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帝王切開:フェニレフリンvs エフェドリン~考察① [anesthesiology]

Placental Transfer and Fetal Metabolic Effects of Phenylephrine and Ephedrine during Spinal Anesthesia for Cesarean Delivery

Anesthesiology 2009年9月号より

考察

臍帯静脈血/母体動脈血(UV/MA)比はエフェドリンの方がフェニレフリンよりもかなり高いことが本研究で示され、エフェドリンの方がフェニレフリンよりも胎盤を通過しやすいことが分かった。さらに、臍帯動脈血/臍帯静脈血(UA/UV)比もエフェドリンの方が大きいという結果が得られたことから、フェニレフリンと比べエフェドリンは胎児体内で代謝されたり、もしくは再分布したりする割合が小さいと考えられる。先行諸研究では、フェニレフリンと比べエフェドリンを使用した場合の方が、胎児pHおよびBEが低いという結果が得られているが、本研究でもそれと同様の所見が確認された。また、エフェドリンを使用すると、臍帯動脈血および臍帯静脈血の乳酸、ブドウ糖、エピネフリンおよびノルエピネフリン濃度と臍帯静脈血PCO2がフェニレフリンを使用したときよりも高いことが明らかになった。エフェドリンが胎児にアシドーシスを引き起こしやすい傾向があるのは、エフェドリンが胎盤を通過し、胎児体内で代謝を活性化するためであるという仮説を、以上の知見は裏付けている。

産科領域における昇圧薬についての研究は、黎明期には大半が子宮胎盤血流に及ぼす影響の違いに着目して行われていた。その一環として行われた複数の動物実験では、α作動薬と比較しエフェドリンの方が胎盤血流を良好に保つことができるという結果が得られている。これを受け、子宮胎盤血流が多い方が胎児への酸素供給量も多くなるので、産科麻酔の臨床ではエフェドリンを昇圧薬として用いることが勧められてきた。しかし、最近ではエフェドリンを用いると実は胎児pHおよびBEがα作動薬よりも低くなるという臨床的知見が得られていることから、産科麻酔ではエフェドリン、という古き教えが再検討されはじめている。今回の研究で得られた結果と、これまでに得られたデータを考え合わせると、胎児の酸素需要を考慮することもまた重要であることが分かる。つまり、胎児の酸塩基平衡をもっとも大きく左右する短期的因子は、おそらく胎児の酸素需給バランスなのである。エフェドリンはフェニレフリンよりも酸素供給の点では有利なのかもしれないが、胎盤を通過しやすく、胎児体内で作用して酸素需要を増やすという不利な作用によって利点が打ち消されてしまうものと考えられる。現在までに蓄積されたデータを基に胎児の酸素需給バランス全体に与える影響を考えると、エフェドリンかフェニレフリンかと言ったらフェニレフリンを選択すべきであると我々は確信している。

今回の研究では、臍帯静脈血PO2はフェニレフリン群の方がエフェドリン群よりも低かった。この結果は、我々が以前に行った研究で得られた結果と同じである。このような観測結果が得られた機序は不明であるが、考えられる原因として、フェニレフリンの方が子宮胎盤血流を担う血管を収縮させる作用が強いことを反映していることが挙げられる。ヒツジを用いた複数の実験では、子宮血流には大きなばらつきがある一方で、胎児の酸素取り込み量は比較的一定であることが示されている。つまり、子宮胎盤血流が低下すると、胎児の酸素摂取効率が上昇するわけである。ヒトでも同様の機構が働いているとすれば、フェニレフリン投与によって子宮胎盤血流が減少すると、一定量の子宮胎盤血流あたりの胎児酸素摂取量が増え、その結果、子宮静脈血PO2が低下するものと考えられる。すると、ヒトの胎盤では子宮静脈血と臍帯静脈血が平衡するため、臍帯静脈血PO2も低下する。日常臨床の状況では、フェニレフリンが子宮胎盤血流に及ぼす作用はいずれも、有害な影響として現れることはない。なぜなら、通常使用量の範囲内でフェニレフリンを使用しても、胎児にアシドーシスが見られることはないからである。このことを裏付けるように、正常な生理的条件下では、子宮血流量は胎児酸素需要を満たす量、つまり安全閾値を凌駕していて、子宮血流がある程度変動しても胎児への酸素供給が維持されるようになっていることが動物実験で明らかにされている。しかし、急性または慢性の子宮胎盤循環不全が存在する場合には、こんなふうにうまくいかない可能性がある。したがって、胎児の状態が悪いことが臨床的に示されているときに、大量のフェニレフリンを使用する際は慎重を期すべきであろう。ただし、緊急帝王切開においてエフェドリンとフェニレフリンを比較した最近の研究では、中等量のフェニレフリン(娩出前の中央値, 100mcg: 範囲0-1200mcg)を用いても胎児に有害な影響は認められていない。

教訓 エフェドリンの方がフェニレフリンよりも胎盤を通過しやすく、また、胎児体内で代謝されたりもしくは再分布したりしにくいようです。エフェドリンはフェニレフリンよりも酸素供給の点では有利だと考えられますが、胎盤を通過しやすく、胎児体内で作用して酸素需要を増やすという不利な作用によって利点が打ち消されてしまう可能性があります。胎児の酸塩基平衡をもっとも大きく左右する短期的因子は、胎児の酸素需給バランスです。胎児の酸素需給バランス全体に与える影響を考えると、エフェドリンかフェニレフリンかと言ったらフェニレフリンを選択する方がよさそうです。
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