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女性供血者のFFPはTRALIの原因 [critical care]

Critical Care Medicine 2008年6月号より

Acute lung injury after ruptured abdominal aortic aneurysm repair: The effect of excluding donations from females from the production of fresh frozen plasma.

輸血関連死亡の原因として最も多いのはTRALI(輸血関連急性肺障害)である。TRALIは供血者の抗体と受血者の白血球または内皮細胞の抗原決定基が反応し白血球を介して内皮細胞が傷害される結果、肺微小血管透過性が上昇することによって発生することが多い。女性供血者の血液から製造された新鮮凍結血漿(FFP)は、特にTRALIを発生しやすいと指摘されている。女性供血者の15%から17%、二人以上の出産経験のある経産婦では25%に抗白血球抗体が認められるが、男性供血者に抗白血球抗体が認められることはほとんどない。

2003年7月、UKでは可能な限り女性供血者の血漿からはFFPを製造しないという方針を固めた。米国血液銀行も同様の措置を早急に講ずるべきであると発表した。女性供血者血漿の除外後、UK国内におけるTRALI報告件数は減少した。しかしTRALIが発生しても、輸血以外のALI危険因子が存在する場合は特に、正しく診断されなかったり報告されなかったりすることが往々にしてあると指摘されている。TRALIがALI/ARDSの原因の一つであるとするならば、男性供血者の血漿からのみFFPを製造することにより、多量のFFPを投与される症例におけるALI発生頻度が低下すると考えられる。腹部大動脈瘤破裂による緊急手術では大量のFFPが使用されることが多く、このような患者群におけるALI発生の要因の一つとしてTRALIが推測される。腹部大動脈瘤破裂症例におけるALI発生頻度の単一施設における変化を、女性供血者血漿排除前後で比較した。

1998年から2006年にFreeman Hospital(Newcastle upon Tyne, UK)で腹部大動脈瘤破裂の緊急手術を受けた患者を対象とした。術後の胸部写真を2名の放射線科医が別々に読影した。一次転帰は術後6時間以内のALI発症とした。二次転帰は低酸素症(P/F<300)、抜管までの時間、術後30日生存とした。各患者につき、投与された血液製剤の番号と供血者数を記録した。血液センターはこのデータをもとに供血者の性別を明らかにした。UK全体に女性供血者血漿の排除が浸透したのは2006年終わり頃のことであった。FFPの保存有効期限は12ヶ月であり、本対策施行以前に女性供血者血漿から製造されたFFPは廃棄されなかった。2004年以降、FFPの99%以上、血小板製剤の93%以上が男性供血者の血液から製造された。これ以前はFFPおよび血小板製剤の供血者は男性と女性が半々であった。

1998年8月1日から2006年1月31日までに腹部大動脈瘤破裂の緊急手術を受けた患者が254名存在した。記録が全て残っていたのは211名であった。129名が女性供血者血漿排除以前、82名が以後の患者であった。両群とも周術期に同等量の輸液および輸血が実施された。FFPはそれぞれ6単位、4単位(中央値)が投与された(P=0.023)。中心静脈圧は同等であった。ノルエピネフリンの使用率には有意差があり、それぞれ8.5%、24.4%であった(P<0.01)。アプロチニンは3%、5%の症例で使用された。男性供血者の血液から製造したFFPを主に使用するようになってから、ALI発生頻度が有意に低下した(21% vs 36%, P=0.04)。手術6時間後の低酸素症(P/F<300)発生頻度は男性FFP導入後の方が有意に低かった(62% vs 87%, P<0.01)。抜管までの時間と30日生存率については有意差は認められなかった。生存退院率は男性FFP導入前が49%、導入後が50%であった。ALI発症患者は、そうでない患者と比べ30日生存率が低かった(59% vs 80%, P<0.01)。多変量解析の結果、供血者を男性に限る方針の導入と、ALI発生リスク低下には強い相関が認められた(オッズ比0.39; 95%CI, 0.16-0.90)。

男性供血者血液からのみFFPを製造することによって腹部大動脈瘤破裂の緊急手術症例のALI発生頻度が低下した。多変量解析による交絡因子の調整を行ってもこの効果は臨床的にも統計学的にも有意であった。TRALIは血漿製剤5000単位使用につき1例発生すると見積もられていたが、近年では広く認識されるようになり報告件数も増えている。Mayoクリニックからの報告では頻度はもっと高いとされている。Gajicらは、女性供血者から採取した血漿製剤を使用するとガス交換が悪化し、男性供血者のものだと悪化しないと報告している。また、集中治療室入室患者を対象とした小規模な前向き無作為化比較対照試験では、男性供血者と経産供血者の血漿から製造した血液製剤を比較し、経産供血者の血漿を使用した群の方が呼吸機能が悪化するという結果が得られている。

腹部大動脈瘤破裂症例におけるALI発生原因は複雑で、輸血以外の要因も関与している。低容量性ショックと虚血再灌流傷害によって好中球が活性化されることも一因である。輸血の影響と、その他の要因の影響を区別することは困難だが今回の結果から、TRALIが腹部大動脈瘤破裂症例のALIにおいて重要な役割を演じていると言えよう。

今回の単一施設における観測研究では交絡因子の影響が排除しきれていない可能性がある。虚血再灌流傷害は肺障害の一因であるが、大動脈遮断時間は緊急手術であることもあり記録がきちんとされていないことも多かったためデータを収集しなかった。ただしその代替となる指標である手術時間には有意な変化は認められなかった。輸液総投与量には有意差はなかったが、男性供血者方針導入前の方がわずかに晶質液投与量は多かった。しかし、輸血輸液総量が約9Lに対し、晶質液投与量の差は650mLでありこれがALI発生に影響を及ぼしたとは考えがたい。さらに、多変量解析では晶質液投与量とALI発症とは相関しないことが分かった。同様に、男性供血者方針導入後の方が膠質液投与量が少ない傾向があったが、多変量解析では膠質液投与はALI発症とは相関しなかった。研究対象期間において輸血製剤使用の院内プロトコルに変更はなかった。人工呼吸管理法の変化について詳細に検討したが、低一回換気量および高いPEEPへのシフトは認められなかった。治療法に関して変化があったのは、ノルエピネフリン使用の増加であるが、これは、循環動態不良の症例が男性供血者方針導入後の方が多かったからではなく、近年のUK国内におけるノルエピネフリン使用の広がりを反映しているものと考えられた。ノルエピネフリンとALI発症には相関は認められなかった。

UKはTRALIを減らすため男性供血者血液からのみ血漿製剤を製造する方針を導入した最初の国である。TRALIの報告件数が少ないことを踏まえると、女性供血者血漿を排除したことのみによって今回のようにALI発生頻度が低下するとは考えがたいという意見もあるであろう。抗白血球抗体はUKの女性供血者の15%から17%(6人に1人)に存在する。2003年7月以前は、FFPの半分が女性供血者の血漿から製造されていたためFFP12単位につき1単位に抗白血球抗体が含まれていたことになる。腹部大動脈瘤破裂の緊急手術では中央値で6単位のFFPが投与されていた。したがって、半数の患者が抗白血球抗体に曝露されたと考えられる。UKの供血者における抗体の種類と出現頻度を踏まえると、抗白血球抗体を含む血漿製剤3単位につき1単位の抗体は受血者の抗原と適合する。したがって、FFPを6単位投与された患者6人につき1人において抗体抗原不適合が起こりALIが発生するものと推測される。この確率は本研究の結果、Mayoクリニックの報告、Palfiらの報告とも一致する。

教訓 英国紳士は女性の分まで血液を提供しなければならず大変です。
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小児頭部外傷に低体温療法は無効 [critical care]

