリンを持続静注した。動脈血検体を用いて血糖値を1~4時間おきに測定した。測定に当たっては血液ガス分析器(Radiometer ABL 715または725)を用い、血糖値以外の項目の測定も行った。参加した全てのICUで、ガイドラインに則って人工呼吸器離脱を進めた。集中治療を継続しても見込みがないと判断された場合には、集中治療上級医二名および関係専門家とで合議の上、終末期医療への移行を決定した。

教訓 経腸栄養は両群ともICU Day#3から開始しました。経静脈栄養早期開始群にはICU入室直後から20%ブドウ糖が投与され、Day#1の目標カロリーは400kcal/dayに設定されました。晩期開始群には、補液の目的で5%ブドウ糖が投与され、Day#8から不足カロリー分を経静脈的に投与しました。
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重症患者における経静脈栄養の開始時期:早期vs 晩期~はじめに [critical care]

Early versus Late Parenteral Nutrition in Critically Ill Adults

NEJM Online First 2011年6月29日

重症疾患患者は、食欲不振に陥りいつも通りには食べられなくなるため、深刻な栄養不良、筋量減少、筋力低下が起こり、回復が滞る。人為的な栄養補助が重症患者の転帰改善につながるかどうか、まだ分かっていない。投与経路、栄養補助の開始時期、投与カロリーおよび栄養製剤の種類が栄養療法の成否に大きな影響を及ぼすものと考えられる。

経腸栄養は経静脈栄養と比べて合併症が少なく、投与に関わる費用が安い。しかし、経腸栄養だけでは目標カロリーを達成できないことも間々ある。投与カロリーが目標を下回ると、筋力低下、感染、人工呼吸期間遷延、死亡といった事態の発生につながる。経腸栄養に経静脈栄養を組み合わせると投与カロリー不足に陥るのを防ぐことができるが、一方では投与カロリー過剰となり肝機能障害や感染が発生したり人工呼吸期間が遷延したりするおそれがある。経静脈栄養により血糖値が上昇することがある。高血糖もこういった合併症の原因となり得ると指摘されている。また、経静脈栄養を行っても筋量減少を防ぐことができないのは高血糖がおこるせいだという意見も示されている。

重症患者の栄養療法に関する現行の診療ガイドラインは、主に専門家の見解に基づいて構築されており、北米大陸とヨーロッパ大陸とではガイドラインの内容に相当大きな隔たりがある。欧州経静脈・経腸栄養学会(ESPEN)は、消化管経由では栄養を十分に投与できない場合は、ICU入室後2日以内に経静脈栄養の開始を検討すべきであると推奨している。一方、米国およびカナダのガイドラインでは、経腸栄養の早期開始は推奨しているが、経静脈栄養については経腸栄養のように早い段階では始めるべきではないという見解を示している。そして、治療開始時にすでに低栄養に陥っている場合を除き、当初1週間は投与カロリーの少ない栄養療法の実施が望ましいとされている。

本研究では、成人ICU患者のうち慢性的な低栄養ではないが(BMI 17以上)、栄養状態に問題が生ずる危険性のある患者を対象とし、死亡率と合併症発生率について経静脈栄養の晩期開始(米国およびカナダのガイドライン)と早期開始(ESPENガイドライン)との比較を行った。参加した全てのICUが経静脈栄養の早期開始を推奨するガイドラインに準拠して栄養療法を実施していたため、この研究を行うにあたって晩期開始群ではいつものやり方とは異なる方法を敢えて行うという形になった。本研究では、早い段階から経静脈栄養を開始して経腸栄養を補いカロリー不足に陥ることを防ぐと合併症発生率を減らすことができるのか、もしくは経静脈栄養を1週間後まで待って開始する方が臨床的に優れているのかどうかを検討した。

参考記事:重症患者の栄養ガイドライン①

教訓 経腸栄養だけではカロリーが足りないとき、ヨーロッパではICU入室後2日以内に経静脈栄養を開始することが推奨されています。一方、北米ではカロリーが足りなくても1週間後までは経静脈栄養は開始しない方がよいとされています。この研究では、ヨーロッパ式と北米式の比較が行われました。
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