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ARDS患者には従量式より従圧式① [critical care]

Point: Is Pressure Assist-Control Preferred Over Volume Assist-Control Mode for Lung Protective Ventilation in Patients With ARDS? Yes

CHEST 2011年8月号より

従圧式補助/調節換気(PACV)は、呼吸インピーダンスや患者の呼吸努力とは関係なく、ほぼ一定の圧をかけて気道を開通させる時間設定(time-cycled; 予め吸気時間が決められている)換気方式である(Fig. 1)。この20年間にこの換気方式は年を追うごとに好まれるようになった。その理由の一つは、事実上流量が青天井でありながら最高気道内圧を制御することができるからである。多くの臨床医にとって、PACVは「肺保護」人工呼吸の構成要素として確固とした位置を占めている。いずれの換気方式も安全に実施できるのかそうでないのかは、担当医が選択した人工呼吸器設定、人工呼吸の過程にさまざまな制限を設けるアラームの内容、ケア担当者がしっかり監視して時々刻々と変化する病態に適切に対応しているか、などによって左右される。したがって、この意図的に両極端の意見を戦わせようとする企画のはじめに、ある換気方式が別の換気方式より本質的に安全であるというようなことはないことを理解するのが重要であることを指摘したい。

VILIの原因は?

VILI(人工呼吸による肺傷害)は、主に(必ずしも全てではないが)肺胞レベルで発生する。周期的サイクル(膨脹と虚脱)の機械特性だけでなく、単位時間あたりに周期的サイクルが何回起こるのかとか、機械的力に対する反応を変化させる重要な基礎因子(血圧、体位、体温など)が、VILIの発生過程に関与している。

肺組織に過剰な歪み(strain、ひずみ)がかかることが、人工呼吸による傷害発生のはじまりである。その機械特性については未だ議論の多いところではあるが、最高経肺圧(肺胞内と肺胞外の圧差の最大値)によって生み出される応力(stress)が重要な要素であることは言を俟たない。ここでまず、この経肺圧を肺胞内圧と胸腔内圧の差と見なす。胸腔内圧は食道にバルーンを挿入して測定した圧で代用するのが通例である。ただし、食道内圧は食道内の測定部位から離れた局所の胸腔内圧は反映しない。その上、障害を受けた肺では肺胞を取り囲む間質の圧は、食道内圧測定部位に近接した胸膜表面の圧とは大きく隔たっている可能性がある。そして、肺胞が開存している部分と虚脱している部分との境界面に当たる肺実質に加わる張力は、肺全体の経肺圧よりもほぼ確実に高い。そのため、こういった部分の肺胞にかかる圧は他の部分の何倍にもなる(Fig. 2)。

最新の研究では、気道応力および経肺応力(いずれも気道内圧および経肺圧に反映される)が閾値を超えなければ肺の広範な障害は発生しないことが明らかにされている。閾値を超えるのは、一回換気量が安静呼吸時に機能している「新生児肺(baby lung)」の肺容量を超えたときであると考えられている。機能的残気量(FRC)の多寡および肺組織の状態がどれだけ不均質であるかによって、一回換気量によって生ずる応力が大きくなったり小さくなったりする。一回換気量と、一回換気量分の気体が送り込まれる空間(つまりFRC)との比と相関する測定可能な値が圧である。一回換気量というものは、それによって生ずる組織の歪みを非常に大雑把にあらわす指標でしかない。少ないと思われている一回換気量(予測体重1kgあたり6mL)と大きいと思われている一回換気量(予測体重1kgあたり12mL)によるそれぞれの歪みにそれほど差はないのである。

最高経肺圧が一回の換気サイクルにおいて肺にダメージを与える機械的な力を反映することは非常に重要な点である。しかし最高経肺圧だけが問題なのではない。最高吸気終末圧(プラトー圧)と呼気終末肺胞内圧との圧差(駆動圧)も最高経肺圧と同じかそれ以上に需要である。最高経肺圧が肺に障害を与える閾値を超えると一回の換気中にブランコが揺れ動くように大きくなったり小さくなったりする圧の差の大きさや変化の急激さが極めて重大な影響をおよぼす。したがって、同じ最高肺胞内圧であっても、その圧が大きい一回換気量と低いPEEPの組み合わせによって生じている方が、小さい一回換気量と高いPEEPの組み合わせによって生じている場合よりも、肺に障害が起こりやすい。特に、肺が短時間で急速に拡張されるときには、高一回換気量と低PEEPの組み合わせはよくない。一回換気ごとに肺胞が虚脱再開通を繰り返すと、肺胞上皮表面が断裂しサーファクタントが減少する。PEEPを高く設定する換気法が有効なのは、虚脱再開通を予防することができるからである。しかし、駆動圧そのものを低く保ち、粘弾性による肺組織の捻れや肺組織に加わる機械的エネルギーを減少させることができることも関係しているのかもしれない。虚脱再開通を繰り返す部分にとどまらず、常に含気が保たれている部分ではあっても気体と血液を分ける脆弱な膜については駆動圧が低いことが重要なのであろう。

参考記事
ALI/ARDS肺の応力と歪み~方法
ALI/ARDS肺の応力と歪み~結果
ALI/ARDS肺の応力と歪み~考察①
ALI/ARDS肺の応力と歪み~考察②

教訓 
歪み(strain)=ΔV/FRC
ΔPL(応力)=ELspec(特異的肺エラスタンス)×ΔV/FRC(歪み)
ALI/ARDSの人工呼吸管理を行うときの注意点 ①含気が保たれている部分にstrainをあまりかけない、②虚脱・再開通を繰り返す部分を減らす、③リクルートメント不能な部分に含気を取り戻そうとしない
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心外・脳外以外の手術における周術期脳血管障害~発症後の管理 [anesthesiology]

Perioperative Stroke in Noncardiac, Nonneurosurgical Surgery

Anesthesiology 2011年10月号より

周術期脳血管障害発症後早期の管理

急性期管理において重要なのは、脳血管障害の高リスク患者同定と早期診断である(table 4)。大半の周術期脳血管障害は、はじめに看護スタッフがその発症に気づく。なぜなら、術中に脳血管障害が発生することは稀で、ほとんどが術後に起こるからである。しかし、通常の術後看護ケアでは本当に意味のある神経学的観察は行われていない。NIH脳卒中スケール(NIHSS)やカナダ神経スケール(CNS)の使用については精力的に研究が行われ臨床経験も蓄積されている。この二つのスケールは、実施するのに時間はかからないが、活用できるようになるには訓練が必要であるため広く普及する見込みは小さい。もっと簡便なスケールを色々と組み合わせて用いることが、早期診断への一手となるであろう。看護スタッフが気づいてから、神経内科医が評価するまでのタイムラグを短縮する必要もある。外科医がその日の手術を終えてから病棟へ来るまで待っていてはいけない。中規模~大規模の医療機関では、脳血管障害急性期対応チーム(acute stroke team)を設置する施設が増えている。これは神経内科医が統率する集団であり、脳血管障害の発症が疑われる場合に迅速にかけつけて必要な対応を行う。脳血管障害が疑われる症例に対しはじめに行われる画像診断検査は、緊急単純CTである。仮診断をつけたら25分以内にCTの撮影を完了することが早期診断へ向けた一つの目標である。単純CTを行えば、虚血と、頭蓋内出血もしくは血管以外の病変(腫瘍など)とを正確に見分けることができる。しかし、急性期の小さい皮質または皮質下梗塞を検出する感度はあまり高くない。特に後頭蓋窩の梗塞の検出感度は低い。虚血性脳血管障害の診断精度の向上につながる情報は、multimodal CTやMRIによって得ることができる。だが、脳血管障害の急性期治療の開始を遅らせてまで、こういった検査を行ってはならない。

