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仕事納め2011 [misc]

いつもご愛読いただき、ありがとうございます。多くの方のご訪問のおかげで、休みながらも本ブログは命脈を保っています。そして私の属する麻酔科は、この一年も大過なく麻酔と集中治療の責務を皆で果たすことができました。天佑のたまものです。小成に安んずることなく、来る2012年もさらなる進化と向上を目指し、何事にも積極一貫で取り組もうと思います。

平成二十三年が終わります。我が国にとって実に多事多難な一年でした。オリンパス社の粉飾決算問題について第三者委員会がまとめた報告書には同社が「悪い意味でのサラリーマン根性の集大成」の腐った状態であったと記されていると報じられています。「サラリーマン根性」は元来悪い意味の言葉であるはずなので、「悪い意味での」という表現が奇妙に感じられます。屋上屋を架しているような印象です。サラリーマンを侮辱/差別しているという批判が生ずるのを顧慮して、機先を制するためにとってつけたように「悪い意味での」という形容を冠したのではないかと感じられます。そういうせせこましさがまさにサラリーマン根性なんだよ!と意地悪を言いたくなりますが、それはともかく、サラリーマン根性の集大成で腐った状態なのはオリンパス社だけにとどまらないような気がします。あの報告書は、図らずも日本全体に向けられた痛烈な批判なのかもしれません。

神明は唯平素の鍛練に力め、戦はずして既に勝てる者に勝利の栄冠を授くると同時に、一勝に満足して治平に安ずる者より直に之を奪ふ。
古人曰く、勝って兜の緒を締めよと。      
連合艦隊解散の辞より

皆さん、清々しく健やかな新年をお迎えください。ごきげんよう。

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ICUの毒性学~毒蛇③ [critical care]

Toxicology in the ICU: Part 3: Natural Toxins

CHEST 2011年11月号より

患肢の浮腫とコンパートメント症候群を臨床的に鑑別することは不可能である。なぜなら、ヘビ咬傷によって、強烈な自発痛と圧痛があったり、指であれば緊満して感覚異常や感覚低下を来していたり、動脈の拍動を触知することが困難であったりするからである。とは言え、北米に棲息するマムシ属の毒蛇による咬傷後に本物のコンパートメント症候群が起こることは非常にまれである。コンパートメント圧を測定して高い値であることを確認することなしに筋膜切開を行ってはならない。コンパートメント圧が30mmHgを超える中等度上昇を示していたとしても、抗毒素の追加投与と患肢挙上で対処し、二、三時間以内に再評価を行うべきであるとする専門家もいる。このようにして数時間でコンパートメント圧が低下しないならば、筋膜切開を実施する。我々は、筋膜切開の是非を検討する際には中毒専門家に助言を求めることを推奨する。

毒蛇咬傷後、数日間は出血性水疱が大きくなる。疼痛緩和と水疱下組織の状態評価のため、デブリドメントを行う。壊死がひどければ、手術室でさらに広範囲にデブリドメントを行ったり、その結果皮膚移植が必要になったり、場合によっては四肢切断が必要になるかもしれないため、外科医にコンサルトする。抗毒素を迅速に投与しても組織壊死を防いだり、指の切断を免れたりする効果は期待できないことを受診当初から患者に説明しておくことが重要である。
他にも、亜急性期には再燃という問題が浮上する。CroFab投与から36時間後までは、患肢の腫脹が進行することがある。患肢を挙上していないとこういうことが起こりうるが、挙上していても腫脹がひどくなる場合は抗毒素の追加投与が必要なこともある。遅発性血液毒性(治療開始時には認められなかった重度の血小板減少症および凝固能低下が、数日後になって現れる)は稀ではなく、深刻な顛末になる可能性がある。このため、CroFab投与例では全例で血小板数とフィブリノゲン濃度を抗毒素投与から2~4日目までは連日、5~7日目にもう一回測定しなければならない。退院にあたって、出血の有無を確認し、アスピリン・NSAIDs・抗血小板薬・抗凝固薬の服用を避け、毒蛇咬傷から少なくとも2週間は手術や歯科治療をうけないこと、といった指導を行う。遅発性または再燃性血液毒性があらわれた場合は、たくさんの要素を勘案して治療方針を決定しなければならないため、中毒専門家の助言を求める。抗毒素投与から3週間後までは血清病が起こる危険性があるため患者にその旨伝えることを忘れないようにする。もし血清病が発症したら副腎皮質ステロイドと抗ヒスタミン薬を投与する。

サンゴヘビ咬傷はマムシ属咬傷とは異なり、神経毒性だけしか発現しない。サンゴヘビの毒には細胞毒性や血液毒性がないため、咬傷部位局所にはこれといった影響はあらわれず、血液検査にも異常は見られない。サンゴヘビ(ソノラサンゴヘビを除く)に咬まれたといって病院へ来た患者については、観察を24時間後まで続ける。サンゴヘビに咬まれても、噛み傷は必ずしも視認できないし、神経毒性による症状(感覚異常、眼瞼下垂、筋力低下、呼吸不全など)は時間が経ってから発現するかもしれないからである。対症療法を行い、複視や構音障害などの神経毒性症状が見られれば気管挿管し人工呼吸を開始する。横紋筋融解症の除外診断も行わなければならない。北米サンゴヘビ抗毒素(Pfizer)はすでに生産中止となっており、在庫も残り少ない。もしこの抗毒素を入手することができれば、神経毒性による症状が認められたらただちに4バイアルを投与する。これによって病態の悪化を防ぐことができる。

毒蛇咬傷の管理方針は、ヘビの種類、そのヘビが持っている毒に特有の作用、有効な抗毒素の入手可能性など、さまざまな要素によって左右される。ヘビによる咬傷を診療する際には、全例で必ず中毒センターに連絡し専門家に相談しなければならない。