NEJM 2008年6月5日号より

Hypothermia Therapy after Traumatic Brain Injury in Children

小児外傷性脳損傷患者18名を対象とした約半世紀前の症例集積研究で、低体温療法によって転帰が改善する可能性があることが指摘された。小児外傷性脳損傷患者を対象とした無作為化試験は今までに二編が実施されている。二編で計96名の小児重症外傷性脳損傷患者について調査が行われ、低体温療法は安全に施行することが可能で、重篤な有害事象発生の有意な増加は認められないと報告されている。しかしこれら二編の研究は、生存率や神経学的転帰の改善については有意な効果があるという結果を示すには至らなかった。Marionらの行った単一施設における無作為化試験では、外傷性脳損傷で入院時GCSが5-7点の成人患者からなるサブグループにおいて24時間の低体温療法によって死亡、植物状態の固定、重度の障害などの不良転帰リスクが上昇するという結果が得られた。我々は以上の結果を受けて間もなく、小児を対象とした24時間低体温療法の有効性を検証する研究を開始した。本研究では、小児重症外傷性頭部外傷症例において、受傷後8時間以内に24時間低体温(32-33℃)療法を実施すると、正常体温(36.5-37.5℃)と比較し受傷6ヶ月後の不良転帰リスクが低下するという仮説を検証した。

三ヶ国17施設で調査を行った(カナダ、UK、フランス)。1-17歳の重症外傷性頭部外傷症例(事故現場または救急外来でGCS 8点以下、CTで頭部外傷の所見あり、人工呼吸を要する)を対象とした。入院時評価が一通り終了し患者の状態が安定した時点で治療群の無作為化割当を行った。年齢(7歳未満と7歳以上)と施設についての層別化を実施した。表面冷却によって低体温を導入し、食道温を24時間にわたり32.5±0.5℃に維持した。2時間で0.5℃ずつ復温した。復温後および正常体温群の体温は37±0.5℃に維持した。転帰が不良であった患者の割合を主要転帰とした。転帰不良とは、6ヶ月後における重度の後遺症、植物状態の固定または死亡と定義した。主要転帰の他に、可能であれば知能、記憶、情報処理速度を調査した。血圧、頭蓋内圧、体温管理以外の治療法、ICU滞在期間、入院期間、有害事象(低血圧、感染、出血、不整脈、電解質異常)発生頻度も記録した。

1999年2月から2004年10月までに総計1441名の重症頭部外傷患者が研究参加施設の小児ICUに収容された。そのうち327名(23%)が対象候補基準を満たし、保護者の同意が得られた225名(69%)が無作為化割当の対象となった。108名が低体温群、117名が正常体温群に割り当てられた。頭蓋内圧モニタリングが行われなかった患者は7名であった(低体温群3名、正常体温群4名)。低体温群108名のうち実際に低体温が導入されたのは102名で、割当後24時間の体温は33.1±1.2℃に維持された。受傷後6.3±2.3時間後(1.6-19.7時間後)に冷却が開始され、冷却開始後3.9±2.6時間(0.0-11.8時間)で目標体温に到達した。24時間低体温維持後に目標体温まで復温するのに要した時間は18.8±14.9時間(2.5-148.0時間)であった。正常体温群で正常体温(36.9±0.5℃)を24時間維持できたのは117名のうち114名であった。正常体温群に割り当てられた患者のうち低体温療法を行われた例はなかった。割当後24時間に高張食塩水を投与された患者は正常体温群の方が有意に多かった。低血圧のため昇圧薬を投与された患者は低体温群の方が有意に多かった(復温期)。主要転帰が判明したのは205名(91%)であった。6ヶ月後の転帰が不良であったのは、低体温群102名中32名(31%)、正常体温群103名中23名(22%)であった(低体温群の不良転帰に関する相対危険度1.41; 95%CI, 0.89-2.22; P=0.14)。 6ヶ月後転帰が不明であった20名について、低体温群が全員転帰不良、正常体温群が全員転帰良好であったとすると低体温群の方が有意に転帰が不良で(P=0.001)、低体温群が全員転帰良好、正常体温群が全員転帰不良とすると有意差は認められなかった(P=0.82)。ロジスティック回帰分析を行い小児外傷性脳損傷の転帰に関与する臨床因子について調整すると、低体温群における転帰不良についての調整オッズ比は2.33であった(95%CI, 0.92-5.93; P=0.08)。7歳以上のサブグループについての解析では、低体温群の方が転帰不良リスクが正常体温群より高かった(RR, 1.71; 95%CI, 0.96-3.06; P=0.06)。年齢を問わず頭蓋内圧が20mmHg未満であった患者群でも低体温群の方が転帰不良リスクが高かった(RR, 2.12; 95%CI, 1.07-4.19; P=0.03)。両群とも受傷後経時的にPediatric Cerebral Performance Category score(小児脳機能カテゴリースコア)は改善したが、受傷後1、3、6、12ヶ月後のスコアは正常体温群の方が低体温群より良好であったが有意差はなかった(P=0.07)。死亡したのは低体温群23名(21%)、正常体温群14名(12%)であった(低体温群の死亡に関する相対危険度1.40; 95%CI, 0.90-2.27; P=0.06)。低体温群の死亡に関する調整前のCox比例ハザード比は1.84で、小児外傷性脳損傷の転帰に関わる臨床因子調整後の死亡ハザード比は2.36であった(P=0.04)。低体温群の冷却期間中の頭蓋内圧は正常体温群よりも有意に低く、低体温群の復温期間中の頭蓋内圧は正常体温群よりも有意に高かった。心拍数は低体温群の方が有意に少なかった。低体温群復温期は正常体温群よりも低血圧発生頻度が有意に大きく、平均動脈圧および脳灌流圧が有意に低かった。生存患者についての追跡調査では、受傷後12ヶ月後の視覚長期記憶は低体温群の方が有意に劣っていた。割当後24時間の血糖値は低体温群の方が正常体温群より有意に高く (171±91.9mg/dL vs 138.7±46.8mg/dL)、血小板数が有意に少なく、乳酸値が有意に高く(11.7±7.2mg/dL vs 9.0±5.4mg/dL)、プロトロンビン時間が有意に延長していた。

小児重症頭部外傷患者に対し受傷後8時間以内に24時間低体温療法を実施しても6ヶ月後の機能転帰は改善しないことが、今回実施した多施設無作為化比較対照試験で明らかになった。低体温療法が実施された患者群の方が、死亡率が高い傾向が認められ、機能転帰、神経心理学的転帰、ICU滞在期間、入院期間および有害事象発生頻度などの副次転帰のいずれについても低体温療法の利点は見いだせなかった。今回の研究を実施している途上で、392名の成人重症外傷性脳損傷患者を対象とした低体温療法に関する論文をCliftonらが発表した。この研究では48時間低体温療法による生存率や機能的転帰の改善は得られず、むしろ重篤な低血圧などの合併症が多いという結果が報告された。成人の低体温療法に関する系統的レビュー4編のうち3編でも、外傷性脳損傷症例に対する低体温療法の有効性は認められないと結論づけられている。我々が今回行った研究の問題点の一つは、低体温導入までに6.3時間も要していることである。受傷後早期に低体温にするほうが効果があるということが動物実験では示されているが、患者搬送に要する時間や医療資源の分布などを考慮するとこれ以上短時間での低体温導入を目指すような研究の実施は困難である。また、今回の対象患者のうち比較的早期に低体温を導入された患者について解析しても、低体温療法の有効性は認められなかった。第二の問題点として、今回は成人における研究結果を基に低体温維持時間を24時間としたが、一編の系統的レビューでは48時間の低体温療法により生存率と神経学的転帰が改善すると指摘されている。第三の問題点は対象患者数が少なかったことである。一方、今回の研究の長所は、両群の頭蓋内圧制御および輸液管理に異同がなかったことと、6ヶ月後転帰が不明であった患者が全体の10%未満であったことである。

小児重症外傷性脳損傷に対する受傷後8時間以内の24時間低体温療法は無効である。より早期の低体温導入や、より長時間の低体温維持による小児重症外傷性脳損傷の転帰改善効果の有無を明らかにするにはさらに研究を実施する必要がある。

教訓 小児でも頭部外傷に対する低体温療法は実施しない方がよさそうです。

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敗血症と左室壁運動低下 [critical care]

Critical Care Medicine 2008年6月号より

Actual incidence of global left ventricular hypokinesia in adult septic shock.