周術期脳血管障害を発症した場合でも、脳血管障害に対して一般的に行われる対症療法と合併症の予防が重症である。したがって、術後患者であっても急性脳卒中治療部(Acute Stroke Unit)へ収容し、専門医が管理を行うことが望ましい。気道の不完全閉塞、低換気、誤嚥性肺炎および無気肺によって低酸素症に陥ると、脳傷害がひどくなることがある。高血圧も低血圧も脳血管障害の転帰を悪化させる。術後低血圧の主な原因は、血管内容量低下、出血、心筋虚血および不整脈である。これらを間髪を入れずに是正することによって、神経学的転帰が改善すると考えられる。急性虚血性脳血管障害のうち特定の条件を満たす患者では、薬物投与による人為的高血圧が治療法となり得ることを示す結果が小規模臨床試験で得られているが、大規模臨床試験は行われておらず、現在のところこの治療法を推奨しないとするのが一致した見解である。人為的血液希釈は機能予後を改善させないため、急性脳血管障害の治療法としては推奨されない。発熱は急性脳血管障害後の神経学的転帰を悪化させるため、発熱が見られたらその原因を検索し治療を行わなければならない。脳血管障害患者では心筋虚血および不整脈が起こることがある。現行のAHAガイドラインでは、急性虚血性脳血管障害の患者においては発症後少なくとも24時間は心臓のモニタリングを行い、重篤な不整脈が発生した場合は速やかに治療することが推奨されている。

急性脳血管障害超急性期に行われる治療法に、薬理学的血栓溶解、閉塞動脈の機械的再開通およびヘパリン投与などがある。残念ながら術後患者ではこのような治療法は適応となり難い。AHAガイドラインでは大手術実施後14日以内の脳血管障害では、血栓溶解薬の経静脈投与を禁忌としている。しかし、症例ごとに利害得失を考えれば、周術期虚血性脳血管障害の患者の中には血栓溶解療法を行う方がよいこともあろう。血栓溶解薬の動脈内投与という治療法もあり、単独で実施されたり、静脈内投与と併用されたりする。症状発現から6時間以内の患者では安全に行うことができると考えられている。アスピリンは急性虚血性脳血管障害の治療において有効性が示されている唯一の経口抗血小板薬であり、安全であると判断される場合は周術期の脳血管障害でも使用すべきである。

まとめ

周術期脳血管障害は巷間認識されているよりも発生頻度が高い。脳血管障害発症の危険因子にもっと注意を払って管理を行うとともに早期診断に努めれば、転帰は改善するはずである。周術期に発生する顕性および潜伏性脳血管障害の頻度や病態生理を明らかにし、予防および治療法を確立するには、前向き研究の実施が求められる。

教訓 周術期脳血管障害は大半が術後に病棟で発生します。早期に気づくことが大切です。気づいたら25分以内にCTをとります。
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心外・脳外以外の手術における周術期脳血管障害~リスク管理③ [anesthesiology]

Perioperative Stroke in Noncardiac, Nonneurosurgical Surgery

Anesthesiology 2011年10月号より

術中血圧管理

内頸動脈の高度狭窄や閉塞、ウィリス動脈輪形成不全などは分水嶺梗塞の危険因子である(病態生理の項参照)。ウィリス動脈輪が典型的な多角形の(正常な)構造を構成している個体は、人口の45-50%を占めるに過ぎない。だから、特に前述の危険因子を有する患者では、脳灌流圧を適切に維持することが重要なのである。脳血管に塞栓が生じた場合、梗塞領域をできるだけ小さく止めるには、側副血行路の血流を維持しなければならない。術中血圧の最適目標値がどれほどなのかを示すデータは残念ながらほとんどない。低血圧の定義が標準化されていないことも、この状況を一層混迷させている。脳血流量が50%以上低下すると梗塞領域の周辺部位であるpenumbraの脳血流量が閾値を下回り、神経機能が障害され、組織傷害に至る危険性が生ずる。脳血流が低下するものの、penumbra閾値よりは高い値が長時間続いた場合にも組織傷害が生ずるかどうかは不明である。覚醒状態にある健康被験者を対象とした研究では、自己調節能がはたらく収縮期血圧の平均下限値は約70mmHgであるという結果が得られている。つまり、教科書で紹介されている値より高いのである。各患者の自己調節能がはたらく血圧下限値を考慮して血圧のその範囲内に維持するのが安全策であると、一般的には考えられている。しかし、自己調節能の下限値は41~113mmHgと個人差が大きく、雑多な患者すべてに通用する単一の動脈圧目標値があると考えるのは間違っている。そして、自己調節能がはたらく血圧下限値は固定していて変化しない値ではなく、高血圧になれば上昇し、高血圧の治療を行えば「正常値」に復するといったように状況によって変わる。また交感神経の緊張度によっても急激に変化する。交感神経の緊張度低下の典型例は、ノンレム睡眠中であり血圧が20%以上低下する。

以上のように血圧と血流の関係が複雑な様相を呈していて、手術患者一般における血圧の脳血管障害発生閾値に関するデータがなく、血行動態の異常を主因とする脳血管障害が比較的少ないといった状況を踏まえると、周術期の適切な目標血圧についての合意が形成されていないのは致し方ない。通常広く行われている管理法は、平均血圧または収縮期血圧を基準値の20%内外に維持するやり方である。手術室入室直前に測定した血圧が基準値として採用されることが多い。手術室入室直前の血圧は、患者が普段覚醒しているときの血圧より高く、睡眠中の血圧と比べればなおさら高い。このようにどちらかというと守りの姿勢で術中の血圧管理を行う方法は、周術期脳血管障害のリスクが高い患者では妥当である。健康な患者では、睡眠中の血圧に近いレベル(手術室入室直前より25-35%低い血圧)に血圧を維持するのが好ましいと考えられる。

その他の寄与因子

高血糖と低血糖はともに有害であるため避けなければならない。だが、周術期血糖値の適切な目標値や、転帰改善につながる血糖値についての見解は統一されていない。外科系ICU患者の血糖値について先鞭をつけた研究では、血糖値を80~110mg/dLとする厳格血糖管理の方が、従来の180~200mg/dLを目標とする管理法よりも生存率を上昇させるという結果が得られたが、後に行われた無作為化比較対照試験やメタ分析では、厳格血糖管理には従来法を行った場合よりも死亡率を低下させる効果は認められないことが明らかにされている。実際に、心臓手術中に厳格血糖管理を行うと脳血管障害の発生頻度が上昇するという報告がある。米国糖尿病学会および米国臨床内分泌学会は、重症患者の血糖目標値は140~180mg/dLとすべきであるという共同見解を示している。大手術患者を対象とした前向き試験の結果が待たれるところではあるが、この目標値はあらゆる種類の手術患者において妥当であると考えられる。