教訓 ニホンマムシは臆病です。近寄らなければ咬まれることはほとんどありません。マムシの毒は出血毒です。ハブも出血毒を持ちます。マムシ毒の方が毒性は強いのですが、ハブは非常に攻撃性が強く、咬むとたくさんの毒を注入するためおそれられています。
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ICUの毒性学~毒蛇② [critical care]

Toxicology in the ICU: Part 3: Natural Toxins

CHEST 2011年11月号より

血液毒性はガラガラヘビ咬傷によって発生する頻度が最も高いが、他のマムシ属の蛇による咬傷でも起こりうる。初回の検査では、血算、フィブリノゲンおよびプロトロンビン時間を必ず測定する。全身状態が不安定な場合は、電解質、腎機能およびCKについても検査する。またたく間に血小板減少症、低フィブリノゲン血症および凝固能障害に陥ることがある。これらが重症化することはあっても、DICになることは稀である。蛇毒に含まれるトロンビン様酵素の作用のせいでフィブリノゲンからフィブリンが生成される過程がうまく行われなくなり、しっかりしたフィブリン塊が形成されず血液が凝固しなくなってしまうからである。初回検査の所見と理学的所見が正常であれば、「無毒咬傷(dry bite)」といって毒蛇に咬まれたものの毒は体内に注入されていない状況である可能性がある。そのような場合は、血液検査を6時間後に再度行い、その間も咬傷部位の腫脹がないかどうかを観察する。軽度の腫脹が見られるだけで他に所見がない場合であっても、12-24時間後まで観察を継続し症状や徴候の増悪を警戒しなければならない。

全身状態が不安定な患者には抗毒素を投与する。全身状態が安定している場合は、咬傷部位の腫脹悪化、血液毒性または全身毒性の出現のいずれかが認められれば抗毒素を使用する。ヒツジ由来マムシ多価免疫Fab(CroFab)は、ガラガラヘビなどのマムシ属の毒蛇による咬傷で毒を注入された場合の抗毒素として米国内で唯一入手可能な製剤である。適応があれば、可能な限り速やかにCroFabを投与する。早い時点で投与すれば腫脹が進行するのを食い止め、血液毒性による異常を正常化させることができる可能性がある。投与量の決め方は複雑で、その件を詳述することは本稿の主旨を外れるため割愛するが、治療アルゴリズムが公開されているためそれを参考に投与量を決めればよい。一般的には、全身状態が安定している患者では4~6バイアル、不安定な患者では8~12バイアルを用いる。小児だからといって投与量を調節する必要はない。妊婦は蛇咬傷で死亡するリスクが高いと言われており、流産のリスクも上昇する。したがって、CroFabが薬剤胎児危険度分類でカテゴリーC(動物実験においては、胎児に対する危険性が発見されているが妊婦における臨床検査がなされていないもの。もしくは、動物実験も妊婦における臨床検査も行われていないもの。有益性が胎児に対する危険性を上まわったときだけに処方されるべきである。)に該当するからといって投与するのを躊躇してはならない。CroFabに対する急性過敏反応は5.4%の症例において発生すると報告されている。過敏反応の発生に備えて注意が必要である。大半の過敏反応は投与速度が速すぎることが災いしている。抗ヒスタミン薬を投与し症状が軽快すれば、はじめより遅い速度で再開してCroFabの投与を完了することができる。

蛇毒による重症の血小板減少症や凝固能低下を来している患者では、咬傷部位から少量の出血が続くことがある。検査所見にこういった異常が認められても血液製剤を投与する必要はない。重篤な出血があり血液製剤を使用する際には、抗毒素も合わせて投与することが必須である。マムシ属のヘビ咬傷では、血小板数、フィブリノゲン濃度またはプロトロンビン時間が低下しているだけならば血液製剤を使用する適応とはならない。

教訓 日本ではCroFabは入手できないため、「乾燥まむし抗毒素」を使用します。乾燥まむし抗毒素は咬まれてから概ね4時間以内に投与しなければなりません。CroFabの方が安全な製剤です。
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ICUの毒性学~毒蛇① [critical care]

Toxicology in the ICU: Part 3: Natural Toxins

CHEST 2011年11月号より

北米に棲息する蛇

毒蛇に噛まれて救急部へ運び込まれる患者は年間5000人にも迫る勢いであり、そのうち多くがICUに入室する。毒蛇の被害は南部や田園地域に多いものの、どんな都会や州でも起こりうる。毒蛇が愛玩動物として飼われていることがその一因である。

北米における毒蛇咬傷は、ガラガラヘビ、アメリカマムシ(copperhead)やヌママムシ(cottonmouth)などのマムシ科の蛇と偶然遭遇して咬まれる例が大半を占める。マムシ属の蛇による咬傷のおよそ半数および米国に棲息する毒蛇による死亡例の大多数が、ガラガラヘビによるものである。サンゴヘビ(coral snake、コブラ科)および、米国原産ではない毒蛇による咬傷は全体の5%未満を占めるに過ぎない。

マムシ属の蛇による咬傷の約25%では毒は注入されない。残りの75%では毒が注入される。通常は皮下に毒が広がる。臨床所見の程度は軽症から重症まで幅広く、局所症状のみですぐ軽快する場合もあれば、直ちに全身毒性が発現し死亡に至る場合もある。重症度は注入された毒の強さと量によって決まる。蛇毒には、細胞毒性、血液毒性、神経毒性and/or筋毒性のあるタンパクが含まれている。米国に棲息する毒蛇が持つ毒が含む成分のうち組織を破壊したり、血管透過性を亢進させ浮腫を来したり、血小板やフィブリノゲンの機能を阻害したり、アナフィラキシー反応を引き起こしたり、神経毒性を発現したりするものが臨床的に問題になる。

