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人工呼吸中の鎮静と鎮痛~譫妄② [critical care]

Sedation and Analgesia in the Mechanically Ventilated Patient

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2012年3月1日号より

ICUでは興奮や譫妄に対して抗精神病薬が用いられることがある。最も頻用されているのはハロペリドールであるが、譫妄に対して効果があるとされている他の非定型抗精神病薬も普及してきている。だが、こうした出始めたばかりの研究成果をICU譫妄の転帰改善につなげられるのかどうかを検証するにはまだまだデータが不足している。ハロペリドールをはじめとする代表的な抗精神病薬は、脳のドパミン受容体を遮断し精神的緊張を和らげる。また、抗精神病薬を投与された患者は、自発性が低下し、自分の周囲に対する関心を失い、感情の表出が乏しくなる。多くの場合、うとうとした状態になり、刺激に対する反応が遅くなる。しかし、通常はちゃんと覚醒して質問に答えることは可能であり、認知機能は保たれる。抗ドパミン作用があるためジストニア、アカシジア、パーキンソン症候群などの錐体外路症状が副作用として現れることがある。錐体外路症状はジフェンヒドラミンやベンズトロピンを投与すれば軽快することが多い。悪性症候群(NMS)は、発熱、筋硬直および自律神経障害を呈する疾患で、対処が遅れると死亡に至ることがあるため、早い段階で診断しなければならない。NMSの治療には、ブロモクリプチン、ダントロレンおよびベンゾジアゼピンが用いられる。ハロペリドールはQT延長やtorsades de pointesを起こすことがある。クエチアピン、リスペリドン、オランザピンおよびジプラシドンなどの非定型抗精神病薬は、ドパミン受容体とセロトニン受容体を遮断する。セロトニン受容体に対する遮断作用の方が優勢である。非定型抗精神病薬は、ハロペリドールと同等の効果がありながら錐体外路症状を来しにくいとされている。ドパミン受容体遮断作用と比べセロトニン受容体遮断作用が強いほど、錐体外路症状を起こしにくい。

ICU譫妄の治療における抗精神病薬の有効性を裏付ける知見はないが、過去に発表された諸文献を検討することは有意義であろう。遡及的研究では、ハロペリドールを人工呼吸患者に使用すると死亡率が低下することが示されている。ハロペリドール、ジプラシドンまたは偽薬を、譫妄を起こしかけている患者に予防的に投与し比較する小規模パイロット研究が行われ、有意差は認められなかったが、この研究は検出力が不足していた可能性がある。ハロペリドールとオランザピンを比較する無作為化試験では、譫妄に対して両剤が同等の治療効果を示すことが分かった。しかし、ハロペリドールでは45名中6名に錐体外路症状が出現したのに対し、ハロペリドール、ジプラシドンまたは偽薬を群ではゼロであった。非定型抗精神病薬を定期的に使用し、必要時にハロペリドールを投与する併用療法は、ハロペリドールのみを使用する場合よりも譫妄治療効果が高く、転帰をより改善できる可能性がある。

抗精神病薬以外の薬剤についても、譫妄治療における有用性の有無が検討されている。既に鎮静薬の項で述べた通り、RikerらはICU患者をデクスメデトミジン群もしくはミダゾラム群に無作為に割り当て、デクスメデトミジン群の方が譫妄発生率が有意に低いことを明らかにした。コリンエステラーゼ阻害薬のリバスチグミンのICU譫妄に対する効果を評価した研究では、譫妄患者をリバスチグミン群または偽薬群に無作為に割り当てた。104名の患者を無作為化割り当てした時点で中間解析が行われ(リバスチグミン群54名)、リバスチグミン群の方が死亡率が高いという結果が得られたため(22% vs 8%; P=0.07)、この研究はこの時点で中止された。またこの解析では、リバスチグミン群の方が譫妄状態である期間が長いことも分かった(5日 vs 3日;P=0.06)。この研究の教訓は、譫妄の全体像を示唆している。つまり、患者の元々の状態、譫妄発生促進因子およびICU入室の原因となった疾患が絡み合って相互に作用し合い、いろいろな要素を背景として出現する複雑な現象だということである。譫妄の理想的な管理法の構築には、早期発見のためのスクリーニングと予防策の確立が必要である。何らかの薬物療法が補助的に必要であるかもしれないが、しっかりした大規模試験を行った上でないと特定の薬物を推奨することはできない。

まとめ

ICU患者を適切に管理するには、人工呼吸中の鎮痛及び鎮静についての幅広い知識を持っていなければならない。一般的に使用される鎮痛・鎮静薬についての基本事項に精通することや、こういった薬の薬理学的特徴を変化させるICU特有の要素についての理解も求められる。鎮痛、鎮静および譫妄の評価法を使用すれば、各患者に適した投与量を決めるのに役立つ。エビデンスに裏付けられた手法による鎮痛および鎮静によって、短期および長期転帰の改善を期待することができる。

教訓 ICUでは興奮や譫妄に対して抗精神病薬が用いられることがあります。最も頻用されているのはハロペリドールです。ハロペリドールの副作用は、錐体外路症状、悪性症候群、QT延長、TdPなどです。ICU譫妄の治療における抗精神病薬の有効性を裏付ける知見はありません。
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人工呼吸中の鎮静と鎮痛~譫妄① [critical care]

Sedation and Analgesia in the Mechanically Ventilated Patient

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2012年3月1日号より

譫妄

譫妄とは、急性発症の認知機能障害であり、経過中に障害の程度が変動するのが特徴である。脳障害の一種であり、ICUにおける重症度の指標でもある。様々な研究が行われ発症頻度が報告されているが、11%から87%と大きなばらつきがある。譫妄の発症には多岐に及ぶ危険因子が関与する。たとえば、認知症や高血圧などの基礎疾患、そもそもの疾患の重症度(APACHEスコア)、アルコール乱用や薬物乱用(特に鎮静薬やオピオイド)などの社会歴などである。鎮静レベルを浅めにしていても、譫妄の発生頻度は低下せず、譫妄が発生すれば死亡率上昇、人工呼吸日数やICU滞在日数延長などの転帰悪化につながる。譫妄を発症した患者は、退院時の身体機能が不良であることが分かっている。譫妄の影響は入院中だけにとどまるわけではなく、退院後の長期転帰にも影を落とし、死亡率、QOL、認知機能などがいずれも悪化する。

譫妄に適切に対処する上で障害になっている要素の一つが、譫妄に対する認識不足である。CAM-ICU(Confusion Assessment Method for the Intensive Care Unit)は譫妄の評価法として有用性が確立していて、治療方針の決定に役立つ可能性がある。しかし、van Eijkらの研究では、CAM-ICUは特異度は実際に高いものの、当初の触れ込みと比べると現場における感度は半分程度しかないという結果が得られている。これがCAM-ICU自体の問題なのか、使用法の間違いによるものなのかを判断することはできないが、CAM-ICUを信頼性の高いスクリーニング法として活用できるように研究をさらに重ねる必要がある。集中治療譫妄スクリーニングチェックリスト(ICDSC)はCAM-ICUよりもやや詳細に譫妄の評価を行う方法である。CAM-ICUとの比較で、高い相同性があることを示した研究がある一方で、ICDSCの方が譫妄を検出する感度が高いとか、転帰不良で臨床的に何らかの対処を行わなければならない譫妄患者を検出する感度は同等だがCAM-ICUの方が特異度が高いという結果を報告している研究もある。ICU患者では譫妄が重大な死亡予測因子であることが次第に明らかになっている。譫妄の予防と管理法の確立につながる研究結果が待たれている。

現時点では、ICUで発症する譫妄に対する非薬物療法の有効性を裏付ける知見はそれほど蓄積されていない。ICU患者における譫妄危険因子の多くは、ICU患者以外の入院患者でも同じように譫妄発症の危険因子である。病棟患者を対象とした研究では、こういった危険因子を解消するよう取り組むことによって譫妄発生率が低下することが示されている。見当識障害を是正したり、睡眠環境を改善したり、譫妄発症原因となる薬剤の使用を極力回避したりするような簡単な方法によって、譫妄を減らすことができる。ICUでも早期離床に努めることが譫妄防止につながることが示されている。一日一回の鎮静薬中断による覚醒および自発呼吸試験に加え早期離床を行うと、譫妄の発生頻度が低下するばかりでなく、譫妄以外の重大な転帰(死亡率など)も改善することが分かっている。鎮静薬の選択や使用量削減も、譫妄の防止につながる可能性がある。中でもデクスメデトミジンはベンゾジアゼピン主体の鎮静と比べ譫妄を起こしにくく死亡率を低下させる点に注目が集まり、研究が行われてきた。デクスメデトミジンのこうした利点は、敗血症患者においてより際だつ。転帰の改善につながることがエビデンスで裏付けられている重症患者管理手法が「ABCDE」として覚えやすい形にまとめられている(Awakening and Breathing, Choice of sedative and analgesic, Delirium monitoring, and Early mobilization; 鎮静薬中断による覚醒、自発呼吸試験、鎮静薬・鎮痛薬の選択、譫妄のモニタリング、早期離床)。今までに述べた予防策や非薬物療法を実施しても譫妄が発症した場合は、譫妄に対する薬物治療を考慮しなければならないこともある。