脳血管障害の既往がある患者の多くが、再発予防の目的でスタチンやその他の高脂血症治療薬を内服している。スタチンを休薬すると有害作用が発現するおそれがあり、血管内皮機能を急速に障害する可能性がある。脳血管障害急性期の患者においてスタチンの投与を中断すると、発症後早期に神経機能が悪化する危険性が8.7倍に上昇する。したがって、脳血管障害発症リスクのある患者では、周術期もスタチンの投与を継続すべきである。術前や脳血管障害発症直後にスタチン投与を新たに開始するのが有益かどうかは、今後行われる無作為化試験ではっきりさせなければならない。

周術期脳血管障害を起こしやすい遺伝的素因については、まだよく分かっていないし、研究も進んでいない。心臓手術についての少数の研究では、アポリポプロテインE4対立遺伝子、グリコプロテインⅠbおよびCRPなどに関する遺伝子多型が、周術期脳血管障害発症後の認知機能悪化や回復不良と関連することが明らかにされている。ゲノム研究が進歩を遂げているにも関わらず、現時点までの全ゲノム相関解析では周術期脳血管障害に関与する単一の遺伝子領域は見つかっていない。

全身麻酔と、局所または区域麻酔のあいだに脳血管障害発症リスクの有意差はない。

教訓 覚醒状態にある健康被験者を対象とした研究では、脳血流量の自己調節能がはたらく収縮期血圧の平均下限値は約70mmHgです。脳血管障害急性期の患者においてスタチンの投与を中断すると、神経機能が悪化する危険性が8.7倍に上昇します。脳血管障害発症リスクのある患者では、周術期もスタチンの投与を継続すべきです。
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心外・脳外以外の手術における周術期脳血管障害~リスク管理② [anesthesiology]

Perioperative Stroke in Noncardiac, Nonneurosurgical Surgery

Anesthesiology 2011年10月号より

経口抗凝固薬内服中の患者の周術期管理

経口抗凝固薬内服中の患者に対する手術はごくありふれている。こういう患者の周術期管理には難しい問題がつきまとう。経口抗凝固薬を中断することによる血栓塞栓症の発症リスクと、継続することによる出血のリスクとを比較考量しなければならないからである。だが、周術期の抗血栓療法に関する決断を下すのに役立つデータは不足している。そのため、決定版と言えるような管理法は確立していないといってよい。現在のところ、周術期の経口抗凝固薬の使用法には三通りのやり方がある:(1)ワーファリンを継続する、(2)手術前後の一定期間はワーファリンを中止する、(3)ワーファリンを中止し、周術期は他の短時間作用性の抗凝固薬を投与する。

出血のリスクが低い手術では、ワーファリンを継続してもおそらく安全に手術を行うことができると考えられる。しかし、大手術や侵襲が大きい手技を行う場合は一般的には、出血を避けるために抗凝固薬を中止しなければならない。American College of Chest Physiciansが制定した2008年のガイドラインでは、リスク評価を行った上で必要であれば経口抗凝固薬を中止し短時間作用性の抗凝固薬に変更する方法が採用されていて、臨床の現場ではこれを参考にするとよい(table 3)。

抗血小板薬内服中の患者の周術期管理

脳血管障害の再発予防に投与されている抗血小板薬を中止すると、虚血性脳血管障害の再発リスクが増大する。手術を行うだけでも血栓形成傾向が生ずるが、その上、常用している抗血小板薬を中止すると反動的に血栓形成傾向が増強する。一方、抗血小板薬を周術期も継続すると多量の出血が起こるリスクが増す。今のところ、抗血小板薬を使用している患者の周術期管理法の参考となるデータはなく、実際に臨床で行われている対処法にはばらつきがある。頭蓋内血管にステントが留置されていて抗血小板薬を投与されている患者の周術期管理には、さらに多くの問題がつきまとう。このような患者において抗血小板薬を中止すると、脳血管障害発生のリスクが高くなるのは確実である。POISE2試験(抗血小板薬投与継続の利害得失を評価する目的で行われている大規模比較対照試験)は、先頃患者の登録の段階に入り、2014年に完了する見込みである。この研究によって、アスピリン内服中患者の周術期管理に資するデータが示されることであろう。

教訓 手術を行うと血栓形成傾向が生じます。その上常用している抗血小板薬を中止すると反動的に血栓形成傾向が増強します。
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心外・脳外以外の手術における周術期脳血管障害~リスク管理① [anesthesiology]

Perioperative Stroke in Noncardiac, Nonneurosurgical Surgery

Anesthesiology 2011年10月号より

脳血管障害の予防-リスク管理

脳血管障害を最近発症した場合の予定手術実施時期

脳血管障害の急性期には脳血流の自己調節機能が低下するため、脳血流量は脳灌流圧によって受動的に規定されるようになる。したがって、脳に傷害があるとちょっとした低血圧でも脳血流量が低下してしまう。脳血流の自己調節能の低下は、脳血管障害が生じた半球のみではなく、脳全体に認められる現象である。脳血流の自己調節能および二酸化炭素に対する血管運動反射の失調は、脳血管障害発症後8時間以内に生じ、2-6ヶ月後まで続く。理想を言えば、予定手術は自己調節能が回復し、炎症反応がおさまるまで待ってから行うべきである。予定手術は脳血管障害発症後1-3ヶ月後まで延期することが推奨されている。早期に手術を行わなければならず、1-3ヶ月も待てない場合は、細心の注意を払って血圧を監視する。そして、経頭蓋ドップラーや神経生理学的手法(例 脳波や誘発電位)を用いて脳虚血のモニタリングを行うことを考慮してもよいだろう。

頸動脈内膜切除術/ステント留置の術前実施

頸動脈の高度狭窄(70%以上の狭窄)があり症状がある患者では、緊急を要さない予定手術に先立ち頸動脈ステント留置または内膜切除術の実施を検討すべきである。しかし、2009年に発表された欧州血管手術ガイドラインでも述べられているように、狭窄が50%未満の患者に対しては頸動脈内膜切除術は禁忌である。一方、頸動脈狭窄があるものの症状がない患者における内膜切除術/ステント留置の是非については、賛否両論が喧しい。強力な内科的治療の方が、頸動脈内膜切除術やステント留置よりも、脳血管障害予防効果が高いことを示したエビデンスもある。強力な内科的治療とは、禁煙、血圧管理、心房細動に対する抗凝固療法、高脂血症治療薬の投与および抗血小板療法である。European Carotid Surgery Trial (ECST)では、無症状の頸動脈狭窄患者を10年にわたり追跡調査した研究で、60%以上の狭窄がある無症状の患者では頸動脈内膜切除術を行う方が良好な転帰をたどるという結果が得られている。この研究では、頸動脈内膜切除術の術前実施の適否については扱われていない。

心房細動の周術期管理

心房細動があり抗不整脈薬または心拍数調節薬を投与されている患者には、周術期も同じ治療を継続するべきである。必要であれば注射薬を用いる。術後管理で重要な点は、電解質異常および血管内容量低下お是正である。電解質異常や脱水があると、心房の電気的活動が活発になり不整脈薬が起こりやすくなるからである。術後の心房細動に対する抗凝固療法を真正面から扱った無作為化比較対照試験は行われていないが、American College of Chest Physiciansは、脳血管障害高リスク患者や、脳血管障害または一過性脳虚血発作のリスクが高い患者ではヘパリンの使用を考慮し、洞調律回復から30日後までは抗凝固療法を継続すべきであるとしている。ダルテパリンと偽薬の効果を比較する目的で行われている、The Effectiveness of Bridging Anticoagulation for Surgery研究が、2013年に完了する予定である。新規発症の心房細動症例では、心エコーを実施した上でカルディオバージョンを行うのが適切である。