毒蛇に咬まれると、通常数分から二、三時間のうちに浮腫と疼痛が出現する。もっと時間が経ってから症状が出ることもあり、特に下肢を咬まれた場合は症状発現までの時間が長いことがある。咬傷は目で見て確認することができ、数時間以内に出血性の水疱を形成し、数日かけて進行する。蛇毒はリンパ管に吸収されるため、浮腫は拡大し、近位リンパ節の圧痛が生ずる。頻脈、嘔吐、感覚異常、筋線維束攣縮、下痢、低血圧などが見られることもある。こういった症状のなかには不安感のせいで生ずるものもあるが、早い段階で全身症状が出現する場合は重症例であるかもしれないため気を引き締めなければならない。重症例は、アナフィラキシー様反応をいつ起こしてもおかしくない。咬傷直後に起こすこともある。この場合、口腔・咽頭の血管性浮腫があらわれたり、ショックに陥ったりする危険性がある。蛇毒タンパクに対するIgE抗体をもともと持っている患者では、ほんもののアナフィラキシー反応が起こりうる。神経毒性による症状は筋線維束攣縮や感覚異常程度で済む場合が多いが、モハベガラガラヘビに咬まれると眼瞼下垂、筋力低下および呼吸不全が出現することがある。非常に稀ではあるが、致死的な出血を来すこともある。ほんもののDICが起こることはほとんどないが、蛇毒が血管内に直接注入されてDICが発生した例が報告されている。

毒蛇咬傷は全例入院させなければならない。咬まれた部位に腫脹が見られない場合は少なくとも8時間は観察を続ける。時間が経ってから腫脹が出現する例の中にも重症例があるので注意する。腫脹の有無に関わらず下肢を蛇に咬まれた小児は全例を病院に一泊させ観察することにしている専門家もいる。圧迫包帯の使用は推奨されない。もし搬送前に圧迫包帯が巻かれていたら、病院到着後直ちに除去する。予防的抗菌薬投与の適応はない。咬まれた患肢は動かないように、ほぼ完全な伸展位で背側シーネ固定する。こうすることによって、関節が屈曲することによって浮腫や痛みが増強するのを避けることができる。患肢はできる限り高く挙上しておく。重力によって浮腫がひどくなるのを防ぐためである。咬傷部位とその周辺は、こまめに(少なくとも30-60分おきに)観察し腫脹が進行していないかどうかを評価する。

全例で輸液負荷を行い、過去のワクチン接種履歴を確認した上で必要であれば破傷風ワクチンを追加接種する。蛇毒によって血管透過性が亢進するため、血液濃縮および血管内容量低下が見られることが多い。低血圧を是正するのに大量の晶質液を投与しなければならないこともある。輸液負荷を行っても血圧がすぐには上がらない場合は、アドレナリンの持続静注を開始する。アナフィラキシー様反応により血管性浮腫を来していたり、頭頸部咬傷であったりする場合は、顔、舌または気道の腫脹が少しでも認められれば気管挿管を行わなければならない。アレルギー反応に対しては、副腎皮質ステロイド、抗ヒスタミン薬およびアドレナリンを使用する。

教訓 ガラガラヘビはマムシの仲間です。マムシに咬まれた例のうち、25%は毒を注入されないで済みます。マムシ咬傷例は全例入院させます。
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ICUの毒性学~はち [critical care]

Toxicology in the ICU: Part 3: Natural Toxins

CHEST 2011年11月号より

ミツバチとスズメバチ

ミツバチやスズメバチに刺されると重いアレルギー反応があらわれることがあるが、数百か所を一度に刺されない限り中毒になることはない。刺される場所は頭頸部が多く、口腔内を刺されることも珍しくない。ミツバチの針には返し棘がある。刺すとこの返し棘のせいで針が抜けなくなるので、無理に抜くと内臓ごと引っこ抜けてしまってミツバチは死んでしまう。つまりミツバチは一回しか刺すことができない。一方、スズメバチは何度でも刺すことができる。ミツバチもスズメバチも同じような毒を持っていて、同じような症候を引き起こす。主な成分はメリチンとフォスフォリパーゼA2で、アレルゲンになるのは主としてフォスフォリパーゼA2である。

即時性のアナフィラキシー反応を除けば、刺されたとしても大半は局所の発赤、掻痒、浮腫および疼痛といった皮膚症状のみでおさまる。たくさんのハチに刺されたときには嘔吐、下痢、発熱、筋肉痛などの全身症状があらわれる。間質へ体内水分が移動し浮腫ができ、低血圧やショックに陥ることもある。凝固能低下、高トランスアミナーゼ血症、横紋筋融解症、溶血が刺されて数時間以内に発生しうる。一度にたくさんのハチに刺された場合の臨床症状はIgEの関与するアナフィラキシー反応に類似している。しかし、アナフィラキシー反応と異なり、ハチに刺された場合は遅延性中毒症状が24時間後までに起こる。

治療は対症療法である。輸液、副腎皮質ステロイドの全身投与、抗ヒスタミン薬および鎮痛薬を投与する。針が残っている場合は抜いてもよいが、初期治療においては必ずしも抜く必要はない。針を早く抜いたからといって転帰が変わるわけではないからである。全身症状が見られる、重篤な基礎疾患がある、成人では50か所以上小児では2か所/kg以上を刺された、のいずれかに該当する場合は全例入院させて管理する。電解質およびCKの測定、腎機能検査、凝固能検査、および心電図検査をはじめの24時間は繰り返し行って厳重に観察しなければならない。重症例では心筋逸脱酵素の測定も行う。全身症状が出現している場合は、抗ヒスタミン薬と副腎皮質ステロイドを静脈内投与する。