教訓 譫妄の発生頻度は11%から87%と報告されています。鎮静レベルを浅めにしていても、譫妄の発生頻度は低下しません。譫妄が発生すれば死亡率上昇、人工呼吸日数やICU滞在日数延長などの転帰悪化につながります。譫妄の予防には「ABCDE」が有効です(Awakening and Breathing, Choice of sedative and analgesic, Delirium monitoring, and Early mobilization; 鎮静薬中断による覚醒、自発呼吸試験、鎮静薬・鎮痛薬の選択、譫妄のモニタリング、早期離床)。
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人工呼吸中の鎮静と鎮痛~鎮静の実際② [critical care]

Sedation and Analgesia in the Mechanically Ventilated Patient

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2012年3月1日号より

毎日の鎮静薬投与中断の他に、看護師主導プロトコルも有望であることが分かっている。Brookらはラムゼイ鎮静スケール3点という目標を設定し鎮痛および鎮静レベルの調節を行うベッドサイド用看護プロトコルの有用性を検討した。その結果、従来のケアと比べ人工呼吸期間、ICU滞在期間および入院期間が短縮することが分かった。さらにプロトコル使用群の方が気管切開率が低いという結果が得られた。De Jongheらは鎮静薬使用の決定に医師が協力する看護師主導鎮静アルゴリズムにATCE鎮静評価法を組み込んで評価を行い、人工呼吸日数とICU滞在日数が短縮することを明らかにした。看護師主導鎮静プロトコルが、鎮静薬投与中断よりも有意に転帰を改善すると報告している研究が一編のみあるが、この結果には再現性がなく、他の数多くの研究では毎日の鎮静中断に軍配が上がっている。カナダ臨床試験グループが行ったパイロット研究では、看護師主導鎮静プロトコルに鎮静中断を組み合わせた場合と組み合わせない場合とが比較され、この研究が有望であり安全に行えることが確認された。現在、このパイロット研究を基にした多施設無作為化臨床試験が進行中である。プロトコルを利用して鎮静管理を行っても、プロトコルを使わない従来法と比べて転帰は改善しないことがオーストラリアで行われた研究で明らかにされている。このような結果が得られた背景には、普段から看護スタッフが鎮静や人工呼吸器管理に濃密に関わっていたり、看護師一人当たりの患者数が少なかったりしたとか、非盲検化研究であるために研究プロトコル違反があった可能性などがあったと思われる。意識がはっきりしていて従命動作が可能で状態が安定している患者を対象とした、患者調節型鎮静(patient-controlled sedation)という新しい方法についての観測研究が行われ、鎮静レベルについての満足度が患者と看護師の双方で高いことが分かった。Stromらは毎日の鎮静中断を行う方法と、「無鎮静」とを比較する無作為化試験を実施した。無鎮静群の患者には、必要に応じてモルヒネが投与された。無鎮静群の方が人工呼吸器非使用日数が多く、ICU滞在期間および入院期間が短いという結果が得られた。自己抜管率は同等であった。転帰を改善するには多角的手法による鎮静が理想的な方法であると考えられる。そのためには、重症患者管理に従事する医師や看護師を対象として、疼痛や鎮静の評価スケールや鎮静プロトコルの利用に関する教育を行うことが不可欠である。様々な鎮静法についての賛否両論をよく理解し、それぞれのICUの実情に適した堅牢な鎮痛・鎮静アルゴリズムを構築することが重要である(Figure 2)。

鎮静法は人工呼吸日数や入院日数が短縮するといった短期転帰を改善する可能性があるだけでなく、長期転帰にも影響を及ぼすと考えられる。したがって、鎮静計画の立案は大きな意味を持っている。鎮静中断と自発呼吸試験を毎日行うと、自発呼吸試験だけを行い鎮静法は従来通りとした場合と比べ、人工呼吸器非使用日数が短いだけでなく、1年後死亡率も低いという結果が得られている。意識がはっきりしていればリハビリをしっかり行うことができる。一日一度は覚醒させて理学療法・作業療法を開始すると、退院時の機能回復の程度が優れていることが分かっている。呼吸不全を伴う重症疾患後にはPTSDを発症することがあるが、鎮静薬の使用量が多いほどPTSDを発症しやすいのではないかと考えられている。鎮静薬を毎日中断するとPTSDを減らすことができるという報告が一編ある一方で、別の研究ではそのような相関は認められないとされている。ただし、後者の研究は検出力が不足していると指摘されている。Treggiariらは浅いレベルの鎮静を目標とした場合には、深い鎮静を目標とした場合と比べ、PTSDを発症したり記憶障害が発生したりする頻度が低いことを明らかにした。鎮静薬およびオピオイド使用はICU譫妄の危険因子である。譫妄は重症患者の予後不良を示唆する指標であると考えられている。

教訓 鎮静中断と、自発呼吸試験の連日実施、リハビリの早期開始を組み合わせると転帰が改善するとされています。
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人工呼吸中の鎮静と鎮痛~鎮静の実際① [critical care]

Sedation and Analgesia in the Mechanically Ventilated Patient

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2012年3月1日号より

鎮静計画

鎮静薬を処方する際には、鎮静スケールによる評価と鎮静プロトコルを参考に投与量を調節すべきである。Ramsay鎮静スケール(RSS)は鎮静レベル評価スケールとして最も広く使用されている。RSSを発展させて作成された鎮静-興奮スケール(SAS)は、興奮側の意識レベルをより詳しく評価するのに適している。集中治療環境適応(ATICE)スケールは、患者の意識レベルとともにICUの環境に対する耐性も評価することができる包括的評価法である。鎮静およびコミュニケーション看護評価法(NICS)は、覚えやすく現場で簡便に使用できるという利点を眼目に作成された。過去の鎮静スケールとは遜色ないこと確認されているが、鎮静レベルの経時的モニタリングに適しているかどうかはまだ検討されていない。リッチモンド興奮-鎮静スケール(RASS)は、覚醒レベル、認知機能および反応表出の維持時間を評価する方法である(Table 3)。ICUにおける鎮静評価法として評価者間のばらつきが少なく、経時的な鎮静薬投与量調節にも有用であることが分かっている。RASSはもっとも詳細に検討されているため、重症患者管理において最も頻用されている評価法の一つである。大半の一般的なICU患者は、RASSスコアがマイナス2点を下回らないように鎮静レベルを調節するべきである。最重症例では必要なケアをスムーズに行うために、時としてマイナス3点もしくはマイナス4点ぐらいの深い鎮静が必要なこともあるが、こうした症例でも全例が深い鎮静を要するというわけではない。例えば、ICUにおける早期離床について検討した無作為化比較対照試験では、毎日一度は鎮静を完全に中止しリハビリ(理学療法・作業療法)を早い段階で開始した。リハビリ実施例の半数以上が急性肺傷害患者で、三分の一以上が吸入気酸素分画0.6以上であった。約15%の症例において、血管作働薬持続静注下にリハビリが行われた。鎮静スケールの使用をプロトコルに組み入れ、できれば担当看護師がスコアを入力すれば、目標の鎮静レベルを達成するのに役立ち、さらには転帰の改善にもつながる。

毎日の鎮静中断や目標設定鎮静アルゴリズムなど、今までに様々な鎮静法が研究されてきた。鎮静薬は持続投与が可能であるが、前述した通り鎮静薬そのものや代謝産物が蓄積することがあるため、適切な鎮痛・鎮静レベルを保ちつつ投与量を最小限に止めるよう注意を払わなければならない。鎮静薬の持続投与を一日一回中断すると、人工呼吸日数およびICU滞在日数を短縮できることが明らかにされている。鎮静薬を中断することによって、神経学的評価をより正確に行うことができるようになるため、神経学的検査の実施回数が減る。鎮静薬の投与を再開しなければならないのであれば、プロトコルの規定では中断前の半量で再開する。