敗血症に伴い急性心筋障害が発生することがはじめて示されたのは1984年のことである。敗血症によって心原性ショックと見紛うほどの重度の心筋障害が起こることもあるが、通常は可逆性である。一般的な敗血症性ショック治療ガイドラインでは、血管内容量の維持とドパミンやノルエピネフリンなどの血管収縮薬の使用に主眼が置かれていることが通例である。敗血症性ショックの管理における強心薬の必要性が顧慮されることは少ない。我々の施設では敗血症患者の循環管理に経食道心エコー(TEE)を使用することが慣例になっており、敗血症症例の急性左室壁運動低下の発生頻度を正確に知ることが可能であることから、3年間にわたり前向きにTEE所見を検討した。

敗血症性ショックで循環不全を呈し人工呼吸器を使用している患者全員にTEEを実施した。66%の症例において血液培養で起因菌を同定することができた。循環不全の定義は、適切な容量管理を行ったにも関わらず橈骨動脈収縮期圧が90mmHg未満の場合とした。TEEはベッドサイドでのTEEを日常的に2年間以上実施した経験のある上級医がおこなった。TEEはICU入室日(day1)、血管収縮薬投与開始から12-24時間後(day2)、血管収縮薬投与開始から48時間後(day3)、血管収縮薬が完全に不要になった時点(day n)の4回実施した。びまん性左室壁運動低下の定義は長軸像でのLVEFが45%未満の場合とした。通常、最初のTEE実施時にはすでにノルエピネフリンの投与が開始されていた。びまん性左室壁運動低下が認められる場合はドブタミンを追加した。したがってday2とday3のTEEはノルエピネフリンのみか、ノルエピネフリン+ドブタミン投与下で行った。ノルエピネフリンのみを投与されている患者のday2またはday3のTEEでびまん性左室壁運動低下が観られた場合はノルエピネフリン投与量を減らしドブタミンを追加した。それでも橈骨動脈収縮期圧が90mmHg以上を維持できない場合はエピネフリン単剤投与とした。

2004年1月から2006年12月までに67名の敗血症性ショック患者が入室し本研究の対象となった。43例がALI、24例がARDSであり、すべてprotective lung strategyで管理した。起因菌は22例がグラム陽性菌、22例がグラム陰性菌であった。広域スペクトラム抗菌薬とステロイド投与、場合によっては緊急手術を実施しても37名において代謝性アシドーシスが進行したため早期に血液濾過を開始した。血液濾過によっても循環動態が改善しなかった13名にはDrotAAを投与した。全体の28日死亡率は35%であった。生存例と比較し死亡例の初回平均心係数は有意に高かった(3.1 vs 3.8, P=0.017)。day1にびまん性左室壁運動低下を示したのは26名であった。当初LVEFが正常範囲内でノルエピネフリンのみを投与されていて、day2またはday3になってからびまん性左室壁運動低下を呈したのは14名であった。以上から、対象となった敗血症性ショック患者におけるびまん性左室壁運動低下発生頻度は60%であった。

平均0.8±0.7mcg/kg/minのノルエピネフリンが投与された。左室壁運動低下がある場合は、ノルエピネフリン投与量は平均0.5±0.5mcg/kg/minに減らされ、30名にはドブタミン5.4±1.7mcg/kg/miが追加投与され、10名にはエピネフリン0.7±0.6mcg/kg/minが投与された。ドブタミンもエピネフリンもLVEFを有意に上昇させたが、心係数の増加はエピネフリン投与例でのみ観察された。67名のうち44名は4±2日で心血管作動薬が不要となった。右室の壁運動は左室と同様の変化を示した。

敗血症性ショック症例の60%において、治療開始から3日以内にびまん性左室壁運動低下が認められることが明らかになった。今回の研究では、day1における死亡例の心係数が生存例より有意に高かったことから、心拍出量が高いほど重症であると考えられる。1984年のParkerらの報告でも、敗血症症例のびまん性左室壁運動低下は可逆性であり予後を悪化させる要因ではないが、左室収縮能が低下していない患者は死亡率が高いとされている。我々が実施した経胸壁心エコーを用いた調査では、死亡症例は生存症例と比べLVEFが有意に高く、LVEDVが有意に小さい上に輸液負荷によって是正され難いことが明らかにされている。敗血症性ショックで壁運動低下が認められない場合は予後が悪いことは強調されるべき点である。

現在、敗血症性ショックの管理においては、血管内容量適正化後の循環動態維持の第一選択薬はノルエピネフリンである。しかし、当初は左室壁運動が正常であった患者の34%がノルエピネフリン投与開始24時間後または48時間後にはびまん性左室壁運動低下を呈したことは留意すべき点である。この変化は、敗血症自体の経過によるものなのかもしれないが、ノルエピネフリンが影響を与えている可能性も念頭に置くべきである。ノルエピネフリンは後負荷を増加させるため左室収縮能を低下させる可能性がある。ノルエピネフリン投与によって動脈圧が一旦安定した後に、再び下降する場合はびまん性左室壁運動低下の関与を考慮すべきである。今回のデータはTEEから得たが、TEEではなく経胸壁心エコーでも我々が行っているのと同様の日常的評価が可能である。

教訓 敗血症性ショックの循環動態管理には心エコー所見も参考にするといいようです。壁運動低下が認められないときは要注意です。

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急性肺傷害の輸液管理 少なめvs多め [critical care]

NEJM 2006年6月15日号より

Comparison of Two Fluid-Management Strategies in Acute Lung Injury
The National Heart, Lung, and Blood Institute Acute Respiratory Distress Syndrome (ARDS) Clinical Trials Network

 毛細血管透過性亢進による肺水腫は急性肺傷害のもっとも特徴的な所見であり、血管内静水圧上昇および膠質浸透圧低下により増幅される。急性肺傷害における最適な輸液管理法は未だ確立されていない。我々は、前向き無作為臨床研究を行い、急性肺傷害患者を血管内圧(PAOPまたはCVP)が低い群と高い群に分けて二つの輸液管理法の利点と欠点について調査した。一次転帰は60日後の死亡とした。

 患者を制限輸液群または大量輸液群に無作為に割り当てた。同時に2×2分割に従い肺動脈カテーテル使用群または中心静脈カテーテル使用群に無作為に割り当てた。挿管され陽圧換気で管理されておりP/Fが300未満(標高1000m以上では補正)、胸部写真で両側浸潤影を認め左房圧上昇の徴候がない患者を研究対象として選択した。

 無作為化割当から1時間以内にARDS Network低一回換気量プロトコルに準拠した人工呼吸管理を開始し第28日まで継続した。人工呼吸離脱もプロトコルに添って実施した。無作為化割当から4時間以内に該当するカテーテルを挿入した。カテーテル挿入から2時間以内に決められた血行動態管理を開始し、7日間もしくは人工呼吸器離脱12時間後まで継続した。心血管系、腎臓、肝臓、凝固系の障害および人工呼吸の要否を毎日評価した。肺傷害の重症度はMurrayらの方法によって点数化して表した。この方法はゼロから4点までの点数で重症度を表し、点数が低いほど肺機能が良いことを示す。