教訓 予定手術は脳血管障害発症後1-3ヶ月後まで延期することが推奨されています。頸動脈の高度狭窄(70%以上の狭窄)があり症状がある患者では、緊急手術でなければ術前に頸動脈ステント留置または内膜切除術の実施を検討すべきです。症状がない場合は、内科的治療(禁煙、血圧管理、心房細動に対する抗凝固療法、高脂血症治療薬の投与および抗血小板療法)の方がよいようです。
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心外・脳外以外の手術における周術期脳血管障害~リスク② [anesthesiology]

Perioperative Stroke in Noncardiac, Nonneurosurgical Surgery

Anesthesiology 2011年10月号より

β遮断薬と低血圧

Bangaloreらはメタ分析を行い、非心臓手術を受ける患者ではβ遮断薬を使用していると、非致死的脳血管障害、低血圧および徐脈のリスクが増大することが明らかにした。このメタ分析では、先頃発表されたPOISE(PeriOperative ISchemic Evaluation) 試験が最も重視されている。β遮断薬の使用と、低血圧および脳血管障害とのあいだには相関はあるが、直接的な因果関係があるとまでは言えない。色々な点で、分からないことがまだ山積しているからである。β遮断薬の種類、投与量、用法、低血圧の定義、転帰の定義、手術リスクおよび内科的リスクには大きなばらつきがある。過去に行われた複数の研究によれば、頭蓋外頸動脈狭窄があっても、低血圧は周術期脳血管障害のリスク増大要因ではない可能性があることが示されている。POISEを含めた諸研究では、低血圧の発生が、脳血管障害が起こる直前のことなのか後のことなのかが不明である点に留意しなければならない。POISE研究では「臨床的に問題となる程度の低血圧」を、収縮期血圧100mmHg未満と定義し、その持続時間については言及されていない。そしてこの「低血圧」を脳血管障害の「術中および術後予測因子」として扱っている(table 4参照)。しかしPOISE研究の結果は、低血圧が発生した後に脳血管障害が起こるという関係があることを示してはいないし、低血圧の発生時期が術中なのか術後なのかをはっきり特定することもできていなかった。術中に低血圧が起これば通常は難なく速やかに気づかれるが、術後に病棟で低血圧に陥ると、得てしてその持続時間が長時間におよぶものである。したがって、術後の低血圧は術中の低血圧よりも、より重大な影響をおよぼすものと考えられる。β遮断薬を常用している患者では周術期もβ遮断薬の投与を継続すべきであるが、β遮断薬を手術直前に投与開始する場合には注意が必要であるという合意が形成されている。

クロニジンやデクスメデトミジンなどの、β遮断薬以外の降圧薬または交感神経遮断薬を用いた場合に、脳血管障害発生率が上昇するかどうかは分かっていない。周術期にこうした薬剤を使用すると、血管内容量低下や出血により低血圧に陥ったときの代償機構が十分に発揮されなくなって、脳虚血が起こりやすくなる可能性がある。これをはっきりさせるには臨床試験を行う必要がある。現在、POISE2試験が進行中で、2014年に完了する予定である。この試験では、クロニジン群が設定されていて、術中および術後の血圧についても詳細に検討されることになっている。

教訓 非心臓手術を受ける患者ではβ遮断薬を使用していると、非致死的脳血管障害、低血圧および徐脈のリスクが増大します。術後の低血圧は術中の低血圧よりも、より重大な影響をおよぼすと考えられています。
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心外・脳外以外の手術における周術期脳血管障害~リスク① [anesthesiology]

Perioperative Stroke in Noncardiac, Nonneurosurgical Surgery

Anesthesiology 2011年10月号より

リスクがあるのは誰?

基礎疾患

周術期虚血性脳血管障害の危険因子として各研究で共通して指摘されているものをtalbe 2に示した。この中でも特に重大な危険因子は、年齢、脳血管障害の既往および心房細動である。女性より男性の方が周術期脳血管障害を発症しやすいというデータもあれば、そうではないことを示すデータもある。

頭蓋外頸動脈狭窄と周術期脳血管障害の関連については、諸説があり結論は出ていない。頸動脈雑音(bruit)は頸動脈狭窄の程度とは相関しないし、周術期脳血管障害のリスクを増大させるわけでもない。心臓手術を受ける患者に高度の頸動脈狭窄がある場合でも、周術期脳血管障害は反対側に起こることが多く、頸動脈狭窄のみに原因を求める訳にはいかないのが通例である。しかし現時点では、心外/脳外以外の患者を対象とした頸動脈狭窄と周術期脳血管障害のリスクに関するデータは不足している。頭蓋内の血管に狭窄がある患者における周術期脳血管障害のリスクは不明であるが、(周術期ではなく)外来などで管理している場合、こういった症例の脳血管障害発症リスクは極めて高く(年15%)、おそらく周術期にも発症リスクが高いものと考えられる。

術式

手術の内容も、周術期脳血管障害の発生に関わっている。例えば、股関節置換術や末梢血管手術では、膝関節置換術や一般外科手術よりも脳血管障害の発生頻度が高い。頭頚部手術の場合、脳血管障害のリスクが0.2-5%増大する。頭頚部癌のため頸部郭清を要する患者は、もともと複数の基礎疾患を有していて、手術を行わないとしてもそもそも脳血管障害のリスクが高いことが多い。その上、放射線外部照射が行われ、動脈のアテローム変化が促進されてしまう。したがって、頸部郭清症例で血管を操作することによってプラーク破綻、塞栓、血管攣縮が起こることが珍しくないのは当然と言ってもよい。

他の術式でも、脳血流量を低下させる可能性があれば脳血管障害のリスクが増大する。PohlとCullenは、ビーチチェア体位(ほぼ90°の座位に近い体位)での肩関節手術後に脳血管障害または脊髄損傷が発生した四症例について報告している。二名は後頭蓋窩梗塞、一名は多発脳梗塞および側頭葉梗塞、もう一名は片側の分水嶺梗塞を発症した。この報告の著者らは脳梗塞の発生機序については推測の域を出ないとしながらも、体位による低血圧や頸部の過回旋または過伸展によって脳血流量が低下し血栓塞栓形成による脳血管障害の発生が促された可能性を指摘している。座位手術中に脳の酸素飽和度を測定した研究では、患者の80%において酸素飽和度が20%以上低下することが明らかになったが、脳神経系の有害事象は発生しなかったと報告されている。脳血管障害発生例が見られなかったのは、標本数が少なかったことと、脳の酸素飽和度の低下(50%未満)が、比較的長時間、おそらく50分程度続かなければ脳血管障害は発生しないためであろう。ビーチチェア体位による肩関節手術後の脳血管障害リスクについては、脳血管障害そのものではなく代替エンドポイントを用いた研究が行われているもののまだはっきり分かっていない。

教訓 周術期脳梗塞の危険因子は年齢(おおむね70歳以上)、脳血管障害の既往および心房細動です。頭頚部手術の場合、脳血管障害のリスクが0.2-5%増大します。放射線外部照射が行われ動脈のアテローム変化が促進されるので、頸部郭清の際に血管を操作するとプラーク破綻、塞栓、血管攣縮が起こりやすいと言われています。
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心外・脳外以外の手術における周術期脳血管障害~病態生理 [anesthesiology]