教訓 米国ではミツバチ類の刺傷による死者の方が毒ヘビ咬傷による死者よりも3〜4倍多いそうです。 

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ICUの毒性学~くも [critical care]

Toxicology in the ICU: Part 3: Natural Toxins

CHEST 2011年11月号より

蜘蛛

世界には約42000種の蜘蛛が存在している。米国で発生するクモ刺咬傷の大多数は無害である。というのも米国に棲息する蜘蛛は、刺針が短かったり、毒の量が少なかったり、ヒトに生理学的作用を起こすような毒を持っていなかったりするためである。クモ刺咬傷の確定診断には、クモに刺される場面が目撃されていて、そのクモの種類を正しく突き止めた上、それが引き起こす諸症候が目の前の臨床所見と合致する必要がある。

ドクイトグモ(Brown Recluse、学名Loxosceles reclusa)
ドクイトグモは茶色く小さい蜘蛛で、通常は夜行性である。この蜘蛛が刺すのは自分の身を守るためである。イトグモ属の蜘蛛の生息地域をFigure 1に示した(カンザス、オクラホマ、テキサス、ネブラスカ、ニューメキシコ、ミズーリ、アーカンソー、ルイジアナ、ミシシッピ、アラバマ、テネシー、ケンタッキー、イリノイ、アイオワ、インディアナ、オハイオ、ジョージア、ノースキャロライナ、サウスキャロライナ、フロリダ)。この蜘蛛の持っている毒の主成分は、ヒアルロニダーゼとスフィンゴミエリナーゼDである。これらの成分によって、プロスタグランディンの放出、補体の活性化、血小板凝集および好中球走化性の亢進が起こる。創部の毒をELISAで検出する方法が研究されているが、これは手軽に実施できる検査法ではない。

ドクイトグモによる刺咬傷は大半が自然に軽快するが、局所の発赤で済む場合もあれば大きな潰瘍を形成することもあり臨床所見は様々である。刺されてから数時間以内に鋭い灼熱痛が出現しはじめる。皮膚病変は数日間かけて進行する。中心が出血し、その部分が徐々に壊死し潰瘍を形成する。最終的には痂皮ができるが破れることもあり、治癒するまでに数週間を要する。壊死形成後に早めに外科的治療を行っても転帰は改善しないようである。ドクイトグモ刺咬傷による皮膚全身症候群は全体の1%未満でしか発生しない。その特徴は、関節痛、発熱、嘔吐/下痢、横紋筋融解症および溶血である。稀ではあるが心血管系虚脱および溶血の結果死に至ることもある。

治療は保存的に行う。他の病態(皮膚感染症、肉芽腫性疾患、自己免疫疾患による皮膚病変など)をドクイトグモ刺咬傷と誤診しないことが重要である。そして、節足動物の刺咬傷やその他の原因でも壊死性皮膚病変が生ずることがあり、壊死性皮膚病変すなわちドクイトグモ刺咬傷ではないことに留意しなければならない。実際、壊死性皮膚病変を来した症例のうち節足動物の刺咬傷によるものと誤診されている例は少なくない。ドクイトグモ以外に壊死性皮膚病変を来すクモの例として、太平洋岸北西部に棲息するタナグモの一種hobo spider(Tegenaria agrestis)を挙げておく。

基本的には対症療法を行い、早期の外科的切除は禁忌である。ただし美容上の問題があれば、後日デブリをしたり皮膚移植を行ったりすることもある。あまり間を置かずしっかり外来でフォローし、傷の状態を評価しなければならない。ダプソン、副腎皮質ステロイド、予防的抗菌薬、高気圧酸素、血管拡張薬、コルヒチンおよび抗ヒスタミン薬には、有効性を裏付けるデータはなく、適応はない。

クロゴケグモ(Black Widow、学名Latrodectus mactans)
ゴケグモにはたくさんの種類があり世界中に棲息しているが、北米で臨床上最も問題とされるのはクロゴケグモである(注;日本ではセアカゴケグモが有名)。ゴケグモの持つのはαラトロトキシンという毒であり、この毒はアセチルコリンやノルアドレナリンなどの色々な神経伝達物質の放出を引き起こす(注;毒を持つのはメスのみ)。

刺されると普通は痛みを感じる。「標的」に似た刺し傷は、ゴケグモに刺されたことを示すかなり信頼性の高い所見である。ゴケグモの刺し傷は、中心部位は蒼白で、その周囲を赤い輪が取り囲み、あたかもダーツの標的のような形状を呈するのが特徴である。クロゴケグモ刺咬傷の25%では、刺されてから2時間以内にラトロトキシンによる全身症状を示す。ラトロトキシン中毒の症状は、激しい疼痛と、背部、腹部および筋攣縮である。筋攣縮には波がある。高血圧、頻脈および発汗が見られることも多い。筋攣縮と発汗は全身に出現することもあれば、刺された部分に限局することもある。その他、発熱、持続勃起症、感覚異常、筋繊維束攣縮、興奮などが出現しうる。急性心筋症に陥り肺水腫を伴った例も報告されている。ラトロトキシンによる死亡例は、米国の中毒センターには数十年来報告されていない。

治療は対症療法で、オピオイドとベンゾジアゼピンを患者の状態にあわせて投与する。グルコン酸カルシウムは無効であり推奨されない。抗毒素(IgG抗体)もあるが、即時性または遅延性(血清病)のアレルギー反応が起こることがある。抗毒素を使用する場合は、中毒の専門家に相談すべきである。

教訓 タランチュラには毒はありませんが、興奮すると針状の毛を飛ばします。この毛に感作してアレルギー反応が出現することがあります。セアカゴケグモは侵略的外来種ワースト100の一つです。本州、四国、九州、沖縄で確認されています。
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ICUの毒性学~さそり [critical care]