 本研究では北米の20施設で2000年6月8日から2005年10月3日までに診療を受けた患者を審査し1001名が対象となった。制限輸液群の方が大量輸液群よりフロセミド使用頻度が高く(41% vs 10%, P<0.001)、反面、輸液ボーラス投与の頻度は大量輸液群の方が高かった(15% vs 6%, P<0.001)。フロセミド使用量は制限輸液群の方が多かった。制限輸液群の29%、大量輸液群の39%において少なくとも一度輸血が行われた(P<0.001)。全期間を通じ、大量輸液群の方が制限輸液群より輸液量が有意に多く、第1日から第4日までは大量輸液群の方が尿量が少なく、そのため水分出納の総計が大きかった。7日間水分出納総計は、制限輸液群が-136±491mL、大量輸液群が6992±502mLであった(P<0.001)。血圧は、制限輸液群では低下し、大量輸液群では概ね変化を認めなかった。制限輸液群は大量輸液群と比べ、平均動脈圧、一回拍出量および心係数がわずかながら低かったが、心拍数、混合静脈血酸素飽和度、昇圧薬使用患者の割合については両群で同等であった。無作為割当時にショックであった患者は、両群とも約40%がその後の測定でもショックの基準を満たしていた。基準時点においてショックでなかった患者の研究開始以降のショック発症頻度については有意差を認めなかった(大量輸液群32%、制限輸液群28%, P=0.29)。制限輸液群の方が肺損傷スコアが低く酸素化指標が良好であるとともに、プラトー圧およびPEEPが低かった。全期間を通じ制限輸液群は大量輸液群よりもクレアチニン値がわずかに高かったが、有意差は認められなかった(P=0.06)。BUN、ヘモグロビン、アルブミン、重炭酸、膠質浸透圧の理論値については、制限輸液群の方が全期間を通じ高値を示した。代謝性アルカローシスおよび電解質異常は有害事象として報告された。これらの有害事象は大量輸液群(19例、うち1例は重篤)より制限輸液群(42例、うち3例は重篤)に多く発生した(P=0.001)。

 無作為化後60日間の院内死亡率は、制限輸液群が25.5±1.9%、大量輸液群が28.4±2.0%であった(P=0.30)。制限輸液群の方が無作為化後28日間の人工呼吸器非使用日数、中枢神経系に異常を認めない日数、ICU非在室日数が長かった。中枢神経系以外の臓器不全については両群間に差はなかったが、当初7日間の正常循環動態日数は大量輸液群の方がわずかに長かった(0.3日)。当初60日間に血液浄化法を施行された患者数(制限輸液群10% vs 大量輸液群14%, P=0.06)、血液浄化法実施日数(11.0±1.7 vs 10.9±1.4, P=0.96)にはともに有意差は認められなかった。

 一次転帰である60日後死亡率については制限輸液群と大量輸液群の間に有意差を認めなかったものの、制限輸液群の方が肺機能を改善し、人工呼吸管理日数を短縮し、肺以外の臓器障害を増すことなくICU滞在日数を短縮することが分かった。大量輸液群の7日間総水分出納量(6992±502mL)が、輸液管理について特に規定を設けずに行ったARDS Network研究対象患者における水分出納量と匹敵していることに注目すべきであろう。これと同じような結果が1987年にSimmonsらによって発表されていることを考慮すると、大量輸液を基本とする輸液管理法が長年に亘って臨床の現場で行われてきたものと類推される。研究開始前の基準時点で測定した中心静脈圧(12.1mmHg)および肺動脈閉塞圧(15.7mmHg)は、両者とも大量輸液群における目標値(それぞれ10から14mmHg、14から18mmHg)を満たしているという点においても、実際に臨床で広く行われている輸液管理法は今回の研究における大量輸液群の輸液管理法と通底していると考えられる。
 
 利尿剤および輸液量制限により肺機能が改善したとする動物実験や、水分出納量が少なく肺動脈閉塞圧が低いほど生存率が上昇するというヒトを対象とした観察研究の結果と、今回の研究結果とは矛盾なく合致している。Mitchellらは肺水腫患者89名を血管外肺水分量を指標として利尿薬投与と輸液制限を行う群または通常の輸液管理を行う群に無作為に割り当てて研究を行い、輸液制限群の方が水分出納量が少なく、人工呼吸使用日数およびICU滞在日数が短いという結果を得た。Martinらは低タンパク血症を伴う急性肺損傷患者37名を5日間にわたりフロセミドと膠質液投与を行う群またはプラセボ投与群のどちらかに無作為に割り当てた。この研究ではフロセミドと膠質液を投与された群では24時間以内にP/F比が改善したという結果が報告されている。我々の研究の制限輸液群において、肺水分量を指標としてプロトコル指示を設定したり、膠質液投与量を増やしたりしていたとしたらよりよい結果が得られていたのかもしれないが、その当否は不明である。本研究のプロトコルは研究実施に伴う危険性をできる限り低減するように設計されたものである。患者がショックの状態にあるときには、担当医は各々が通常行っている通りに治療した。制限輸液群では循環動態および腎機能が悪化する可能性が憂慮されたため、輸液負荷後またはショック離脱後12時間は利尿薬投与を禁止し、乏尿または循環動態不良の場合は迅速に輸液負荷を行うよう取り決めた。利尿薬投与量は患者それぞれの反応を観察しながら滴定し、一日最大投与量を定め、腎機能の低下傾向がある患者では利尿薬を投与しなかった。過剰輸液を防止するため、ショック状態ではない患者に対してはプロトコル規定ボーラス輸液投与を一日三回までとし、著しい低酸素血症(FIO20.7以上)または心係数4.5L/min/m2以上でショックのない患者にはボーラス投与を行わなかった。我々はいくつもの変数を設定し、幾重もの安全保持手段を講じた独自の輸液管理方法について検証したので、単に水分出納をゼロにするという単純な目標設定による治療によっても今回の研究で行った制限輸液管理法の効果と安全性が同様に実現できるかどうかは不明である。本研究で実施した血行動態および人工呼吸管理プロトコルと何らかの点で異なる方法をとれば、我々の得た結果とは違った臨床的転帰に帰結する可能性がある。

まとめ
中心静脈圧または肺動脈閉塞圧につき低めの目標値を設定した制限輸液管理法を実施することによって、大量輸液群と比べ有害事象の発生増加を見ることなく総水分出納量を大幅に減少させることができた。二群間に死亡率の有意差は認めなかったが、制限輸液管理法によって肺以外の臓器機能を損なうことなく肺機能を改善し、人工呼吸管理およびICU滞在期間を短縮させることができた。以上の結果から急性肺損傷患者に対する輸液法として制限輸液管理法は妥当であると言える。

参考記事
輸液動態学 
正しい周術期輸液 
敗血症性ショック:輸液量が多いほど死亡率が高い 
外傷患者救急搬送中の輸液で死亡率が上昇する
重症感染小児は輸液負荷で死亡率が上昇する

教訓 ALI/ARDSでは、循環動態を適切に維持しながらI&Oバランスをゼロ~ややマイナスにしてください。

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クモ膜下出血はHgb<10g/dLで輸血すべきか? [critical care]

Critical Care Medicine 2008年7月号より

Complications associated with anemia and blood transfusion in patients with aneurysmal subarachnoid hemorrhage.

貧血は赤血球製剤輸血によって容易に是正することができるが、多施設無作為化比較対照試験および大規模前向き観測研究では、非制限的な輸血療法(比較的高いヘモグロビン濃度を輸血開始閾値とする方法)は効果が望めないばかりか有害である可能性があるという結果が得られている。循環器系の慢性疾患、急性心筋虚血、人工呼吸器離脱中などのように貧血が特に好ましくないと考えられている患者においても非制限的輸血療法を行っても必ずしも利益は得られないという報告もある。しかし、脳神経系疾患の患者では酸素運搬量の低下は二次的脳損傷の重大な原因と成りうるため、現在でも多くの臨床医は脳損傷がある場合は目標ヘモグロビン濃度を9-10g/dLとし、中には11.5g/dLを目標値とすべきであるという意見もある。クモ膜下出血患者の20%以上に症状を伴う血管攣縮が発生する。貧血はクモ膜下出血症例における脳梗塞、死亡、重度後遺症の独立予測因子であるとされてきた。しかし輸血製剤の積極的使用によってこれらのリスクが低減するという根拠は存在しない。一方、赤血球製剤投与は、一酸化窒素などの内因性血管拡張物質の減少や炎症促進作用の発現につながり、結果的に動脈収縮が惹起される可能性がある。保存赤血球製剤の赤血球は流動性が低下し変形性が欠如しているため、微小循環中における血流停滞から酸素運搬量が低下するという指摘もある。実際に、輸血によって脳血管攣縮が増悪することを示した研究もある。さらに、輸血は院内感染、ARDSなどの発生にも関わっている。以上のような輸血の悪影響は、製剤の保存期間が長いほど大きい可能性があるとされている。