Perioperative Stroke in Noncardiac, Nonneurosurgical Surgery

Anesthesiology 2011年10月号より

病態生理

脳血管障害には、虚血によるものと出血によるものがある。虚血性脳血管障害はOxfordshire Community Stroke Projectの分類法を用いて症候によって分類されたり、TOAST(The trial of Org 10172 in Acute Stroke Treatment)分類に従った病因分類が行われたりする。TOAST分類は血管閉塞の病態生理学的機序に着目したもので、虚血性脳血管障害を太い動脈の血栓、内頚動脈や椎骨動脈のアテローム硬化巣から塞栓子が遊離して末梢の血管を閉塞するartery to artery 塞栓、心原性塞栓および細動脈塞栓(ラクナ梗塞)のいずれかに分類する。皮質分水嶺および内側分水嶺は、二つ以上の相互に交通していない動脈系の辺縁に接しているため虚血性変化が起こりやすい。このような部位の灌流圧は脳の中で最も低い。分水嶺梗塞の病態生理については諸説があるが、血流低下と複数の微小塞栓の両者が関わっているという説が多くのエビデンスに裏付けられている。皮質分水嶺領域では塞栓による梗塞が起こることが多い。特に、流入血管にアテロームによる狭窄がある場合は梗塞が起こりやすい。内側分水嶺の梗塞や流入血管の完全閉塞による梗塞では、血行動態が最大の要因である。血流低下もしくは低血圧と塞栓には相乗作用がある。血流が低下すれば微小塞栓が除去されにくくなり、血管が微小塞栓で堰き止められると血流低下領域が拡大するのである。

周術期脳血管障害の大半は術後第2日以降に発生する。周術期脳血管障害を詳細に検討した研究すべてを合わせても、術中に発生したと考えられる症例はわずか5.8%に過ぎない(242例中14例)。つまり、術中よりも術後に起こる変化の方が重要であるということである。胸部外科手術を受ける患者においては、脳血管障害の60%以上が塞栓によるもので、約12-15%が血流低下、ラクナ梗塞、血栓による虚血性脳血管障害である。脳出血は1%を占める。そして胸部外科領域の周術期脳血管障害のうち、10%に複数の病因が認められ、15%が原因不明である。心臓外科および脳神経外科の分野においては周術期脳血管障害の病態生理がある程度解明されているが、それ以外の分野ではまだほとんど詳しいことが分かっていない。現時点までに、心外/脳外以外の領域における周術期脳血管障害の機序に関する研究は9編しか発表されていない(計301症例、table 1)。この9編によれば、胸部外科手術の周術期脳血管障害と異なり、大半もしくは68%が、脳血管にできた血栓に起因する脳血管障害であった。およそ16%が塞栓による脳血管障害で、脳出血は5%を占めた。

心外/脳外以外では心外/脳外よりも、血栓による周術期脳血管障害の発生頻度が高いのかどうかは不明である。しかし、術後の血管内皮機能障害が大きな要因として作用していると考えられている。というのも、血管内皮は一酸化窒素、プロスタサイクリンおよび内皮由来過分極因子(EDHF)を放出し、血管トーン、血栓形成および炎症などを調節しているからである。血管内皮の機能が低下していると、その血管では、プラークの破綻、反応性の血管攣縮および血栓形成が起こりやすくなる。全身麻酔を行うと、特に亜酸化窒素を用いると、内皮機能が障害される。術後には神経内分泌反応(「ストレス」反応)が起こるので、内皮機能障害と相俟って脳血管に血栓ができやすい状態に陥るのであろう。ただし、このことを裏付ける臨床的根拠は今のところはまだ示されていない。さらに、周術期に抗血小板薬や抗凝固薬を中断すると、手術によって引き起こされる凝固能亢進状態が一層強調され、脳血管障害のリスクが増大するのであろう。Batemanらの研究では股関節置換術では、周術期脳血管障害の発生頻度や死亡率が他の術式より低いことが示されているが、THR後は術後早期に抗凝固療法が開始されていることが寄与しているのであろう。一般外科領域における術後脳血管障害のうち14%には心房細動が関与している。ここでもやはり、塞栓と凝固能亢進状態が重大な影響を及ぼしていることに注目しなければならない。

教訓 周術期脳血管障害の大半は術後第2日以降に発生します。術中よりも術後に起こる変化(凝固能亢進による血栓形成など)の方が、脳血管障害の原因として重要なようです。
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心外・脳外以外の手術における周術期脳血管障害~頻度とM&M [anesthesiology]

Perioperative Stroke in Noncardiac, Nonneurosurgical Surgery

Anesthesiology 2011年10月号より

心外/脳外以外の手術における周術期脳血管障害の発生頻度、合併症および死亡率

心臓、脳、頸動脈以外の手術における周術期脳血管障害の発生頻度は、0.05~7.4%であると報告されている(table 1)。報告されている周術期脳血管障害の発生頻度にこのように大きなばらつきがあるのは、患者母集団、これまで40年にわたる医療の変化、研究設計、診断検査法および術後追跡期間などの違いのせいであると考えられる。過去の研究も最近の研究も、大半が入退院管理データベースを用いた遡及的研究である。このようなデータベースでは、本格的な脳血管障害の大多数を捕捉することはできるが、軽症脳血管障害、潜伏性脳血管障害や一過性脳虚血発作は把握しきれない。患者の治療に関わる者がちゃんとカルテに記録しなかったり、記録されていたとしてもデータベースのコード登録担当者がその内容を正しく理解できなかったりするからである。

周術期脳血管障害が発生すると、その転帰はほとんどが絶望的である。内科領域における脳血管障害の死亡率は12.6%である。一方、周術期脳血管障害の死亡率は、一般外科の場合が26%で、脳血管障害の既往がある患者であれば87%にものぼる。重症脳血管障害による早期死亡の主な原因は、外科系病棟でそれと気づいて診断するのが遅れること、脳浮腫および頭蓋内圧亢進である。一方、晩期死亡の原因は誤嚥、肺炎、代謝異常、敗血症または心筋梗塞であることが多い。

脳血管障害の経過における複数の段階の病態生理に炎症が関わっていることが、多くの研究で明らかにされている。そして、脳以外の部位に炎症があると、脳血管障害が発生しやすくなったり転帰が悪化したりするということに注目が集まっている。これはおそらく、脳血管障害による病態生理的変化を炎症が増悪させるためである(table1)。手術によってSIRSが発生すると、虚血性脳傷害が引き起こされたり、悪化したりする可能性がある。敗血症に神経傷害を合併した動物モデルを用いた研究および臨床研究では、特に呼吸器感染や尿路感染が先行する場合には、そうでない場合と比べ神経脱落症状がより重症であることが示されている。術後の炎症反応には様々なインターロイキンが関与していることが分かっている。例えば、IL-1、IL-6およびTNF-αである。IL-6は術後のストレス反応における主役とも言うべきメディエイタである。周術期に急性虚血性脳血管障害が発生した患者では、IL-6血中濃度の最高値が、CT上の梗塞域および臨床転帰(3ヶ月の修正ランキンスケール)と有意に相関するという興味深い結果が発表されている。IL-6血中濃度の最高値が30pg/dL以上の場合、そうでない場合よりも12ヶ月後死亡率が高いことが分かっている。別の研究では、急性虚血性脳血管障害患者の入院時IL-6血中濃度が院内死亡率と相関することが報告されている。この研究ではIL-6が1単位増えると、急性虚血性脳血管障害症例の入院中の死亡リスクが18%上昇するとされている。