Toxicology in the ICU: Part 3: Natural Toxins

CHEST 2011年11月号より

バークスコーピオン(Bark Scorpion、学名Centruroides sculpturatus)

北米に棲息するサソリのうちヒトに全身毒性を引き起こす毒を持つのはCentruroides sculpturatusだけである。このサソリの毒は、ナトリウムチャネルの不活化を阻害し連続する軸索発火を引き起こす神経毒である。この毒によるコリン作動性作用、アドレナリン作動性作用および神経筋遮断作用がもたらす臨床所見は、その程度によって4段階に分類されている(Table 3)。

バークスコーピオンに刺されると、その部位にただちに灼けるような痛みと感覚異常が生ずる。重症例では脳神経障害(眼球クローヌス、舌の線維束性攣縮、流涎、手足をばたばた動かす、咽頭筋の制御障害など)が見られる。嘔吐はたいていの場合自然におさまるが、誤嚥や口腔内分泌物の嚥下障害が生ずることもある。

治療の基本は対症療法である。軽症の場合は、大半が痛み止めのみで済む。重症例では、短時間作用性オピオイドの静脈内投与(フェンタニル1-2mcg/kgなど)や鎮静薬(ミダゾラム0.01-0.05mg/kgなど)が有効であるとされている。唾液分泌が多く流涎が見られる場合にはアトロピンを使用すると唾液を減らせる。しかし、流涎はあらわれたとしても一時的なものなので、アトロピンを繰り返し投与しても無駄である可能性が高く、かえって抗コリン薬中毒が発生する危険性が生ずる。対症療法の進歩により、バークスコーピオンの毒で死亡することはほとんどない。だが、呼吸不全が起こって死ぬ可能性がないわけではない。流涎と咽頭運動障害を呈する小児では気道が確保されていないとやばいことになる。そのような場合には気管挿管をしなければならないこともある。現在、米国とメキシコでは多価サソリF(ab')2抗毒素が使用され、有効性が確認されている。抗毒素がない場合は、重篤な症状は刺されてから24時間ほど続く。

教訓
バークスコーピオンは、アリゾナ州、ニューメキシコ州、コロラド川のカリフォルニア側に棲息しています。抗毒素は米国ではアリゾナ州のみで入手可能です。
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ICUの毒性学~鉄 [critical care]

Toxicology in the ICU: Part 3: Natural Toxins

CHEST 2011年11月号より



容器包装に係わる法律が整備されたことによって子供が鉄を誤飲する事故は減っているが、成人でも小児でも急性鉄中毒は依然として決して稀ではない。鉄はいろいろな形態で存在する。その代表が、フマル酸第一鉄、硫酸第一鉄、グルコン酸第一鉄といった鉄塩である。こういった第一鉄塩には、鉄元素がそれぞれ33%、20%、12%含まれている。急性鉄中毒が発症するか否かは、摂取した鉄元素の量によって決まる。摂取量が60mg/kg未満の場合は、命に関わるような重篤な中毒が発症する可能性は低い。ただし、問診から推定される摂取量は不正確であることが多い。

単回摂取の場合、鉄は受容体依存性および受容体非依存性の二つのプロセスを経て吸収される。鉄中毒は典型的には4段階に分けられる。第一段階は摂取から6時間以内に発生し、その症状は嘔吐、下痢および腹痛である。第二段階では胃腸症状がおさまり一見治って凪いだような状態になる。だが、無症状であっても代謝性アシドーシスは進行する。第三段階では、多臓器不全に陥る。第三段階を乗り切った患者は第四段階に至り、腸閉塞または幽門閉塞が起きる。

治療開始の是非を決定する際には、必ずしも血清鉄濃度だけを指標とするのではなく、臨床所見および代謝異常の程度に基づいて判断する。治療は、晶質液の大量投与からはじめる。頻回の嘔吐や下痢、中枢抑制、代謝性アシドーシスまたは低血圧などの症状が著しい症例では、メシル酸デフェロキサミンを静注してキレート化する。全腸管洗浄を実施した場合の転帰についてのデータは報告されていないが、大量に鉄を摂取した場合には考慮してもよいであろう。

教訓 鉄は60mg/kgまでの摂取であれば命が危ぶまれるような中毒にはなりません。鉄のキレート剤として標準的に用いられてきたのはメシル酸デフェロキサミン(デスフェラールⓇ)です。最近、新しい鉄キレート剤としてデフェラシロックス(ExjadeエクジェイドⓇ)が登場し、輸血による鉄過剰症に用いられています。デスフェラールは静注しなければなりませんが、エクジェイドは経口製剤です。
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ICUの毒性学~鉛 [critical care]

Toxicology in the ICU: Part 3: Natural Toxins

CHEST 2011年11月号より



鉛中毒の発生数は全体としては減っているが、米国でも世界中でも依然として重大な健康上の問題である。大半の鉛中毒は、単回摂取によるものではなく、長期間摂取による慢性中毒である。単回摂取で発生する急性中毒にお目にかかることは稀であるが、下痢、溶血、肝壊死、脳症および腎不全を引き起こす。

よくあるのは、慢性鉛中毒が元々あり気づかれずに経過していたものが、比較的急激に症候をあらわすというパターンである。鉛を含有する物体(カーテンのおもりなど)を飲み込んでしまって、しばらくしてから致死的な中毒症状が発生するというような場合がその例である。慢性中毒では、貧血、腹痛、倦怠感、腎不全および脳症があらわれる。小児ではX線写真で骨に「鉛線」が見られることがある。これは、鉛が沈着していることを示すものではなく、カルシウム濃度が高い部分に相当する。体内に残存する銃弾は、関節液、供水または髄液に長時間直接触れない限り、鉛中毒を起こすことはない。