2003年11月から2007年2月にかけてヴァージニア大学に入院したクモ膜下出血患者を対象とした。積極的な治療が入院後72時間以内に中止された患者は除外した。入院後21日間の最低ヘモグロビン濃度、赤血球輸血、各製剤の保存期間を記録した。症状を伴う脳血管攣縮があった患者のそのときのヘモグロビン濃度を記録した。比較的低い粘性により血流量が維持されるとともに酸素運搬能も十分確保できる最適ヘモグロビン濃度は10g/dLと考えられ、クモ膜下出血患者の輸血閾値として一般的に流布しているため、貧血の基準も10g/dLとした。赤血球製剤保存期間は21日を「古い製剤」と「新しい製剤」の境界値とした。主要転帰項目は死亡、重度障害および遅発性脳梗塞の複合項目とした。神経学的転帰は退院6週間後に外来で評価されたGCSとした。二次転帰項目は院内感染とARDSとした。

245名が対象となった。95名(39%)がヘモグロビン濃度<10g/dLであった。そのうち67名(71%)に輸血が行われた。全体で85名(35%)に平均2.5単位の赤血球製剤が投与され、輸血前の平均ヘモグロビン濃度は9.5(7.3-12.9)g/dLであった。血管攣縮は64名(26%)に認められた。このうち39名(61%)がいずれかの時点で貧血に陥っていたが、血管攣縮発症時にヘモグロビン濃度<10g/dLであったのはわずか4名(6%)であった。血管攣縮があった患者の血管攣縮発症時のヘモグロビン濃度は、主要転帰項目に当てはまった患者では平均12.6g/dL、当てはまらなかった(転帰が良かった)患者では平均12.1g/dLで、有意差は認められなかった。対象患者の内37名(15%)が死亡し、主要転帰項目に当てはまった患者は106名(43%)であった。多変量解析の結果、貧血に陥った患者の方が主要転帰項目に当てはまる傾向が高いことが分かった (OR 2.7; P<0.01)。この傾向は血管攣縮が発症した患者でも認められた(OR 4.7; P=0.04)が、血管攣縮のなかった患者では貧血と主要転帰の相関はなかった。輸血された患者の方が主要転帰項目に当てはまる傾向が高かった(OR 4.8; P<0.01)が、この傾向は血管攣縮のないサブグループでのみ有意であった。赤血球製剤の使用と、血管攣縮と診断されなかった患者群における遅発性脳梗塞発生には強い相関が認められた(OR 4.6; 95%CI, 1.6-13.6; p<0.01)。血管攣縮のあった64名のうち46名(72%)に赤血球製剤が投与されたが、大多数(29/46)において初回輸血は血管攣縮発症の後に行われていた。多変量解析では、輸血とその後の血管攣縮発症のあいだに有意な関係は認められなかった(OR 1.1; P=0.79)。輸血はその後の院内感染発症の有意な予測因子であった(OR, 3.0)。輸血製剤の保存期間と合併症発症のあいだに有意な相関はなかった。

ヘモグロビン濃度<10g/dLの患者は全体の約40%で、全体の三分の一に輸血が行われた。最近の研究ではクモ膜下出血患者における輸血実施率は36%から61%であると報告されている。今回の調査で、貧血はクモ膜下出血における転帰不良の予測因子であることが確認された。しかしこのことから貧血が転帰不良の原因であると断じたり、クモ膜下出血患者には輸血が有用であるという意味づけを行ったりするのは早計である。本研究では輸血が転帰不良に関わっているという結果も得られている。血管攣縮が起こった患者において、転帰が不良であった群と良好であった群の、血管攣縮時のヘモグロビン濃度は同等であった。血管攣縮が起こると貧血を併発することが多いが、貧血が血管攣縮に先行することは稀であり、貧血が血管攣縮発症に寄与する重大因子であるとは考えがたい。本研究では輸血とその後の遅発性脳梗塞発症の相関が認められ、特に血管攣縮のなかった患者においてこの傾向が顕著であった。赤血球製剤投与によって血液粘性が上昇し、内皮型NOの減少によって血管収縮が起こりやすくなる可能性がある。赤血球増加により脳酸素分圧が上昇すると期待されるが、輸血で得られるわずかな脳酸素分圧上昇による臨床的効用の有無は不明である。輸血では脳の酸素需給バランスはほとんど変化しないという報告もある。今回の研究では、担当医がより重篤な患者にはより高いヘモグロビン濃度で輸血を開始していた可能性がある。したがって、輸血は転帰不良の原因ではなく、転帰不良の予測因子であるとも捉えうる。今回得られた結果からは、クモ膜下出血患者に輸血が有害であると断定することはできない。本研究で、貧血がクモ膜下出血患者の転帰不良と強い相関を示すことが確認された。しかしこの結果から非制限的輸血療法の実施が正当化されるわけではない。貧血の存否によって調整を行っても、赤血球製剤の使用と死亡、重度障害、遅発性脳梗塞発症の間には有意な相関が認められた。また、輸血は院内感染の増加にも関わっていた。血管攣縮の有無によって適正な輸血開始閾値は異なると考えられる。クモ膜下出血は他の重症疾患とは異なる特徴があるため、異なる輸血開始閾値を比較した無作為比較対照試験によってクモ膜下出血患者における適切な輸血療法のあり方を明らかにすべきである。

教訓 輸血したからといって必ずしもspasmを防ぐことができるわけでもなさそうです。よかれと思って輸血しても、かえって脳梗塞が増えるかもしれません。
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ICUにおけるnon-albicansカンジダ感染の危険因子 [critical care]

Critical Care Medicine 2008年7月号より

Candidemia in nonneutropenic critically ill patients: Risk factors for non-albicans Candida spp.

近年、フルコナゾール耐性non-albicansカンジダ属によるカンジダ血症が増えている。抗真菌薬の投与開始時には起因真菌の薬剤感受性が不明であることが多いため、真菌に対する経験的治療に用いる抗真菌薬の選択の際にはnon-albicans カンジダ属感染の増加という事態を考慮しなければならない。C. albicansと、non-albicansカンジダ属またはC. glabrataやC. kruseiなどのフルコナゾール耐性率の高いカンジダ属のどちらがカンジダ血症の起因菌であるかを判別する臨床的予測因子が明らかになれば、検査結果が判明する前に抗真菌治療を開始する場合に、より適切な抗真菌薬の選択が可能となる。

2001年8月から2004年7月までの3年間にわたりオーストラリアにおいて前向き全国調査を行った。ICU入室48時間後以降またはICU退室後48時間以内に血液培養でカンジダがはじめて検出された場合をICUで発生したカンジダ血症と定義した。小児および好中球減少患者、CCU患者は除外した。カンジダ血症発症前30日間における危険因子を評価した。

3年間に37ヶ所のICUから183件のカンジダ血症(183名)が報告された。菌種同定が行われたのはこのうち179件であった。C. albicans 111件(62%)、C. glabrata 32件(17.9%)、C. parapsilosis 14件(7.8%)、C. tropicalis 10件(5.6%)、C. krusei 7件(3.9%)、C. dubliniensis 2件(1.1%)、菌種不明のCandida spp. 2件(1.1%)、C. curvata、C. famata、C.lusitaniae各1件(0.5%)であった。2件はカンジダ属の混合感染であった(C.albicans/C. glabrataおよびC. glabrata/菌種不明のCandida spp.)。検出された32件のC. glabrata のうち2件(6%)はフルコナゾール感受性あり(MIC<8mcg/mL)、23件(72%)は濃度依存的感受性あり(MIC=16-32mcg/mL)、7件(22%)はフルコナゾール耐性(MIC>64mcg/mL)であった。検出された7件のC. kruseiのうち6件はフルコナゾール耐性、1件は濃度依存的感受性ありであった。