教訓 鎮静薬の持続投与は一日一回中断し、患者を覚醒させなければなりません。RASSがマイナス2点を下回るレベルは、大半の症例では過鎮静です。
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人工呼吸中の鎮静と鎮痛~DEX、吸入麻酔薬 [critical care]

Sedation and Analgesia in the Mechanically Ventilated Patient

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2012年3月1日号より

デクスメデトミジンはα2作働薬であり、中枢性にノルアドレナリンの放出を阻害する。鎮静作用と鎮痛作用を併せ持つため、ICUで用いるには理想的な鎮静薬である。他の鎮静薬と異なり、呼吸抑制作用がない。ベンゾジアゼピンよりも意識がはっきりしていて意思の疎通がスムーズにできる状態を保つことができ、譫妄が発生することも少ない。デクスメデトミジンは、長時間使用を是とするデータが不足していたため、当初は周術期などの短時間の鎮静のみに適応がある薬剤として米国FDAに認可された。その後、Rikerらがデクスメデトミジン長時間持続静注についての研究を行い、ミダゾラムと比較すると目標鎮静レベルの達成度が同等である一方で、譫妄発生率が低く、人工呼吸日数が短いという結果を得た。別の研究では、デクスメデトミジンを投与されているとオピオイドやその他の鎮静薬の必要量が少なくなり、そのため深い鎮静に陥っている時間が短縮し、人工呼吸離脱およびICU退室が早まり、結果的に譫妄を減らせることが明らかにされている(Table 2)。デクスメデトミジン持続静注の主な副作用は、徐脈と低血圧であるが、ローディング投与を行わず、少量から持続投与を開始すれば回避することができる。また、投与期間が長期に及ぶと投与を中止したときに離脱症候群が発生し、興奮、頻脈、低血圧を呈することがある。

イソフルランやセボフルランなどの吸入麻酔薬は、長年にわたって手術室で用いられてきたが、ICUでの使用は一般的ではない。吸入麻酔薬を鎮静薬として使用するに当たり、麻酔ガスの保全管理が障壁であった。現在ではAnaConDaシステム(Hudson RCI, スウェーデン)という、人工呼吸器に取り付け、麻酔薬を再利用することができる装置を利用すれば保全管理の問題はクリアできる。吸入麻酔薬による鎮静は、秀逸で画期的な方法である。大半の静注鎮静薬よりも吸入麻酔薬の方が薬力学的特性が極めて優れているため、より適切な鎮静レベルを達成することができ、覚醒、抜管およびICU退室までの時間が短縮され、予測もつきやすい。AnaConDaシステムを用いたICUにおけるセボフルラン投与と、プロポフォールまたはミダゾラムとを比較した研究では、セボフルラン群の方が安全性、有効性が勝り、抜管までの時間が短く、オピオイド使用量が少ないという結果が得られている。

教訓 デクスメデトミジンはミダゾラムと比較すると譫妄発生率が低く、人工呼吸日数が短いとされています。投与期間が長期に及ぶと投与を中止したときに離脱症候群(興奮、頻脈、低血圧)が発生します。
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人工呼吸中の鎮静と鎮痛~プロポフォール [critical care]

Sedation and Analgesia in the Mechanically Ventilated Patient

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2012年3月1日号より

プロポフォールは鎮静薬としてICUで広く使用されている。作用機序は十分には解明されていないが、GABAなどの神経伝達物質の放出を変化させることによって脳に直接的に影響を及ぼして作用を発揮するという説が有力である。このGABA作働薬は脂溶性で血液脳関門を速やかに通過し、数秒から数分以内に作用を発現する。プロポフォールは分布容積が大きく、数分以内のごく短時間で末梢組織へ再分布する。プロポフォールとベンゾジアゼピンを比較した複数の研究において、プロポフォールの方が意識レベルの回復や人工呼吸離脱に要する時間および費用対効果が優れているため、ベンゾジアゼピンより高い評価が得られている(Table 2)。痙攣重積に対してプロポフォールを抗痙攣薬として用いた症例集積研究が報告されている。また、脳虚血の場合に神経保護機能があることを示した研究もある。プロポフォールは血管トーンを低下させ心拍出量を減少させるため、低血圧を引き起こすことが多い。ただし血管内容量が不足していない場合には血圧が下がっても、たいした問題にはならないのが普通である。プロポフォール製剤は脂肪乳剤であるため、持続投与する場合は3-7日ごとにトリグリセリド値を測定する。また熱量は1.1kcal/mLであり、栄養計画を立てる際にはこの分を勘案しなければならない。プロポフォール持続静注症候群(propofol infusion syndrome)は、代謝性アシドーシス、横紋筋融解症および高カリウム血症を起こし、徐脈や心不全から心停止に至ることもあるプロポフォールに関連する副作用である。最初に報告されたのは小児症例であったため、小児集中治療領域においてプロポフォールに対する懸念が広まった。プロポフォール持続静注症候群は高用量を長時間投与した場合に起こることが多い。大半のデータは症例報告や遡及的研究から得られているため、推奨投与量については諸説紛々としているが、4-5mg/kg/hr以下を維持量とすべきであるという意見が優勢である。この症候群の発生については常に注意を払うべきであり、プロポフォールを多量もしくは長時間投与する場合には、転ばぬ先の杖としてpH、乳酸、CKを逐次測定するとよい。幸い、成人ではプロポフォール持続静注症候群の発生率は低い。

フォスプロポフォールはプロポフォールのプロドラッグで、ICUにおける新しい鎮静薬として期待されている。フォスプロポフォールは水溶性で、プロポフォールよりも分布容積がずっと小さく、生体内で代謝されてプロポフォールになり活性を示す。こういった特性があるため、持続静注しても脂肪組織に蓄積しないと考えられている。現在は、大腸内視鏡、気管支鏡および小手術症例における第Ⅲ相臨床試験が行われている段階である。パイロット試験では、ICUにおける短期間使用は安全かつ有効であることが示唆されている。プロポフォールのような脂肪乳剤は細菌汚染が起こりうるが、フォスプロポフォールは水溶性であるためそのような懸念はあまりない。代謝されなければ活性を発揮できないため、作用発現はプロポフォールよりやや遅い。それでも数分以内には効果を発現する。中等度の腎不全であれば安全に使用できるが、肝不全症例における安全性については分かっていない。ICUにおける長時間使用の安全性および有効性については、さらに研究を進めて検証する必要がある。

教訓 プロポフォールの方が意識レベルの回復や人工呼吸離脱に要する時間および費用対効果が優れているため、ベンゾジアゼピンより高い評価が得られています。フォスプロポフォールはプロポフォールのプロドラッグで水溶性です。
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人工呼吸中の鎮静と鎮痛~ベンゾジアゼピン [critical care]

Sedation and Analgesia in the Mechanically Ventilated Patient

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2012年3月1日号より

鎮静薬

ベンゾジアゼピンはGABA受容体に作用する。GABA受容体は抑制性神経伝達に関わる受容体で、ベンゾジアゼピンが結合するとニューロンの興奮が抑えられる。抗不安作用や鎮静作用があり、投与量を増やすと催眠効果を得られる。ICU患者の鎮静で頻用されるベンゾジアゼピンは、ミダゾラムとロラゼパムである。いずれも脂溶性で、血漿中ではミダゾラムの方がロラゼパムより脂溶性が高い。このためミダゾラムの方が血液脳関門を容易に通過するので、ロラゼパムよりも速やかに(1分以内)効果が発現する。脂溶性薬剤であるがゆえに、ミダゾラムもロラゼパムも脂肪組織に蓄積する。脂肪組織に蓄積してしまうと代謝されにくくなる。主に肝臓のCYP450系によって代謝される。したがって、肝機能が低下していると、特にミダゾラムは作用時間が著しく延長する。また、ミダゾラムの代謝産物には活性があり腎不全患者では蓄積するので、腎機能が正常でない場合にミダゾラムを使用するのは好ましくない。以上のような薬理学的特徴があるため、ベンゾジアゼピンの薬効が遷延し、患者の神経学的評価が困難になることがある。持続静注した場合には何日もこうした状態が続くことが珍しくない。ロラゼパムはミダゾラムより脂溶性が低く効果発現までに時間がかかる。代謝産物に活性がないため腎不全患者に適したベンゾジアゼピンとして選好されている。ロラゼパムとミダゾラムを直接的に比較した研究では、ミダゾラムよりもロラゼパムの方が適切な鎮静レベルの達成率が高く、費用対効果も優れていることが示された。