鉛中毒の患者を診察する際には、毛細血管から採取した検体による鉛濃度測定はスクリーニング検査にしかならない非常に不正確な検査であり、治療方針の決定の参考にはならないことを念頭に置かなければならない。治療方針を決定するには全血検体を用いて鉛濃度を測定する。鉛に曝露されていた期間を推定することができない場合には、赤血球遊離プロトポルフィリン(FEP)や亜鉛プロトポルフィリン(ZPP)の濃度を測定するとよい。慢性中毒ではFEPやZPPが上昇するが、急性中毒では正常である。

全血検体を用いて鉛濃度を測定し、患者の年齢および臨床症状を踏まえて評価を行って治療を行うのが模範的なやり方である。CDCのガイドラインを参考にすると、各症例に適した治療方針を決定することができる。血中鉛濃度が多少高いだけで無症状の場合は、キレート剤は必ずしも推奨されない。キレート剤の使用が必要な症例では、2,3-ジメルカプトコハク酸(succimer)またはジメルカプロールと、エチレンジアミン四酢酸カルシウム二ナトリウムを用いる。

鉛脳症の治療
対症療法(例、痙攣に対するベンゾジアゼピンまたはバルビツレートの投与、頭蓋内圧亢進の治療)を行い、キレート剤を投与する。五日間にわたり、体表面積一平方メートルあたりジメルカプロール75mgを4時間おきに深部筋注する。ジメルカプロール投与から4時間以上経過した時点で、体表面積一平方メートルあたりエチレンジアミン四酢酸カルシウム二ナトリウム1500mg/dayを静注する(持続静注または2~4分割して投与)。これも5日以上継続する。キレート剤には腎毒性があるので注意する。

教訓 鉛中毒はほとんどが慢性中毒です。鉛中毒の治療薬はキレート剤です。血中鉛濃度が多少高くても、症状がなければキレート剤を投与する必要はありません。
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ICUの毒性学~きのこ [critical care]

Toxicology in the ICU: Part 3: Natural Toxins

CHEST 2011年11月号より

きのこ

キノコ中毒は毒キノコを食用キノコだと思い間違って食べてしまうことによって起こることが多い。世界中で毎年たくさんの人がキノコ中毒で命を落としている。主なキノコ中毒の概要をTable 2にまとめた。以下では北米において発生するキノコ中毒のうちICU入室に至るような症例を念頭に、毒キノコの毒性について紹介する。一般論としては、食べてから6時間以上経過した後に消化管症状が発現する場合は、肝毒性のあるキノコまたはけいれんを起こすキノコを念頭に置く。食べてすぐに嘔吐した場合は、全身毒性の懸念は小さいが、ノルロイシン(alleic norleucine)を含有するキノコの場合は直後から嘔吐を来たし全身毒性もあらわれる。二種類以上のキノコを食べた場合は、すぐに嘔吐したからといって全身毒性を心配するには及ばないという通例は当てはまらない。

シクロペプチド

タマゴテングタケとキツネノカラカサ属やケコガサタケ属のきのこには、タンパク合成を阻害するアマトキシンが含まれる。無症状の潜伏期が6時間ぐらいあり、その後に胃腸炎が出現する。数日以内に肝不全に陥る。重症例では脳症およびけいれんが起こることが多い。組織学的には、肝臓に脂肪変性と小葉中心性の壊死が見られる。色々な治療法が喧伝されているが、質の高い研究で検討された方法は皆無である。アマトキシンの腸肝循環は、活性炭の投与によって減少させることができる可能性がある。早期にペニシリンを大量に(100万単位/kg)静注すると予防効果を得られることを示すデータもあるが、否定的なデータも存在する。一貫したエビデンスはないものの、N-アセチルシステインの静注は広く行われている。欧州ではマリアアザミ(milk thistle)から抽出されるシリビニンが慣例的に使用されているが、少なくとも動物実験では無効であることが示されている。最終的には肝移植が必要となることもある。

ギロミトリン

シャグマアミガサタケ(赭熊網笠茸)属のきのこを食べると数時間後に胃腸炎症状が現れる。このキノコに含まれるギロミトリンが加水分解されて生成されるモノメチルヒドラジンは、イソニアジドと同様の機転でピリドキサルキナーゼを阻害し、全般性てんかんを引き起こす。ピリドキシン(ビタミンB6)の静注が有効である(成人では5g iv)。溶血性貧血やメトヘモグロビン血症が見られることもある。

ムシモール/イボテン酸

ベニテングタケ(fly agaric)、テングタケ(panther、豹茸)、その他のハラタケ属のキノコにはGABAA受容体を刺激するムシモールやグルタミン受容体を刺激するイボテン酸が含まれている。イボテン酸が脱カルボキシル化されるとムシモールが生成される。食べると間もなく中毒症状が発現する。吐き気や嘔吐がはじまり、イボテン酸やムシモールの血中濃度によって中枢抑制または興奮があらわれる。てんかん、運動失調、幻覚または傾眠傾向が出現することもある。対症療法を行う。

腎毒性物質

Cortinarium orellanusなどのフウセンタケ科のきのこには腎毒性のあるオルレラニン(パラコートと共通の構造を持つ)という化合物が含まれている。食べてから3週間以内に尿細管壊死を伴う間質性腎炎を発症する。血液透析を要することもあり、早い段階で透析が行われた症例の約半数は慢性腎不全に移行する。

米国の北西部に自生するタマシロオニタケやAmanita smithianaにはノルロイシンが含まれており、食後早々に胃腸炎症状が現れ、数日後に腎不全に陥る。血液透析を要することが多い。毒キノコによる中毒では重症であるほど消化管症状が出現するまでに時間がかかるのが一般法則であるが、この類の毒キノコによる中毒では例外的に胃腸炎症状が摂取後間もなく出現するため留意しなければならない。