多変量解析の結果、non-albicansカンジダ属によるカンジダ血症の独立した有意な危険因子は、抗真菌薬の全身投与、最近の消化管手術、経静脈的薬剤投与、年齢増加であった (OR, 4.60、2.87、11.37、1.19)。C. glabrata/ C. kruseiによるカンジダ血症の独立した有意な危険因子は、フルコナゾール投与、最近の消化管手術、経静脈的薬剤投与、年齢増加であった (OR, 5.47、3.31、4.64、1.26) 。フルコナゾール耐性カンジダ属が検出された13件のうち4件(C. glabrata 3件、C. krusei 1件)は培養でカンジダが検出されるより以前に抗真菌薬を投与されていた(フルコナゾール3件、ボリコナゾール1件)。non-albicansカンジダ属およびフルコナゾール耐性カンジダ属による血流感染患者の30日死亡率(それぞれ53%、54%)は、C. albicansおよびフルコナゾール感受性カンジダ属による感染の場合(41%)よりも高かったが、有意差は認められなかった。敗血症発生頻度、血液培養陽性5日後の人工呼吸管理実施頻度および入院期間のいずれについてもnon-albicansカンジダ属およびフルコナゾール耐性カンジダ属感染患者とC. albicansおよびフルコナゾール感受性カンジダ属感染患者との間に有意差はなかった。

non-albicansカンジダ属感染の予測因子については、移植、癌、血液疾患、好中球減少患者について調査した報告が複数あるが、好中球が減少していないICU患者についての大規模調査は今回のオーストラリア全土のICUで実施した前向き調査が先鞭となる。本研究ではカンジダ感染の60%以上がC. albicansによるものであった。血液疾患および悪性腫瘍領域ではnon-albicansカンジダ属、特にC. glabrata感染が増加していることが明らかにされており、最近ではICUでもnon-albicansカンジダ属感染が珍しくなくなった。non-albicansカンジダ属にはC. glabrata、C. kruseiなどフルコナゾール耐性菌が含まれている。血液培養で真菌が陽性であることが判明してから菌種が確定するまでには少なくとも48時間はかかる。抗真菌薬投与を早く開始する方が、真菌感染症の転帰が改善することが知られているため、臨床的徴候からnon-albicansカンジダ属感染を予測することができれば、経験的治療における適切な抗真菌薬選択に資するものと考えられる。本研究では、抗真菌薬の全身投与、最近の消化管手術、経静脈的薬剤投与、年齢増加がnon-albicansカンジダ属およびフルコナゾール耐性菌の多いC. glabrata/ C. krusei感染の危険因子であった。このうち消化管手術については過去の研究では危険因子として言及されておらず、今回の調査で初めて明らかになった。菌種や感受性が判明するに先立ちカンジダ血症の治療を開始する場合、以上の危険因子を参考に抗真菌薬を選択すべきである。

教訓 抗真菌薬の使用歴のある患者、消化管手術後、高齢患者ではnon-albicansカンジダ属感染に注意。
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エピネフリンにバソプレシンを併用しても救命率は改善しない [critical care]

NEJM 2008年7月3日号より

Vasopressin and Epinephrine vs. Epinephrine Alone in Cardiopulmonary Resuscitation

北米および欧州で毎年60万人以上が心停止のため突然死している。心肺蘇生時にはエピネフリンが使用されるが、エピネフリンを要するような心停止患者の予後は極めて不良である。蘇生が成功した患者では、死亡した患者よりも血中内因性バソプレシン値が有意に高いことが明らかにされ、Lindnerらはバソプレシン投与による救命率改善の可能性を指摘した。動物実験では、心肺蘇生にバソプレシンを用いるとエピネフリンと比較し重要臓器の血流量、脳酸素運搬量、短期生存率および神経学的転帰が改善するという結果が得られている。しかし院内または院外心停止症例の心肺蘇生に関する臨床研究では、バソプレシンとエピネフリンの効果は同等であるという結果が得られている。しかしこれらの臨床研究のうち一編では、エピネフリン単独を反復投与されたサブグループよりも、エピネフリン投与に引き続きバソプレシンを投与されたサブグループの方が生存退院率が高かったと報告されている。カテコラミンとバソプレシン併用によりカテコラミン単独使用よりも重要臓器血流が改善するとともに、カテコラミンによる悪影響が軽減される可能性がある。以上から我々は、エピネフリンとバソプレシンの併用によりエピネフリン単独使用よりも成人院外心停止症例の転帰が改善するか否かを検証する大規模前向き無作為化試験をフランスで実施した。

フランスの救急医療制度はSAMUが管理する二段階制度から成る。第一段階はBLSを実施する救急救命士が乗車する救急車の出動で、消防署を拠点としている。第二段階はACLSを実施する医師が乗車する救急車の出動で、大病院を拠点としている(SMUR)。たいていの場合は第一段階の救急車の現場到着の方が早いため、BLSが最初に実施されその途中で第二段階の救急車が到着し医師によるACLSが開始される。本研究は2004年5月1日から2006年4月30日まで行われ31ヶ所のSAMUおよびSMURが参加した。成人院外心停止(心室細動、無脈性電気活動(PEA)または心静止)で心肺蘇生中に血管収縮薬を必要とした患者を対象とした。除外基準は18歳未満、血管収縮薬投与なしでの除細動の成功、外傷による心停止、妊娠、末期、DNRおよび明らかに蘇生不能の患者とした。患者は無作為にエピネフリンとバソプレシン群(併用群)か、エピネフリンとプラセボ(生食)群(エピネフリン単独群)に割り当てられた。患者の治療に当たった者は割当群を関知しなかった。二剤は10秒未満の間隔でエピネフリン、バソプレシンまたはプラセボの順に投与された。二剤投与後3分以内に自己心拍が再開しない場合は、割り当てられた二剤を再度投与した。再投与後3分経過しても自己心拍が再開しない場合は担当医師の判断でエピネフリン(オープンラベル)が投与された。薬剤はすべて静脈内投与され、それぞれの薬剤を投与した後生食20mLでルート内をフラッシュした。担当医師の判断でアミオダロンまたは血栓溶解薬が投与されたが、その他の薬剤は一切使用されなかった。患者の背景因子や臨床データはウツスタイン方式で記録した。一次エンドポイントはICU生存入室(脈拍触知および血圧測定可能)とした。二次エンドポイントは自己心拍の再開(少なくとも1分間脈拍触知および血圧測定可能)、生存退院、良好な神経学的転帰(cerebral-performance category1)および一年後生存率とした。

2956名が無作為化割当され、解析対象となったのは2894名であった。1442名が併用群、1452名がエピネフリン単独群に割り当てられた。併用群の方が男性が有意に多かった(P=0.03)。目撃者のある群は目撃者のない群よりも生存ICU入室率が有意に高かった(23.2% vs 14.4%, P<0.001)。心停止から8分以内にBLSが開始され、12分以内にACLSが開始された群は、それより蘇生が遅れた群よりも生存ICU入室率が有意に高かった(38.3% vs 20.5%, P=0.001)。生存ICU入室率、生存退院率、退院時に神経学的転帰が良好であった患者の割合、一年後生存率のいずれについても併用群とエピネフリン単独群の間に有意差は認められなかった。病院到着時にGCS3点であった患者の割合に有意差はなかった(併用群94.2%、単独群93.1%, P=0.55)。退院時cerebral-performance category 1または2(それぞれ、正常かわずかな障害、中等度の障害に相当)の患者の割合についても有意差は認められなかった(併用群53.6%、単独群61.5%, P=0.51)。救急隊接触時の心電図がPEAであった患者サブグループについての事後解析ではエピネフリン単独群の方が併用群よりも生存退院率が有意に高かった(5.8% vs 0%, P=0.02)。その他のサブグループについてはいずれも有意差は認められなかった。ICU生存入室患者のうち17.3%に低体温療法が入室後直ちに導入され、24時間維持された。神経学的後遺症なく長期生存した患者の割合は低体温実施群の方が非実施群よりも高かったが、低体温療法については無作為化割当を行わなかったので解析の対象としなかった。