教訓 周術期ではない脳血管障害の死亡率は12.6%ですが、周術期脳血管障害の死亡率は、一般外科の場合が26%で、脳血管障害の既往がある患者であれば87%にものぼります。脳以外の部位に炎症があると、脳血管障害が発生しやすくなったり転帰が悪化したりするようです。

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心外・脳外以外の手術における周術期脳血管障害~はじめに [anesthesiology]

Perioperative Stroke in Noncardiac, Nonneurosurgical Surgery

Anesthesiology 2011年10月号より

脳血管障害は重症合併症の発生や死亡率上昇の重大な要因である。65歳以上の患者では脳血管障害の発生にとりわけ注意しなければならない。心臓、脳および頸動脈の手術における脳血管障害発生率は高いことが知られている(2.2-5.2%)。しかし、それ以外、つまり一般外科、泌尿器、整形、呼吸器および婦人科などの手術における周術期脳血管障害についての知見は極めて少ない。本稿は、心臓・脳・頸動脈以外の手術における周術期脳血管障害の発生頻度、病態生理、危険因子および転帰についての総説である。脳血管障害発生後の予定手術実施時期や、周術期脳血管障害発生率低下および転帰向上につながる方法についても紹介する。

定義

WHOの定義によると、脳血管障害とは「局所または全般性神経脱落症状が24時間以上継続するか、症状が出現してから24時間以内に死亡する」場合であるとされている。一過性脳虚血発作は、脳局所または眼の機能が急性に失われ症状が24時間以内におさまるものであり、塞栓または血栓が原因であると考えられる場合が多い。さらに、内科領域では以上二つに加えもう一つの型の脳血管障害、covert stroke(潜伏性脳血管障害)が最近注目を集めている。これは、拡散強調MRIなどの高度な神経学的画像診断を行わなければ検出できない無症候性の虚血性変化のことである。潜伏性脳血管障害は発症時に診断されることはほとんどないが、認知機能やQOLの悪化につながることが明らかにされている。心臓や頸動脈の手術症例を除いては、手術患者における潜伏性脳血管障害の発生頻度、影響および危険因子を評価した研究は現在までのところ行われていない。そこでこの総説では、周術期潜伏性脳血管障害(通常、術中もしくは術後30日以内に発症したものを指す)に特に力を入れて述べる。

教訓 心臓、脳および頸動脈の手術における脳血管障害発生率は2.2-5.2%であると報告されていますが、それ以外の手術の周術期脳血管障害発生率はあまりよく分かっていません。
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術中覚醒高リスク患者の術中覚醒を防ぐには~考察 [anesthesiology]

Prevention of Intraoperative Awareness in a High-Risk Surgical Population

NEJM 2011年8月18日号より

考察

BAG-RECALLと銘打ったこの研究では、術中覚醒リスクの高い患者において、BIS値を指標にした麻酔管理が呼気終末麻酔ガス濃度(ETAC)を指標にした麻酔管理よりも術中覚醒を防ぐ効果が高いわけではないことが示された。対象患者全体における術中覚醒発生率は予測よりも低く、いずれの指標を用いても術中覚醒を防ぐのに有効であると考えられた。ただし、ETAC群の方が術中覚醒症例が少なかったのは、当初の予測とは反対の結果である。術中覚醒発生率の差についての95%信頼区間の一方の信頼限界値は、BISモニタリングがETACを指標とする場合を0.03パーセンテージポイント上回る術中覚醒予防効果があることを意味している。これは、3333名の術中覚醒高リスク患者にBIS値を指標とした麻酔管理を行うと、術中覚醒を一例防ぐことができることに相当する(NNTが3333)。

BAG-RECALL試験は、B-Unaware試験の主な問題点を克服するために行われた。具体的には、BAG-RECALL試験はB-Unaware試験よりも規模が相当大きく、国の異なる三つの施設で行われ、術中覚醒の危険因子のうちマイナーなものは登録基準として用いなかった。B-Unaware試験および本研究で、術中覚醒症例(確実な症例+可能性症例)の発生について得られた知見は一致する。さらに、B-Unaware試験の結果と同じく、BAG-RECALL試験でもETACを指標とする麻酔管理を行っても、術後死亡率は上昇せず、麻酔薬の総投与量も増大しないことが分かった。

BAG-RECALL試験が示したいくつかの重要ポイントについては十分な検討が必要である。呼気終末麻酔ガス濃度モニタのアラームを0.7年齢調整MAC以下で鳴るように設定する方法は、術中覚醒予防に関する今後の研究において比較対照する方法の一つとして採用を考慮するに値する。本研究で実施したETACプロトコルについては手術症例全般で、さらに評価を行うべきである。BIS値が60未満であっても術中覚醒が発生した症例があったことを踏まえると、BIS値が60を下回るからというだけで麻酔薬濃度を低下させるようなやり方をすべきではない。また、危険因子の数や基礎疾患の数が増えるのに従って、術中覚醒のリスクも増大すると考えられる。そして、意識や麻酔についての理解が進んでいるとはいえ(引用文献:意識と麻酔全身麻酔と睡眠と昏睡)、麻酔薬による意識消失と健忘の機序が完全に解明され、麻酔深度の測定が正確にできるようにならない限りは、術中覚醒を起こす患者が発生するのはやむを得ないかもしれない。

BAG-RECALL試験は広い視野に立った研究ではあるものの、問題点も一つならずある。中でも最も重大な問題は、強力な吸入麻酔薬による全身麻酔を受けた術中覚醒リスクの高い患者を対象としてBISプロトコルとETACプロトコルを比較したことである。本研究で得られた結果を、対象患者の特性や麻酔法が異なる場合に当てはめるべきではない。第二の問題点は、脳波を使用したモニタはBISの他にもいくつか流通しているがそのうちの一つだけをETACと比較したことである。第三に、BISアラームとETACアラームのいずれか一方だけを使用する麻酔管理法よりも、両方とも利用する麻酔管理法の方が術中覚醒を防ぐ効果が高いかもしれない。第四に、いずれのプロトコルとも麻酔担当医がアラーム音に無頓着であったかどうかを知ることが難しい。誰だって、鳴るべきでないときにやたらとアラームが鳴ればなおさらのこと、アラームそのものを鬱陶しく思うものである。第五に、稀にしか発生しない事象を評価する場合、データに脱落があると結果に大きな影響がおよぶ可能性がある。本研究では術後の聞き取り調査を二回ともできなかった患者が少数存在したが、Figure 1に示したようにその大半は初回聞き取り調査より前の時点で死亡していた。問題点の最後に、無作為化割り当てを行ったものの、遺伝的に麻酔薬に耐性があるなどの現時点では未知の危険因子がBIS群とETAC群に不均一に分布していたかもしれず、そのことが交絡因子となった可能性があることを挙げておく。

BAG-RECALL試験では、BISプロトコルにはETACプロトコルを凌駕する術中覚醒予防効果はないことが明らかになった。ETACを指標とする麻酔プロトコルを導入するには、簡潔にまとめられた教育プログラム、呼気吸入麻酔ガス濃度の測定、ETACの閾値を知らせる音声アラームの常設および麻酔担当医が常に監視を怠らないように仕向けるためのチェックリストなどが必要であろう。手術安全チェックリストなどの誰にでも分かるように作成されたプロトコルがいくつか普及している。本研究で用いたETACプロトコルも、術中覚醒高リスク患者に対する吸入麻酔による全身麻酔の際に同じように適用できると思われる。