その他

シビレタケ属のきのこには幻覚作用を有するインドール化合物が含まれている。中毒を起こしても命に関わることは滅多にない。対症療法を行う。

ヒトヨタケ(inky caps)やイグチ科のきのこ(ドクヤマドリなど)にはアセトアルデヒド脱水素酵素が含まれる。お酒と一緒にこういったきのこを食べた場合、通常は特に問題なく経過するが、この手のきのこを摂取してから数時間~数日後にお酒を飲むとジスルフィラムを服用したときと同じような症状が現れる。つまり、顔面紅潮、発汗、嘔吐、頭痛および頻脈などが見られる。全体的には軽症であることがほとんどで、対症療法を行えばよい。

教訓 きのこを食べてすぐに吐いた場合は、全身毒性の心配は少ないと言われています。ただし、ノルロイシンを含むきのこ(タマシロオニタケなど)を食べると、すぐに吐く上に数日後には透析を要するほどの腎不全になってしまいます。また、二種類以上のきのこを食べた場合にはすぐに吐いたからといって安心はできません。シビレタケは巷ではマジックマッシュルームと呼ばれています。
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ICUの毒性学~植物② [critical care]

Toxicology in the ICU: Part 3: Natural Toxins

CHEST 2011年11月号より

強心配糖体

ジギタリス(キツネノテブクロ)、夾竹桃、黄花夾竹桃およびスズランなどには強心配糖体が含まれている。こういった植物を摂取して中毒になった場合は、急性ジゴキシン中毒と同様の病態を示す。嘔吐、徐脈、房室ブロック、自動能亢進などが見られる。高カリウム血症の程度が死亡率と相関する。免疫学的測定法で測定した血清ジゴキシン濃度は、ジゴキシンと似た様々な配糖体との交叉反応で実際よりも高い値を示すことがある。ただ、血清ジゴキシン濃度は必ずしも中毒の重症度とは連動しない。ジゴキシン免疫Fabの適応はジゴキシン中毒のときと同様である。つまり、致死的な不整脈や高カリウム血症が認められればジゴキシン免疫Fabを投与しなければならない。植物由来の強心配糖体中毒では、ジゴキシン中毒のときよりも多量のジゴキシン免疫Fabを要することがある。

ナトリウムチャネル開口作用のある物質

トリカブト(monkshood)に含まれるアコニチン、クリスマスローズ(hellebores)に含まれるベラトルムアルカロイド、ツツジ(rhododendrons)に含まれるグラヤノトキシンには電位依存性ナトリウムチャネルを開口したり、ナトリウムチャネルの不活性化を妨げたりする作用がある。その結果、細胞内ナトリウム濃度が上昇し、迷走神経および自動能が活発になる。これは強心配糖体中のときと似た状態であるが、高カリウム血症にはならない。ベラトルムアルカロイドおよびグラヤノトキシンは、主として洞性徐脈およびブロックを起こし、その結果低血圧や失神といった症状が現れる。感覚異常や嘔吐が見られることもある。通常はアトロピンを投与すれば正常な心調律と血圧を回復することができる。

一方、アコニチン中毒は死亡率が非常に高く、torsade de pointesを含む頻脈性不整脈を引き起こすことが多い。アコニチンによる心室性不整脈の治療についての報告例では、アミオダロンやマグネシウムなど様々な抗不整脈薬が使用されている。

ナトリウムチャネル阻害作用のある物質

イチイ(yew)に含まれるタキシンは細胞膜を介するナトリウムおよびカルシウムの輸送を阻害するアルカロイドである。摂取すると心室内伝導遅延、低血圧および心室性不整脈が起こる。治療法は対症療法が主体となる。動物実験のデータでは高張炭酸水素ナトリウムの有効性は示されていないが、一例報告では炭酸水素ナトリウムの投与によってQRS時間の延長を改善することができたとされている。

ピロリジジンアルカロイド

ノボロギク(groundsel)やコンフリーに含まれるピロリジジンアルカロイドには肝毒性がある。この類の植物はハーブ食品として広く流通している。たいていはお茶として摂取される。このアルカロイドが肝臓で代謝されると、アルキル化作用を持つピロールという化合物ができる。急性中毒では、小葉中心壊死を伴う急性肝不全に陥る。一方、慢性中毒による肝毒性の特徴は肝臓の細静脈閉塞であり、肝腫大、腹水および黄疸が見られる。N-アセチルシステインを早期に投与すると効果が得られる可能性がある。

青酸配糖体

アミグダリンなどの青酸配糖体を含有する植物は数多い。青酸配糖体を摂取するとグルコシダーゼによって加水分解されシアン化水素が生成される。杏や桃の種や栄養補助剤として販売されているアミグダリンを摂取すると中毒が起こりうる。口にして数分から数時間後に中毒症状が出てくる。臨床所見と管理法は他の原因によるシアン中毒と同様である。本特集の第二回に掲載したシアン中毒の項を参照されたい。

有糸分裂阻害作用のある物質

コルヒチンおよびポドフィロトキシンは微小管の形成に影響を及ぼし、細胞機能や細胞分裂を妨げる。摂取すると胃腸炎や腹痛が出現し、多臓器不全に陥り数時間から数日後に死亡する。はじめは白血球が増えるが、次第に白血球減少症または汎血球減少症になる。ポドフィロトキシンはコルヒチンと比べ、中毒発症後早期には神経毒性が強くあらわれるが、いずれの物質も昏睡を引き起こす。さらに、横紋筋融解症、心筋障害および脱毛も起こりうる。死因は心血管系虚脱または敗血症である。敗血症は、骨髄抑制による汎血球減少症に起因し、典型的には数日後に発症する。対症療法を行い、汎血球減少症が見られればG-CSFを投与してもよい。