ベンゾジアゼピンは呼吸抑制を来すことがある。ベンゾジアゼピンは二酸化炭素反応曲線を右方偏位させる。オピオイドと異なり呼吸数とともに1回換気量も低下させるため、オピオイドに特有の「ゆっくりした深い」呼吸パターンが見られることは少ない。ベンゾジアゼピンには抗痙攣作用があり、また、アルコール依存やベンゾジアゼピン長期使用例の離脱症候群にも有効である。ベンゾジアゼピンを投与すると、逆説的興奮が生ずることが稀にあり、高齢患者において起こりやすい。ICU患者ではベンゾジアゼピンを使用すると譫妄の発生頻度が上昇することが分かっている。急性期に高用量のベンゾジアゼピンを持続静注した症例では、投与を中止すると離脱症状が発生する危険性が高い。ロラゼパム製剤に用いられている溶剤のプロピレングリコールは中毒を起こすことがある。プロピレングリコール中毒の症状は多彩で、高浸透圧性代謝性アシドーシス、乳酸アシドーシス、低血圧および不整脈などが出現する。小規模観測研究で、ロラゼパム使用例の約20%においてプロピレングリコール中毒の徴候が見られたと報告されている。持続静注をしていて時間投与量が多い場合や、24時間総投与量が多いときに中毒が起こりやすい。従来、ベンゾジアゼピンは第一選択の鎮静薬として用いられてきたが、プロポフォールやデクスメデトミジンなどの新しい薬剤との無作為化比較対照試験では、ベンゾジアゼピンの方が譫妄や過鎮静が起こりやすく、抜管やICU退室が遅れるなど、明らかに転帰が不良であることが明らかにされている。

教訓 ミダゾラムもロラゼパムも脂溶性薬剤なので脂肪組織に蓄積します。主に肝臓のCYP450系によって代謝されるため肝機能が低下していると、特にミダゾラムは作用時間が著しく延長します。また、ミダゾラムの代謝産物には活性があり、腎機能が正常でない場合にミダゾラムを使用するのはよくありません。ロラゼパム製剤には溶剤としてプロピレングリコールが使用されているため中毒を起こすことがあります。プロピレングリコール中毒の症状は、高浸透圧性代謝性アシドーシス、乳酸アシドーシス、低血圧および不整脈などです。
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人工呼吸中の鎮静と鎮痛~鎮静 [critical care]

Sedation and Analgesia in the Mechanically Ventilated Patient

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2012年3月1日号より

鎮静

痛みがないことを確認したら、次は鎮静の要否を評価する。疼痛を管理するだけで患者は楽になり、鎮静が不要な状態を確保できる可能性がある。薬物を使用しなくても、体位を調整するとか、声をかけて安心させるなどの方法が、患者の心を鎮めたり、興奮している患者を落ち着かせたりするのに有効な場合もある。しかし、通常はこのような薬物を使わない対処法だけでは十分な効果が得られなかったり、うまくいかなかったりする。その場合には、薬物を用いる鎮静を行えば、不快感を緩和し、人工呼吸器との同調性を改善し、呼吸仕事量を減少させることができる可能性がある。大半の症例では、鎮痛薬一剤and/or鎮静薬一剤を投与すれば、こうした目標を達成するのに十分である。時として鎮痛薬と鎮静薬の計二剤にもう一剤が追加投与されることがあるが、疼痛や鎮痛の評価スケールを基に到達目標を設定して投与量を調節しなければならない。そうでないと過鎮静などの副作用が発生したり、過量投与のため中毒症状が出現する危険性が増大したりするからである。酸素運搬量が低下していると予測される重症患者に人工呼吸を行うと酸素消費量が減少する。鎮静すれば、神経筋遮断薬を用いた場合と同様に、さらに酸素消費量を減らすことができる。神経筋遮断薬を使用すると筋力低下が遷延するため、重症患者管理においては使用されなくなってきている。しかし、Papazianらの研究では、ARDS重症例の発症初期では、48時間以内の使用であれば神経筋遮断薬が役立つこともあると報告されている。ガイドラインでは神経筋遮断薬を使用する場合はTOFモニタリングを行いながら投与量を調節すべきであるとしているが、TOFモニタリングによる調節と「臨床的判断」のみによる調とを比べた臨床研究では、前者がよいという結果も後者がよいという結果も示されており、いずれに軍配が上がるかは決着がついていない。シスアトラキュリウムはホフマン分解によって代謝されるため、ICUにおいて好んで用いられる神経筋遮断薬である。ICUで神経筋遮断薬が使用されることはそもそも少ないが、シスアトラキュリウム以外の神経筋遮断薬を使用するのは妥当とは言えない。神経筋遮断薬には健忘作用はないことに留意し、覚醒しているが筋弛緩が効いているという状態に患者を陥らせないように、健忘作用が得られる程度まで鎮静薬を問うよしなければならない。アルゴリズム解析によって意識レベルを測定するBISなどの装置をその他の鎮静評価法を組み合わせると、神経筋遮断薬を使用中の患者の鎮静レベルを評価するのに有用であると考えられている。手術患者ではプロポフォールやミダゾラムによる鎮静および健忘の程度がBISとよく相関することが明らかにされているが、麻酔中に標準的に行われている呼気終末麻酔薬濃度による麻酔深度調節と比べ、BISの方が術中覚醒を防ぐ効果が高いわけではない。また、手術患者においてはBIS値が低いほど(麻酔が深いほど)長期死亡率が高いことが示されている。ICU患者においてBISを標準的モニタリングとして推奨するには、無作為化比較対照試験による検証を待たなければならない。

教訓 鎮静の目的は、不快感の軽減、人工呼吸器との同調性の改善、呼吸仕事量の減少です。
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人工呼吸中の鎮静と鎮痛~鎮痛② [critical care]

Sedation and Analgesia in the Mechanically Ventilated Patient

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2012年3月1日号より

使用候補薬剤について薬理学的な基本事項を理解した上で、鎮痛薬もしくは鎮静薬を選択すべきである。重症患者の薬剤選択にあたっては、患者一人一人の病態特性を考慮しなければならない。ショック症例では肝臓腎臓の血流が低下していて代謝や排泄に変化が生じている場合がある。各薬剤の薬物動態は昔から単回投与について研究されてきてはいるが、持続静注では単回投与とは異なる薬力学的特徴を示す。患者特性に関わる要素である肥満(分布容積に影響する)や遺伝特性(薬物の作用や代謝に影響する)も、薬剤に対する反応を変化させることがある。人為的低体温実施中は分布容積が減少するため、投与した薬剤の血漿中濃度が変化する。薬理学的な基礎知識として是非とも理解すべき重要な概念として「context-sensitive half-time(CSHT)」がある(Figure 1)。ICUで使用されるあらゆる鎮静薬や鎮痛薬は、血漿中濃度のレベルや増減の様態が時間とともに変化する。血漿中濃度は各「コンパートメント(つまり、循環血液、脂肪組織および中枢神経系の受容体)」間の濃度差によって左右される。CSHTとは、ある薬剤の持続静注終了後に血漿中濃度が投与終了時の半分になるまでに要する時間のことである。CSHTは当該薬物の分布と代謝の両者によって決定される。一般的には、持続投与時間が長いほどCSHTも延長する。この傾向が顕著な薬剤もあれば(例;ベンゾジアゼピン、モルヒネ、フェンタニル)、それほどでもない薬剤もあるが(例;プロポフォール、レミフェンタニル)、いずれにせよどんな薬剤であっても、投与時間が長引くほどCSHTも長くなり、特に長時間投与を行う場合にはこの現象が明瞭に見られる。