教訓 呼気終末麻酔ガス濃度(>0.7年齢調整MACを維持)と、BISの両方を用いる方が術中覚醒を予防する効果が高いかもしれません。BISが低いからといって吸入麻酔薬濃度を下げるやり方は、おすすめできません。
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術中覚醒高リスク患者の術中覚醒を防ぐには~結果 [anesthesiology]

Prevention of Intraoperative Awareness in a High-Risk Surgical Population

NEJM 2011年8月18日号より

結果

対象患者

2008年5月から2010年5月の25ヶ月間のあいだに、およそ49000名が本研究の対象候補として検討され、このうち6041名が登録された。計5809名が実際に本研究の対象となり、そのうち術後72時間以内および抜管30日後に設定された術後聞き取り調査のうち少なくとも一回が行われた5713名(98.3%)が主要転帰項目についての解析の対象となった(Fig. 1)。術後聞き取り調査が二回とも行われたのは計5413名(93.2%)であった。対象患者全員に、無作為割り当て通りのプロトコルに準じた治療が行われた。ETAC群の6名では、術中の一時期にBIS値を麻酔担当医が知り得た。対象患者の基準時点における特性と、保有する術中覚醒危険因子をTable 1にまとめた。

術中覚醒

全体で49名の患者が「眠りに落ちていった」時と手術終了の際に「目が覚めた」時のあいだの記憶があると答えた。術中記憶があると答えた患者が皆無であった研究実施施設はなかった。この症例を専門家が検討した結果、術中覚醒ありと判断されたのは9名(発生率0.16%; 95%信頼区間, 0.08-0.30)で、術中覚醒ありと術中覚醒の可能性ありの患者はあわせて27名(発生率0.47%; 95%信頼区間, 0.32-0.68)であった。当初の予想に反し、ETAC群の方がBIS群より術中覚醒症例が少なかった(つまり、対立仮説に反する結果が得られたということ)。ミシガン術中覚醒分類基準(Michigan Awareness Classification Instrument)に準じた術中覚醒症例の分類評価をTable 2に示した。BIS群とETAC群の術中覚醒症例発生頻度の比較をTable 3に示した。術中覚醒症例についての詳細なデータはNEJM.org上に掲載のSupplementary Appendixを参照のこと。

術中覚醒ありまたは術中覚醒の可能性ありのいずれかに該当する患者の特性と、術中覚醒なしと判断された患者の特性を比較したものをTable 4に示した。術中覚醒がなかった患者と比べ、術中覚醒があった患者では、該当する術中覚醒危険因子が中央値で一つ多く、基礎疾患の数が中央値で一つ多かった。術中覚醒ありであった患者9名のうち5名および術中覚醒の可能性ありの患者18名のうち6名は、BIS値が60を超えることがなかったか、ETACが0.7年齢調整MACを下回ることがなかった。全体では、麻酔維持中の中央値94.0%(四分位範囲93.6-100)の期間においてBIS値が60を下回り、ETACは中央値84.8%(四分位範囲67.2-95.3)の期間において0.7年齢調整MACを上回った。

鎮静薬、オピオイドおよび筋弛緩薬の使用量については両群のあいだに差はなかった。例えば、ミダゾラムはBIS群の80.8%、ETAC群の79.7%に投与された。麻酔維持中のETAC中央値は、ETAC群、BIS群ともに0.9年齢調整MAC(四分位範囲0.8-1.0)で、BIS値中央値は両群ともに41(四分位範囲38-45)であった。ETAC中央値は三か所の研究実施施設とも同等であった(シカゴ0.8年齢調整MAC、セントルイス0.9年齢調整MAC、ウィニペグ0.9年齢調整MAC)。BIS中央値についても同様で三施設とも同等であった(シカゴ43、セントルイス41、ウィニペグ43)。BIS群の30日死亡率は1.96%(2907名中57名が術後30日までに死亡)、ETAC群の30日死亡率は2.21%(2902名中64名が死亡)であった(差は0.24パーセンテージポイント;95%信頼区間 -0.50~0.99)。入院期間中央値およびICU滞在日数は両群共にそれぞれ7.0日、2.1日であった。

教訓 Table1の術中覚醒危険因子 予定開心術、大動脈狭窄症、肺高血圧症、オピオイド常用、ベンゾジアゼピン常用、抗痙攣薬常用、毎日飲酒する、ASA PS4、末期肺疾患、術中覚醒の既往、挿管困難の既往、挿管困難が予測される、EF<40%、運動耐容能がぎりぎり

術中覚醒が起こったことが確実な症例の発生率は、BIS群0.24%、ETAC群0.07%でした(有意差なし)。術中覚醒が起こった可能性がある症例の発生率は、BIS群0.66%、ETAC群0.28%でした(有意差なし)。
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術中覚醒高リスク患者の術中覚醒を防ぐには~方法 [anesthesiology]

Prevention of Intraoperative Awareness in a High-Risk Surgical Population

NEJM 2011年8月18日号より

方法

研究概要

この研究は三か所の医療施設で行われた。BAG-RECALL研究の実験プロトコルの詳細については先行する別の論文で紹介済みである。

対象患者

予定手術を受ける18歳以上の患者のうち、イソフルラン、セボフルランまたはデスフルランによる全身麻酔が予定され、術中覚醒のリスクが高い患者を対象とした。術中覚醒リスクの基準は、過去の研究、総説およびガイドラインに準拠して決めた。危険因子が一つでもある場合を、術中覚醒リスクが高いと判断した(Table 1)。認知症、同意書の記入ができない、脳卒中の既往があり神経学的後遺症がある、のいずれかに該当する場合は除外した。

研究デザイン

本研究は前向き研究で、対象患者は無作為にBIS群またはETAC( end-tidal anesthetic-agent concentration)群に割り当てられた。麻酔担当医は患者がどちらの群に割り当てられたかを分かった上で麻酔を実施したが、術後に患者から聞き取りをした調査員、調査内容を検討した専門家および統計担当者は割り当て群を関知しなかった。

手順

対象患者全員の前額部にBIS Quatro(Coviden)のセンサを装着した。ETAC群に使用したBISモニタはBIS値が表示されないように細工し、麻酔担当医はBIS値を知り得なかった。両群とも、呼気終末麻酔ガス濃度の値を監視することができるようにした。BIS群およびETAC群両方のプロトコル内容を教育およびプロトコル遵守度向上の目的で麻酔担当医に知らせた。

BIS群ではBISが60を超えるか40を下回るとアラームが鳴るように設定した。BIS群ではETACについてはアラーム設定は行わず、特定の範囲内にETACを維持するようにとの指示は一切与えなかった。ETAC群ではETACが年齢調整MACの0.7を下回るか1.3を超えるとアラームが鳴るように設定した。ETAC群でアラーム設定が不可能な際は、吸気麻酔ガス濃度についてのアラームを設定した。人工心肺中は麻酔ガス濃度は人工心肺回路の送血側で測定した。BIS値またはETACのいずれかを監視することを忘れないようにし、患者が覚醒していないか常に注意を促すため、麻酔器にその旨記した標識を貼り付けた。BIS群、ETAC群とも、いずれのプロトコルも麻酔薬の使用量を減らすことを意図して作成されたものではない。例えば、患者の循環動態が不安定であれば麻酔薬の投与量を麻酔担当医の判断で減らしてもよいこととした。この行為そのものは術中覚醒の危険性を増大するが、本研究のプロトコルでは禁じなかった。BIS値とETACは1分以下の間隔で記録した。記録方法は、MetaVision(iMDsoft)を用いた電子麻酔記録、マクロソフト社のエクセルへのデータ転送またはTrendFace Solo(ixellence)を用いたデータ転送のいずれかである。コンピュータデータまたは電子麻酔記録が不十分であった少数例では、代替データ源として手書き麻酔器録およびモニタトレンドのデジタル写真を用いた。