アキー中毒

熟していないアキー(ackee、ジャマイカで好まれる果実。果肉を野菜のように調理して食べる。甘味はなく胡桃のようなコクがある。)にはヒポグリシンAという毒が含まれている。ヒポグリシンAは脂肪酸のβ酸化を妨げる。未熟なアキーを食べると、肝の微細小胞性脂肪沈着、高アンモニア血症、代謝性アシドーシス、低血糖、続発性カルニチン欠乏が起こる。そして、嘔吐、腹痛、筋緊張低下、てんかんおよび昏睡が認められる。対症療法および低血糖の是正に加え、必要なカロリーを炭水化物で投与することが重要である。また、レボカルニチンを投与すると有効であるかもしれない。

教訓
Digitalis.jpgChristmasrose.jpg
我が家で咲いたジギタリス(左)とクリスマスローズ(右;ナトリウムチャネル開口作用を持つベラトルムアルカロイドを含む)です。

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ICUの毒性学~植物① [critical care]

Toxicology in the ICU Part 3: Natural Toxins

CHEST 2011年11月号より

本稿は中毒患者のICU管理一般についての三回連続特集の最終回である。今回のテーマは自然毒である。

植物


植物を触ったり食べたりするのは我々にとって日常茶飯事であるが、致命的になるようなことは滅多にない。中毒を起こす植物をTable 1にまとめた。通常、植物のどの部分にも毒性があるが、根や種子は他の部分よりも高い濃度の毒性物質を含有している場合がある。

抗コリン作用のある植物
色々な植物に、ヒヨスチアミンやアトロピンなどの抗コリン作用を発揮するアルカロイドが含まれている。たとえば、白花洋種朝鮮朝顔(jimsonweed[datura])、エンジェルズトランペット(木立朝鮮朝顔)、ベラドンナ(deadly nightshade、オオカミナスビ)、マンダラゲ(mandrake、朝鮮朝顔)、黒ヒヨス(black henbane)などである。一般的には摂取から一時間以内に抗コリン作用による症状が発現し、数日間続く。重症中毒になると、興奮、幻覚、高体温、頻脈、横紋筋融解症、腎不全が起こり、死亡することもある。厳重な対症療法を行われない場合、横紋筋融解症による腎不全、DIC、不整脈または痙攣重積が死因となりうる。禁忌がなければ(てんかん、心室内伝導遅延、気管支攣縮または房室結節内伝導障害などがなければ)、フィゾスチグミンを使用する。有毒植物の抗コリン作用はフィゾスチグミンの作用時間よりも長時間発揮されるため、投与を繰り返さなければならないことがある点に注意する。

ニコチンアルカロイド
タバコ属の植物、ビンロウジ(betel nut、檳榔子)、ドクニンジン(poison hemlock)にはニコチンアルカロイドが含まれている。ニコチンアルカロイドには、最初ニコチン性アセチルコリン受容体を活性化し、やがて阻害する作用がある。よく見られる症状は、感覚異常、吐き気、嘔吐である。重症例では、全般てんかん、自律神経失調、流涎、気管支攣縮および多量の気道分泌物が認められる。典型例では、摂取から15~60分で症状があらわれる。てんかんにはベンゾジアゼピンが有効で、徐脈、気管支攣縮または気道分泌物にはアトロピンを投与する。

幻覚作用を持つ物質
西洋アサガオ(モーニンググローリー)や銀葉朝顔(Hawaiian baby woodrose)には、5-HT2受容体を活性化し幻覚を起こすインドール化合物が含まれている。ナツメッグおよびウバタマにはアンフェタミンと構造が似た化合物が含まれているが、これもセロトニン受容体に作用する。中毒症状は嘔吐からはじまり、その後幻覚作用があらわれる。ひときわ目立つ散瞳が見られることが多く、興奮、頻脈、横紋筋融解症が起こることもある。興奮にはベンゾジアゼピンが有効である。この類の植物による中毒の鑑別診断として考えなければならないのは、抗コリン作用のある植物による中毒である。抗コリン剤中毒では腋窩無発汗が見られるのが特徴的である。

毒芹(water hemlock)/芹(dropwort)
ドクゼリ属およびセリ属の植物には、GABA-A受容体に拮抗するアルコール錯体(シクトキシンなど)が含まれる。この類の植物は水辺に生えるため、野生のパセリやニンジンと間違えて摂取されることがある。食べてしまうと死亡率が高く、突然の嘔吐やてんかんで発症する。てんかんにはベンゾジアゼピンまたはバルビツレートが有効である。横紋筋融解症が出現することもある。

ストリキニーネ
ストリキニーネ中毒は、ストリキニーネの木の成分を摂取すると起こる。しかし、北米におけるストリキニーネ中毒の大半は、ストリキニーネを含む殺鼠剤の誤飲やストリキニーネを含むヘロインの使用によるものである。ストリキニーネは中枢神経系のグリシン受容体に拮抗し、反射亢進、固縮、後弓反張を引き起こす。ちょっとした刺激を与えるだけで筋収縮と固縮が出現するが、ほんもののてんかんが起こることはほとんどない。全身性の運動亢進がてんかんと見間違えられることが往々にしてある。この場合、感覚は正常である。長時間の筋収縮のため横紋筋融解、腎不全、呼吸不全、死亡に至ることがある。ベンゾジアゼピンが無効な場合は、非脱分極性の筋弛緩薬を投与し、人工呼吸管理を行わなければならないこともある。(注:ストリキニーネとキニーネは別の物質です。)

教訓 有毒植物の抗コリン作用は長時間発揮されます。そのためフィゾスチグミンを繰り返し投与しなければならないことがあります。幻覚作用をもたらす西洋朝顔などによる中毒は、抗コリン作用のある植物の中毒と間違えやすいので注意が必要です。抗コリン作用物質の中毒では脇の下に汗をかかなくなることが見分けるポイントです。
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