鎮痛薬として最も広く一般的に用いられているのはオピオイド系薬である。オピオイド系鎮痛薬の主な作用機序はμ1オピオイド受容体刺激による中枢神経系の疼痛反応阻害である。μ1受容体以外のオピオイド受容体は、呼吸抑制や鎮静作用の発生に関わっている。オピオイドは二酸化炭素反応曲線を右方偏位させる。典型的には、一回換気量が維持されて呼吸回数が減るという呼吸パターンの変化を呈する(「ゆっくりした深い呼吸」と称されることがある)。ベンゾジアゼピンによる呼吸抑制(後述)の様態とは異なっている。オピオイドは一般的に肝臓で代謝され、腎臓によって排泄される。モルヒネの代謝産物はオピオイド活性を有するため、腎不全患者では蓄積が懸念される。したがって、腎機能が正常である場合を除けば、ICUにおいてモルヒネを選択するのは妥当とは言い難い。ハイドロモルフォンの力価はモルヒネの5~10倍で代謝産物には活性がないが、ハイドロモルフォン事態が腎不全では蓄積して血中濃度が高くなってしまうおそれがある。フェンタニルは脂溶性なので短時間で作用が発現するが、脂溶性であるがゆえに脂肪組織に蓄積するという薬力学的特徴を持つ。フェンタニルを中断することなく持続静注し続けると、中止しても作用が遷延する可能性がある。ただし、フェンタニルには腎から排泄される代謝産物はない。レミフェンタニルは新しく登場したオピオイドで、速やかに効果が発現し、血中に存在する非特異的な酵素によって活性のない産物に代謝されるため、肝不全や腎不全であっても薬力学的特性に変化は生じない。ICU患者を対象として各種オピオイドを直接的に比較した無作為化比較対照試験はほぼ無きに等しい。だが、モルヒネやフェンタニルと比較するとレミフェンタニルは、鎮痛作用の遷延が起こりにくく鎮静薬必要量が減る可能性があることが分かっており、有望視されている(Table 2)。ただし、レミフェンタニルを含むあらゆるオピオイドは、投与期間が長引けば耐性が生ずることがある。耐性が出現すると、投与開始と同程度の鎮痛効果を得るには投与量を増やさなければならなくなる。さらに、オピオイドは痛覚過敏を引き起こすことがある。レミフェンタニルのような短時間作用性のオピオイドは特に痛覚過敏を起こしやすい。中国で行われた手術患者を対象とした大規模研究で、レミフェンタニルによる痛覚過敏は16歳以上、投与量30mcg/kg以上、および2時間以上の手術のいずれかに該当する場合に生じやすいことが明らかにされている。レミフェンタニルはNMDA受容体を介して痛覚過敏を引き起こすと考えられていて、NMDA受容体を阻害するケタミンを併用すれば痛覚過敏の発生を抑制することができる可能性がある。また、レミフェンタニルは速やかに除去されるため、投与を終了すると鎮痛効果が全くない状態に陥ることがある。レミフェンタニルを使用する際には、以上のような問題が起こりうることに配慮しなければならない。

教訓 ベンゾジアゼピン、モルヒネ、フェンタニルは持続投与時間が長いほどCSHTが延長する傾向が強く、プロポフォールやレミフェンタニルはそれほどでもありません。モルヒネの代謝産物にはオピオイド活性があります。フェンタニルは脂溶性なので短時間で作用が発現しますが、脂肪組織に蓄積しやすい特徴があります。
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人工呼吸中の鎮静と鎮痛~鎮痛① [critical care]

Sedation and Analgesia in the Mechanically Ventilated Patient

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2012年3月1日号より

ICUに収容され人工呼吸を行われている患者の管理において、多くの場合、鎮静と鎮痛は重要な位置を占めている。最適な方法で薬剤を投与するには、エビデンスを基に作成されたガイドラインにおいて示されている推奨事項の基盤となった重要な諸文献の内容を理解する必要がある。また、診療ガイドラインは近い将来に改訂される予定であるが、現行のガイドライン作成後に積み重ねられてきた学術上の成果についても知る必要がある。余すところのないこういった知識の蓄えは、短期および長期転帰をできる限り損なわずに患者の安寧を実現するような、抜かりのない管理計画を立案するのに不可欠である。

鎮痛

ICUにおける鎮静をテーマとして取り上げる場合、人工呼吸患者の管理の一環としていわゆる「鎮静」を行う際には適切な疼痛管理が達成されている必要があることを第一に認識すべきであることを忘れてはならない。重症患者では疼痛が生ずることが珍しくない。気管挿管や人工呼吸そのものによって疼痛が生ずることもあれば、体位変換やチューブや輸液路の固定などの日常的なケアなどが疼痛の原因となることもある。こうして発生した疼痛が一定以上の強さになれば、ストレス反応が起こる。したがって、患者が快適に過ごせるようにするには疼痛に適切に対処しなければならない。そうすれば、疼痛に伴う有害事象をも防ぐことができるかもしれないのである。疼痛管理が適切に行われていれば、鎮静薬はほとんどもしくは全く必要ない可能性がある。この点は、以下で詳しく検討するデンマーク発の研究でも指摘されていることである。患者の疼痛に留意することの重要性は揺らぎようがないが、必ずしもすべての人工呼吸患者に疼痛が生ずるわけではないことを念頭に置くことも同等に重要である。例を挙げると、死亡リスクの高いICU患者171名を対象にしたPuntilloらの研究では、ICU入室後最長2週間後までの期間に行われた聞き取り調査で、疼痛があると答えた患者は40%にとどまった。疼痛の有無についてはあらゆる患者において配慮しなければならないが、全患者に鎮痛薬を投与するというような方策は必要ないということが確認されたという点で、この研究は重要な意味を持つ。ICUに収容されている人工呼吸患者の疼痛管理を最適な形で行うには、患者と直接的に意思の疎通を図らなければならない。

患者の意思を直にくみ取る必要性があることは当然ではあるが、人工呼吸中の患者から疼痛症状についての訴えを得るのは困難なことがある。いくつかの指標が疼痛の客観的評価に用いられている。数値評価スケールは、話したり指し示したりすることさえできれば患者がぼーっとしていても利用できるため、重症患者における有用性が検証されているものの一つである。これは0点から10点のスケールで、0点のところには「痛みがない」、10点のところには「想像し得る限り最悪の痛み」と記されている。しかしこのスケールを用いて正確に評価するには、数字と0点および10点の部分の注意書きがはっきりと読み取れるスケールを必ず使用し、患者が評価者の質問を理解し適切な時間内に応答できるかどうかを常に的確に判断できなければならない。行動疼痛スケール(behavioral pain scale)や重症患者疼痛観察法(Critical Care Pain Observation Tool)は、いずれも疼痛に対する行動上の反応を観察して評価する方法である。重症患者の疼痛評価における評価者間のばらつきや一致度について、この二つの行動面からの評価法と患者の自己申告に基づいて評価する数値評価スケールとの比較研究が行われている。行動疼痛スケールは、自己申告による数値評価スケールと比べ、強い疼痛ほど過小評価してしまう傾向があることが明らかにされている。非言語的疼痛スケール(Nonverbal Pain Scale)は意思の疎通を図れない患者にでも利用できる評価法で、行動と生理学的指標を組み合わせて点数化する(Table 1)。この方法は広く用いられているが、評価者間のばらつきがないことを観測研究で検討して開発された方法である。非言語疼痛スケール改訂版についての追跡調査では、侵害刺激を与える前、最中または後であるのかを評価者が知っていたにも関わらず、侵害刺激の大きさとこのスケールで算出される点数とが相関しないことが明らかにされている。以上の疼痛評価法にはいずれも問題点があるが、鎮痛薬投与を判断する際の参考にはなり得る。

教訓 疼痛管理が適切に行われていれば、鎮静薬の必要量はゼロもしくはごく少量で済む場合があります。人工呼吸中の患者の全てに疼痛があるわけではありません。行動疼痛スケールは、自己申告による数値評価スケールと比べ、強い疼痛ほど過小評価してしまう傾向があります。
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AKIによる腎外遠隔臓器障害~脳 [critical care]

Acute Kidney Injury and Extrarenal Organ Dysfunction: New Concepts and Experimental Evidence