2005年ガイドラインでは、「心停止におけるアドレナリンの代替または併用薬としてのバソプレシン使用を是認または否定する根拠は十分蓄積されていない」と記載されている。動物実験では窒息による心停止においてはエピネフリンとバソプレシンの併用によって大きな効果が得られるという結果が得られている。Wenzelらによる院外心肺蘇生の研究でもサブグループにおいては同様の結果が報告されている。本研究では成人院外心停止症例を対象にエピネフリンとバソプレシンの併用とエピネフリン単独使用を比較したところ、バソプレシン併用の有効性は認められず、事後分析ではPEA症例に限るとエピネフリン単独群の方がバソプレシン併用群よりも生存退院率が有意に高かった。予後が良かった患者についてバソプレシンの寄与を検証するために、目撃例、当初心室細動例、蘇生開始が早かった例、蘇生中の呼気終末二酸化炭素分圧が高かった例、割当薬剤1セット投与で自己心拍が再開した例のそれぞれのサブグループに該当する患者を前向きに集積した。併用群がエピネフリン単独群より高い有効性を示したサブグループは存在しなかった。今回の対象患者は、都市部および農村部、大学病院および地域の基幹病院が救急医療を管轄している地域から収集されたため、現実的な状況を反映していると考えられる。本研究の問題点は全体の生存率が低いことである。生存入院率は最近米国で行われた心肺蘇生研究のものと同等(21.0% vs 20.9%)であるが、生存率はWenzelらのものより低い(2.0% vs 9.7%)。これは心室細動症例がWenzelらの研究と比較し少なかった (9.2% vs 39.8%)ことが主因であると考えられる。心室細動症例が少なかったのはAEDによって除細動されたため研究対象とならなかったためであろう。最近14年間でフランスではBLSにおけるAED実施率が13%から80%に増加し、ACLS開始時に心室細動を呈する患者は50%減少した(35%から17%に低下)。同様の傾向はシアトルにおける研究でも確認されている。今回の研究ではエピネフリン単独群の方が有効性が高い傾向がわずかながら認められたが、心室細動例が少なかったため、Wenzelらの研究に反しバソプレシンの使用を否定するような決定的な結論を得るには至らなかった。院外心停止に対するACLSにおいてエピネフリンとバソプレシンを併用しても、エピネフリン単独使用と比較し転帰をより改善する効果は望めない。

教訓 バソプレシン併用は効果がないようです。PEA症例ではむしろ予後が悪化するかもしれません。

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HIV感染患者の集中治療~HIVに関連する合併症 [critical care]

NEJM 2006年7月13日号より

Intensive Care of Patients with HIV Infection

呼吸器疾患
 ニューモシスティス肺炎、細菌性肺炎(MRSAによるものを含む)、結核が感染による呼吸不全のうち重要な位置を占めていることには変わりないが、HIV患者の寿命が延長するに従い、喘息、肺気腫などのHIVに関連しない原因によって呼吸不全に陥る患者が珍しくなくなってきている。抗レトロウイルス治療開始後に発生する免疫再構築症候群によってニューモシスティス肺炎、結核、その他の抗酸菌による肺炎が発生し呼吸不全に陥ることもある。免疫再構築症候群は、抗レトロウイルス治療実施後数日から数週間経過してから発生し、その原因はニューモシスティスや抗酸菌抗原に対する過剰な炎症反応であるとされている。免疫再構築症候群の診断は、その他の呼吸不全の起因疾患を除外した後に確定しなければならない。本症候群の治療薬は副腎皮質ステロイドである。ニューモシスティス肺炎患者ではpneumatoceleが高率に存在し陽圧換気による気胸発生の可能性が高いため、ARDSネットワークガイドラインの遵守が特に重要である。HIV非感染患者と同様にHIV感染患者においては、緑膿菌および黄色ブドウ球菌が院内発生細菌性肺炎の主要起炎菌である。MRSAはHIV感染のある院内肺炎患者における死亡の独立した危険因子であり、予測経験的抗菌薬治療開始時にMRSAを念頭に薬剤選択を行わなければならない。

心疾患 
 抗レトロウイルス治療を行うと、脂質代謝異常、インスリン耐性および糖尿病などの動脈硬化の原因となる代謝異常が発生する。抗レトロウイルス治療によってHIV感染患者の心血管系疾患罹患リスクが上昇するものと考えられている。HIV感染患者の急性冠症候群ではPCI後の再閉塞率が非感染患者より高い。再閉塞率が高い理由はよく分かっていないが、薬物溶出性ステントを用いて再閉塞率を減少させるよう努めるのが好ましいと考えられる。

肝疾患
 ウイルス性肝炎による肝不全は重症合併症および死亡率の主因となってきており、抗レトロウイルス治療の方針決定に際し肝炎治療との兼ね合いに悩まされることがある。ラミブジン、エムトリシタビン、テノフォビルの三種の抗レトロウイルス薬はHBVに対しても有効である。HBVはラミブジンまたはエムトリシタビンのみの単剤治療では高率に耐性を示すため、この二剤のうちのどちらかとテノフォビルとの併用療法を行わなければならない。未治療のHIVおよびHBV感染患者に対して抗レトロウイルス治療を開始する場合は、テノフォビルに、ラミブジンまたはエムトリシタビンのどちらかを併用することによってHBVも同時に治療することができる。HIVおよびHBVの抗ウイルス治療を行われている患者がICUに入室したときは、抗ウイルス薬の投与中止によるB型肝炎の劇症化例が報告されていることから、可能な限り抗ウイルス治療を継続すべきである。
 HCV感染に伴う肝不全を呈する重症患者の治療において、ペグインターフェロンとリバビリンの併用による有毒作用および薬物相互作用(例;重篤な好中球減少、血小板減少、用量依存性貧血)はしばしば頭を悩ませる問題となる。HCVの治療をすでに受けている患者では、可能であればその治療を継続すべきである。HIV感染患者が末期肝不全に陥った場合は部分肝移植の適応となることもあり、移植専門施設への転送も考慮すべきである。
 ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬、中でもスタブジンの投与によって乳酸アシドーシス、脂肪肝が発生し、稀には急性肝不全が起こることもある。そのような症例では死亡率は50%にも達するため、上記の合併症のうちいずれかが認められる場合は抗レトロウイルス治療を直ちに中止しなければならない。

腎疾患
 HIV関連腎症による末期腎不全、HBVまたはHCV感染、糖尿病あるいは高血圧はHIV感染患者における重症合併症または死亡の主な原因である。末期腎不全のHIV感染患者に対する治療では、透析や腎移植が適応となる場合もある。HIV関連腎症の原因はHIV感染そのものであるため、抗レトロウイルス治療を行うことによって病勢を抑制できる可能性がある。治療抵抗例では副腎皮質ステロイドが必要なこともある。(つづく)

教訓 HIV患者はPCI後の再狭窄率が高いので、DESの使用が好まれているようです。

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HIV感染患者の集中治療~ICUにおける抗レトロウイルス治療 [critical care]