術中覚醒の評価には、修正Brice質問票を用いた。術後72時間以内と抜管30日後の二回にわたって評価を行った。いずれかの聞き取り調査の際に「眠りに落ちていった」時と「目が覚めた」時のあいだの記憶があると答えた患者には、別の評価者が面接し、質問項目や順序が詳しく決められた聞き取り調査を追加実施した。術中記憶があると答えた患者全員に、心理学者への紹介が可能であることを伝えた。全患者の調査が終了した後に、術中記憶があると答えた患者に対する聞き取り調査の内容を三人の専門家が別々に検討し、術中覚醒あり、術中覚醒の可能性あり、術中覚醒なしの三つのうちいずれに該当するかを判断した。術中覚醒ありまたは術中覚醒の可能性ありの症例については、ミシガン術中覚醒分類基準(Michigan Awareness Classification Instrument)の該当するカテゴリーに分類した。この過程に関わった三人の専門家は、Michigan Awareness Control Study(NCT00689091)の術中覚醒症例の検討にも関わった。三人の専門家のあいだで意見が別れた場合は、ASAの術中覚醒登録システム(Anesthesia Awareness Registry)で術中覚醒症例の検討を担当している三人とは別の専門家が最終判断を下した。

統計解析

主要転帰項目は、BIS群およびETAC群における術中覚醒の発生率である。術中覚醒高リスク患者における術中覚醒の予測発生率は、B-Aware試験およびB-Unaware試験の結果を参考にして算出した。術中覚醒を防ぐ上で、BISプロトコルはETACプロトコルを上回る効果は得られない、ということを帰無仮説とした。BISプロトコルは術中覚醒を防ぐ上でETACプロトコルより優れているというのを、対立仮説として設定した。BISプロトコルの方がETACプロトコルより術中覚醒発生率が0.4パーセンテージポイント低いこと(ETAC群で0.5%の術中覚醒発生率が、BIS群で0.1%に低下)を検出力87%で明らかにするには6000名の患者が必要であると見積もった。二次解析として予め計画したのは、BS群の方がETAC群より術中覚醒ありの症例と術中覚醒の可能性ありの症例をあわせた発生率が低いかどうかの検討である。

教訓 BIS群はBIS40~60を目標値とし、ETAC群はETACが0.7~1.3年齢調整MACになるように麻酔管理を行いました。ETAC群ではBIS値は分からないようにしました。
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術中覚醒高リスク患者の術中覚醒を防ぐには~はじめに [anesthesiology]

Prevention of Intraoperative Awareness in a High-Risk Surgical Population

NEJM 2011年8月18日号より

意図的にもたらしたのではない偶発的術中覚醒とは、術中に知覚体験があり、それを生々しい記憶として想起できることを指す。術中覚醒症例のうち実に70%がPTSDを発症するとの報告もある。術中覚醒のリスクが高い患者群では、術中覚醒の発生頻度は1%に迫るとされている。米国だけでも年間2万人から4万人が術中覚醒を経験すると推定されている。術中覚醒の中には、麻酔薬の投与量不足が原因の症例もある。つまり、回避可能な医療過誤も含まれているというわけである。

全身麻酔ではたいていの場合、強力な麻酔作用を持つ吸入麻酔薬が用いられ、呼気麻酔ガス濃度が測定される。最小肺胞濃度(MAC)とは、被験者の50%において外科的侵襲を加えても体動が見られない時の肺胞内麻酔薬濃度である。呼気終末麻酔薬濃度(ETAC; end-tidal anesthetic-agent concentration)が0.33MACであると、被験者の半分は口頭命令に正しく従うことができない。術中のETACを0.7MAC以上に維持すると術中覚醒の発生頻度を低下させることができると考えられている。

麻酔深度モニタとなる可能性を秘めた、脳波データを利用した器械がいくつか開発されてきたが、その目的の一つは術中覚醒の予防である。現在最も普及しているのはBIS(bispectral index)モニタ(Coviden)である。この器械は特許保護された独自開発のアルゴリズムで単一の前頭脳波信号を処理し無次元数を算出する。得られた無次元数は患者の意識レベルをあらわす。BIS値がゼロであれば脳の電気的活動が検出可能レベル以下であり、100であれば完全に覚醒していることを示す。術中覚醒を防ぎ、かつ麻酔薬の投与量を必要最小限に抑えるには、BIS値を40~60にするとよいとされている。

プロトコルに則った簡便ではあるが厳格な対策を講ずることによって、周術期合併症および死亡を減らすことができることが示されている。きっちり構成されたプロトコルに情報技術を取り入れて臨床上の意思決定に便利なようにすると、医療の安全性が向上し医療過誤を抑止することができると考えられている。新しい技術を導入するには、第一に臨床的便益があることが決定的に示され、第二に費用対効果の面からも問題がないことが証明されなければならない。

B-Aware試験は2500名の患者を対象として行われ、従来の標準的な麻酔法と比べ、BISプロトコルに基づいて麻酔薬を投与する方法を実施すると、術中覚醒リスクの高い患者群における術中覚醒発生率が0.74パーセンテージポイント減少することが明らかになった(95%信頼区間, 0.14~1.40)。一方、B-Unaware試験(NCT00281489)では、ETACを指標として麻酔薬を投与するプロトコルとBISプロトコルとのあいだに術中覚醒の発生率の差はないことが分かった(95%信頼区間, -0.56~0.57)。さらにB-Unaware試験では、BISプロトコルを実施しても麻酔薬投与量は減少せず、術後死亡率も低下しないことが明らかにされた。B-Unaware試験では、いずれのプロトコルが行われた群においても、術中覚醒リスクの高い患者の術中覚醒発生率は予測より低かった(両プロトコルとも0.2% vs 予測値1.0%)。しかし、B-Unaware試験は重大な問題点をはらんでいる。中でも一番に特記すべきことは、対象患者数が1941名にとどまっており、術中覚醒発生率低下の信頼区間が広く、BISモニタリングによってもたらされる臨床的には有意な効果(術中覚醒発生率0.56パーセンテージポイント低下)がないと言い切れるわけではないことである。さらに、単一施設研究であるという問題もある。そこで我々は所在する国の異なる三つの施設においてBIS or Anesthetic Gas to Reduce Explicit Recall試験(BAG-RECALL; はっきりした術中記憶想起を防ぐにはBISか麻酔ガスモニタか?)という研究を行い、術中覚醒高リスク患者群における術中覚醒発生率を低下させるのにBISプロトコルとETACプロトコルのいずれが優れているかを検討した。

教訓 このBAG-RECALL研究では、BISと呼気終末麻酔ガス濃度のどちらが術中覚醒を防ぐのに有用な指標であるかを検証しました。
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