Anesthesiology 2012年5月号より

AKIと脳障害

AKI動物モデルを用いた実験で、尿毒症性脳症の発症に神経伝達物質が関与していることが明らかにされている。両側腎虚血再灌流を起こすと48時間後の時点で線条体、中脳および視床下部におけるドパミン代謝が低下していることが分かっているが、AKIまたは尿毒症によって直接的に引き起こされる作用なのかどうかは明かではない。AKI後には脳に炎症が生じ、機能が低下することが示されている。マウスの実験では、腎虚血再灌流によって神経細胞の核濃縮や海馬におけるミクログリアの増加が起こることが明らかにされている。このような変化は、学習、記憶、不安および抑鬱などに深く関わっている。核濃縮とは、核のクロマチンが不可逆性に濃縮することであり、壊死またはアポトーシスする細胞において観察される事象である。ミクログリア細胞は中枢神経系にとどまり姿を変えたマクロファージであり、神経炎症カスケードにおける主役とも言うべき重要なメディエイタである。AKI後の脳では炎症の指標であるグリア線維酸性タンパク(GFAP)が増加することも報告されている。腎虚血再灌流後のマウスの脳にエバンスブルーを投与すると血管外漏出が起こることから、AKIの影響で血液脳関門が破綻することが示唆されている。この知見は臨床的にも重要である。なぜなら、血液脳関門が破綻すると脳浮腫が起こるだけでなく、本当なら血液脳関門を通過しないはずの代謝産物や毒性物質が通過してしまって中枢神経系の機能を傷害する可能性があるからである。腎虚血再灌流または両側腎摘除後マウスの行動検査を行った研究では、自発運動量が中等度~高度低下することが示されている。

まとめ

AKIが起こると、多臓器不全発症時期が早まり死亡率が上昇するが、その程度はAKIによる病態悪化だけでは説明がつかないことが最近の臨床研究で明らかにされている。腎虚血再灌流もしくは両側腎摘除などによって作成したAKI動物モデルを用いた研究では、AKIは決して腎臓だけに限局した病態ではなく、好中球遊走、サイトカイン濃度の上昇、酸化ストレスの増強などの機序を介して肺、心臓肝臓および脳などの遠隔臓器にも傷害を発生させることが示されている。しかし、腎不全、特に多臓器不全を伴う場合には、治療の手段は限られていて、数少ない治療法も有効性に乏しいのが現状である。したがって、新しい治療標的を見出すには、AKI誘発性遠隔臓器傷害の発生機序の解明が必要なのである。

教訓 AKI後には脳に炎症が生じ、機能が低下します。また、AKIはBBBを破綻させます。
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AKIによる腎外遠隔臓器障害~心 [critical care]

Acute Kidney Injury and Extrarenal Organ Dysfunction: New Concepts and Experimental Evidence

Anesthesiology 2012年5月号より

AKIと心機能低下

心腎症候群と言って、心不全と腎不全が同時に起こることがある。通常は心臓腎臓かのいずれかが臓器不全の首座となる。AKI発症後に心不全が起こるタイプのものは、心腎症候群3型に分類されている。AKIに引き続いて心機能が低下する要因は、水分過多による肺水腫、酸血症による肺血管収縮、尿毒症に起因する心外膜炎や心筋収縮力低下、高カリウム血症による不整脈などである。以上に挙げた要因はいずれもたいていは是正可能であるが、こういった要因がない場合でもAKIが起こるとそれだけで心機能が低下することがある。

炎症性サイトカインが心臓関連の転帰によくない影響をおよぼすことを裏付ける知見が、基礎研究と臨床研究のいずれにおいても続々と報告されている。フラミンガム研究では、TNF-αやIL-6の血中濃度が高い患者は鬱血性心不全を発症するリスクが高いことが明らかにされている。CRPが5mg/dL以上であると鬱血性心不全の発症リスクが2.8倍に増大する。さらに、TNF-α-、IL-6およびCRPのいずれもが上昇している患者では鬱血性心不全のリスクが一層高いことが分かっている(ハザード比4.07)。心不全症状のある患者では、TNF-αの血中濃度が重症度やNYHAスコアと直接的に相関し、臨床転帰不良の予測にもつながる。鬱血性心不全の患者は、慢性炎症でみられるのと同じ様々な特徴を呈する。重症鬱血性心不全症例ではTNF-α血中濃度が高く、その上昇程度が心臓悪液質の発症と有意に関連する。

左室機能低下、肺水腫、左室リモデリング、心筋肥大および心筋アポトーシスなどの進行に、ナトリウムおよび水分貯留作用のある神経ホルモンだけでなく、TNF-αおよびIL-6が関わっていることが動物実験でも示され、鬱血性心不全の発症過程にサイトカインが関与していることが裏付けられている。TNF-α過剰発現トランスジェニックマウスでは、左室拡張および左室肥大が起こり、そのため死期が早まることが分かっている。また、両側胸水、心筋細胞アポトーシスおよび心筋炎も起こる。IL-6およびIL-6受容体のいずれもが過剰発現するトランスジェニックマウスでも、心室肥大が見られる。

AKI発症後に起こる心機能低下にサイトカインが関与していることは、動物モデル実験で明らかにされている。ラットを用いた腎虚血再灌流モデルの実験では、心臓にTNF-α、IL-1およびICAMメッセンジャーRNAが増え、MPO活性が上昇することが分かっている。腎虚血再灌流から48時間以内に心臓超音波検査を行うと、左室拡張末期径および左室収縮末期径の増大と左室内径短縮率の低下が認められる。腎虚血再灌流モデルでは心筋アポトーシスが見られるが、両側腎摘除モデルでは見られない。抗TNF-α抗体を投与すると心筋細胞のアポトーシスが有意に抑制されるため、AKI後の心機能低下にはTNF-αが直接的に関与しているものと考えられている。最新の研究では、ヘムオキシゲナーゼ-1に細胞保護作用があることが明らかにされている。ヘムオキシゲナーゼ-1はヘムの分解に関わる酵素であり、酸化ストレスや低酸素によって誘導される。ヘムオキシゲナーゼ-1ノックアウトマウスに腎虚血再灌流を引き起こすと、非ノックアウトマウスと比べ糸球体濾過率が大幅に低下し、IL-6 mRNAの誘導が促進され、死亡率が上昇する。

虚血再灌流による軽度腎傷害は中等度以上の腎傷害と異なり、心筋虚血を防ぐ作用をもたらす。特定の冠動脈を閉塞させると、その冠動脈の灌流域だけに止まらない心筋保護作用がもたらされることが明らかにされたことをきっかけに、虚血プレコンディショニングが虚血部位とは離れた場所に及ぼす影響についての研究が行われるようになった。Ghoらは低体温下(30℃)で15分の腎虚血に曝露したマウスを用いた実験を行い、冠動脈閉塞後の心筋虚血域が対照マウスより縮小することを他に先駆けて示した。心筋保護作用が生ずる機序についてはいろいろな意見がある。神経節遮断作用のあるヘキサメトニウムが、遠隔部位虚血プレコンディショニング作用を打ち消すことから、プレコンディショニング作用の発現に神経を介する機序が関与しているという考えが示されている。また、心臓および腎臓のいずれにも虚血再灌流を起こしたウサギの血液を、何の操作もしていないウサギに投与すると心保護作用が得られることから、体液が関与する機序の可能性も指摘されている。そして、虚血に対する心筋保護作用は、全身的な抗炎症作用および抗アポトーシス作用の一部としてもたらされるものと考えられている。遠隔部位に虚血プレコンディショニング作用をおよぼすのは腎の虚血に限った話ではなく、骨格筋、脳、肝臓の虚血再灌流でも同様の効果が得られることが示されている。

教訓 AKI後の心機能低下にはTNF-αが直接的に関与しているようです。虚血再灌流による軽度腎傷害は中等度以上の腎傷害と異なり、心筋虚血を防ぐ作用をもたらします。

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AKIによる腎外遠隔臓器障害~消化管、肝 [critical care]

Acute Kidney Injury and Extrarenal Organ Dysfunction: New Concepts and Experimental Evidence

Anesthesiology 2012年5月号より

AKIと消化管機能障害

肝臓と小腸は門脈循環を介してつながっていて、AKI後の多臓器不全の進展に一体となって関与する。腸には免疫防御バリアという重要な機能があり、腸管内に大量に存在するTLRリガンド、サイトカインおよび細菌抗原などの炎症促進物質が門脈循環を経由して全身の血流へ広がるのを防いでいる。つまり、腸管のバリア機能が破綻すると、肝傷害が生じたり増悪したりするのである。このことは重症疾患では重大な問題となる。肝臓はタンパク合成、薬物代謝および解毒などの大切な代謝作用を司っているからである。