NEJM 2006年7月13日号より

Intensive Care of Patients with HIV Infection

薬物投与経路、吸収および用量 
 認可されている抗レトロウイルス治療薬は、enfuvirtide以外はすべてカプセルまたは錠剤である。内服液がある薬剤もあるが、注射薬があるのはzidovudineだけである。内服液製剤のない薬剤は、カプセルはあけて、錠剤は砕いてフィーディングチューブから投与することができるが、このような投与方法で適切な血中濃度を得られるかどうかは不明である。徐放剤および腸溶剤は粉砕して投与すると血中濃度が低下するため粉砕してはならない。
 重症患者では抗レトロウイルス治療薬の吸収が障害されていることが分かっている。消化管蠕動の低下、栄養剤の持続経腸投与、経鼻胃管の吸引およびストレス性潰瘍予防薬による胃内アルカリ化によって消化管内投与した薬物の吸収動態が変化する。たとえば、抗レトロウイルス治療薬の中には、経腸栄養投与を一時中断して十分薬が吸収されるようにしなければならないものがある。一方、副作用を減ずるために栄養剤と一緒に投与しなければならない抗レトロウイルス治療薬もある。さらに、H2ブロッカーおよびPPIとの併用が禁忌である抗レトロウイルス治療薬もある。
 腎障害または肝障害がある場合は、投与量を調節しなければならない。Abacavir以外のすべてのNRTI (核酸系逆転写酵素阻害剤)は腎機能低下によりクリアランスが低下するため投与量を調節する。腎不全患者では定型的なNRTI併用療法を行うことができない。各薬剤の投与量を患者ごとに調節する必要がある。肝機能障害によって多くのプロテアーゼ阻害剤および非核酸系逆転写酵素阻害剤の代謝が低下するので、投与量を調節しなければならない。また、患者の腎機能および肝機能の変化に伴いそのつど投与量を調節する必要がある。

薬物相互作用および毒性
 抗レトロウイルス治療薬、特に非核酸系逆転写酵素阻害剤およびリトナビル増量を含むプロテアーゼ阻害剤併用療法には、HIV関連薬あるいはICUで通常よく使われる薬剤との重大な相互作用があることが知られている。たとえば、非核酸系逆転写酵素阻害剤またはプロテアーゼ阻害剤を投与されている患者ではベンゾジアゼピン濃度が著しく上昇するため、ミダゾラム投与後は、特に非挿管患者では厳重な監視を行う必要がある。新しく開発された抗レトロウイルス治療薬は、以前の薬剤と比べ安全性が格段に増しているとはいえ、これら薬剤の副作用がICU患者の診断および治療において問題となることがある。抗レトロウイルス治療薬によってAIDS関連疾患が減少しているのは事実だが、一方で過敏症、Stevens-Johnson症候群、肝壊死、膵炎、乳酸アシドーシスといった稀ではあるが致死的な毒性が発現することがある。たとえば、abacavirには重篤な過敏症が発生することがあり、本薬剤の再投与により稀には死亡する場合がある。Abacavirを投与された患者の約8%に全身症状を伴う過敏症が発生し、通常6週間以内に高熱、全身発赤、悪心、頭痛が認められ、稀には呼吸困難を伴うことがある。Abacavir投与を中止すれば症状はたいていの場合48時間以内に消失するが、投与を継続すると呼吸不全および低血圧に陥る可能性がある。抗レトロウイルス治療薬の毒性が疑われる場合は、直ちに当該薬を中止すべきである。(つづく)

教訓 HIV治療薬を使うときは、投与経路、併用薬との相互作用に注意。

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HIV感染患者の集中治療~治療大略 [critical care]

NEJM 2006年7月13日号より

Intensive Care of Patients with HIV Infection 

 抗レトロウイルス治療を行うと免疫機能が改善する。HIV感染後長期間が経過している症例では、抗レトロウイルス治療は免疫能改善による日和見感染症および悪性腫瘍罹患の発生頻度減少につながる。また、進行性多巣性白質脳症などのHIVに伴う特有疾患の治療においても他に有効な治療法がないことから抗レトロウイルス治療の実施が重要である。抗レトロウイルス治療によってHIVに感染している重症患者の合併症および死亡率を減少させうる。以前の薬剤と比べ毒性の低い新しい抗レトロウイルス治療薬およびより安全な多剤併用療法が開発された結果、ICUにおける抗レトロウイルス治療実施の是非に関する議論がますます白熱している。すでに抗レトロウイルス治療を行われている患者においては治療を中止することによって耐性ウイルスが選択され、治療再開時にそれまでの抗レトロウイルス治療法が無効となるおそれがある。特にefavirenzもしくはnevirapineを投与されている患者ではそのおそれが大きい。この二剤は他薬剤と比べ半減期が著しく長いため、抗レトロウイルス治療を中止した場合、他薬剤の血中濃度が減少しても結果的にこれらの薬剤の単剤治療を行っていることになるためである。

 ICUにおける抗レトロウイルス治療薬使用に難色を示す医師は多い。免疫再構築症候群が発生すれば、患者がさらに重症化する可能性があるためICUでの抗レトロウイルス治療開始は敬遠されている。抗レトロウイルス治療薬の薬物相互作用および毒性によって重症患者管理が一層困難になる。抗レトロウイルス治療薬の投与経路および吸収に関する問題に加え、急性多臓器不全患者に対する抗レトロウイルス治療薬投与には様々な未解明の課題が残されている。吸収不良、臓器障害および薬物相互作用によって薬物動態が変化し、血中濃度が治療域に達しなかったり、反対に治療域上限を超えて副作用が発現したりする危険性がある。

 ICUにおける抗レトロウイルス治療の方針決定の目安となるような無作為臨床研究やガイドラインは存在しない。抗レトロウイルス治療については症例ごとに検討し決定しなければならないのが現状であるとはいうものの、我々は以下の治療大略を提案する。ICU入室以前に抗レトロウイルス治療を受けていてウイルス増殖が抑制されていることが確認されている(血漿HIV RNA量が検出可能レベルを下回っている)場合は、可能であれば実施中の抗レトロウイルス治療を継続すべきである。抗レトロウイルス治療を継続する症例においては、ICUで使用する薬剤と抗レトロウイルス治療薬との相互作用などの禁忌を避けなければならない。一方、血漿HIV RNAが検出される患者においてICU入室後も抗レトロウイルス治療を継続することが有効であるのかどうかははっきりしていない。この場合はHIV専門家にコンサルトすべきである。ICUに入室するHIV感染患者の多くはICU入室以前に抗レトロウイルス治療を受けていない。ICUにおけるAIDS関連疾患に対する多剤併用抗レトロウイルス治療の効果を評価した研究は現在までに一つしかない。この遡及的研究では、サンフランシスコ総合病院のICUに入室したニューモシスティス肺炎に罹患したHIV感染患者58名を対象とし、抗レトロウイルス治療実施群は、非実施群と比べ有意に死亡率が低かったことを報告している(25% vs 63%, P=0.03)。

 AIDS関連疾患以外の疾患によるICU入室患者では抗レトロウイルス治療開始を見合わせるべきである。この患者群では、AIDS関連疾患によるICU入室患者よりも一般的に予後が良好で、短期的な転帰はAIDS以外のICU入室の原因となった疾患の治療の成否によって決まる。しかし、CD4数が200/mm3を下回る場合は日和見感染症発症の危険性が上昇することが知られているため、ICU入室期間が長期化していれば抗レトロウイルス治療開始を考慮すべきである。同時にCD4数が200/mm3を下回る患者では、最新のガイドラインで推奨されている通りに日和見感染症予防薬の投与を行う(例;ニューモシスティス肺炎予防にST合剤)。一方、AIDS関連疾患によるICU入室患者では抗レトロウイルス治療を考慮すべきである。適切なICU管理およびAIDS関連疾患の治療を行っているにも関わらず全身状態が悪化する患者においては特に積極的に抗レトロウイルス治療実施を考慮しなければならない。しかし、HIV治療薬耐性、抗レトロウイルス治療薬薬物動態、薬物相互作用および毒性など、抗レトロウイルス治療開始に先立ち勘案しなければならない重要事項がいくつもある。抗レトロウイルス治療を開始したら免疫再構築症候群の発症に留意しなければならない。

教訓 ICUにおけるHIV治療薬の投与開始、中断、続行を決めるときは耐性、薬物動態、相互作用、毒性などをよく考えなければなりません。
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