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帝王切開:フェニレフリンvs エフェドリン~考察② [anesthesiology]

Placental Transfer and Fetal Metabolic Effects of Phenylephrine and Ephedrine during Spinal Anesthesia for Cesarean Delivery

Anesthesiology 2009年9月号より

フェニレフリンと比べエフェドリンの方が胎盤通過性が高いのは、分子構造の違いに起因しているものと考えられる。エフェドリンもフェニレフリンもフェニルエチルアミンと構造の似た誘導体である。だが、フェニレフリンと異なり、エフェドリンは芳香環が水酸基で置換されていない。さらに、エフェドリンではエチル側鎖がαメチル基に置換されているが、フェニレフリンはそうではない。そんなわけでエフェドリンはフェニレフリンよりも脂溶性が高く、だから胎盤通過性が高いのであろう。また、エフェドリンは血液脳関門を通過し、中枢刺激作用と食欲抑制作用を発揮する。本研究でエフェドリンの臍帯静脈血/母体動脈血(UV/MA)比が1を超えていたのは、着目すべき点である。つまり、エフェドリンが急速に胎盤を通過しただけでなく、大半の患者において臍帯静脈血中のエフェドリン濃度が母体動脈血中のエフェドリン濃度よりもはるかに高かったのである。これは、イオン捕捉によって引き起こされる現象であると考えられる。エフェドリンはアルカリ性薬物(pKa 9.6)で、胎児体内の低いpH環境に曝されるとプロトン化(イオン化)が優勢になり、するとイオン捕捉が起こる。同じことが局所麻酔薬でも認められる。エフェドリンが代謝に与える作用によって胎児pHが低下すると、エフェドリンのイオン捕捉がより強調される可能性がある。

エフェドリンが胎児の代謝を亢進させるのは、フェニレフリンと異なり強いβ刺激作用があるからである。イソプロテレノール母胎投与後のヒツジ胎仔および帝王切開前の妊婦にテルブタリンを投与した場合のヒト新生児においてβ刺激作用が確認されている。エフェドリンを投与すると、その間接的作用としてシナプス前ニューロンからノルエピネフリンが放出される。これが、エフェドリン群の臍帯血中ノルエピネフリン濃度が高かった原因であろう。また、本研究ではエフェドリン群の方が母体動脈血中のブドウ糖、エピネフリンおよびノルエピネフリン濃度が高いという結果も得られた。

フェニレフリン:エフェドリンの力価比は、Saravananらの報告によれば80:1であり、本研究ではこれをもとに薬剤の調整濃度を決めた。しかし、エフェドリン群の方がフェニレフリン群よりも調整した昇圧薬の使用容積が少なく、実際の力価は80:1よりも低いものと推察された。エフェドリン群の方が低血圧の発生頻度が高く、フェニレフリンのレスキュー使用回数も多かったが、収縮期血圧最低値には差は認められなかった。ただし、収縮期血圧最高値はエフェドリン群の方が高かった。以上のようにまとまりのない結果は、エフェドリンとフェニレフリンという作用発現速度や作用持続時間が異なる薬物の力価の比較が難しいことを物語っている。

今回の研究および最近の臨床研究では、フェニレフリンなどのα作動薬と比べエフェドリンは胎児アシドーシスを惹起する傾向が強いことが示されている。だが、これが臨床的転帰の悪化につながるのかどうかは、はっきりしていない。本研究を含む大多数の比較研究では、低リスクの予定症例が対象とされているので、麻酔の手法に関連するわずかな差異が新生児の転帰にあからさまな影響を及ぼす可能性は低い。胎児の酸素需給バランスを悪化させる要素がある場合には、エフェドリンが胎児の代謝に与える作用が前景化するかもしれないが、我々が以前に行った緊急帝王切開を対象とした研究では、エフェドリンによる転帰の悪化は認められていない。大規模遡及的研究であるEPIPAGE studyの二次解析では、妊娠32週未満の帝王切開を脊髄クモ膜下麻酔または全身麻酔で実施した場合について、在胎週数、母体・妊娠・分娩・新生児の特性および治療内容といった交絡因子について調整し新生児死亡率を比較したところ、脊髄クモ膜下麻酔の方が死亡率が高いという結果が得られている(調整オッズ比1.7, 95%信頼区間1.1-2.6)。この知見の詳しい機序は不明だが、高度低血圧または低血圧持続や、エフェドリンの多量投与が関与している可能性がある。今までに得られた色々な知見を裏付けるには、さらに詳しい研究、できれば前向き試験を実施する必要がある。

教訓 フェニレフリンと比べエフェドリンの方が胎盤通過性が高いのは、分子構造の違いのためエフェドリンの方が脂溶性が高いからだと考えられます。胎児体内のpHは低いので、胎盤を通過したエフェドリンはion trappingのため血中濃度が高くなります。これが、母体よりも胎児の方がエフェドリン血中濃度が高くなる原因のようです。


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