腎虚血再灌流と両側腎摘除のいずれにおいても、IL-17Aが制御を失い小腸で過剰発現する。IL-17Aは炎症促進サイトカインであり、アレルギー反応において好中球遊走、T細胞活性化およびTNF-αやIL-6などのサイトカインやケモカインの発現誘導といった重要な作用をもたらす。実際、AKIを発症したマウスでは、大量の好中球、マクロファージ(fig. 4)およびTリンパ球が小腸上皮および血管へ集積する。こういった炎症促進作用によって腸管バリア機能が破綻する。この状態でエバンスブルーを投与すると血管外漏出が観察される。そして、本当なら腸管内に止まっているはずの炎症促進物質が門脈循環内へ侵入し、炎症反応カスケードがさらに賦活化されて事態が悪化する。腸管バリアの破綻は腸絨毛の組織学的変化にもあらわれ、絨毛内皮のアポトーシス、絨毛上皮の壊死、絨毛毛細血管の鬱血および絨毛の萎縮といった所見が見られるようになる。絨毛のアポトーシスはTUNEL染色をすると確認できる。特に、血管周囲の内皮細胞では分かりやすい所見が得られる。

腸管で産生されたIL-17Aは門脈循環に流入し、肝臓においてTNF-αおよびIL-6の発現を促進する。このことは、肝組織におけるTNF-αおよびIL-6のメッセンジャーRNAの増加によって裏付けられる(fig. 5)。TNF-αおよびIL-6の発現量が増えると肝傷害が起こり、ASTおよびALTの血中濃度が上昇する。腎虚血再灌流および腎摘除のいずれによるAKIであっても肝傷害を引き起こし、組織学的には好中球浸潤、肝細胞空胞変性および門脈周囲壊死が出現する(fig. 6)。IL-17A、TNF-αまたはIL-6欠損マウス、もしくはIL-17A、TNF-αまたはIL-6の中和抗体を投与されたマウスでは、AKI後の肝傷害が起こらないという瞠目すべき知見が示されている。つまり、AKI後に起こる小腸におけるIL-17Aの産生および肝臓におけるTNF-αとIL-6の発現が、肝傷害を直接的に増強するものと考えられる。

肝臓における酸化ストレスの増大と活性酸素の産生量増加も、炎症反応の惹起と遷延において不可欠の役割を担っていると考えられている。腎虚血再灌流および両側腎摘除のいずれであっても、脂質過酸化のマーカであるマロンジアルデヒドが肝内で増加する。また、重要な内因性フリーラジカルスカベンジャーで肝保護作用を発揮するグルタチオンは、AKIが起こると減ってしまう。腎虚血再灌流を行うに先立ちグルタチオンを投与すると、投与しなかった場合よりも肝傷害による組織学的変化が緩和され、マロンジアルデヒド濃度が低下し、トランスアミナーゼが減少する。腎虚血再灌流は、ミエロペルオキシダーゼ、SODおよびカタラーゼなどの抗酸化酵素の濃度を低下させることも知られている。

腎臓-肝臓虚血再灌流による二重侵襲モデルの実験では、虚血または片側/両側腎摘除によるAKIを起こす上に肝臓にも虚血再灌流を施すモデルで、肝虚血再灌流に加え対照(sham)腎手術を行ったマウスと比べ、肝傷害が有意に重篤であることが示されている。この知見は、AKIに肝機能低下が合併すると転帰が悪化することを裏付けていると言えよう。

AKIが引き起こす腸管傷害および肝傷害を防ぐ上で抗炎症物質が死活的に重要な役目を担っていると考えられている。吸入麻酔薬のイソフルランには強力な抗炎症作用がある。マウスを用いた実験では、抗炎症作用がほとんどないペントバルビタールと比べイソフルランは腎虚血再灌流を軽減し、続発する腸管傷害および肝傷害も防ぐ作用があることが明らかにされている。この効果はスフィンゴシン-1-リン酸を介した直接的な作用であることが分かっている。スフィンゴシン-1-リン酸はGタンパク共役型受容体に結合するリゾリン脂質で、細胞の成長や生存を促し、アポトーシスを阻害する作用があることで知られている。

教訓 AKIはサイトカインを介して腸管のバリア機能が破綻させます。すると腸管内のTLRリガンド、サイトカインおよび細菌抗原などの炎症促進物質が門脈循環を経由して肝臓に至り肝傷害を引き起こします。
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AKIによる腎外遠隔臓器障害~肺 [critical care]

Acute Kidney Injury and Extrarenal Organ Dysfunction: New Concepts and Experimental Evidence

Anesthesiology 2012年5月号より

肺機能障害とAKI

AKIは二つの異なる機序によって肺に影響を及ぼす:炎症反応のカスケードが制御を失うことによる細胞膜の透過性亢進と、ナトリウム-カリウムポンプおよび水チャネル(アクアポリン)のダウンレギュレーションである。腎虚血再灌流後には尿細管細胞が傷害されTNF-αやIL-6が放出され血中濃度が上昇し(fig. 3)、腎摘除を行うと腎以外の細胞(Tリンパ球など)から同じようにTNF-αやIL-6が放出される。こうして生じたサイトカインが炎症反応による細胞傷害を引き起こし、急性相反応や肺、心臓および肝臓などの腎外臓器の傷害を招く主因となる。TNF-αおよびIL-6には、血管透過性亢進、白血球集簇および浮腫を引き起こす作用もある。

AKIが起こると炎症促進サイトカインが増え、このサイトカインが直接的に肺傷害を引き起こす。IL-6欠損マウスと野生型マウスにIL-6中和抗体を投与すると、腎虚血再灌流または腎摘除後の肺傷害が起き難くなる。また、好中球浸潤、毛細血管透過性、MPO活性および肺水腫がいずれも抑制される。反対に、野生型マウスにIL-6のみを投与すると肺傷害が生じMPO活性も亢進する。

AKI発症後に制御を失った炎症反応が生ずると、肺血管の透過性が亢進する。そのため、エバンスブルーを投与すると血管外漏出が観察される。血管の統合性が破綻すると肺組織の間質に水分が貯留し肺水腫となり、肺のメカニクスが劣化する。水分が血管外へ漏出し肺胞内に溜まるとサーファクタントの活性が失われ、肺コンプライアンスが一層低下する。マクロファージの炎症性サイトカイン放出を阻害するCNI-1493を投与すると血管透過性の亢進が抑制されることから、血管透過性の亢進にはマクロファージが一役買っているものと考えられている。

肺間質の浮腫を代償するために人体に備わっている機構が、ナトリウム-カリウムポンプによる能動的輸送とアクアポリンを通じた受動的拡散による水の移動である。しかし、虚血性AKIの場合は、肺において間質浮腫を起こすだけでなくナトリウム-カリウムポンプおよびアクアポリンにダウンレギュレーションをかけてこの代償機構を無効にしてしまう。また、アクアポリン活性を低下させた動物はVILIが起こりやすいことも分かっている。

腎虚血再灌流が起こると、肺の内皮細胞および上皮細胞のアポトーシスをはじめとする組織学的変化が生ずる。その他、肺水腫、肺胞出血および白血球集簇などの所見が見られる。両腎摘除後には以上のような変化は生じないとされていたが、後になってKleinらがAKIが両腎摘除によるものであれ虚血再灌流によるものであれ、肺間質浮腫や好中球浸潤が見られることを明らかにした。

教訓 AKIが起こると炎症促進サイトカインが増え、このサイトカインが直接的に肺傷害を起こします。炎症反応により肺の血管透過性が亢進する上に、ナトリウム-カリウムポンプおよびアクアポリンのダウンレギュレーションのため間質浮腫がなおりにくい状態に陥ります。
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AKIによる腎外遠隔臓器障害~動物実験 [critical care]

Acute Kidney Injury and Extrarenal Organ Dysfunction: New Concepts and Experimental Evidence

Anesthesiology 2012年5月号より

AKI動物モデル

AKIが腎以外の臓器に及ぼす影響の解明は研究分野として登場したばかりである。臨床研究を行おうと思ってもAKIは他の病態と密接にからみあって発生し複雑な過程をたどるため、研究するのがそもそも難しいため成果はまだあまり上がっていない。AKIの腎外波及による臓器不全の病態生理を解明するにあたり、腎傷害の動物モデルが利用されている。動物モデルであれば、ヒトを対象とした研究につきものの困難や実験上の制約にあまり縛られず、観測対象の変数を他の因子から独立させることができるため機序を理解するのに好都合であるからである。いろいろな動物モデルがあるが、中でも頻用されているのは腎虚血再灌流モデルと腎摘除モデルである。簡単かつ再現可能であり、傷害の程度を容易に調節することができるからである。腎虚血再灌流モデルは、腎動脈を一時的に遮断して作成する。このモデルでは、腎動脈上の大動脈瘤切除術、腎部分切除、腎移植、造影剤腎症、ショック、心停止などによって腎傷害が発生したときと似た状況を再現することができる。再灌流症候群は独特な特徴のある病態を呈し、傷害の生じた尿細管がサイトカインやケモカインの主な発生源となる。再灌流後には、内皮障害の程度に応じた血管作動性メディエイタの調節が失調に陥り腎血流量が最大50%も低下する。このため間質浮腫が発生し白血球が間質へ遊走する。一方、片側もしくは両側腎摘除によって作成されたモデルは、AKIの根本的特徴である腎機能低下もしくは喪失による影響を、再灌流障害のない状態で再現したい場合に用いられる。

その他にも、腎毒性物質や敗血症による腎傷害モデルがあるが、腎以外の臓器へのAKIの影響を検討するのに用いられることは少ない(table 1)。こういったモデルは臨床でAKIが発生するのと似た状況を再現することができるが、マウスに腎毒性物質を投与したり敗血症を起こしたりすることによって、望ましい形でAKIを引き起こすことは一筋縄ではいかないため、実験で用いるには適していない。造影剤腎症を例に挙げると、造影剤投与のみによっては期待するような腎傷害は発生しがたいため、造影剤投与に先立ち、他の腎毒性物質を投与する上に虚血まで引き起こさなければモデルを作成できないことが多いのである。同様に、ゲンタマイシンの腎毒性を研究する場合も、グラム陰性菌による敗血症などを引き起こした上でゲンタマイシンを投与してモデルが作成されている。

腎傷害の動物モデルを用いる研究には、動物種の違いに由来する複数の問題点がある。ヒトでは低血圧やショックによって腎血流量が低下すると虚血性尿細管壊死が起こることが多い。しかし、ラットでは高度低血圧が長時間続いても普通は腎傷害を来さない。そのため、「単一侵襲」動物モデルの作成にはふさわしくない。一方、ヒトでは虚血再灌流が起こっても部分的にわずかな組織学的変化が生ずるだけであるが、同程度の侵襲がラットに与えられると近位尿細管が広汎かつ高度な壊死に陥る。つまり、実際の症例では複数の要因によってAKIが発生していると考えられるが、腎虚血再灌流や腎摘除などの「単一侵襲」によるAKIモデルでは、こういった状況を反映することができないのである。

動物モデルには以上のような困難や問題がつきまとう。しかし、AKIが腎臓だけの問題ではなく、好中球遊走、サイトカイン発現および酸化ストレスの増強などの炎症促進作用を波及させ、肺(table 2)、心臓肝臓、腸管および脳(table 3)などの他の臓器の機能をも障害するということを明らかにする上で、AKI動物モデルを用いた実験は一役買ってきた。(fig. 2)。標的となる終末臓器へ向けて好中球が血管外へ遊走する現象は、急性炎症に伴う自然免疫反応に特徴的である。この現象はサイトカイン発現におけるアップレギュレーションをもたらし、直接的に終末臓器を傷害する。その結果、血管透過性が亢進する。アルブミンに対して高い親和性を持つ染料であるエバンスブルーを静注すると通常は血管内に残るが、血管の統合性が破綻していると血管外に漏出する。そのため、エバンスブルー投与によって血管透過性の程度を評価することができる。さらに、炎症部位には活性化好中球が存在し、活性酸素を産生し抗酸化能を低下させるため、サイトカインによる傷害に拍車がかかる。

教訓 AKI動物モデルを用いた実験によって、AKIが好中球遊走、サイトカイン発現および酸化ストレスの増強などの炎症促進作用を遠隔部位に波及させ、肺、心臓、肝臓、腸管および脳などの他臓器の機能をも障害するということが明らかにされました。
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AKIによる腎外遠隔臓器障害~臨床 [critical care]

Acute Kidney Injury and Extrarenal Organ Dysfunction: New Concepts and Experimental Evidence

Anesthesiology 2012年5月号より

急性腎傷害(AKI)はICUに収容された重症患者の5%-20%に発生する。ICUでは、ほかの病態を併発していない単純なAKIのみの症例にお目にかかることは稀で、たいていの場合は敗血症や呼吸不全などの経過中にAKIが起こり、得てして多臓器不全に進展するものである。近年、腎代替療法が進歩を遂げているが、AKIを発症し多臓器不全に至った患者の死亡率はおよそ50%であり、依然として低下の兆しを見せていない。臨床研究で得られた最新の知見によれば、AKIは重症度の指標であるだけでなく、多臓器不全に先駆けて発生する病態であり、AKIが起こると死亡率の大幅な上昇につながることが明らかにされている。したがって、AKIが腎臓以外の臓器に特異的な影響を及ぼし多臓器不全を進展させたり増悪させたりする機序が解明されれば、AKI症例の死亡率を低下させる治療的介入の確立につながる可能性がある(fig. 1)。本レビューでは、多臓器不全を伴うAKIに関する臨床的知見と動物モデルを用いた腎傷害発生機序の解明に関する最近の成果について手短に検討、紹介する。

臨床におけるAKI

つい最近までAKIには統一された定義がなかったため、発生頻度や死亡率には大きなばらつきがあった。Acute Dialysis Initiative Group(ADQI)が2004年にRIFLE分類を提唱した。この分類は、血清クレアチニン濃度、糸球体漉過率もしくは尿量の変化を元にして「急性腎不全」患者の重症度を区分する統一した方法を示すことを狙いとして策定された。その後、Lassniggらによる前向き観測研究をはじめとする諸研究が行われ、わずか0.3mg/dLほどであってもクレアチニン値が上昇すると死亡率が増大することが明らかになった。そして、Acute Kidney Injury Networkは臨床的に問題とされる軽症から重症までの幅広い程度の腎傷害を表すのに、「急性腎不全(acute renal failure)」の代わりに「急性腎傷害(acute kidney injury)」という用語を新しく掲げた。

以上の動向と時を同じくして、基礎研究および臨床研究の両者で新しい知見が積み重ねられ、単一臓器の機能不全というAKIについての従来の見方が変わり、多臓器不全の進展に腎機能の低下が深く関与していると見なされるようになった。Lianoらが他に先駆けて行った前向き多施設研究ではAKIの疫学的特徴が検討され、ICU入室患者のうちAKIを発症した患者では「AKIによる死亡率」が56%にも上ることが分かった。「AKIによる死亡率」とは、AKI以外の併存病態によっては説明がつかず、腎傷害による影響のみによってもたらされる死亡率という意味である。また、Levyらは同じような病態、同じような生理学的重症度スコアの患者を比較することによって重症度を調整して多変量解析を行い、AKIが死亡率を上昇させることを示した。さらに、腎不全が、敗血症、呼吸不全、意識レベル低下、出血などの他の病態に先行して発生することが明らかになり、多臓器不全発症のごく初期にAKIが起こることが分かっている。最近ではより大規模の多施設症例対照研究が行われて以上の知見と同様の結果が得られ、腎代替療法を要する患者の死亡率は対照患者の2倍にのぼることが報告された。重症度が「余すところなく判定されきっていない」可能性はあるものの、以上に紹介した研究を受け、AKIを発症する患者では重症度とは関係なく腎傷害そのものによって死亡リスクが増大するという見解が広まった。

なぜAKIが多臓器不全の先鞭をつけ、死亡率を押し上げるのであろうか?腎傷害が腎以外の臓器に及ぼす影響のうち、臨床領域で最もよく知られ研究も進んでいるのは呼吸不全である。AKIが起こると肺傷害の回復が滞り、人工呼吸器離脱の足枷になることが分かっている(人工呼吸期間 AKI群41日 vs 非AKI群21日)。非乏尿型のAKIであっても人工呼吸器からの離脱が遅れるため、体内水分量ではなく腎傷害そのものが死亡率を上昇させる原因となっていると考えられている。体内水分量の管理は腎機能が低下していると困難になるが、体内水分量の管理が不良であればさらに死亡率は上昇する。Payenらは観測研究を行い、水分出納がプラスであると死亡率が上昇するという結果を報告している。しかし、VA/NIH Acute Renal Failure Trialネットワークが行った多施設無作為化試験では、強化腎代替療法を行っても、低強度腎代替療法を行った場合と比べ、死亡率や多臓器不全発生率は低下しないことが明らかにされている。

教訓 AKIを発症し多臓器不全に至った患者の死亡率はおよそ50%です。AKIは腎臓という単一臓器の機能不全であるに止まらず、多臓器不全の進展に深く関与しています。
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